自我持つ兵器の英雄譚   作:Nyappy-

37 / 40

希空の技術における1つの到達点、そして零の心臓部(バイタルパート)でもある存在。



32. タキオンドライヴ

 

10月1日 艦娘技術研究所

 

 

「……よし、今日はこれで終わり!っと」

 

今日も今日とて、希空はいつも通り朝から晩まで艦娘研究に勤しんでいた。実用型の第二世代艦娘の建造開始が今年度末と決定したため、研究開発で遅れを取るわけには行かないのだ。それでも、作業に一区切り付いたところでPCの電源を落とす。

 

「まっ、本当はもっと遅くまでやっても良いんだけど、所長経由でお母さんにチクられちゃうから……」

 

美香から「無理するな!(要約)」と念押しされているので、希空はそれに従っている。流石に、零を建造した時ほど無理をする気も無いし、わざわざする必要も無かった。

 

「それに、ね?」

 

モニターの光が消えた後、彼女はそう独り言を言いながら赤ちゃん用のベッドの方を見る。

 

「…………?」

 

ベッドの上には、あぐらのような姿勢で座りながらこちらを見ている零の姿があった。こてん……と首を傾げるその様子は、希空に見つめられている事を疑問に思ってのものだろうか?

 

「か〜わいい〜!……って、違う違う。やっぱり凄い成長速度だ。設計した私自身がビックリするレベルとはね。おかげで、もう寝返りうって首も座ったし、乳歯も生え揃っちゃったね」

 

零は、およそ生後3か月とは思えない成長を遂げている。これも、希空の設計がそうしたのだ。

「成育促進技術」……効果は名前の通り。零に初めて使用され、それによって得られたデータを元に改良した上で、第二世代艦娘でも使われる事が予定されている技術だ。

これは、第二世代艦娘の一刻も早い戦力化を目的としていた。

 

幼い状態で建造され、人間同様の発育をしていく事になる第二世代艦娘が艦娘として完全な状態になる年齢は、駆逐艦で11〜13歳、巡洋艦で15歳、空母や戦艦に至っては17〜18歳だと予想されている。これから先の技術発展によって、今よりも高い年齢で建造出来るようにして行く予定ではあるが、どんなに頑張っても6歳辺りが限界となる可能性が高い。

 

ただし精神面は別であり、肉体の成長スピードよりも早く成熟させる事はあまり難しく無さそうである。これは、建造時にある程度の知識を入れておく事が出来るのもそうだが、1番の理由は艦魂に刻まれた記憶を一部利用しているからだった。

ただし、こちらは逆に零だけは例外。完全な受精卵からのスタートな上、艦魂を用いて建造していないため、完全な0からの成育となる。

 

希空としては一刻も早く零に戦えるようになって欲しかった。そのため、肉体、精神、その両方の成長を早めるために、多少無理矢理ではあったものの、対策として、2方向からの成長促進を実施していた。

 

「艦娘は完全体になると、成育が止まる。零は大型艦寄りだから、肉体の成熟は恐らく17歳くらい。これを少しでも早めるために、成長ホルモンを過剰に活性化させてる。だから、まだ3ヶ月なのに、肉体的にはもう生後9ヶ月レベルまで成長してる。このままのスピードで、ていう訳には行かないけどさ。でも、多少の遅れは問題ない。だって、精神面が成熟しきってくれれば、スペックはともかく戦えるようにはなるから……」

 

再び、希空は零を見る。零は希空の事を先程からずっと見つめ続けており、その両手には枕くらいの大きさのぬいぐるみを抱きしめている。それは希空が零のために自作した、葉巻型の宇宙戦艦を模したぬいぐるみだった。色違いの2つセットで作っており、1つは赤と白、もう1つは青と白を基調としていた。

希空に見つめられたからか、零はぬいぐるみに顔をうずめる。その愛らしい姿に和みつつ、希空は独り言を続ける。

 

