戦略的敗北は確実。
戦術的勝利かも怪しい。
だが、完敗ではない。
2014年5月末 横須賀
呉襲撃事件から数週間が経ち、横須賀には損傷した艦艇と、修理を終えた艦娘たちが集まりつつあった。
呉軍港は機能の多くを失い、呉鎮守府もまた指揮中枢としての役割を大きく損なっている。
その穴を埋めるように、国防海軍の一部機能は横須賀へ移され、第二艦隊や太平洋方面警備艦隊の残存艦艇もまた、横須賀を一時的な拠点としていた。
艦娘母艦「建御名方」。
その艦内にある第一特務艦隊司令官執務室には、六人が集まっていた。
神崎洋平。
神崎海斗。
神崎美香。
“出雲”。
“磐手”。
そして、“鳳翔”。
第一特務艦隊と第二特務艦隊。
その両方に深く関わる中核メンバーである。
部屋は広い。
だが、空気は重かった。
机の上には、呉襲撃事件に関する報告書が積まれている。
第二艦隊の損害。
警備艦隊の損害。
呉軍港の施設被害。
陸軍防衛線の記録。
江田島方面の戦闘記録。
そして、呉市街地への侵攻が辛うじて阻止されたことを示す報告。
そのどれもが、勝利という言葉からは遠かった。
窓の外には、やや慌ただしい軍港が見える。
静かな海面。
停泊する艦艇。
甲板上を動く等身大の妖精たち。
修理資材を運ぶ小型艇。
平時なら、そこには国防海軍の誇るべき姿があったのかもしれない。
だが今は、ただ傷を隠しきれない姿に見えた。
洋平は、椅子に座ったまま、机の上の報告書を見ていた。
「……まず確認しておく」
低い声だった。
「出雲、磐手。身体は本当に問題ないんだな」
“出雲”は軽く肩を回してみせた。
「動く。戦闘にも支障ない」
“磐手”も静かに頷く。
「関節、筋組織、艤装接続部、どれも修理完了。通常行動に支障はないよ」
「通常行動、か」
海斗が眉を寄せる。
「戦闘行動では?」
“磐手”は一拍置いた。
「戦える」
それは答えになっているようで、なっていなかった。
美香が小さく息を吐く。
「二人とも、見た目はもう怪我なんてなさそうなのに」
“出雲”は自分の手を見た。
「記憶再現式のおかげ」
「新陳代謝式のままなら、きっとまだドックから出られてなかったね」
“磐手”が続ける。
艦娘の修理方式は、少しずつ変わりつつあった。
初期に想定された外科手術式は、艦娘の身体を人間の身体と同じように扱い、損傷箇所を直接修復するものだった。
対応範囲は広い。
欠損にも重篤な損傷にも対処できる。
だが、コストがあまりにも高かった。
資材。
妖精の負担。
医療設備。
専用機材。
時間。
戦闘のたびに運用するには、限界があった。
その代わりに主流となったのが、新陳代謝式である。
人間が当たり前に持っている新陳代謝のように、損傷部位を修復していく方式。
軽傷から中等度の損傷には非常に有効で、運用コストも下げられた。
だが、欠損には無力。
失われたものを完全に戻すことは不可能だった。
そして今、導入が進んでいるのが記憶再現式だった。
艦娘自身が持つ肉体の記憶。
艤装の構造情報。
魂に刻まれた艦としての自己像。
それらをもとに、損傷した身体を“望んだ状態”へ再現する。
希空がタキオンドライヴの副産物として生み出したそれは、もはや単なる治癒ではなかった。
“出雲”は指を握り、開いた。
「望んだ通りに治ってる。痛みも消えたし、損傷も残ってない」
“磐手”が頷く。
「腕だって生えてきたもん。でも、無かったことになったわけじゃない」
「……それは、そうですね」
“鳳翔”が静かに言った。
彼女は今回、淡路島付近での戦闘中、ほとんどの時間を「建御名方」の甲板上で過ごしていた。
航空隊を飛ばし、戦況を見続け、上空と海上の両方を支えた。
だが、直接“戦艦棲姫”と斬り結んだわけではない。
“出雲”と“磐手”は違う。
二人は、“戦艦棲姫”と正面から対峙した。
