自我持つ兵器の英雄譚   作:Nyappy-

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国防軍の過去にまつわる話。



33. 千歳基地航空祭

 

11月3日

 

「こういう所に来るの、初めて!」

 

千歳基地へ足を踏み入れて早々、希空は見るからに浮かれていた。

 

普段の彼女が生活しているのは、存在そのものが最高機密に近い艦娘技術研究所である。研究所内にも航空機やその模型、設計資料はいくらでもあるが、これほど多くの一般人に囲まれ、実際に運用されている軍用機を目の前で見る機会は、これまで一度も無かった。

 

「希空にとってはそうなるわね。私達は昔にも来たことあるけど」

 

「前は美香に連れられて、だったか?」

 

「そうそう」

 

海斗の言葉に美香が頷くと、洋平は周囲を見回しながら肩を竦めた。

 

「今回は一応、俺が先導役みたいなもんだが……招待されたのが俺ってだけだからな。並んでる機体を説明しろとか言われても無理だぞ」

 

「そこは私に任せなさい」

 

美香が妙に自信満々に胸を張った。

 

この日、神崎家の面々は国防空軍主催の千歳基地航空祭へ招待されていた。

 

表向きの理由だけなら、特務艦隊司令官である洋平が来賓として呼ばれた、それだけである。

 

 

 

問題は、その招待状だった。

 

洋平だけではなく、海斗と美香も名指しで招待されている。家族や同伴者については、人数制限も特に設けられていなかった。

 

そこまでは良い。

 

引っ掛かったのは、その後だった。

 

文章そのものは妙に回りくどく、軍の公式文書にしては不自然なほど婉曲的だったのだが、どう読み返しても、

 

『貴方の“姪”に当たる人物も、是非お連れください』

 

という意味にしか取れなかった。

 

洋平にとって、姪に当たる人物。

 

つまり、希空である。

 

「何故、希空の存在を知っている?」

 

招待状を受け取った時、最初に浮かんだ疑問はそれだった。

 

希空の存在を知る人間自体が、一般社会にはほとんどいない。まして、どこかの航空部隊が偶然知っていて、航空祭へ招待するなど考えにくい。

 

明らかに何かがある。

 

だからこそ、断るのではなく、敢えて来た。

 

相手が何者なのか、直接確かめるために。

 

 

 


 

 

 

一行は、展示地区へ向かって歩いていた。

 

航空祭だけあって人は多く、家族連れや航空ファン、カメラを抱えた観客が至るところにいる。

 

希空にとっては、これが初めてと言ってもいい公の場だった。もっとも、何の警戒もしていないわけではない。

 

「今のうちに言っとくが……士、加奈」

 

洋平が二人へ小声で話し掛ける。

 

「希空の護衛、頼んだぞ」

 

「任せな、洋平兄ちゃん」

 

「希空ちゃん、私と士からあんまり離れないでね?」

 

「うん!」

 

洋平、海斗、美香の三人は来賓でもあるため、途中で主催者側から呼ばれる可能性がある。その場合でも希空を一人にしないよう、士と加奈が護衛役を任されていた。

 

当然、二人とも最低限の武装を隠し持っている。

 

国防陸軍制式コンバットナイフ。

 

そして、

 

S&W M500。

 

 

…………最低限?

 

という疑問が湧くのは仕方ない。

 

特にM500は、隠して持ち歩く拳銃として考えれば明らかに大きい。

 

ただし、彼らが想定している『最悪』とは、普通の人間ではなく深海棲艦である。

 

携行性を保ちながら、APASを使用した際の身体能力を活かせる大口径火器。それも、神崎流で鍛えた士と加奈ならば、反動を実用上問題なく制御出来る。

 

そう考えると、二人にとってM500は案外理に適った選択だった。

 

神崎家の伝手もあり、二人とも個人所有している。

 

 

なお、それを希空に見せたところ、

 

『これ欲しい!』

 

と目を輝かせたため、士が予備の一丁を将来譲る約束までしていた。

 

六歳児へのプレゼントとしては、どう考えてもおかしい。

 

 

 


 

 

 

滑走路沿いを歩いている途中、加奈がふと尋ねた。

 

