自我持つ兵器の英雄譚   作:Nyappy-

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幼い“阿武隈”も、髪はあんな感じなんだろうか…



36. 幼幼育児

 

 

少し時を戻して、2011年4月。

 

士は、江田島の海軍兵学校に入学した。

慣れるまでは大変だったらしいが、それ以降は持ち前の身体能力や神崎家(分家だが)故に習得済みだった知識もあって、文字通り“無双”し始めた。

このまま行けば、ダントツ主席卒業は間違いない。そんな具合だった。

 

 

 

 

 

それから約9ヶ月後

 

2011年12月下旬

 

年末年始の休みで帰省していた士だったが、事実上の帰省先は艦娘技術研究所だった。高校が冬休みに入った加奈と共に、希空にヘルプで呼ばれていた。

 

研究所に入ってすぐに、2人は赤ちゃんの泣き声を聞いた。それも二つ重なったステレオな音で。

 

「……第二世代艦娘の、泣き声?」

 

「多分。……希空からのメッセージだと産まれたばっかりって話だったし、きっとその子じゃないか?」

 

なんとなくその声の正体には気付きながら、2人は希空の研究室に足を運ぶ。

その途中、何やら疲れた顔で忙しそうにする秋吉と会った。

 

「……ん?…ああ、士、加奈。久しぶり…」

 

「おいおい…秋吉所長、なんか疲れてないっすか?」

 

「どうかしたんですか?」

 

「いや、その。……育児って大変だなぁ、って。

まあそれに、装備開発でも忙しくてさ。第二世代艦娘用の装備を一式揃えてやらないとならないから」

 

「なるほど?」

 

「これから増えていく予定っすもんね、第二世代」

 

「ああ。来年からはより本格的な建造が始まっていくからな。最初は多分駆逐艦からになる予定だが、大型艦にもすぐに着手する予定ではいるな」

 

「大型艦っていうと、空母もですか?」

 

「まあそうだ。空母はもう鳳翔の方で育成プランの作成も始めてもらってるから、それが出来たら、かな」

 

 

そうして話している内に、希空の研究室の前まで来た。扉は開いていて、中からは泣き声が聞こえてきていた。

 

「やっぱりここか」

 

「この泣き声は誰かな?」

 

そんな事を考えていた時、室内から1人の赤ちゃんが飛び出してきた。まだおぼつかない歩き方なのに、スピードでごり押している。

 

体勢を崩して転びそうになったところを、士が掴んだ。

 

「うおっ、と……」

 

「うわぁ、赤ちゃんだ!えーっと名前は……」

 

そう言って加奈はその赤ちゃんの髪の色と服を見たが、生憎“ハズレ”。そこで判別出来る“阿武隈”では無かった。

 

その時、秋吉が言った。

 

「川内と神通は、まだ流石に歩けない。……だから、この子は那珂だ」

 

その赤ちゃんの頭頂部のアホ毛が、存在感を示している。

秋吉の言う通り、士が今抱き上げているのは“那珂”であった。

 

「へぇ、お前が那珂…」

 

「かわいい…まんまるお目目だね」

 

特に泣くことも無く、士を真っ直ぐ見上げるその姿に2人がほっこりしていると、「ちょっと那珂ちゃーん!どこ行ったのー!」…と、幼いながらも大人びた声が聞こえた。聞き慣れた希空の声。だが、ここまで大人っぽい声色を聞くのは初めてだった。

 

希空は扉から出ようとしたところで、2人の存在に気付いた。

 

「那珂ちゃーん!?……って、士、加奈!」

 

「よっ、希空。ヘルプに来たぜ」

 

「久しぶり。大変そうだね……」

 

士と加奈の姿を見て、希空は心なしかホッとしているように見えた。

 

「あはは……こんなに早く、『ママ』になるとは思わなかったよ」

 

そう言って、希空は苦笑する。実際、今の希空の1日を端的に言い表せば、「働くママ」と言った感じだ。

4人の量産型第二世代艦娘の育児に追われながらも、次なる建造の準備もこなす。そんな日々を送っていた。

 

「でも、これで一先ずゆっくり出来るな、希空」

 

「うん、所長。……よろしくね、2人とも!」

 

「おう、任せろ!」

 

