自我持つ兵器の英雄譚   作:Nyappy-

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全ての始まり。



30. 【特別工廠任務】次世代艦娘を建造せよ!

 

7月4日

 

「……ふぅ〜」

 

朝日もまだ昇りきらない早朝。

研究所の一角、外を見渡せる展望台に希空の姿があった。

 

両親に抱かれて休んだあの日から、5日。

再び不眠不休で働き続けた身体は限界を迎え、

昨夜彼女はモニターの光に照らされながら熟睡していた。

 

それから数時間。

目を覚ました彼女はその身体を朝日に照らし、未だ消えぬ眠気を覚ましていた。

 

 

 

「……やるだけの事は、やったよね」

 

 

彼女は、不安そうな表情で呟く。

自分が数年間掛けてやって来た事、その集大成の日ともなれば当然かも知れないが。

ましてそれが世界の未来、人類の明日を決める物ともなれば、尚更のこと。

 

 

「今日、この日から世界は変わる」

 

「希望の光が、未来を照らす───」

 

 

彼女の望みは、“ゼロ”が人々の明日の希望となる事。

そのために、やれるだけの事はやって来た。

 

 

「次元さえ震わす波動が、世界を救うと信じて……」

 

 

少女は、自身をほのかに照らす朝日に願った。

 

あの光が落ちるまでに産まれるだろう、

“約束された英雄”が平和な世界を取り戻す事を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正午過ぎ

 

あらかじめ指定しておいた集合時間には少し早いが、関係者一同は既に集結していた。

応接室で待機していると、そこに資料を携えた秋吉と希空が入って来た。

 

「準備完了だよ。工廠に行こうか」

 

 

 

 

 

建造装置「釜」の周辺では、妖精達が様々な作業に勤しんでいる。数ヶ月前に穂乃果と凛を産み出したこの場所は、今日再び慌ただしくなっていた。

 

 

「この間受け取った受精卵は、もう釜の中にセットしてあるよ。建造方法はこの前と一緒だし、その説明は大丈夫そう?お父さん」

 

「ああ、問題無い」

(どうせ聞いても分かんないしな)

 

希空から建造方法についての詳しい説明が必要か聞かれた海斗。あくまで選択権を与えつつも説明する気満々、と言った表情を見せる希空を見て、それをやんわりと拒否した。実は前回の時、不用意に詳細な説明を求めた結果、長ったらしい上に理解も出来ない呪文を唱えられたため、その経験から彼は見えていた地雷を回避したのだ。

 

だが、どうやら地雷はもう一つあったようで。

 

「でもな〜んか前と比べて物々しい雰囲気を感じるんだけど?なんか違うの?」

 

工廠内の雰囲気に違和感を持った美香が、希空にその事を聞いた。

 

「あっ、それはね!」

 

(うわっ……)

 

 

「この前の穂乃果ちゃんと凛ちゃんは、あくまで建造における新技術の試験、と言うだけだったの。あっ、その時の新技術って言うのは─────────。

───だから、関係あるのは研究所のメンバーの中でも一部だけだった。まぁ要するに、2人は別に戦闘を目的に建造したわけじゃ無かったって事。

……でも、今日は違う。“ゼロ”は、戦闘を行える事を前提としてる。様々な形での模擬戦や、場合によっては実際の敵との交戦からも戦闘データを収集して、第二世代艦娘にフィードバックする事が期待されてるの。ちなみにフィードバックの方法は───。

それと、そもそも“ゼロ”と第二世代艦娘との違いは───。

あっ、そもそも第一世代と第二世代の性能的な違いは───。

──────。─────────。

だから、今日の建造は建造方面の関係者だけじゃなく、艤装開発や装備開発、色んなところに関係があるの。」

 

 

(……うん、やっぱわかんねぇ!)