「ところで、みんな今日ここに来ちゃって、艦隊の方は大丈夫なの?」

 

「ああ、それな」

 

洋平が答える。

 

「今日は元々、陸軍の北海道方面部隊との共同演習が入ってたんだ」

 

「艦娘を深海棲艦役にして、水際で上陸を阻止する訓練よ」

 

美香も続ける。

 

「全体指揮は出雲や鳳翔に任せてきたから、私達がいなくても問題ないわ」

 

約一年前、オホーツク海海戦、そして宗谷海峡夜戦があった。

 

海戦後に敵側の動きを分析した結果、あの部隊は単純な艦隊決戦だけでなく、北海道方面への上陸も視野に入れていた可能性が高いと判断された。

 

その戦訓から、海上で撃破し切れなかった深海棲艦が沿岸へ迫った場合に備え、陸海合同の水際防御訓練が計画されたのである。

 

「今頃、出雲と磐手が暴れ回ってるんだろうなぁ」

 

海斗が、若干遠い目をする。

 

「確か今回、第11機甲師団が新型の10式を初めて本格投入するんだろ?」

 

「張り切ってたみたいね」

 

美香は苦笑した。

 

「可哀想に」

 

「お前ら新型戦車に対して酷くないか?」

 

洋平が突っ込む。

 

「いや、10式が弱いって意味じゃないぞ?」

 

海斗が慌てて付け加える。

 

「90式より遥かに強いし、艦娘技術を応用した装甲材や射撃管制も入ってる。10式APFSDS-ASだって、通常兵器として見れば頭おかしいくらい強力だ」

 

「でも、相手は艦娘だからねぇ……」

 

美香が言う。

 

「鳳翔航空隊まで来るんでしょ?」

 

「……まあな」

 

洋平も、そこだけは言葉に詰まった。

 

戦車がどれだけ強くても、上空から艦載機に爆撃され続ければ厳しい。

 

そう思うのも当然だった。

 

 

 

三人はまだ知らない。

 

今回の演習で、第11機甲師団の師団長が、艦娘という相手を真正面から性能勝負で倒そうとはせず、その性質と運用を徹底的に研究した『対深海棲艦メタ戦術』を持ち込んでいることを。

 

そして、初実戦ならぬ初演習となる10式戦車部隊が、それによって両特務艦隊を相手に、ほぼ互角まで食い下がることを。

 

それはまた、別の話である。

 

 

 


 

 

 

やがて、一行は航空機の地上展示区域へ入った。

 

そこには、文字通り新旧様々な機体が並んでいた。

 

現在の国防空軍を支えるF-15J、未だ多数が残るF-4EJ改、国産主力のF-2とその発展型、国防海軍航空隊から展示参加しているF/A-18EJ/FJ、既に第一線を退きつつあるF-14J、そして、かつて国産戦闘攻撃機の主力だったF-1。

 

その周囲には、練習機や輸送機、救難機、各種ヘリコプターも展示されている。

 

だが、航空祭らしい華やかさという意味では、そのさらに奥にある歴史展示地区の方が遥かに濃かった。

 

国防軍創設から六十年以上。

 

帝国陸海軍から引き継いだもの、戦後に完成させたもの、海外から学んだもの、そこから独自に育てたもの、その航空史が滑走路の一角にずらりと並んでいた。

 

 

そして、六人の中でその光景へ最も強烈に反応したのは、やはり美香だった。

 

 

「───わぁっ!」

 

突然、声を上げる。

 

「あれ橘花一一型じゃん! こっち三五型までいる!」

 

子供のような勢いで駆け寄る。

 

「疾風五型、紫電五三型! F-51Dもある!」

 

「おい美香、待て待て」

 

海斗が止めようとするが、無理だった。

 

「あっ、零戦六四型! 隼四型! 雷電五五型までいるじゃない! 初代戦技教導隊の機体をこんなに並べるなんて豪華ね!」

 

「…………」

 

「…………」

 

洋平と海斗は顔を見合わせた。

 

「よくパッと見て型まで分かるな」

 

「機種なら俺でも分かるが、六四型とか五五型まで遠目で判別出来る自信ねぇぞ」

 

