“言い方変えただけのオマージュ”の大量発生。
2012年10月 艦娘技術研究所
「───っ!はぁぁぁぁあ!!」
演習場に、零の叫び声が響き渡っている。
「出力推定値未満、でも上がってる。……もうちょっと頑張って、零!」
そう言って、希空が鼓舞する。姉からの声援を受けて、零は更に踏ん張っていく。
だが、それもやがて限界を迎え───
「ぐぐっ、うぅぅぅ……!!
……はぁ、はぁ」
「───計測終了。よく頑張ったね」
力が抜けて倒れ込んだ零に希空は駆け寄り、その頭を優しく撫でた。
2人がやっていたのは、零の動力である『タキオンドライヴ』の出力計測。また、訓練でもあった。
1週間前
「零、戦闘訓練はどんな感じ?」
脳内にインストールされている戦闘技術を元に訓練している零に、希空が話しかけた。
零は2歳を迎えて、その身体能力は更に年不相応になってきた。既に、簡単な戦闘技術なら再現出来るくらいにはなった。流石に、まだ実戦投入が可能なレベルでは無いが。
「どうかしたの、お姉ちゃん?」
「───インストールだけじゃ出来ない部分を、教えようと思って」
零の問いに、希空はそう答えた。
「インストールだけじゃ出来ない部分?」
「そう。……タキオンドライヴの使い方は?って聞かれて、零、答えられる?」
「……分かんない」
「そりゃそう。だってタキオンドライヴは、零が“世界で初めて”搭載したんだから。私がインストールしたのは、“既存”のものだけだもん」
「じゃあどうするの?」
そう零は希空に聞く。
「インストール以外で、どうやって習得するの?」
……と疑問に思ったからだ。
正確に言えば、零も「勉強」の概念は分かっている。
ただし、自分でやったことは無かった。
「私が直接教えてあげる。基礎的な制御は本能的に出来ているけど、戦闘に活用するには、訓練は必須だからね。数ヶ月はかかるだろうし、今日からしばらくは、毎月『タキオンドライヴ制御訓練月間』って感じになるかな」
「分かった!」
「相変わらず素直だね」
「大好きな希空お姉ちゃんの言うことだから」
「……そっか。ありがとう、零」
ストレートに「大好き」と言われて、希空は少し顔を赤くした。
こうして、タキオンドライヴの本格的な制御訓練が始まったのだった。
そして時系列は現在に戻る。
希空が「数ヶ月はかかる」と言っただけあり、1週間が経過した現在は、まだやっと出力が戦闘時の標準値に近づいてきたと言ったレベル。『機関を動かす』こと自体に、まだ四苦八苦している段階だった。
零自身、タキオンドライヴの制御のコツを掴みきれているとは言えなかった。
『機関出力上昇』がそんなに難しいか?と思われるだろうが、通常兵器と違い、零の場合は文字通り『自らの意思で心臓の拍動を早める』ようなものであり、どうすれば良いのか分からない部分があった。これはタキオンドライヴが艦艇用語での『バイタルパート』である以上に、本当に零の『心臓』としても機能しているからであり、人間部分と艤装部分が切り離された構造になっている通常の艦娘との差でもあった。
そのため、タキオンドライヴから生み出されるタキオン粒子の活用に至っては、本当にまだまだ全然だった。
零が、希空に聞いた。
「ねぇ、お姉ちゃん……。タキオンドライヴの制御が、本当に俺の戦闘力強化に関係あるの?」
それは、零にとっては正に核心と言える疑問だった。
零にとって最も大事なことは「それをすることで強くなれるのか」だった。
希空は零に、「これが出来れば強くなる」と言ってやらせたが、実際どうなのかは聞かされて無いし、実感も得られていない。
タキオンドライヴの制御が戦闘力に寄与しないなら、或いはその効果が薄いなら、別にしなくても良いのではないか?……そう考えたのだった。
零からの疑問に、希空はニヤつきながら答えた。
「関係あるかって?……大有りだよ!タキオンドライヴとそこから生まれるタキオン粒子を制御出来れば、零は一気に強くなれる!
タキオンドライヴこそ、零の戦闘力の要なんだから!」
「えー……本当に?」
あまりにも自信満々に豪語する希空を、若干怪訝そうな目で見つめる零。
「じゃあ具体例を出してよ」
とでも言いたげな顔をしている。
希空は、そんな零の内心に気づいていた。
「……そうだね、具体的に何が出来るのか、そこが分かんなきゃモチベ保たないよね」
そう言って希空は、真後ろにジャンプして零から数十メートル距離を取り、叫んだ。
「ここに来て、零!
───ただし!!“光より速く”来て!」
いきなりそう言われた零は、困惑するしかない。希空を追いかけようと既に一歩踏み出してジャンプしようとしていた足をギリギリで止めて、叫び返した。
「どうやって!?“光より速く”なんて、そんな“ワープ”みたいなこと……」
「……なんで今、“ワープ”って言ったの?