その身体に今は傷がなくとも、経験まで消えたわけではない。
洋平は報告書を閉じた。
「では、聞かせてくれ。正面から相対した“戦艦棲姫”は、どうだった」
その名が出た瞬間、室内の空気がさらに沈んだ。
“戦艦棲姫”。
淡路島付近から紀伊水道方面において、第二艦隊を押し返し、特務艦隊を釘付けにした上位個体。
第一世代艦娘の中でも最高戦力に近い“出雲”と“磐手”。
航空隊を統率する“鳳翔”。
艦娘母艦「建御雷」「建御名方」。
国防海軍の水上戦力。
国防空軍の航空支援。
それらを投入してなお、撃沈には届かなかった相手である。
“出雲”は、少しだけ目を伏せた。
「強い」
短い言葉だった。
だが、その一言に全てが詰まっていた。
「ただ硬いだけじゃない。速い。重い。砲撃も、格闘も、反応も、どれも既存の想定を超えていた」
“磐手”が引き継ぐ。
「損傷は与えたよ。そこは間違いない。可動部、接合部、副砲基部、装甲の継ぎ目。狙える箇所は狙った。実際に、動きが鈍った瞬間もあった」
「だが、沈められなかった」
洋平が言う。
“磐手”は頷いた。
「うん。有効だった。でも致命じゃなかった。沈めるには全然足りなかった」
“出雲”は、拳を握った。
「私は止めた。磐手と、鳳翔の航空隊と、艦隊の支援で、あいつの進撃を止めることはできた」
そこまで言って、彼女は唇を噛む。
「でも、倒せなかった」
その言葉は、ただの戦術評価ではなかった。
“出雲”にとって、それは敗北の告白に近い。
彼女は第一世代艦娘である。
しかも、その中でも最古参、強大な巡洋艦艦娘として特務艦隊を支えてきた存在だ。
艦娘関係者にとっては、艦娘という存在そのものの象徴でもあった。
数年前には大規模改装も行われ、さらなる力を手に入れていた。
その“出雲”であっても、やはり上位個体を倒せなかった。
その事実は重い。
“鳳翔”が静かに言った。
「“戦艦棲姫”は、こちらを全滅させることよりも、戦線を拘束することを優先していたように見えました」
「本気ではなかった、ということか?」
海斗が問う。
“鳳翔”は首を横に振った。
「いえ。本気ではありました。ただ、目的が違ったのだと思います。あの場で私たちを全て沈めることより、特務艦隊と第二艦隊を動けなくすることを優先していた」
“磐手”が続ける。
「その間に、呉方面の新型上位個体が進撃していた。きっと、そういう作戦だったんだよ」
新型上位個体。
まだ、その正式な呼称は艦娘側には分かっていない。
深海棲艦側が何と呼んでいるのかも不明だった。
ただ分かっているのは、呉へ上陸し、国防陸軍の防衛線を突破し、未艤装の第二世代艦娘たちを追い詰めた上位個体が存在したということ。
そして、それを零が撃沈したということだった。
美香の指が、膝の上で小さく震えた。
海斗はそれを見て、何も言わずに視線を机へ落とす。
洋平は、報告書の別紙を手に取った。
「呉方面の新型上位個体。推定重巡級。詳細不明。上陸後、陸軍防衛線を突破。呉軍港を壊滅状態へ追い込み、第二世代初期個体を追撃」
紙をめくる音が、やけに大きく響いた。
「その後、艦娘技術研究所から投入されたJK-2-X-00 零により撃沈」
誰も、すぐには言葉を発しなかった。
零。
その名は、この部屋にいる全員にとって、ただの戦力名ではない。
海斗と美香にとっては、息子。
洋平にとっては、甥であり、同時に国防の未来を左右する存在。
“出雲”や“磐手”にとっては、後輩であり、まだ幼い子供。
“鳳翔”にとっては、守るべき少年。
だが、呉で彼は上位個体を撃沈した。
人類が開戦以来、一度も成し得なかったことを成し遂げた。
海斗が、低く言った。
「勝ったんだな」
「勝った」
洋平は答える。
「呉市街地への侵攻は阻止された。西日本方面への侵攻路も開かれなかった。新型上位個体も撃沈された」
