自我持つ兵器の英雄譚   作:Nyappy-

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国防軍の過去にまつわる話。



33. 千歳基地航空祭

 

 

11月3日

 

 

「こういう所に来るの、初めて!」

 

「希空にとってはそうなるわね。私達は経験あるけど」

 

「前は美香に連れられて……だったか。今回の先導役は兄貴だな」

 

「いや、招待されたのが俺ってだけだ。並んでる機体を説明出来るような知識はねぇ……」

 

 

この日、神崎家の面々は国防空軍が主催する、千歳基地の航空祭へとやって来ていた。やって来た理由は、洋平が招待されたから、だが……。

もう一つ、気がかりな点があったからでもあった。

 

それは、洋平へ送られてきた招待状に書かれていた“招待する人物”についての部分。そこには海斗や美香の名前が書かれている。また、連れについても特に制限は無いとのこと。

 

……ここまでは特に問題ない。

肝心な部分は、この後に書かれている───

 

 

「貴方の“姪”に当たる方も招待しています」

 

……と解釈出来る部分。

もはや敬語かも怪しくなるレベルでかな〜り回りくどく書かれていたが、それが洋平の“姪”……つまり希空を指している事は明白だった。

 

「何故、希空の存在を知っている?」と疑問に思った洋平は、それを確かめるために、危険だと思いつつも敢えて招待を受けたのだった。

 

 

現在、一行は滑走路に並ぶ多種多様な機体を歩きながら見学していた。希空にとっては、初めての公の場となる。

 

「今のうちに言っておくが……士、加奈。希空の護衛、頼んだぞ」

 

「任せな、洋平兄ちゃん」

 

「希空ちゃん、私と士から離れないでね?」

 

「うん!」

 

今回、来賓として来ている事もあって洋平や海斗、美香が招待して来た者に呼び出されて希空と離れる場面が発生し得ると想定した結果、士と加奈に希空の護衛を頼んでいる。そのため、2人は最低限ながら武装している。……無論、本当の緊急時以外は隠し通さなければならないが。

 

なお、その武装内容というのが、

国防陸軍の制式コンバットナイフに、

S&W M500リボルバー。

 

…………隠し持てるのか?という疑問はごもっとも。

実際かなりギリギリである。特にM500。

 

だが、最悪の場合(対深海棲艦)を想定するとなると「APASを効果的に使えて、かつ最もコンパクトな銃」と言うのが最適解となり、それに最も相応しい銃こそ、この世界最強のハンドガンなのであった。

士と加奈は神崎家のコネによってこの銃を私物として所持しており、神崎流の恩恵もあって反動をあまり気にせずに運用できた。

なお、希空が気になっている様子だったので見せてあげたところ随分と気に入ったらしく、欲しいとねだってきたため、いくつか持っているスペアの内の1丁を譲る約束をしていた。

 

 

 

滑走路を歩いている中、加奈が疑問を口にした。

 

「艦隊、留守にしてて良いの?」

 

「ああ、それな。今日は元々、陸軍の北海道部隊との共同演習が予定されてたんだ」

 

「艦娘を深海棲艦に見立てて、上陸阻止演習をしてるのよ」

 

「艦娘達の全体指揮は出雲や鳳翔に任せてきたから、問題ないぜ」

 

3人の言う通り、今日は元々予定が入っていた。

北海道に駐屯地を置く国防陸軍の師団と合同で、対深海棲艦を想定した水際作戦の訓練を行うことが決まっていたのだ。これは約1年前のオホーツク海海戦・宗谷海峡夜戦において敵艦隊が上陸を企図していた、という海戦後の分析で明らかになった戦訓を踏まえた物であった。

 

「今頃、出雲や磐手が暴れ散らしてんだろうなぁ。……確か陸軍の機甲師団、10式の初運用って事で張り切ってたっけ。可哀想に」

 

「いくら艦娘の技術を転用して火力や装甲を強化したって言っても、無理があるわよ」

 

「それでも90式に比べれば、遥かに強力ではあるがな。10式APFSDS-ASなんて、厚さ2000ミリ超えの鋼板でも貫通出来るって話だし」

 

艦娘の強さを1番良く知っているが故に、最近初配備されたばかりで今回が初の演習となる『10式戦車』の事を憐れむ、海斗と美香。洋平は擁護しているが、心の中では「鳳翔航空隊の爆撃を防げる訳ないだろう」……と思っていた。

 

 

……実際には、その10式が優先的に配備された精鋭、第11機甲師団(士魂部隊)の師団長が考案した『対深海棲艦メタ戦術』によって、勝敗はイーブンにまで持ち込まれる事になるのだが。

 

 

彼ら3人は、まだその事を知らない。

 

 

 

 

 

滑走路に並んでいる機体は新旧様々だ。

F-2スーパー改やF/A-18EJ/FJなどの新入りから、

F-15JやF-4EJ改と言った国防空軍の現主力、

F-14J、F-1などの退役しつつある機体、

 

そして、ある意味こういう場の醍醐味とも言える

『国防空軍の初期を支えた昔の機体』の姿も見える。

 

 

さて、6人の中で最も航空機について詳しいのは間違いなく美香である。彼女の実父はF-1のパイロットであった。そして、そんな父の姿を見ていた美香もまた、航空兵器についての知識は豊富だった。

 

そんな彼女が、ここでしか見られないような機体を前にして興奮しないはずも無く……

 

 

 

「───わぁ!橘花じゃん!国防軍設立当初の一一型に、80年代まで現役だった三五型もいる!