“テレポート”や“瞬間移動”でも良いのに、なんで?」
「…えっ……?」
零は、自分でも分からなかった。何故、数ある「超光速移動」の中で「ワープ」という単語を使ったのか。
希空は、零にヒントを出した。
「タキオンドライヴの制御は訓練しなきゃ無理だけど……その先の活用手段とそのプロセスは、一部インストール済みなものもあるよ?」
「───あ…!」
そこまで聞いて、零は気づいた。
そして───
「……っ!ワープ!!」
その叫びと共に、零の身体は光速を超えた。
「───よく出来ました」
そう言って、希空は自分の目の前にワープアウトして抱きついてきた零を抱きしめ返して、頭を撫でた。
「他の単語と違って、“ワープ”は妙に細かい事まで分かった。……あれは実際に運用するためのプロセスだったんだ」
「ふふっ、よく分かったね」
少し静かに抱き合った後、零が言った。
「お姉ちゃんの言う通りだった。凄いね、タキオンドライヴ」
「そうでしょ?凄いんだよ。
……まあ、だからってワープの多用は厳禁だけどね」
「なんで?」
「エネルギーが尽きて、疲れちゃうから。ゲーム的に言うなら、MP切れって感じ。それに、零はそもそも燃費があんまり良くない。その事は、覚えておいて」
「分かった」
零は素直に頷いた。自分が燃費が悪い存在であることを、深くその胸に刻みつけた。
少しして、希空が再び口を開いた。
「───さて、と。他に何か聞きたい?」
少し考える素振りを見せた後、零が答えた。
「……そうだ、他には何か出来るの?」
「そう言うと思った。もちろん、まだまだあるよ!
……ただ、そのためには、タキオンドライヴの出力を上げなきゃだけどね」
「そっか、そこで……」
現在自分がやっている訓練の重要性に気づいた零。モチベーションがみるみるうちに上がってきた。
そこに希空が、ダメ押しの一手を打った。
「一つだけ、一瞬なら今でも出来るだろうものがあるよ」
「えっ?」
「“タキオンウォール”……私はそう呼んでる。文字通り、タキオン粒子で作る“防壁”だよ」
「タキオンウォール……」
「やってみよっか!」
「でもどうやって?」
いきなり言われても出来ない、そう思った零だったが……彼はもう『タキオンウォール』を展開済みだった。より正確に言えば、本能的に展開出来るようにされていた。タキオンウォールは、タキオンドライヴの稼働に必須の技術だからだ。
「零、タキオンドライヴに意識を集中させて。そこに、何か防護フィールドが展開されている事に気づかない?」
「…………ある。何かある」
「それがタキオンウォール。今展開しているのは、タキオンドライヴの発する放射線から外部を保護するため。別に零自身は放射線に完璧な耐性があるけど、零が常時放射線を垂れ流しながら動き回ったらヤバいことになるからね……」
「ああ……確かに……。
───それで、この感覚を覚えろってこと?」
「そう。その感覚のまま、身体の表面に展開するイメージをして。ただ今はまだ出力が足りないから、1ヶ所に集中展開するイメージで行こう。
そうね、左手とか良いんじゃないかな?」
「左手、分かった。ふん……っ」
タキオンドライヴから感じ取った感覚を頼りに、零は体内を流れるタキオン粒子を一点に集めていく。難しかったが、タキオン粒子の制御そのものはワープの経験が役立った。
そして───
「うわぁ!」
零の左手前方を、青白いフィールドが覆った。いきなり出現したので思わず声を上げてしまった。
「あっ出た!それがタキオンウォール!よく出来たね、零」
「おお……!」
希空の声を聞きつつ、その青白い輝きに目を輝かせる零。だが、希空が言った通り出力不足なため、少ししたら消失してしまった。
それでも、零のモチベーションを最高潮に固定するには充分だった。
「お姉ちゃん!もっと出力上げられたら、もっと上手く使える?」
「もちろん!今は左手だけだったけど、全身に展開したり、もっと濃密に集中展開したりする事ができるよ!」
「他にはある?防御として使えるのは分かったけど……この感じ、攻撃にも使えるでしょ?
タキオンウォールを纏ってパンチ!……とか!」
「そうだね、肉弾戦の補助としても使えるね!でも、
───攻撃って事なら、もっと直接的な技術があるよ」
そう言って希空は、零の右腕を握って前方に構えさせた。
「こうして構えて、ビームを放つ事だって出来る……。エネルギーを陽電子に変換するの」
「へぇ〜」
「……そして、もう一つ」
希空は、珍しく少し真剣な顔になった。
「ありったけのタキオン粒子を掌に収束させて、
“爆縮”して“放射”する───。
そんな、文字通りの『必殺技』も、あるよ」
「なんか……凄そう!」
「うん、凄いよ。……本当に、凄い」
『必殺技』という響きに身を躍らせる零と、噛みしめるように呟く希空。
この『必殺技』の会得が、『タキオンドライヴ制御訓練月間』の最終目標になるだろう事は、零の様子を見ていれば明白だった。
訓練は、まだまだ始まったばかりだった。
続く
あ と が き
タキオンドライヴ系は、オマージュ元から設定面もそのまま引っ張って来てます。
零の強さへの説得力にはもってこい。
親がオリジナルシリーズのリアタイ世代。
それ故に幼少期に『英才教育』を受けて以降、大好きな作品。
リメイクシリーズも大好きです。あの濃密さが癖になるし、良い感じに日常に余白があるのが、妄想の余地があってありがたい。
本作完結後の零を転移させた妄想が捗る。
元が群像劇だからオリキャラを入れる余地もあるし。
私の大好きなキャラクターかつ、零とも設定面で相性が良い、洋上艦艇マニアのあの子をヒロインに設定しているせいで、表に出すと一部から怒られそうだけど。
要望があればすぐにでも公開しますし、
どっちにしろ、いずれ公開するつもりではあります。
目次ページまでは作成済みです。
(notクロスオーバー。
本作の世界観はオリジナル、
零周りの設定はむしろこっちオマージュであり、
ぶっちゃけ艦これ関係なく成立するため。
元々、本作はオリジナル架空戦記に艦これ要素をぶち込んだような作品なので。なお製作経緯は真逆)
第六章公開まで、あと3週間。めっちゃ楽しみ。
次回 日常に迫る不穏な影