「なら、喜ぶべきなんだろうな」
海斗の声には、苦みがあった。
「父親でなければ、そう言えたかもしれない」
美香が小さく言った。
「私は、勝ったことより……生きて帰ってきたことの方が大事だった」
その言葉に、誰も反論しなかった。
美香は続ける。
「すごいとか、歴史的な戦果とか、そういうことは分かる。でも、私にはまず、あの子が帰ってきたことしか考えられなかった」
“鳳翔”は目を伏せる。
「当然です」
“出雲”も静かに頷いた。
洋平は、深く息を吐いた。
「俺は、救援要請を送った」
全員の視線が洋平へ向く。
「文面には書かなかった。だが、誰を呼ぶことになるかは分かっていた。即応可能な対上位個体戦力。そんなものは、今の日本に一つしかない」
零。
それ以外にはいなかった。
「俺が、あの子を戦場へ呼んだ」
「洋平」
美香が声を上げかける。
だが、洋平は首を横に振った。
「別に言い訳をする気もない。ただ、事実だ」
洋平の声は、疲れていた。
「俺たちは“戦艦棲姫”に釘付けにされていた。呉へ回せる戦力はなかった。陸軍は限界だった。警備艦隊も壊滅していた。あのままなら、呉市街地に侵攻されていた」
その場にいる誰もが、それを理解している。
零を呼ばなければ、もっと多くが死んでいた。
“阿武隈”たちは助からなかった。
呉市街地も、さらに大きな被害を受けていたかもしれない。
だから、判断としては正しい。
だが、正しいことと、苦しくないことは違う。
“鳳翔”が、ゆっくりと口を開いた。
「零は、希望です。それは否定できません」
その言葉に、美香の肩がわずかに揺れた。
“鳳翔”は続ける。
「呉で、現場にいた方々はそれを知りました。まだ公にはできなくても、少なくとも私たちは知ってしまった。上位個体を撃沈できる存在がいる。その事実は、これからの戦いを変えるでしょう」
「でも」
“磐手”が静かに言う。
「希望という言葉は、扱い方を間違えたら、鎖になっちゃう」
“鳳翔”は頷いた。
「はい」
彼女は洋平を見る。
海斗を見る。
美香を見る。
そして、静かに言った。
「零を、希望という言葉で戦場へ送り出すことを、当たり前にしてはいけません」
室内に沈黙が落ちた。
それは、この場にいる全員が思っていたことだった。
零は強い。
上位個体を撃沈した。
人類にとって初めての切り札と言っていい。
だが、零はまだ四歳にも満たない。
どれほど強くても。
どれほど兵器として優れていても。
どれほど本人が行くと言っても。
それを当たり前にしてはいけない。
海斗が、拳を握った。
「あいつは、自分で行くと言ったんだろう」
洋平は頷く。
「そう聞いている」
「なら、止めても行っただろうな」
「おそらくな」
海斗は目を閉じた。
「希空が言っていた通りだな。守りたいと思ったら、止まらない」
美香が小さく言う。
「それを、良いことみたいに言わないで」
海斗は言葉を詰まらせる。
美香の声は責めているようで、責めていなかった。
ただ、母親としての痛みがそこにあった。
「零は優しい子だよ。誰かを守りたいって思える子。でも、それは、あの子を何度でも戦場に立たせていい理由にはならない」
「分かってる」
海斗は低く答えた。
「分かってるんだ」
分かっているからこそ、苦しい。
“出雲”は、静かに視線を落とした。
「私たちが倒せていれば」
その一言に、“磐手”が反応する。
「出雲」
「分かってる。言っても仕方がないこと」
“出雲”は唇を噛む。
「それでも思う。私たちが“戦艦棲姫”を押し返せていれば、呉へ向かえた。新型上位個体を止められたかもしれない。零を出さずに済んだかもしれない」
“磐手”はしばらく沈黙した。
そして言った。
「私たちだけでは、きっと無理だったよ」