美香の父親は、かつてF-1のパイロットだった。その影響もあって、彼女自身、幼い頃から航空機に触れる機会が多かった。好きなジャンルとなれば、自然と知識も深くなる。

 

そして、美香の解説を最も素直に楽しんでいるのが、士、加奈、希空の三人だった。

 

「美香姉ちゃん、あっちは?」

 

士が指差す。

 

「二機並んでるやつ」

 

「あれは51式単発戦闘機と51式双発戦闘機」

 

「名前そのまんまだな」

 

「それには理由があるのよ」

 

美香は嬉々として説明する。

 

「単発の方は戦争末期に造られてたKi-87を、戦後技術で完成させたKi-87-II。双発の方はKi-83を発展させたKi-83-IIね」

 

「どっちも51式なの?」

 

加奈が尋ねる。

 

「そう。元々は単座と複座で分ける案だったらしいんだけど、双発の方も結局単座になったから、単発と双発で区別するようになったんだって」

 

「へぇ〜」

 

「性能そのものは悪くなかったのよ。ただ、1951年ってもうジェット時代が始まってたからね。良い飛行機だったけど、時代に追い越されたタイプ」

 

希空は二機をじっと見つめた。

 

「失敗したから消えたんじゃないんだ」

 

「そういうこと」

 

美香が頷く。

 

「それ、国防空軍の初期には結構多いのよ」

 

 

戦争末期、日本には未完成の航空機計画が大量に残されていた。

 

全部を復活させたわけではない。逆に、全部を捨てたわけでもなかった。

 

資料が残っている、技術者がいる、工場がある、短期間で完成出来る。そうした条件が揃っているなら、一度、戦後の材料と品質でちゃんと完成させて実際に飛ばし、評価する。

 

使えるなら使う。

 

特殊用途に向いているなら、その仕事へ回す。

 

技術だけ価値があるなら、次の機体へ渡す。

 

必要ないなら、そこで終わらせる。

 

「復活させること自体が目的じゃなかったのよ」

 

美香は言った。

 

「最後まで作ってみて、何が使えるのか判断したかったの」

 

 

国防空軍創設期の思想。それは、古い物へ固執することとは少し違った。

 

 

 


 

 

 

「お母さん、あれは?」

 

希空が、台車の上に載せられた水上機を指差した。

 

「あれは強風六三型」

 

「強風?」

 

「元々、紫電のご先祖様が強風っていう水上戦闘機だったの。戦後に紫電で得た改良を逆に戻して、水上戦闘機として作り直したようなものね」

 

「先祖返り?」

 

「そうそう。でも、この機体を長く使うことが目的だったわけじゃないのよ」

 

美香は、さらに離れた場所を指す。

 

そこには、明らかに時代の違う二機の水上戦闘航空機が展示されていた。

 

「強風六三型で、『戦後も水上から戦闘機を飛ばす意味はあるのか』って研究を続けた結果、後に62式水上戦闘機“蒼風”が生まれて、さらに88式水上戦闘攻撃機“海嵐”へ繋がったの」

 

希空の目が輝く。

 

「ジェット水上戦闘機!?」

 

「そう」

 

「何それ面白い!」

 

「でしょ?」

 

母娘、妙なところが似ていた。

 

「島が多い日本だと、滑走路を潰された時でも海面から飛べる航空機って、案外意味があるのよ。普通の戦闘機を置き換えるほどじゃないけど、特殊用途なら残る価値があった」

 

強風そのものは、とっくの昔に役目を終えた。

 

しかし、『水面を滑走路として使う戦闘航空機』という発想は生き残った。

 

それこそが、この国の戦後兵器開発の一つの特徴だった。

 

 

 

さらに進むと、銀河、飛龍、景雲、天河、そんな名前まで並んでいる。

 

「銀河と飛龍まで保存されてるんだ」

 

海斗が言う。

 

「その辺は、一回戦後型まで完成させて区切りを付けた機体ね」

 

美香が答える。

 

「銀河自体は終わったけど、高速で敵地へ入って対艦攻撃や戦術爆撃をする仕事は消えなかった。その流れから、戦後に完全新設計されたジェット攻撃機が“天河”」

 