希空が多忙では、艦娘の研究開発に支障が出まくる。だからこそ、この育児を代行してもらう必要があった。

そもそも論、一般的には小学1年生に当たる年の女児が出来る事では無かった。いや、精神的には出来るかもしれないが、肉体という物理的な制約があった。

“幼幼育児”は、いくらなんでも無理がある。

 

根本的な解決はいずれ必要だが、これで一旦は何とかする……そのためのヘルプだった。

 

 

 

30分後

 

 

「一旦寝たか……」

 

「何とかなったね」

 

さっきまでと打って変わって、静かになった研究室。先ほどまでとのギャップで余計にそう思える。

士と加奈は、それからずっと、聞こえてきていたステレオ泣き声の発生源であった“川内”と“神通”を何とかして落ち着かせようと試行錯誤し、たった今ようやく成功した。

秋吉と希空はそれぞれの研究開発のために別の部屋に居る。……まあ、ここが希空の研究室である以上、しばらくすれば彼女は帰ってくるが。

 

 

とは言っても、士と加奈が2人だけで寝かしつけた訳ではない。もう1人、小さな協力者が居た。

 

「……助かった。ありがとな、零」

 

「うん。慣れてるから、大丈夫」

 

───1歳4ヶ月の、零だ。

“阿武隈”の建造から9ヶ月が経って、零は更に成長していた。もうすっかり歩けるようになり、ある程度の言葉も話せる。

 

「士、加奈。いつまで居るの?」

 

「まあ、年始までは」

 

「学校が始まっちゃうまでは居るよ」

 

「学校…か」

 

学校と聞いて、零は考える素振りを見せた。

 

「零には、多分縁の無い場所になるだろうな」

 

「希空ちゃんに、一通りの知識をインストールしてもらったもんね」

 

「うん。平均値で言うと高校生?レベルの上限くらいまでは持ってるって言ってたよ」

 

「平均値、か。そういえば戦闘特化だったな」

 

「うん。そっちはマスターしてる、らしいよ。それと戦闘技術は、世界中の軍用戦闘術に各種拳法、武器術とか、ほとんど全て、らしいけど……実感は無い」

 

「“らしい”、か。

まあ教えられたって、そもそも世界を知らないもんな……」

 

 

───歪な知識だ。そう士と加奈は感じた。

言葉と意味は知っているのに、実物をその目で見た事が無いのだから。

 

零は、希空によって既に“頭良い高校生”くらいのレベルの知識は“インストール”されていた。“インストール”という表現なのは、零の脳がある意味で“ストレージ”だから。

そもそもが強化された脳である事に加えて、記憶…いや、“記録”したものを映像として取り出す事が出来るように設計されていた。これは、零の戦闘データを量産型第二世代艦娘の育成に活かすための措置。

零の眼を“ガンカメラ”として見立てて、戦闘にて記録したものを訓練に用いる……。そこまで考えてのものだった。

だからこそ、零はとっとと実戦に投入されなければならない。それには、知識が必要だった。それもあって、希空は零に、単純な学力だけでなく、軍事面の知識や戦闘技術まで、戦う上で必要な知識のインストールを行ったのだった。

 

 

……そして、零は戦闘特化。何ならもう既に国防海軍の軍人扱いではある。

よって、当然ながらその知識には海軍兵学校の教育カリキュラムも全て含まれている。

 

 

 

「ここ、なんだっけ……」

 

「ああ、それは───」

 

「あはっ、赤ちゃんが家庭教師やってるっっ……あははっ!」

 

「おい加奈っ!笑うなって!」

 

それ故に、零は今の士よりも知識を持っていた。少し暇になったために勉強していた士に、零が教えていた。

 

……爆笑していた加奈の方が零に高校の勉強を色々と教わっていたのは、内緒。

 

 

 

2時間後

 

 

3人で勉強したり遊んだりしていたところ、希空が戻ってきた。“阿武隈”も一緒だ。

 

「…零っ」

 

「阿武隈?どうしたの?」

 

部屋に入って、零の姿を見るや否や、“阿武隈”は零に駆け寄って抱きついた。それを零は受け止めて抱きしめた。

普段から零と“阿武隈”はこんな調子だが、この時は、“阿武隈”の抱きつき方がより凄かった。

何があったのか分からず困惑する零に、彼女は口を開いた。

 

 