冷静な言葉だった。
だが、その冷静さが痛かった。
「損傷は与えられても、撃沈には届かない。足止めならできる。撤退を誘発することも、状況次第ではできるかもしれないよ。でも、単独で上位個体を撃沈するには、第一世代の出力では足りない」
“出雲”は目を閉じる。
「分かってる」
“鳳翔”は、窓の外へ視線を向けた。
「第一世代艦娘は、人類にとって初めて深海棲艦へ対抗できる力でした。私たちは、ずっとその役目を担ってきました」
静かな声だった。
「ですが、敵も変わっています。上位個体の脅威は、既に私たちだけで抑えきれる段階を越えつつあるのかもしれません」
それは、数年前から分かっていて。
対策も取っていて。
それでも、今は。
今はまだ。
誰もが声に出して言いたくはなかった結論だった。
第一世代艦娘の限界。
“出雲”や“磐手”のような強力な艦娘でさえ、上位個体を倒せない。
“鳳翔”が航空隊を指揮し、艦隊と連携しても、撃沈には届かない。
だからこそ、人類は次の力を必要とした。
第二世代艦娘。
そして、零。
洋平は机に手を置いた。
「第二世代艦娘は、もうすでに重要な戦力になりつつある」
美香が顔を上げる。
「それは、零をもっと戦わせるということ?」
「違う」
洋平は即答した。
「少なくとも、今はまだそうであってはならない」
彼は報告書を閉じた。
「零一人に頼る体制を今やれば、確実に破綻する。戦術的にも、倫理的にもだ。必要なのは、零を切り札として抱え込むことじゃない。零だけが戦わなくて済む戦力を育てることだ」
“鳳翔”が静かに頷く。
「阿武隈たちですね」
「それだけじゃない」
洋平は言う。
「後続の第二世代。第一世代との連携。艦隊運用の再構築。全てだ」
“磐手”が頷いた。
「第一世代はいらない子、という話じゃないね」
「当然だ」
洋平は即座に返す。
「第一世代の経験がなければ、第二世代は戦えない。出雲、磐手、鳳翔。みんなが積み上げたものがなければ、あの子たちはただの高性能な身体でしかない」
“出雲”は、少しだけ目を開いた。
洋平の言葉は、慰めではなかった。
戦力評価としての事実だった。
“鳳翔”が言う。
「では、私たちは、今以上にあの子たちを育てる側に回るのですね」
“鳳翔”はそこまで言って、まだ建造されてから間もない“龍驤”や“赤城”の姿を思い浮かべるように、わずかに目を細めた。
「戦うことも続けてもらう」
洋平は苦笑に近い表情を浮かべた。
「今の状況で、第一世代を後方へ下げる余裕はない」
“鳳翔”は柔らかく微笑んだ。
「承知しています」
その微笑みは穏やかだった。
だが、その奥にある覚悟は強い。
海斗が口を開いた。
「問題は、軍の上層部だ」
部屋の空気が再び重くなる。
国防軍上層部の相次ぐ辞任。
長年、艦娘運用体制を支えてきた重鎮たちの退場。
世論の変化。
艦娘への信頼の揺らぎ。
呉襲撃事件は、深海棲艦との戦いだけでは終わらなかった。
洋平は頷く。
「艦娘とその周辺を守る防壁は薄くなった。表向きは責任を取った形だが、実際には合法的な排除に近い」
“磐手”が目を細める。
「誰かが、それを狙っていたと?」
「断言はできない」
洋平は答える。
「だが、呉襲撃事件で得をした者はいる」
「加奈の周辺でも、不穏な動きがある。研究所からの報告では、偶然で済ませるにはあまりに出来すぎている」
海斗が顔を上げる。
「加奈に何かあったのか」
「本人は無事だ」
洋平はまずそう言った。
美香が息を吐く。
「ただし、大学での交友関係に関して、研究所側が調査を始めている。詳細はまだ来ていないが、秋吉は監視の可能性をかなり強く見ている」
海斗は奥歯を噛みしめた。
「呉だけじゃないということか」
「そうだ」
洋平は短く答える。
「戦場は海だけじゃない。世論や軍内部。そこも、もう戦場になっている」