 

希空が語った内、海斗が意味を理解出来たのはこれだけだった。実際はこの3倍くらいは話していた気がするが、何を言っているかサッパリだった。

 

 

「……な〜るほど?ま、まぁ要は“ゼロ”はより実戦を想定した試作艦娘って事よね?」

 

「うん、そういう事!」

 

美香も海斗同様に話の内容を理解してはいない様子だったが、どうやら今回はそれでも充分だったらしい。

実際、希空が言っていた話の要点はたった今美香が要約した通りだった。

 

なお、希空はこれだけベラベラと話しておきながらも、秘密にしている部分については触れていない。別に話したところで彼女以外、現代を生きる人類では誰一人として理解出来ないと言うのに。秋吉がただ1人ギリギリのボーダーライン上に居るぐらいである。

 

 

 

 

 

そんなこんなで希空の説明を聞いている内に、建造準備が整った、と秋吉から連絡があった。釜の前に集まる一同。

 

そこで秋吉が、希空に気になっていた事を聞いた。

 

「希空ちゃん、前みたいに融合炉動かさなくて良いの?電力はどっから取ってくるんだ?」

 

「……あ〜それなんだけど、どうやら融合炉じゃあ電力足りないっぽくてさ。だから、この前造ったBHエンジンを稼働させてる。多分これで充分だと思うけど、もしそれでも足りなかったら習作として造った対消滅エンジンも稼働させるつもり」

 

 

 

「「───ん?」」

 

聞き慣れない言葉に困惑する海斗と美香。

 

「「───はぇ?」」

 

そもそも理解出来ず聞き取れない士と加奈。

 

「……なんかやべぇ言葉が聞こえた気がするが気のせいか?」

 

たまたま聞き取れてしまったばかりに耳を疑う洋平。

 

 

 

三者三様の反応を示す中で、秋吉は何かを察した。

 

(そこまでしないと起動出来ない“何か”を、搭載したんだな……)

 

 

彼の予想は当たっていた。ただ建造するだけなら別にこれ程の大出力は必要としない。

 

では何に使うのか?

 

 

それは間違いなく艦娘の“心臓”───エンジンの点火であった。

 

 

 

 

 

(こうでもしないと、『タキオンドライヴ』は、起動させられないからね……)

 

 

アニメの宇宙戦艦から着想を得て開発した新型エンジン。希空の動力機関研究の集大成として開発されたそれは、既存の動力機関と比較にもならない高性能を獲得出来ており、発想元となったエンジンの構造も“ほぼ”完全に再現出来ていた。

だが、その少しの再現しきれなかった部分の影響もあってか実際の性能面では本家に遠く及ばず、その結果不完全なのにそのままの名前を付ける事を嫌った希空によって、『タキオンドライヴ』と独自の名称が名付けられたのだった。

 

希空がBHエンジンを稼働させているのは、このタキオンドライヴを起動させる電力を確保するため。このエンジンは点火に必要な電力が膨大であり、一時は非常用電源に格下げされながらも、技術的問題もあって未だ研究所の主電源であり続けている1基のレーザー核融合炉では発電量が足りないのだ。

 

 

やがて、マイクロブラックホールの生成が安定。

発電量が建造可能域に達する。

 

 

「───うん、BHエンジン出力安定。建造行けるよ!」

 

「釜を炊くぞ!建造開始!」

 

秋吉の気合の入った掛け声と共に、建造は開始された。

 

 

 

 

 

───グツグツ、ゴトゴト。

 

激しく稼働する建造装置の様子は、釜らしくそう表現するのが合っているだろう。

 

工廠では、秋吉と希空、それに妖精達が更に慌ただしく動いている。建造作業に何かしらのトラブルが起こった際に対応出来るよう準備しているのだ。特に釜の冷却作業は常時対応し続ける必要があるため、一時も休まる瞬間は無い。

 

途中、BHエンジンの不調などもあって予想通り電力が足りなくなってきたため、希空が個人的な習作として製造した試作品の対消滅エンジンを稼働させ、足りない電力を引っ張って来た。

最終的にはダメ押しとしてレーザー核融合炉も限界稼働させ、発電機3基態勢で建造を進めた。

 

 

 

 

 

5時間後

 

総力戦の様相を呈した建造作業も遂に終盤へと差し掛かり、一度応接室へ戻り待機していた一同も工廠へと戻って来た。

 