「名前似てるね」

 

加奈が言う。

 

「そこは意図的。機体そのものじゃなくて、仕事を受け継いだって感じ」

 

少し離れた場所には、奇妙に大きな電子装備を積んだ高速ジェット偵察機、景雲三三型もいる。

 

「景雲は高速偵察機ね。後期型では、偵察だけじゃなくて限定的な早期警戒まで出来るようになった」

 

「じゃあ、今の暁雲のご先祖?」

 

士が尋ねる。

 

「半分正解」

 

美香は笑った。

 

「景雲からは二つに枝分かれしたの。艦隊の前で敵を見つけて情報を渡す役目は、今の艦載早期警戒機“暁雲”へ。高速、高高度で自分から敵情を取りに行く技術は、戦略偵察機“星雲”へ」

 

希空は並ぶ機体を見渡した。

 

機体は消える。

 

でも、任務、技術、考え方、名前、その何かしらが次へ残る。

 

「面白い……」

 

思わず、そう呟いた。

 

 

 


 

 

 

「なんていうかさ」

 

暫く展示を見ていた海斗が言う。

 

「空軍って、昔から“もったいない精神”強くないか?」

 

「もったいない?」

 

希空が振り返る。

 

「いや、何十年も同じ名前の機体を改良し続けたり、古い機体から妙な派生を作ったりしてるだろ?」

 

すると、洋平が笑った。

 

「それ言ったら国防軍全体そうじゃないか? 海軍だって川内型まだ使ってるし、雪風なんて七十歳だぞ。陸軍も古い装備はモスボールしまくってる」

 

「まあ、それはそうなんだけど」

 

美香が会話へ入る。

 

「空軍のは、ちょっと毛色が違うのよ」

 

「どう違うんだ?」

 

「海軍の川内型は、今でも仕事が出来るから残ってる。雪風は記念艦兼練習艦兼実験艦だから、完全な例外。陸軍だって61式くらいまでは大量に保管してるけど、流石にチハとかチト改とか、ホロやキングチーハーを今も戦力として引っ張り出したりはしないでしょ?」

 

「そりゃそうだ」

 

国防陸軍が創設された直後、初代主力戦車となったのは四式中戦車改、砲兵部隊には五式砲戦車改が採用された。

 

さらに、戦時中の車体を再利用した自走砲、四式十五糎自走砲や長十二糎自走砲、そして数合わせや教育用として九七式中戦車系列さえ使われていた。

 

だが、当然、それらは時代が進めば消えた。

 

海軍も同じだった。

 

「空軍はね」

 

美香が続ける。

 

「昔から、『機体が古いから捨てる』じゃなくて、『その仕事をまだ出来るなら、どこまで使う?』って発想がかなり強いのよ」

 

「合理的、ってこと?」

 

希空が聞く。

 

「それもある」

 

美香は少し考えてから続けた。

 

「でも、それだけじゃないかな」

 

そして、歴史展示に並ぶ旧陸軍系、旧海軍系、両方の航空機を見渡した。

 

「今じゃ別に、組織として旧陸軍派と旧海軍派が喧嘩してるわけじゃないわよ。もう六十年以上も前の話だし」

 

それでも、文化や設計思想、機体に対する考え方、そういったものには微かに血筋が残る。

 

「昔から大雑把に言われてるのが、“合理”の旧陸軍系と、“伝統”の旧海軍系」

 

「合理と伝統?」

 

「旧陸軍系は、良い物なら新旧や出自に拘らず入れ替える。旧海軍系は、一度価値を認めた技術や思想を、とにかく次へ繋ごうとする傾向が強かったの」

 

洋平が頷く。

 

「その二つを六十年混ぜ続けたのが、今の国防空軍ってことか」

 

「そういうこと」

 

美香は笑った。

 

「だから実際には、合理的に見切る時は思い切り良く捨てる。でも、残す価値があるって判断したものは、とんでもなく長生きする」

 

「なるほどなぁ」

 

 

そして、その『長生き』を最も分かりやすく示す機体達が、ちょうど目の前に現れた。

 

 

 

「うわ」

 

海斗が声を漏らす。

 

「懐かしいな」

 

洋平も同じ場所を見る。

 