その言葉に、誰も反論しなかった。
窓の外では、妖精たちが修理資材を運んでいる。
一見すると、いつもの横須賀だった。
だが、その奥で何かが変わり始めている。
“出雲”が静かに言った。
「だったら、私たちが支えなければならない」
洋平が彼女を見る。
“出雲”は続けた。
「第一世代の限界はもう見えた。でも、それは第一世代が不要になったという意味じゃない。私たちが前に立って、後ろにいる子たちへ道を作る。そういうことでしょ?」
“磐手”が頷く。
「上位個体を撃沈する火力は、零や第二世代が担うことになるかもね。でも、そこへ至るまでの戦線を維持する役目は、私たちに残る」
“鳳翔”も静かに言った。
「そして、あの子たちに人としての戦い方を教える役目も」
海斗は顔を上げた。
「人としての戦い方、か」
“鳳翔”は頷く。
「はい。敵を倒す力だけではなく、何を守るために戦うのか。どこで退くのか。誰かに頼ること。無理をしないこと。帰ってくること」
彼女の声は、少しだけ震えていた。
「それを教えなければ、零も、阿武隈さんたちも、産まれたばかりのあの子たちも、ただ強い兵器になってしまいます」
美香は、目を伏せた。
「兵器じゃないわ」
その声は小さかった。
だが、はっきりしていた。
「零は、兵器じゃない」
洋平は、その言葉を受け止めた。
「分かっている」
「分かっているだけじゃ駄目」
美香は洋平を見る。
「そう扱わないようにしないと、いつか周りがそう見る。希望とか、切り札とか、最強とか、そういう言葉で飾って、あの子を戦場へ出すのが当たり前になる」
洋平は何も言わなかった。
美香の言葉は、この場にいる全員へ向けられていた。
零を守りたい者たち。
零を必要としている者たち。
零の力を知ってしまった者たち。
その全員に向けられていた。
しばらく沈黙が続いた。
やがて、洋平が言った。
「だったら、決めておく」
全員が彼を見る。
「零を切り札として扱うことは避けられない。これは現実だ。だが、零を単独の解決手段として前提にした作戦は組まない。第二世代艦娘の建造は、零だけに依存しない戦力体系を作るために進める。今まで以上に加速させる」
洋平は一人ずつ見た。
「第一世代は、第二世代を導く。第二世代は、第一世代が届かなかった領域へ進む。どちらかがどちらかを置き換えるんじゃない。繋ぐんだ」
“出雲”が頷く。
“磐手”も。
“鳳翔”も。
海斗は目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
美香は、まだ不安そうだった。
それでも、わずかに頷いた。
洋平は最後に、窓の外を見た。
横須賀軍港の向こうに、夏の海が広がっている。
呉は燃えた。
多くの者が死んだ。
小林と田村も帰らなかった。
第一世代艦娘の限界も想定より早く露わになった。
零は上位個体を撃沈し、人類に新しい希望を見せた。
だが、その希望はあまりにも幼い。
守らなければならない。
育てなければならない。
そして、いずれ頼ることになるのは避けられない。
その矛盾を抱えたまま、彼らは次の戦いへ進まなければならなかった。
洋平は静かに言った。
「呉で、俺たちは数々のものを失った」
誰も口を挟まない。
「だが、まだ全てを失ったわけではない」
彼は机の上の報告書に手を置いた。
「次は、失わないための戦いだ」
その言葉に、“鳳翔”が静かに頭を下げた。
“出雲”と“磐手”も続く。
海斗は窓の外を見たまま、拳を握る。
美香は、その拳にそっと手を重ねた。
横須賀軍港の海は、静かだった。
だが、その静けさの下で、既に次の戦いは始まっていた。
彼らの思いをあざ笑うかのように、その牙を研いでいた。
あ と が き
第二世代艦娘は裏で着々と建造されています。
次回 喪失と“形見”