 

「建造終了予定時刻まで、あと10分です」

 

と、建造担当の妖精が秋吉に報告する。

 

 

「ドキドキして来たな……」

 

「うん……」

 

海斗と美香は、もうじき生まれ来る娘に対して実感が湧きつつあるのか、2人してソワソワし始めていた。

 

 

「…………」

 

何も言わず、希空は両手を胸元で合わせ、祈る。

すぐそこまで迫った悲願の実現を願った。

 

 

 

───そして、その時はやって来た。

 

 

 

 

 

「建造終了予定時刻です」

 

その言葉とほぼ同時に、釜が動きを止めた。

 

建造が、完了した。

 

洋平も、海斗も、美香も。士も、加奈も。

秋吉、そして希空も。数百人の妖精達まで。

 

皆が一斉に閉ざされた釜の扉を見つめている。

 

 

やがて、扉が開く。

 

立ちこめる蒸気。気圧の変化で吹き出す風。

 

その全てが収まった時、釜の中に居たのは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────男の子……!?」

 

 

 

 

 

産まれたままの姿で幸せそうに眠る赤子。

一見その性別は分からない。

 

だが、よくよく見てみれば……

その股間には、幼くも立派な象が付いていた。

 

 

 

 

───結論から言おう。

 

産まれたのは、男の子の赤ちゃんだった。

 

『受精卵レベルでの性別固定』が実は不完全であったのが原因だった。穂乃果と凛の時、既にその対策は講じていたつもりであったが、やはり艦魂の効果で固定出来ていただけだったのだ。

 

その結果、艦魂に頼らない建造は性別が50%の完全ランダムとなってしまい。

結局その賭けに、負けたのだった。

 

だが、実のところ艦娘開発において、これは言うほど大した失敗では無い。そもそも、艦魂の影響を受けずに建造を行う=どうあっても狭義の“艦娘”(かつての艦艇の魂を持つ人間)にはなり得ない訳であり、そうであるなら女でも男でも大した問題では無いのだ。艤装の同調云々も、そもそも対応する艤装が存在し得ない以上は関係無いのだから。

 

 

なので、この事態における最も重大な問題は……

 

 

 

 

 

「どうしよう、海斗」

 

「男の子の場合の名前なんて考えてねーよ……」

 

 

 

───産まれるのが「娘」とばかり考えていたために発生した、『息子の名前どうする問題』だった。

 

 

 

「息子」に相応しい名前を必死に考える2人。

洋平も、士も加奈も共に考える。

 

元気に産まれた赤ちゃんの前とは思えない深刻な表情で考え込む5人の親族を見てか、それとも人間としての本能故か、赤ちゃんは黒鉄の子宮の中で産声を上げて泣き出した。

 

「オギャー!……フギャァー!!」

 

それを聞いて我に帰った美香が赤ちゃんを抱き上げて、熟考の輪の中心に連れて行く。そこからは目の前で元気に泣いている姿を見ながら考えた。

 

だが、当然ながらそんなすぐに思い付く物でも無い。

 

 

そうして困り果てていた所に助け舟を出したのは、その赤ちゃんの姉であり、ある意味で「産みの親」とも言える存在、希空だった。

 

 

「私が決めても良い?」

 

「「希空が?」」

 

 

驚きつつも期待感を持って反応した両親に、少しばかり申し訳なさを覚えながら、彼女は言った。

 

 

 

 

 

「この子の名前は……(ゼロ)。艦名から取って(ゼロ)

 

 

 

 

 

型式番号:JK-2-X-00

 

特殊技術実験艦 “ゼロ”

 

 

 

 

 

──────『神崎 零』誕生の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く





あ と が き


主 人 公 誕 生



遂に0話の登場キャラが本格的に出て来ました。

さてさて、ここからどうなって行くのか。

この物語の行く末は?主要キャラの運命は……?


一つだけ言えるのは、

「ゼロなどと言う存在を世界が放っておく筈が無い」

という事ですね。


次回 希空と零、姉弟の一日
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