国防軍の設定集で異彩を放つ(?)
二つの異様に長い小ネタ、その片翼の出番です。
追記:1週間投稿空きます。
「おっ!貴方達は!」
「お待ちしておりました」
「……ほらね」
そう言って、美香は溜息をつく。話しかけてきた者達が何者なのか、分かっていたからだ。またこれが、洋平が希空をここに連れてくる判断をした理由でもあった。「どうせアイツらの仕業よ……」と、美香がその名前を出しており、実際その“組織”の仕業であれば、全て説明が付いたからだ。
“会員に国防軍の上層部が居る”ために希空の事を知っていて、その技術を欲しがる理由のある存在。そんな存在は、一つしか居なかった。
「え〜っと……貴方達はどんなグループ?なの?」
「良くぞ聞いてくれた、お嬢ちゃん!」
「我々は『震電保存会』!!」
「我々国防空軍の御神体『震電』を御守りすべく、1960年に結成された団体だ!」
「結成から半世紀経つが、現役軍人にも我々の仲間は大勢居るぞ!」
「……出たよ空軍を牛耳ってるカルト宗教。昔から軍の中枢に居て、帝国海軍時代の機体にジャブジャブお金使って魔改造を施し続けてる、元凶。
……もう諦めればいいのに。震電七八型の退役なんてもう12年も前の事じゃん」
「とは言え、第二世代ジェット機なのに湾岸戦争で
退役してからもNATO演習にアグレッサーが呼ばれて、
「だから否定し切れなくってムカつくのよ。なんで帝国海軍が開発してた戦闘機がただ超音速ジェットになっただけで未だに最前線、それもエース用の特殊部隊機として通用するのよ……。意味分かんない」
「むっ、エンジンの換装だけでは無いぞ!良いか?震電はな───」
そうして、1人の初老の男が美香に向けて語り出した。
『震電』……人はこの機体を“国防空軍の魂”と呼ぶ。
エンテ型と呼ばれる独特な機体フォルムに、機首に集中配置された30ミリ機関砲がもたらす超火力。
史実、そしてこの世界でも、たった数回の試験飛行しか出来ぬまま終戦を迎えた機体。
───だが、しかし。
国防空軍設立直後、国産ジェット戦闘機の開発計画が持ち上がった際、本機は息を吹きかえした。冷戦が始まりつつあり機体設計を0からやっている暇もない状況下で、元々のエンジン配置がジェットエンジンへの換装に向いていると判断された事で遂に本機は日の目を見た。
試製震電の生き写しである一一型、二重反転プロペラと過給機を装備した二二型を経て、震電はジェット化。三三型としてコンペに臨む事になった。対抗馬となったのは、既にジェット機として成熟していた橘花。戦後、改めてMe262のデータを入手して完成度を高めた二二型が相手だった。
───完成度で言えば、橘花の圧勝だった。当初からジェット機だった機体とではその部分で勝負になるはずもない。だが、環境は震電に味方した。このコンペが行われた時点で、既にF-86セイバーのライセンス生産が決定していたのだ。このため、空軍がこのコンペで求めていたのは主力戦闘機ではなく、局地的な任務をF-86よりも高いレベルで遂行出来る特化型の戦闘機であった。この一点だけは、震電が橘花に大きく優っている部分であった。
こうして、震電三三型は準主力戦闘機として採用された。(橘花もまた、戦闘攻撃機として採用される事になった。その路線での最終型が、三五型。後継機はF-1である)
だが、三三型の制式化は1953年。もう音速の壁は破られた後。そのため、震電もそれに続く事になった。アフターバーナーを搭載したエンジンに換装した試験機、三三型改が1955年に音速を突破。翌年には更に実用的なレベルに引き上げ、機関砲をリボルバーカノン化した五四型が制式化。エンジンの強化は続いていき、63年の五五型ではマッハ1.5、70年の五六型では遂にマッハ2級となった。
……だが、よく考えずとも分かるはずだ。
「こんな改修より、新型を作った方が早い」…と。
1960年、国防空軍の航空機における米国機の割合が増えている事を危惧した帝国陸海軍出身の軍人達によって結成された、『震電保存会』。名前の由来は、震電が国産機の中で最も一線で活躍し続けていたからだ。
彼らの中には政財界の重鎮らも含まれていた。そのため、旧式化の進む震電に莫大な予算をかけ続けることが出来たのだ。また震電の性能向上のためなら外国からの技術吸収も積極的に行い、更に新技術開発にも取り組んでいった。
保存会は、震電の延命を企図した大規模な改良を実施。一一型以降、五六型まで維持してきた機体の安定性を排除。下手なパイロットでは即墜落、というレベルにしたのと引き換えに、圧倒的な格闘性能を震電に付与する事になった。ただこれは、元々一撃離脱特化機であったはずの震電が自身の改良やライバル機の変化によって相対的に“曲がる”機体になっていた事を考慮して、その長所を最大限生かした形だった。
そうして生まれたのが六七型。あまりにもパイロットの腕に依存し過ぎている操縦性は、方々から“殺人機”と呼ばれる所以となった。このため、空軍は本機を運用する部隊を精鋭を集めた2個飛行戦隊に限定。震電は主力機の座をF-4EJに譲り、自身はエース用の特殊部隊機として運用される事になった。これが、1977年の出来事。
その後、1983年に七八型が誕生する。フライ・バイ・ワイヤを搭載した事で“制御された殺人機”となった本機は、更なる新技術をも搭載していた。六七型の物を更に強化したターボファンエンジンには推力偏向技術を実装。以降改良を繰り返し、1990年に完成を迎える。
そして本機は、湾岸戦争に初期から投入。長距離ミサイルが飛び交う空で初めての実戦を迎える事となった。
だが、流石に冷戦終結後も本機を運用し続ける余裕は無く、国防空軍50周年となる1998年、遂に退役を迎えた。ただし、アグレッサー部隊では運用が続けられており、同時に改良も絶えず行われているため、現在の性能は退役時よりも更に上がっている。
「まだまだ、震電の凄いところはあるぞ!