「タキオンドライヴの開発過程で出来上がった、“記憶の保存システム”……。今は修理システムへ流用するための研究がメインだけど、本来はこの“メモリ”に今後必要になりそうな知識を詰め込んで、零の脳にインストールする……どう考えても零が可哀想だけど、その分、すっごく頭が良くなるから」

 

 

タキオンドライヴ───。

希空が開発した科学技術の中でも、最も高度な代物。

現代の科学技術の遥か先を行く、事実上の永久機関。

その発想元となった存在には、それと同系統の科学技術で造られた、より高度な物品が存在している。それは動力機関ではなく、演算装置……でもあるが、本質的には“記憶保存装置”であった。

希空は、この“記憶保存装置”を造ることが出来れば、それが例え比べるのも烏滸がましいくらいの劣化版であったとしても、「艦娘の新たな修理システム」としては充分に使えるのではないか、と考えていた。

 

これまで、艦娘の修理システムと言えば、主に2種類があった。

 

生きてさえいればどんな傷も治せるが、

その代わり莫大なコストが掛かる“外科手術式”

 

低コストだが生物の新陳代謝を元にしたため、

欠損レベルの傷には無力な“新陳代謝式”

 

どちらも一長一短。相互互換といった関係だ。

そして、遂にそれらの完全上位互換として、

次世代型の修理システムが開発された。

 

その名は勿論───“記憶再現式”。

低コストで欠損でも治せる、夢の修理システム。

 

「対象者の記憶から、“望む姿”を引き出して再現する」

 

希空が追い求めてきた、修理システムの完成形だ。

それは正しく、あの“記憶保存装置”の劣化版。

……劣化版だからこそ、ちょうど良かった。

 

「そうして出来上がったシステムを流用して、零に記憶を“植え付ける”……。いや、流用じゃないか。だって、元々タキオンドライヴの開発過程で生まれた物なんだから。そのタキオンドライヴを搭載してる零に使う方が、正式な使い方だよね」

 

 

この新型修理システムは、第二世代艦娘が本格的に投入される頃までには実用化される予定。それによって、総合的な戦力の更なる向上が期待されている。

 

 

 

───だが今の希空にとっては、そんな事よりも零の成長の方がずっと大事だった。

 

「結局、零に教えておいた方が良い知識って、どんな物なんだろう?戦闘技術……は当然教えなきゃだけど、これは前に士と加奈が作ってくれたデータがあるから何とかなりそう。他には……」

 

 

希空は、零の教育方針を考えていく。その姿は姉と言うより、親のように見える。

そうして考えていく中で「兵器として必要な部分」について教えるのは簡単だが、「人間として必要な部分」について自分が教えるのは厳しい、と悟った希空は、効果的な方法が見つかるまでの応急処置として「身内で行われるイベント」に頼る事にした。

そう考えついたのは、ちょうど直近に(ある意味で)最適解とも言えるイベントが控えていたからだった。

 

希空は、そのイベントに合わせて零を初めて研究所の外へ連れ出す事を決めたのだった。

 

 

 

 


 

 

10月3日 東堂家敷地内 墓地

 

 

比較的新しめな墓石に、花が添えられている。

辺りには、僅かながら線香の煙が上がっている。

 

 

「おじさんが死んじまってから、もう10年か」

 

「今年は人数少ないけど、ごめんね?お父さん。お母さんも、許してね」

 

 

神崎家先代当主 神崎 洋一の戦死から、10年。

 

分家である東堂家の敷地内にある彼の墓の前には、士、加奈、希空、そして零の姿があった。洋平達は任務で忙しいため来れていない。

零は、普段と違い加奈に抱かれているが、特に泣くことも無い。精神年齢が既に赤ちゃんを越えている事の表れか。

 

……そう。つまり希空が零に「人間として必要なこと」を学ばせるのに最適、と判断したのは、祖父の十回忌であった。

零、そして希空からしても、洋一というのは会ったことの無い「ご先祖様」。正直言って、「祖父」という肩書きでしか認識出来ない存在だ。

でも、士と加奈はそうではない。彼ら2人は洋一を知っているし、加奈は洋一の末娘。零に対して、「人間らしい気持ち」を教えるには最適だった。

 