そこには、三つの名が並んでいた。

 

『二式大艇』

 

『連山』

 

『流星』

 

国防空軍が戦後へ引き継いだ旧海軍機の中でも、特に長い生涯を送った三系列である。

 

「連山って、昔は爆撃機だったやつだよな?」

 

士が尋ねる。

 

「そう」

 

美香が頷く。

 

「ただし、後期の連山は、大戦中の機体にそのままジェットエンジン付けたような代物じゃないわよ」

 

戦後、連山系列は大型機という素性を活かし、何度も世代更新を繰り返した。

 

レシプロ大型機から大型ジェット機へ、構造、機関、与圧、電源、その全てを作り直していったのである。

 

その中で培った大きな機内容積、長時間飛行、大電力、電子機器搭載能力は、やがて空中警戒管制へ向けられた。

 

「最終的には、大型ジェットAWACSになったの」

 

美香が、保存展示されている後期型を指す。

 

「湾岸戦争の時も、戦域全体を見る『空飛ぶ司令部』みたいな仕事をしてた。2002年に後継の二式早期警戒管制機“霊山”へ役目を渡して退役」

 

「同じ名前だけど、もうほとんど別の飛行機なんだな」

 

「うん。でも、系列としては連山」

 

次に、希空が二式大艇を指差した。

 

「こっちは?」

 

「戦後に少数だけ再生産されて、後にターボプロップ化。主な仕事は長距離の海難救助と洋上捜索」

 

「爆撃機じゃないの?」

 

「爆撃も雷撃も一応出来る状態は長く残ってたけど、戦後はほぼやってないわね」

 

空の戦艦とも呼ばれた巨大飛行艇だが、戦後に本当に価値を持ったのは、長大な航続力と、海へ直接降りられる能力だった。

 

「湾岸戦争でも救難任務に出てる。91式大型飛行艇“蒼空”が1991年に入ってから世代交代が始まって、1993年に完全退役」

 

「それでも半世紀近く飛んだんだ……」

 

加奈が感心する。

 

そして、最後に美香が口にしたのは、

 

「流星」

 

という名前だった。

 

その声は、少し楽しそうだった。

 

「コイツはもっとしぶとい」

 

「まだいるの?」

 

希空が聞く。

 

「いる」

 

美香は即答した。

 

「ほぼ予備役だけど、流星五六型と五六型甲は今も飛べる」

 

「…………」

 

「何歳?」

 

加奈が尋ねる。

 

「系譜の始まりから数えない方が良いと思う」

 

元々、帝国海軍が雷撃と爆撃を一機でこなす目的で作った艦上攻撃機、それが流星だった。

 

しかし、完成時には載せる空母がほとんど残っていなかった。

 

その後、国防空軍は戦後改良を施し、流星を攻撃機として再出発させた。機関、武装、電子装備を何度も更新し、ついにはターボプロップを搭載するまでに進化したのである。

 

そして、蒼龍型航空母艦が就役すると、流星はF-14Jの隣で再び空母から飛ぶことになった。

 

「元々の相方が烈風だった飛行機が、トムキャットと同じ飛行甲板に並んでたのよ」

 

「時代が違い過ぎない?」

 

「その通り」

 

美香が笑う。

 

湾岸戦争では、流星五六型も出撃した。

 

大型AWACS化した連山が空を監視し、F-14JとF-15Jが制空権を確保する。その下で流星は、低速、長時間滞空という特性を活かしながら、地上部隊への支援を続けた。

 

「昔は“和製スカイレイダー”なんて呼ばれてたらしいけど、気付いたら本家より長生きしちゃったのよね」

 

その性能評価は、後年よくこう表現された。

 

“A-1以上、A-10未満”。

 

古い。

 

遅い。

 

ステルス性も無い。

 

それでも、大量の兵装を長時間抱え、必要な場所へ必要な時に火力を届ける近接航空支援機としては、非常に扱いやすかった。

 

「F-1が配備された時点で、普通ならとっくに終わっててもおかしくないのにね」

 

海斗が言う。

 

「でも、F-1とは仕事が違った」

 

「そういうこと」

 

美香は頷いた。

 

