久しぶりの海外提督。
「外国にも、第二世代の建造技術を供与しなきゃね」
そう希空が決めたのは、2012年5月のこと。
ちょうど、1年以上の建造経験の蓄積によって量産型第二世代艦娘の仕様が確定してきた時期だった。
2週間後
「───それで、こうして再び集まった訳か」
「遂に、この時が……!」
そう話すのは、米海軍のロックハート大佐に伊海軍のアルベローニ大佐。アルベローニ大佐は分かりやすく喜んでいる。
「早いものだな、以前はまだ構想段階だったと言うのに」
「それが、あの少女の力……なんでしょうか」
英海軍のウォード少将と独海軍のグーテンベルグ大佐は、比較的落ち着いて考えている様子。グーテンベルグ大佐は希空のことを思い出していた。
彼ら欧米の艦娘司令官たちは、約3年半振りに艦娘技術研究所へと集まっていた。理由は当然、希空が秋吉や洋平を通して、4人を呼んだから。
別にただ技術供与するだけなら、データだけ送る、でも良かったのだが、彼らに協力してもらいたい事があったため、実際に来てもらっていた。
4人の司令官が応接室で待っていると、希空が零を連れて入ってきた。(色々と忙しい洋平は別としても)てっきり秋吉がメインで説明すると思っていたため、秋吉が不在な事に軽く驚いた。
そして当然、その興味は零へと向く。希空はともかく、この赤ちゃん───の割には普通に歩いているが───は何なんだ?と思うのは当たり前。それに、一応はちゃんとした会議の場であるはずが、相手が子供2人ともなれば混乱は必然だ。
意を決してウォード少将が聞いた。
「───希空さん、その子は?」
「ああ、この子は零。私の弟で、第二世代艦娘のプロトタイプだよ。型式はJK-2-X-00」
「その子が……」
待ち望んでいた第二世代艦娘の1人が目の前の赤ちゃんだと聞かされて、4司令官は驚いた。そして同時に、第二世代艦娘の実用化が本当の事だと実感した。
……だが、だからと言って零を連れてくる意味は分からない。ロックハート大佐が聞いた。
「その子の事は分かったが……この場に連れてきた意味はなんだ?」
「零が居てくれた方が、色々と説明しやすいかな、と思って。技術供与のこともだけど、特に「頼み事」の方で」
「なるほど?」
理解はしつつも何とも言えない感じのロックハート大佐に、妙に大人びた声がかけられた。
「泣いたりはしないから、大丈夫……」
「……?…………!?」
一瞬の思考停止の後、驚愕と困惑に顔を染めるロックハート大佐。
「えっ、今……」
「喋らなかったか?」
「……マジか」
他の3人もそれぞれ唖然としている。
(歩いている事なんてどうでも良い、こっちの方がもっととんでもねぇ……)
見た目だけは2歳間近そのものなので、喋ること自体はそんなに驚くことでは無いかもしれないが、いくらなんでもこのレベルの流暢な喋り(しかも英語)はおかしいだろう……と、そんな事を思った。
まだまだ驚きは尽きそうになかったが、一旦は希空の説明に入った。
1時間後
希空が説明した内容は、至ってシンプル。
「以前から説明している、“第二世代艦娘なら、第二次大戦期の艦艇も建造可能”というものが、遂に実現出来るようになった」というだけ。
要するに3年半前、あのG5サミットで話した内容そのままだった。
希空にとって本題は、もう一つの方。先ほど言った「頼み事」の方だった。
一通り説明が終わったところで、希空が切り出した。
「それで、もう一つ話したい事があるんだけど……良い?」
4司令官は特に断る理由も無いので、素直に首を縦に振る。
「あのね……協力して欲しい事があるんだ」
「協力?私たちに出来る事があるのか?」
希空からの頼み事という時点で断る気など全く無い、と言った様子のウォード少将。むしろ何かしてあげられるのか?と思いながら聞いた。
「うん。その……4人とも最近結婚したらしいじゃん?」
「ああ、したな」
「この2年くらいの間に、全員一気に行ったよな」
「でもそれと何の関係が?」
自分たちの結婚と希空の頼み事の関係性がイマイチ掴めない4人。そこに希空が核心に迫ることを聞いた。
「───子供を、艦娘として建造しない?」
「───子供?……艦娘として……?」
「それって、君のように……?」
「子供を艦娘にしないか?」……そう聞かれた4人は驚きつつも、目の前にまさにそうやって産まれた存在が2人もいるのだから、理解は出来た。
だが、何故いきなりそんな事を?とは思ったが、そこは希空が説明した。