空力特性の洗練に始まり、
材質変更、高性能レーダー搭載、
50G対応の空対空ミサイル、
果てはスーパークルーズまでも───」
「〜っ、本っ当に長ったらしい話ね!言われなくても知ってるわよそんな事!私のお父さん空軍に居たんだから!
……なんで冷戦最後の戦いでもあんな活躍しちゃうのよ。あんな『伝説』としか言いようの無い……。お父さんのF-1は、対地攻撃中に対空砲火で墜とされまくったって言うのに……。
なんでよ……!」
「あっおい美香!…………はぁ……」
海斗が止めるが、美香は走って行ってしまった。
走って行ってしまった美香の背中を見ながら、洋平は呟く。
「……F-1が大好きだったが故に、か。なんたって大切な家族の愛機だもんな。だからこそ
……まぁ、それだけじゃない事も知ってるけどな」
写真でしか見た事のない美香の実父の姿を思い浮かべて、美香に同情するのだった。
一方、士と加奈は自分達なりのやり方で話を逸らそうと試みる。
「『伝説』って?何か知らない、士?私海軍、と言うよりお母さんから聞いたお父さん周辺の事しか知らないから……」
「アレだろ、確かほぼ機関砲でのガンファイト特化の機体なのに、湾岸戦争で投入された1年半くらいを通してアメリカのF-15に次ぐ撃墜数2位で、損失率に至っては最も低かったとか、なんとか。
BVRを拒んで、敵機を近距離空戦に引き摺り込む……。
そのイカれた戦いぶりから、
“
「ふーん……」
……思いの外、震電保存会の面々が落ち込んでいるのか乗って来ず、話が続かなくなったが。
場がなんとも言えない雰囲気に包まれる中、
「あはは……。
───お母さんに後で謝っといて下さいね(小声)」
「あっ、ああ……。すまない」
希空が意外な大人の一面を見せて、なんとか切り抜けていた。
20分後
美香の元に、先ほど話した3人ともう一人、保存会のリーダーらしき人物がやって来た。
彼らは美香に謝った後、弁解した。ルーキーらしい1人のパイロット以外はみな国防軍の先輩なので、そこまで遜った言い方では無いが。
「こうなってからでは今更だが……すまなかった」
謝られた美香だが、既に時間が解決していたのか、別段怒っては無さそうな様子。
「……別に、震電が嫌いなわけじゃないの。むしろ好き。ただ、お父さんとF-1を貶されているように聞こえて嫌だっただけ。
お父さんも、震電のことは好きだったよ。パイロットになりたいって良く言ってたくらい。ただ、たまたま、震電の機体性能に適性が無かっただけ。
お父さん、弱かったわけじゃないんだから!」
「後期型の震電はかなり特殊で、人を選ぶ機体だからな……仕方ない」
「なんで、あんなピーキー過ぎる機体になんてしちゃったのよ。五六型までは文句無しに主力機だったのに、六七型から、あんな……」
「それこそが、震電の生き残る道だと踏んだからさ。敢えて安定性を排除して、引き換えに究極の機動性を手に入れる……。そしてそれを操れるパイロットと合わさる事で、震電は第四世代機を超えたんだ」
「もしお父さんが乗ってたのが震電だったら……対空砲火で墜とされて、死ななくて済んだかも、知れないのに……。
けどまぁ、そうよね……お父さんでも操縦出来る性能なら七八型はあんなに強くなってないわよね。
あの馬鹿げた強さは、“意図された殺人機”と、それを乗りこなせるスーパーエースの組み合わせだからこそ、発揮出来たんだもん……」
「だが、貴女のお父上が優秀なエースパイロットであった事は間違いない。湾岸戦争において、数々の戦果を挙げた記録も残っている。
お父上がF-1を操縦して対地攻撃任務を行っていなければ、多国籍軍は勝てなかった、そう断言して良い。それだけの事をやってのけたんだ」
「……本当?」
「本当さ!戦闘機はエースしか生み出せない。歴史を創るのは爆撃機だ。貴女のお父上は、冷戦を終わらせた英雄だ!」
「───えへっ、そうでしょ?私のお父さんは、最強のF-1パイロットなんだから!」
「うん、そうだとも。彼は我々空軍の誇りだ!」
「そうそう!そうよ!えへへっ……」
謝罪のために話しかけたはずが、気付けば空軍の話で盛り上がり始めていた。
「…………」
「謝罪がアレで、本当に良いんだろうか」
心配そうに見つめるルーキーパイロットの言葉に、横に居る海斗が答える。
「大丈夫だって。
