自我持つ兵器の英雄譚   作:Nyappy-

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希空と産まれたばかりの零の日常。
そして、艦娘研究は新たな段階へ。



31. 姉と弟とAdvance

 

8月25日

 

希空の「弟」、零が産まれてから1ヶ月と3週間。彼が産まれてからしばらくの間、様々な建造後の検査を実施した。そしてそれが終わり、研究所が平常運転に戻りつつある今日になっても、彼の所在は研究所にあった。

 

本当なら両親である海斗と美香と共に暮らしているべきなのだが、そういう訳にもいかない。極秘裏に建造された零は、現状研究所の外に出すのは難しい存在であり、かと言って海斗や美香は第二特務艦隊の任務があるため、ずっと研究所に留まる事は出来ないからだ。

 

そのため、当面の零の育児担当は研究所に常駐している彼の姉、希空に任せられたのだった。

 

 

「……zzz」

 

 

零は、希空の研究室に置かれた赤ちゃん用のベッドの上で眠っている。つい先ほどまで泣いていたが、求めていたミルクを飲んで満足した事で、再び寝息を立てている。

そのミルクを飲ませた姉は、そんな弟の姿を時折観察しながら、今も研究を進めていた。

 

現在、彼女がしているのは、艦魂を使わない建造における、性別の完全な固定を可能にする研究。───つまり、“ゼロ”が零として産まれる原因となった「バグ」を取り除こうとしていた。

 

だが正直な話、

そのデバッグが本当に必要なのか?と言うと……。

 

 

「嫌だよね、技術者の性ってさ……」

 

そう呟き、希空は苦笑する。その視線はぐっすりと眠る零に向けられており、まだ喋れもしない幼い弟に同意を求めているようにも見える。

 

「技術者の性」───そう彼女が表現したのには、訳があった。

 

零が男の子として産まれたのは、艦魂を用いない建造であったために性別の固定が出来ておらず、ランダムになっていたからだった。従って、艦魂を用いる通常の艦娘建造において、この性別固定機能の未完成という「バグ」が、問題となる可能性はまず無い。

 

だが零の建造後、秋吉から言われた事が原因で、彼女はこのデバッグ作業を行っていた。

それは、「海外司令官達の娘を、海外各国における第二世代艦娘のプロトタイプとして建造する」……というものだった。

G5サミットの際に顔を合わせた、4人の司令官達。表向きは単に技術供与、と言うだけだが、希空からすればこれは彼らへ向けたある種の「プレゼント」である、とする思いがあった。

 

だから、何としてもこのバグを取り除かなければ、と意気込んで研究していたのだ。……が。

秋吉は伝え忘れていた。その4人の司令官達の妻が、それぞれ指揮下の艦娘である事を。希空がその事を知ったのは、8月に入ってからだった。

 

「そうと分かったからには、もうこんな研究する意味無いんだけどさ……。ここまでやったからには、完成させたいよね。自己満足でしかないけれど……」

 

いくら問題ないとは言っても、欠陥を残した中途半端な状態で終わらせたくないという技術者らしい想いが、彼女を駆り立てたのだった。

 

 

 

何はともあれ、次世代艦娘建造を目指している『JK-2-X計画』において、最大の山場の1つであった零の建造が完了し、計画は佳境を迎えた。

次の目標はいよいよ、本格的な第二世代艦娘の建造体制の確立。建造に必要な艦魂のサルベージ作業も進んでおり、計画は順調だ。既に、最初に建造する艦娘が誰なのかも、ほぼ決定していた。

 

 

「国防海軍にとって、大切な艦名……。所長はそう言ったところで決めれば良いって言ってたけど、そうなると……」

 

そう言って希空は、研究が進んだ事である程度まとまって来ている、「陽炎型駆逐艦」の艦娘としての推定データを見る。1番艦、2番艦、……と個々に分けられているそのデータの、8番艦のところで視線が止まる。

 

「───“雪風”、か」

 

他のページと比べ、妙にざっくりとしか記載されていないそのページには、建造以降数々の奇跡を起こし続けてきた、『生ける伝説』の名が記されていた。

 

 

陽炎型駆逐艦8番艦「雪風」

 

史実においても、この艦は『伝説の駆逐艦』として、世界の海軍史にその名を刻んでいる。1940年就役、最高レベルの技量を持った乗組員達と共に太平洋戦争を戦い抜き、戦後は台湾海軍へと渡り、国共内戦を戦った。台風という自然現象によって損傷し1970年に解体されるまで、決して人の手では沈められなかった、本物の不沈艦。

 

この世界においても、その伝説の軌跡は全くもって同じである。……ただ一つ、その最後を除いて。

 