「主力から降ろすのと、使える仕事まで奪うのは別問題、って考え方」

 

 

 


 

 

 

「───まあ、ざっとこんな感じかな」

 

一通り説明して、美香が息を吐く。

 

「どれも、主力から外れた後に別の需要があったから長生きしたのね」

 

加奈が納得したように言う。

 

「そうそう」

 

「じゃあ、昔の飛行機を何でも残してるわけじゃないんだ」

 

希空が尋ねる。

 

「もちろん」

 

美香は即答する。

 

「銀河だって機体としては早々に終わったし、51式戦闘機も短命。橘花や天河も、F-1に仕事を渡した後は1983年には退役してる」

 

使えるものは残す。

 

使えないものは終わらせる。

 

ただし、終わらせる前に価値を次へ渡す。

 

「流石に今は、旧軍から直接続いてる機体なんてほとんど残ってないわよ。二式大艇も連山も退役したし、流星だって時間の問題」

 

「まあ、そうだよな」

 

洋平が頷く。

 

六十年以上経った。さすがに限界はある。

 

 

「───ただ」

 

美香の声色が、微妙に変わる。

 

「一つだけ」

 

海斗と洋平が反応する。

 

「ああ」

 

洋平が気付く。

 

「さっき湾岸戦争の話で、お前がわざと名前出さなかったやつか?」

 

「そう」

 

「まあ、ぼかしたって分かるけどな」

 

海斗も苦笑いする。

 

希空だけが分からない。

 

「何?」

 

美香は少し困ったように笑った。

 

「流星や連山はね、私は好きよ」

 

「うん?」

 

「昔のものを無理のない範囲で残して、必要な技術だけ新しくして、まだ使える仕事をさせる。ロマンはあるけど、ちゃんと実用性もある」

 

そこまでは良い。

 

「橘花や天河みたいに、役目が終わったら次世代へちゃんと席を譲るのも良い」

 

「じゃあ何が駄目なの?」

 

「何事も」

 

美香は少し遠い目をした。

 

「やり過ぎは良くないのよ」

 

「やり過ぎ?」

 

「うん」

 

そして、美香は連山のさらに奥、他の展示機から少し離れた場所に置かれた一機の戦闘機を指差した。

 

「…………」

 

士と加奈は、それを見て理解したらしい。

 

「あぁ……」

 

「アレかぁ……」

 

洋平と海斗も、同じような反応をする。

 

「…………?」

 

一人だけ、希空は純粋な疑問を浮かべたまま、その機体を見つめていた。

 

そして、最初に目についた特徴を口にする。

 

「何、あの機体?」

 

首を傾げる。

 

「カナード翼……?」

 

美香が答える。

 

「アレは、カナードって言うより」

 

一度、機体へ視線を戻す。

 

「“エンテ”って呼んだ方が、それっぽいわね」

 

「エンテ?」

 

「詳しい話は……」

 

美香は周囲を見回した。何かを探すように視線を巡らせてから、言う。

 

「私より適任な人達がいるわ」

 

「誰?」

 

「どうせ、その辺をほっつき歩いて───」

 

「おっ!」

 

突然、背後から大声が飛んできた。

 

「貴方達は!」

 

別方向から、もう一人が現れる。

 

「お待ちしておりました!」

 

「…………」

 

美香は振り返り、ため息混じりに言った。

 

「……ほらね」

 

希空は二人を交互に見る。

 

どちらも国防空軍関係者らしい。しかし、どうにも普通の軍人には見えない。妙に目が輝いている。

 

「……えーっと」

 

希空が尋ねる。

 

「あなた達は?」

 

待ってましたと言わんばかりに、男達は胸を張った。

 

 

 

そして、一人が高らかに名乗る。

 

「───我々は『震電保存会』!!」

 

続いて、もう一人が件の機体を指し示した。

 

「我々国防空軍の御神体───」

 

満面の笑みを浮かべ、

 

 

「『震電』を御守りしている団体だ、お嬢ちゃん!」

 

 

 

 

 

続く





あ と が き

今回の後半辺りは設定集送りの方が良かったかも()

→彼らが主役の前日譚が投稿開始しています。


次回 2000ノットの翼
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