 

士が、加奈に抱っこされている零を見る。

希空によれば、生後3ヶ月ながら身体的には9ヶ月、精神年齢は1歳レベルとの事だが……。

 

「これを見て、どんだけ理解出来てるかは分かんないけど……。ここが、お前のおじいちゃんとおばあちゃんが眠ってるところだぞ」

 

そう言って、彼は零に分かりやすいように墓石を指差す。そこには、希空と零の祖母───洋一の妻や、最後の乗艦であり、運命を共にした「瑞鶴」の名と共に、洋一自身の名も刻まれている。

 

 

「んぅ……」

 

ふと、何かを感じたのか、零は墓石に手を伸ばす。触れるように加奈が墓石に近付いてやると、手のひらを刻まれた文字に当ててなぞり始めた。

 

「何か、感じてるのか?」

 

「連れて来といてアレだけど、流石にそこまでは成長してないよ……たぶん」

 

士と希空が意図を探る中、加奈は零に亡き父の事を聞かせていた。

 

「……君のおじいちゃんはね、とっても強い人だったんだよ。まだ若かった時からすごい軍人さんでね、私が産まれるよりも前から、艦長さんをやってたの。

『冷戦』っていう、とっても長く続いた戦いの、最後。一年半続いた大きな戦い……『湾岸戦争』って言うんだけどね。そこでも、すっごく活躍したんだ」

 

「私が産まれた頃、おじいちゃんは新造艦の艦長さんになったんだ。それが、ここに書いてある「瑞鶴」。とっても大きな、空母っていう飛行機を飛ばす艦なんだ。……私もお母さん───君のおばあちゃんに連れられて、小さいころに見に行ったなぁ。うろ覚えだけど、とってもかっこよかったって事は覚えてる」

 

「おじいちゃんは、最期まで勇敢な軍人さんだった。瑞鶴といっしょに、みんなを守るために、頑張ったんだよ。

 

……もしおじいちゃんが今も居たなら、きっといっぱい可愛がってくれたと思うよ。

 

でもね、大丈夫。きっとおばあちゃんといっしょに、お空から見ていてくれるから。もしかしたら、「瑞鶴」もいっしょかもね。あの艦にも、きっと艦魂は有っただろうし……」

 

加奈の話を聞いたからなのかは分からないが、零は改めて、墓石に刻まれた文字をなぞる。その神妙な表情はどこか、何かに思いを馳せているような年不相応な雰囲気を漂わせている。

 

 

「……本当に理解してるのかもな」

 

「うん……すごい」

 

そんな様子を見て、士と希空は驚きを隠せない。

 

 

 

───その時だった。

 

 

「きゃっ───!?」「うっ……!」

 

突如、零を中心に眩い光が発せられる。至近距離で受けた加奈は思わず悲鳴を上げながら目を眩ませ、士も反射的に視界を逸らす。

 

 

「これ……まさか」

 

そんな中、希空だけは直視を避けながら、その光の原因を探っていた。よくよく見れば、加奈の胸元に居る零だけでなく、墓石も光っているようにも見える。刻まれた文字がキラキラと輝き、そこから零へ向けて、一筋の光が伸びていた。

 

だが、やがてそれも収まって行った。光り輝いていた墓石の文字も、ある文字を中心として光が収束した後、その光を零へ放って、消えた。

 

最後まで輝いていた文字は、希空にも眩しすぎて正確には分からなかったが、辛うじて最後に見えたその文字は、恐らくだが『瑞鶴』だった。

 

最後に光を浴びた零も、直後には元に戻っていた。

 

 

「なんだったんだ、一体……?」

 

「うぅ……目が……」

 

光が収まった事で、士と加奈は目を開ける。加奈は少しだけ恨めしそうにしながら胸元の零を見る。

墓石を見つめる零は相変わらず神妙な顔つきをしていたが、どこか先程よりも大人びた様子を感じられた。

 

 

そして───

 

 

 

「───おじい、ちゃん──────ずいかく」

 