 

こっちには疾風二型に紫電四二型、初代アグレッサー機の零戦六四型!レシプロが勢揃いしてる!

 

あっ、銀河!それに飛龍まで!」

 

空軍設立当初に暫定戦力として若干の改良の上で再生産され運用された機体達を見た美香は、誰が見ても分かるくらい、大はしゃぎしていた。そんな姿に、呆れて笑うしかない洋平と海斗。

 

「……よくもまあ、パッと見ただけで分かるよな」

 

「機種はともかく、何で型番まで分かるんだよ」

 

彼らも流石にどれがどの機体かは分かるが、その型番まで判別は付かなかった。

 

一方で、士と加奈、それに希空はノリノリで美香に質問している。

 

「美香姉ちゃん、あの機体は?」

 

「なんか、台車に乗ってるね」

 

「あれは強風二二型!簡単に言うなら紫電四二型の水上機バージョン。紫電がそもそも強風の陸上機バージョンだから、先祖返りって感じね」

 

「お母さん、あっちの子は?」

 

「あれは51式双発戦闘機。キ-83Ⅱとも呼ばれるわ。1950年代に運用された重戦闘機ね!」

 

 

設立直後の1948年〜1950年代半ばにかけて、旧日本軍時代の機体を再生産して運用していた国防空軍。無論、機体性能はジェット時代の到来によってすぐに陳腐化して行ったが、その遺伝子は今でも受け継がれている。

それに、陳腐化によって早期に現役を退いたのは主力機達であって、補助的な機体達の寿命は比較的長かった。

 

そんな“長生きした機体”の事を思い出したのか、海斗が言った。

 

 

「なんて言うか、空軍って“もったいない精神”が強いよな」

 

「もったいない……?」

 

「何十年も改良し続けて運用している機体が多くないか、って思ってな」

 

 

「それは空軍ってより国防軍全体の運用思想じゃないか?海軍ウチは川内型未だに使ってるし、雪風もバリバリ現役。陸軍だってモスボールしまくってるだろ?」

 

「いやウチや陸軍が“もったいない”って使ったり、今も保管したりしてるのは全部戦後開発の物だから、空軍に比べればまだマシよ。

海軍でなら、川内型はまだ使えるから使ってるだけだし、雪風はそもそも記念艦だから例外。陸軍もモスボールしてるのは61式くらいで、流石にチトやチハ派生の自走砲達は居ないから……」

 

陸軍や海軍も同じだろと洋平が突っ込むのに対して、美香はそれを認めつつも空軍の“ソレ”は更に極まっていると解説する。

 

確かに「雪風」は帝国海軍の遺産=明らかな老朽艦であり、川内型ミサイル巡洋艦も1950年代就役なのでかなり古い。陸軍も初代主力戦車MBTは四式中戦車改(チト改)だし、同時期に運用していた自走砲に関しては、五式砲戦車(ホリ)はまだ良いとしても、他は四式十五センチ自走榴弾砲(ホロ)、長十二センチ自走砲キングチーハーと言った『チハ派生』だ。

 

だが、それでも美香からすれば「空軍よりはマシ」とはっきり言えるようなレベルだという。何故かと言えば……

 

「空軍と違って陸海軍のそれは、今はもう運用されてないじゃない?だから、別に度が過ぎた“もったいない”って訳じゃないわ。それで言えば、空軍の中でも、考え方には差があるんだけど……」

 

「「考え方?」」

 

陸海軍との違いだけで無く、空軍の内部でも考え方には差があるという。そこについても、美香は5人に説明していた。

 

 

「“派閥”によって考え方が違うの。大きく分ければ……“合理”の帝国陸軍派と、“伝統”の帝国海軍派。

普通なら合理の方が優勢になるハズ……なんだけど、確かな実績もある関係で伝統の方が強めなの。それこそが、空軍が古い機体を改良し続けてる理由。

 

 

……っと、ちょうどいい所に。言葉で説明するよりも、コレ見た方が早いわね」

 

空軍の内情について語っている途中で、ある機体達の前で立ち止まる美香。

どうやら空軍の思想を象徴する機体達の前までやって来ていたようだった。

 

 

「……あっそっか、コイツらって元々“帝国海軍機”か」

 

 

「『流星』に『二式大艇』それに『連山』……か。どれも俺達が小さかった頃、まだ現役だった機体だな。良く話に出てたからな、なぁ美香?」

 

「好きか嫌いかはともかく、ああいう“魔改造”は珍しいからね……」

 

 

国防空軍が再生産して運用した旧日本軍時代の機体の中でも、特に長い間運用されていた3機種。

 

 

「連山はAWACSとして、二式大艇は救難機だったか」

 

「運用数が少なくて任務もニッチなものだったから、わざわざ新型を作る必要も無くて、息が長かったのよね。

 