「……バイバイするの?」

 

「えっ?」

 

零に比べたら幼い感じで話しながら、“阿武隈”は零を見た。

 

「バイバイって……?」

 

零が困惑する中、希空が話し始めた。

士と加奈には説明するように。

また、零には優しく教えるように。

 

「……阿武隈は、研究所から別の場所にお引っ越しをするの」

 

「……え」

 

 

ここで初めて、士と加奈は、比較的年齢相応の零を見た。

(恐らく)仲が良いであろう幼馴染の引っ越しの事を聞いて、呆然とする。それはまるで、大切な友達が転校して遠くに引っ越してしまう、と分かった時の子供のようで。

……いや勿論、1歳の赤ちゃんと考えればこれも異常だが、ここまでの零に比べたらまだ随分とマシな反応だった。

 

零の心情を知ってか知らずか、希空は続けた。寝ている“川内”と“神通”、ベッドでゴロゴロして楽しそうにしている“那珂”を指差して言った。

 

「正確には、この子達も一緒に引っ越し。時期は、今年度末かな」

 

 

「前から決まってたのか?」

 

士が質問した。

 

「うん。……これから先、艦娘がどんどん建造されていく。そうなった時に、ずっとここで育てる訳にもいかないから」

 

「───なるほどな、合理的な理由だ」

 

士は、突発的な考えであれば、希空を止めようと思っていた。だが、理由が理由なのでそれは出来なかった。

 

今度は加奈が聞いた。

 

「引っ越しの時期は今年度末で確定?」

 

その問いに、希空は考える素振りを見せた。

 

「確定、って程じゃ無いけど……。川内と神通が歩けるくらいまで成長する、目安として、って感じだから。

───元々、神通が歩けるくらいになったら、この子たちを呉に送るつもりだったんだ」

 

「呉……」

「呉鎮守府……小林長官のところか」

 

「うん。一特艦からも何人か瀬戸内海防衛のために分派する方針らしいから、ちょうど良いかなって」

 

「教官役って事だな。……良いん、じゃないか?」

 

 

……2人は、希空が説明していくにつれて明らかに表情が曇っていく零を横目で見つつも、止める理由が無さ過ぎて頷くしか無かった。

 

 

 

希空が再び出て行った後───

 

 

「あ〜その……元気出せよ、零」

 

「うん……」

 

士は、零を慰めていた。明らかに泣きそうだったが、“阿武隈”を抱きしめているからか、なんとか耐えているようだった。

 

「阿武隈ちゃんは、寂しい?」

 

「……うん」

 

加奈の質問に、“阿武隈”は確かに寂しそうに答えたが、零ほどでは無かった。彼女はまだ、零ほどは精神面が大人では無かった……いや、零が馬鹿みたいに精神面の成長を加速させられているだけだった。

 

 

「……俺、江田島に居るから。たまに、阿武隈の様子見に行くから、な?」

 

「うん……」

 

士が何とか励まそうとするが、芳しくない。

 

 

「あぁ……この感じは、しばらくはダメそう……」

 

───まさか1歳の赤ちゃんが“曇らせ”を食らうなんてね……。

 

加奈は、目の前の光景の異質さになんとも言えない気持ちになり、歪な成長をさせられている零を憐れんだ。

 

 

 

 

 

それから3ヶ月後

 

2012年3月17日

 

“神通”が歩けるようになったのは、3月上旬の事だったが、士と加奈からの提案もあって、“阿武隈”の1歳の誕生日までは4人の量産型艦娘は研究所にて過ごした。

 

その翌日であるこの日、

 

“川内”、“神通”、“那珂”……そして“阿武隈”は、呉鎮守府へと引っ越した。

 

4人は、士が“実地訓練”の名目で任務を受諾して連れていった。

 

その別れ際───

 

 

「───阿武隈っ」

 

そう言って、零が彼女を抱きしめた。

周りにはよく聞こえなかったが、何かを話しているようだった。

 

その中で、唯一聞き取れたのが……

 

 

「───俺が───守るから」

 

 

まるでヒーローのような顔つきで、零ははっきりとそう言った。

それは単なるカッコつけか、何かの予感故か───

 

 

 

 

 

 

続く





あ と が き

気付いたら零の曇らせが書かれていた……。


次回 次の建造と零の成長
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