「将来的に、この第二世代艦娘の技術を転用して、“情報処理特化型艦娘”を建造したいんだ。……正直言って“艦娘”ではもう無いけど。私や零みたいな、艦魂を使わないタイプで計画しているから」
「情報処理特化……」
「うん。……ここで零を連れてきた意味が出てくるんだけど、零はさ、いわゆる“汎用型”なんだ。まあ零だけじゃなくて、艦娘は基本的にみんなそうだけど。
そして、逆に私は言うなれば“頭脳特化型”。戦闘の事は全くと言って良いくらい考慮されていない代わりに、頭脳面に全振りされてる。……要するに、リソースをどう振るか、って話なんだ」
ここで希空は一旦言葉を切り、はっきりと言った。
「……じゃあそのリソースを、“指揮機能”に全振りしたら?」
「それは……」
「人間CIC……いやもっと、か?」
「でもそんな事をする意味は……待て。そういう事か」
4人は希空の言ったことに困惑していたが、次第にその真意に気付いてきた。それは、現在各国の海軍が等しく抱えている問題への、一つの解決策であったからだ。
「……そう。どこの海軍も、特に主力となって深海棲艦と相対してる国が抱える問題、“人材消耗”。これを解決出来るかもしれないんだ」
「……だが、どうやって?確かに君の言う通りに処理能力特化の存在を造ったとして、それだけでは……」
“頭脳”だけ強化しても、手足となる人材だって不足しているのだから意味がない、そう言おうとしたグーテンベルグ大佐。だがうっすらと笑みを浮かべる希空の顔を見て、その言葉は引っ込んだ。
「今、国防海軍では『艦艇の半自動化』を計画してる。でもそこでネックになっているのが『その艦艇そのものの技量の低下』と『艦隊運動の負荷』の2点。
前者は分かりやすく、プログラムじゃあ人間の技量を超えられない部分があるからで、後者は旗艦から無人の随伴艦を一括管理しようとした時に、システムに負荷が掛かりすぎる事が原因。ここに今四苦八苦してるんだ」
「……思っていた以上に人材が不足しているんだな、日本は」
「流石にこっちはそこまでするほどでは無いな……」
「ミレニアム・ショックや初期の戦いで、結構な数の上級士官が居なくなったからね……」
流石に行くところまで行き過ぎている日本国防海軍の現状に何とも言えない気持ちになりながらも、4人は希空に続きを促す。
「だから、私、考えたんだ。“こうなったら私がシステムを作っちゃおう”って」
「今は、取り敢えず分かりやすく高性能なスーパーコンピュータを造りつつ、量子コンピュータの開発もやってる。この辺は秋吉所長と共同作業だね。そして、そのコアとして……」
「……脳を極限まで強化した人間を組み込む」
「「「「……」」」」
分かってはいた。分かってはいたが、マジか……と4人は思った。
何となく4人が引いていそうなのを察して、希空は補足する。
「───ああ、“組み込む”って言っても、別に自由に動けるし、普通に生活も出来るよ!“組み込む”って言うのは、システムの中枢に、って意味だから」
(もう何も言うまい)
……そう思って4人は黙って話を聞き続ける。
「───ただ、流石にいきなりそんな子は造れないからさ。言い方は良くないけど、分かりやすく言うなら、
……4人の子どもたちを造るって名目で、実験させてくれない?もちろん、安全安心だよ。建造した後は、普通に生きられる。まあ、その能力を活かして、艦隊司令官になるように育てるのも有りだけどね?そのための指揮システムなんだし」
はっきり言って、希空が提案してきた事は、倫理観のかけらも無かった。だが……だからと言って拒否する気も無かった。4人の視点から見れば、特段悪い話では無かったからだ。
「───分かった。協力しよう」
そのウォード少将の回答に、他の3人も頷いた。
それから3ヶ月後、4人はそれぞれの妻を連れて研究所へと再び集まった。そして、希空が建造を実施。
それぞれに1人ずつ女の子が産まれる事となった。
『アンジェリカ・ロックハート』
『リリー・ウォード』
『ソフィア・グーテンベルグ』
『ロゼッタ・アルベローニ』
そう名付けられた。
彼女たちは、そのそれぞれの国における次世代の艦娘司令官として育っていく事となる。その能力ゆえに、そのレールから外れる事は、絶対にない。
そして希空は、
ここで得られたデータを元に『人間をコアとした制御システム』の開発を加速させていく事となった。
続く
あ と が き
4人の女の子たちの活躍については、気長に待っていてください。
次回 インストールでは賄えない部分