それと流星に関しては、一応まだ現役よ。F-1が配備された後も、ターボプロップに換装したりF-14Jと一緒に蒼龍型の艦載機になったりしながらずーっと退役を渋り続けて、結局、今でも五六型や五六型甲が飛んでる。まぁ低コストCAS機の需要ってのもあるから、理由は分かるけど。

……“和製スカイレイダー”なんて昔は呼ばれたらしいけど、そのスカイレイダーよりもご長寿機体になっちゃったわね」

 

 

 

『二式大艇』……“空の戦艦”とも呼ばれた、帝国海軍の誇る高性能機。だが、それ故に運用面で難を抱えていたりもした機体。

そんな本機は戦後、試作止まりだった二二型をベースに少数ながら再生産され、主に救難艇として国防空軍で運用された。エンジンはターボプロップへ換装された上、爆撃能力・雷撃能力も残されていたが、1993年の退役まで一度も爆撃機として運用される事は無かった。

 

 

『連山』……終戦時はまだ試作段階だった、四発エンジンの大型陸攻。戦後、本機は『銀河』や『飛龍』と共に少数ながら運用され、他の2機種の退役後もその機体規模を買われて改修が加えられ、ジェットエンジンへ換装し、機体上部には大型レドームを背負った事で、国防軍初のAWACSとなった。

 

 

そして、

『流星』……『彗星』と『天山』の後を継ぐ、雷爆統合機として開発された艦上攻撃機。だが完成した時には肝心の空母がおらず、その本業を果たせぬまま一度は終わった機体。

 

だが帝国海軍での経歴は、本機にとっては“序章”に過ぎなかった。国防空軍において改良の上で主力攻撃機として量産された本機は、米軍のA-1スカイレイダーを明らかに意識した機体へと進化していった。

そのスカイレイダーの退役後も本機は進化を続け、エンジンをターボプロップ化した事で爆装量も初期の実に5倍、最大4000kgにまで達した。

 

だが、1980年代にもなると流石に陳腐化が目立ち、退役も仄めかされるようになったが、それでも本機はしぶとく生き続けた。その末に、国防空軍初の航空母艦となった「蒼龍」「飛龍」の2隻の艦載機として、遂にその本懐を遂げる事となった。共に搭載された機体はF-14J。本来の相棒が烈風であった事を考えれば次元の違う性能だったが、それでも本機は強い存在感を示した。

 

湾岸戦争においても、本機の出番はあった。『連山』が眼となり、『ある機体』によって新型の筈の第四世代機が尽く叩き落とされ、そうして制空権が確保された空を悠々と飛んで近接航空支援を行う本機。その洗練されたコンビネーションと相対した東側諸国の兵士からは『帝国海軍の亡霊』と呼ばれ、恐れられた。

 

 

湾岸戦争での戦果もあって、現代において本機は

 

“A-1以上、A-10未満”

 

───そう言った評価を受けている。

 

 

 

 

 

これら3機種こそ国防空軍のやり方を象徴する機体達であり、その存在を美香は“適切なレベル”のロマンがありながらも実用性を兼ね備えた存在として肯定的に捉えていた。

 

 

 

「───ざっとこんな感じね」

 

「どれも主力機じゃない部分で需要があったから、長かったのか」

 

 

「そうそう。

まっ、流石にもう連山は『霊山』に、

二式大艇は『九一式大艇』に更新されてるけどね。

流星だってほぼ予備役だし、流石にもう帝国海軍時代の機体は時代遅れね。

 

 

ただ、一つの例外を除いて───」

 

 

「……流星の湾岸戦争での活躍を語ってた時、ぼかした機体の事だな?

 

───まぁぼかしたって分かるけどな。あんだけ有名なんだし」

 

「……アイツかぁ」

 

美香が何を言わんとしているのか、洋平には理解出来た。海斗も勘付いたようだ。

 

 

「流星や連山は、無理ない範囲でロマンも盛った良い機体だと思う。それに、旧式機らしくちゃんと次世代F-1に主力の座を渡したのも高評価。

 

……でもさ。何事も“やりすぎ”は良くないのよ」

 

そう言って美香は、連山の更に後方を指差す。そこに佇む機体を見て、士と加奈もある程度察しがついた。

 

「あぁ……」

 

「あれって……」

 

 

「……?なに、あの機体??

 

───カナード翼?」

 

ただ1人、希空だけは状況を理解しておらず、純粋にその機体のことを気になっている。彼女の疑問に、美香が答える。

 

「アレはカナードってより、“エンテ”って呼ぶべきね」

 

「そうなの?」

 

「詳しく聞きたいなら、私よりも適任がいるわ。

どうせその辺ほっつき歩いてるでしょ───」

 

 

 

 

 

「おっ!貴方達は!」

 

「お待ちしておりました!」

 

 

 

 

 

「……ほらね」

 

 

 

 

 

「……えーっと、あなた達は?」

 

 

 

 

 

「───我々は『震電保存会』!!」

 

 

「我々国防空軍の御神体『震電』を御守りしている団体だ、お嬢ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く





あ と が き

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次回 2000ノットの翼
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