それに美香が機嫌悪くしたのは、単なる八つ当たりだ。アイツだって震電の事は好きだよ。
……ったく、アラサーにもなって何やってんだか」
「貴方がそう言うなら、良いですけど……」
「さっ、航空ショーに向けて切り替えて行こうぜ!アンタも飛ぶんだろ?」
「えっ、あ……はい!」
「期待してるぜ、震電!」
「……見せてやります、震電七八型の極限機動を!」
「死ぬなよ〜」
「俺もアグレッサー部隊の一員です!ご心配なく」
ルーキーパイロットは、自信たっぷり、と言った様子で頷いた。
2時間後
1時間ほど前に始まった航空ショーも、佳境に差し掛かっていた。
歴代の機体達が思い思いのパフォーマンスを見せていき、遂にその時はやって来た。
「───いよいよ、本日のメインイベント!我が空軍の最精鋭、アグレッサーの操縦する……震電七八型の曲芸飛行です!」
そのアナウンスが響き渡る中を、1機の異形の機体が飛んで行く。
───震電七八型。
震電保存会の誇りであり……20年前、湾岸の空を支配した王者。
誰もが認める、最強の第二世代ジェット戦闘機。
その所以を、この空でも見せつけた。
高空へ舞い上がった震電は、すぐさま急加速。そしてそのまま、マッハ超えのスピードで地表目掛けて突っ込んでくる。
「───ここだ」
地表ギリギリを攻めるように急旋回。途轍もないソニックブームが観客席を揺らす。
かと思えばすぐさま上昇して、機首を限界まで上げて失速体勢に。フライ・バイ・ワイヤと推力偏向能力がもたらすコブラ機動を易々と決めて見せて、そのまま有り余る推力で強引に加速、上昇して行く。
そこから一通りの空戦機動を見せ付けた震電は、遂にその本領を見せる。
「そろそろ、行くか……」
震電はエンジンを最大出力に。
アフターバーナーによって瞬く間に加速した機体は、十数秒の内に最高速度であるマッハ2.8へ到達。
そして───
「さぁ、行くぞ震電!
先輩から教わった、この“震空乱舞”で!!」
その叫びと共に、震電は機首を急速に天へ掲げる。ここまでは単なるコブラ機動だ。
そのまま一時停止した後、機体は後ろへと回転し始める。そして元に戻った、と思いきや、そのまま回転を続ける震電。
2、3、4回転。
最後は失速を生かして旋回の頂点で強引に反転した後、機体を水平に戻し、再び最高速まで加速、
雲の上へと消えて行った。
これこそ、コブラ、クルビット、そして初代アグレッサー部隊から伝わる、零戦の伝家の宝刀“捻り込み”まで混ぜ合わせた、震電の狂った機動性とバワーウェイトレシオだからこそ出来る特別なマニューバ……。
そして、湾岸戦争において、数々の第四世代機を叩き落として来た、震電の切り札。
───『
「───流石。何度見てもカッコいいわね……」
「カッコいい……」
なんだかんだで震電をうっとりとして見つめる美香の横で、希空は何かに目覚めた様子だった。
1時間後
「どうでしたか?震空乱舞」
「完璧だよ!ルーキーなのにやるなぁ」
「良かったぜ。良く回ってた」
謙遜しているのか、あまり誇ろうとはしない様子のルーキーに、洋平と海斗が絶賛の言葉を浴びせている。
その様子を見て、保存会の上層部は───
(これは、上手く行くかもな……)
と、何やら企んでいる様子。
そして、
「希空ちゃんから見て、どうだったかな?
……その、もし良かったら──────」
仕掛けようと、したのだが。
「ねぇ、おじさん!
あの子、私がもっと強くしてあげたい!!
……ダメ、かな?」
「……おっ、おう。良いぞ?
むしろ、大歓迎、なんだぞ?」
「本当?やったぁ!」
彼らの本当の目論見は、呆気なく希空に先に言われてしまった。彼女の心を震電に向けるには、深く深く練り込んで、ようやく漕ぎ着けた
一悶着あった航空祭だったが、終わってみれば大成功。
保存会は震電の更なる強化の糸口を掴み、
希空は新たな
果たして、震電の明日はどうなるのか?
───1つだけ確かな事がある。それは、
『艦娘派は……
……という事だ。
続く
あ と が き
美香は震電に対して若干のコンプレックスを拗らせてる感じです。好きは好き、なんですけどね。
また、あんまり知らないけど……
本作の震電七八型、下手すると
『J7W』そのものとしては創作最強では……?
(ちなみに七八型は『J7W8』)
間違ってたらごめんなさい。
次回 あの髪型ってどうやってセットするんだろう?