 

 

生後3ヶ月で、初めての言葉を発したのだった。

 

 

 

 

 

「……タキオンドライヴが、墓石に刻まれた記憶(エレメント)を感じ取ったのかな」

 

年長者2人が驚愕の表情で零を見ている横で希空が思わず呟いた問いは、先程の輝き同様に幻の如く消えて行った。

 

 

 

 

 

30分後 東堂家屋敷 広間

 

 

「びっくりしたよ。まさか、零が喋るなんて……」

 

「いくらなんでも早過ぎるだろ……?」

 

墓参りから戻って来て、屋敷の広間でくつろぐ4人。零は疲れたのか、ぐっすり寝てしまった。士と加奈は、未だ零が喋った事への驚きが収まっていない。

 

「あはは……。アレは流石に私もびっくりした。零、思ってたより色々と理解してたんだね」

 

「まぁ、その……私が話した事が伝わったのなら良かった、のかな?」

 

加奈は、嬉しさ半分、困惑半分、といったような面持ちで苦笑いした。

 

 

その後もしばらく零の話題で持ち切りだったが、それがある程度落ち着いたところで思い出したように士が呟いた。

 

「こうして毎年欠かさず出来てた命日の墓参りも、一旦今年までかな……」

 

「来年は何かあるの、士?」

 

希空は、不思議そうな目で士を見つめる。別にそこまで難しくもない墓参りに行けなくなる理由を知りたそうにしていた。

 

「何、って訳じゃないけど……来年からしばらく江田島に行くから」

 

「士は、軍人になるための訓練をしにいくの」

 

「江田島……ああ〜」

 

士は既に、来年度から江田島の海軍兵学校へ入学する事が決まっていた。別に士自身の実力でも充分行けたが、実際はほとんど神崎家のコネによる合格。

だがこれは、士が「艦娘」という軍事機密に触れていた事、更に言えば艦娘以上の軍事機密である「艦娘技術研究所の所在」を知っていて、希空と零という2人の「最高軍事機密」とも親しくしている以上、当然の処置であった。

 

 

「寂しくなるなぁ……」

 

4月からの事を考えて、加奈は少し憂鬱そうにする。

 

「別に、いつでも会いに来れば良いだろ?」

 

「遠いよぉ。ここから何時間掛かると思ってんのさ……」

 

 

元々分かっていただけに加奈も反対はしなかったが、それはそれとして士と離れるのは嫌だった。

その思いを知ってか知らずか、士は進学後の展望を語る。

 

 

「訓練で乗るのは、あの「雪風」だって話だ。楽しみだな〜、一度乗ってみたかったんだよ!」

 

そこまで聞いて、希空は何かを思い出した。加奈が少し寂しそうにしているのを見た希空は、小悪魔めいた笑みを浮かべ、狂喜乱舞する士に話しかける。

 

 

「───雪風?……確か今、ドック入りしてたはずだから、しばらく無理じゃない?」

 

 

「いや〜楽しみだなぁ!

早く近くで見たいz──────えっ……マジ?」

 

 

「……うん、マジ。所長が言ってた。

なんでも、海軍の新しい構想に適したテストベッドにするために“長期の”改装に入る、って」

 

 

 

「……ウソだろぉ!?」

 

 

「あははは、ははは!」

 

分かり易すぎるくらいに落胆し、絶望的な表情をする士に、腹を抱えて爆笑する希空であった。

 

 

 

洋一が他界して10年の節目となる日。

次世代を担う者達の絆は、更に強固になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───だが、そんな楽しげなひと時の裏で、希空の元へと迫りつつある組織があった。何処から知ったのか、何故か彼女の研究について知っていて、かつその存在に強い興味を抱く者達が……。

 

 

「我々の“御神体”に、新たな力を授けられる存在」

 

「魔改造のニオイを感じる……!」

 

「さぁ行くぞ。俺達の悲願の為に!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く





あ と が き

最後の連中の“御神体”って、何なんでしょうね?()


次回 国防軍屈指の危険(?)思想
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。