正確に言うなら、この世界において「雪風」は、未だ最後を迎えていない。……2010年においても、この海に存在しているのだ。

 

1970年頃、国防海軍という帝国海軍の完全なる後継組織の軍人達が主導して、史実よりも活発化した「雪風返還運動」。詳細は割愛するが、色々とあった結果、政治的取引によって「丹陽」は日本へ返還。台風による損傷も半ば無理やりながらも修理され、記念艦として呉に帰還する事となった。

記念艦となった後も、「雪風」と「丹陽」の2つの名を持って定期的に日本と台湾を行き来しつつ、その航海に耐えられるよう建造当初の姿を残しつつ改装も度々加えられていた。……その改装が、どう見ても「実戦を想定した新造レベルの大改装」であった事は、この世界の有識者の間では周知の事実。だがこれは、冷戦下において安全に航海を行う上で必要なものでもあった。

 

「雪風」は、帝国海軍と国防海軍を繋ぐ存在として、艦齢70歳を迎えてもなお、その身体を海上に浮かべていた。

 

 

「雪風は、第二世代艦娘の第一号とするに相応しい存在だよね。反対する人なんていない。だから、今すぐにでも建造に取り掛かったって良いくらい。……まぁ、艦魂が手元にあるなら、だけども」

 

「雪風」ほど日本初、そして世界初の第二世代艦娘に相応しい存在は居ない。それは、艦娘建造に関わる誰もが考える事だ。……だが当の「雪風」は記念艦ではあるが未だ現役であり、それ故にまだ艦魂のサルベージは行っていない。呉鎮守府の管理下に置かれている「雪風」は、海軍兵学校のある江田島で練習艦として活躍しているのだ。また、通常の海軍戦力の中に組み込まれていない関係で新装備のテストベッドにも使いやすく、それ故に兵装実験艦のような役割も持っていた。

最近では、深海棲艦との戦争で得た戦訓を元に開発された、通常艦艇用の対深海棲艦兵装の実地試験を行っているらしい。

 

そんな「雪風」には、艦娘の存在が有名になるにつれて、ある噂が立つようになっていた。それは、「雪風の艦魂が、艦の制御に干渉しているのではないか?」という、なんともオカルトチックな、しかしながら艦娘という存在がいる今では、決して妄言だと一蹴する事も出来ない、不思議な噂である。

何でも、「操艦していたら肩に衝撃が来た」だの、「探照灯が勝手に付いた」だの……。他にも様々な報告が乗組員から寄せられているが、そこにはある共通点があった。それは、「その不可解な現象に身を任せれば、必ず上手く行く」という事だった。最新鋭のイージス艦との演習においても、全て抵抗せずに従った結果、「雪風」が勝ってしまった事もあった。

 

艦娘関係者はこれを、「雪風」の艦魂の仕業だと考えている。数々の激戦を、凄腕の乗組員達と共に潜り抜けてきた“彼女”なら、自らの最も効果的な扱い方を熟知していても可笑しく無い、という事であった。

その結果、今はまだ「雪風」に艦魂を残しておくべき、との考えに至った事で、サルベージの実施は延期されていたのだった。

なお、推定データのページが、他の姉妹艦のページと比べてざっくりとしか書かれていなかったのは、そこの記述の情報源が各々の艦魂だからである。

 

 

それに、日本初の第二世代艦娘が、必ずしも“雪風”でなければ駄目、という訳でも無い。それも、サルベージが延期された理由の一つだった。

 

 

「───別に、他に相応しい存在が居ないのか、っていうとそうじゃないしね。“国防海軍の”象徴は、また他に居るから」

 

希空の言う通り、「雪風」は確かに最初の第二世代艦娘として建造するに相応しい存在ではあるが、あくまで本艦は国防海軍においては「帝国海軍=先代が遺した魂」であり、「国防海軍の魂」としてみた場合には、もっと相応しい存在が居た。

 

 

「川内型ミサイル巡洋艦……1950年代後半に建造され、米軍供与のフレッチャー級と共に国防海軍の初期を支えた、今も現役の古参艦。そして、その原型となった昭和30年就役の準同型艦で、戦後日本における、初めての国産巡洋艦。その名前は──────」

 

 

希空は、その「国防海軍の魂」と同じ名前を持つ艦娘に、日本初、そして世界で最初の制式型第二世代艦娘として、

 

型式番号『JK-2-01』を与える事を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く





あ と が き


在りし日の帝国海軍において、

「川内」「神通」「那珂」と並び立つ事の出来る艦。

……それは一体、誰なのでしょうかね?


「雪風」返還時の“政治的取引”については、日本国防軍設定集をご覧ください。

次回 親代わりの英才教育
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