自我持つ兵器の英雄譚   作:Nyappy-

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最後の切り札。



56. Over Drive

 

遠ざかっていく「建御雷」を、“出雲”は一度だけ振り返った。

 

傷付いた巨艦が、残存する艦娘達を抱えながら戦場を離れていく。その傍には“磐手”の姿もある。

 

まだ、遠くない。

 

水平線の向こうへ逃げ切れるほどの距離は稼げていなかった。今ここで追撃を許せば、先程までと同じことが、今度は負傷者を大量に抱えた状態で繰り返される。

 

 

逃げ場は無い。

 

───ならば、ここで止める。

 

 

敵を倒す必要はない。

 

一体でも多く沈める必要もない。

 

ただ、自分を無視出来ないようにし続ければいい。

 

 

「……来なさい」

 

返事を期待した言葉ではなかった。

 

“出雲”は主砲を向け、最も近くにいた“駆逐棲姫”へ発砲する。轟音と共に放たれた砲弾は海面すれすれを走り、“駆逐棲姫”が横へ跳ぶように回避した直後、その背後へ着弾して巨大な水柱を立ち上げた。

 

当たらなくても構わない。

 

追撃へ移ろうとしていた相手の進路が、それだけで変わった。

 

別方向から、今度は“軽巡棲鬼”が迫る。艤装を振り向けている暇は無く、“出雲”は海面を蹴って横へ滑るように加速した。

 

直後、先程までいた場所へ砲弾が突き刺さり、爆発と共に巻き上げられた海水が視界を白く覆う。

 

“出雲”はその水柱を盾にしながら主砲を旋回させ、向こう側から飛び出してきた“軽巡棲鬼”を捉えた。

 

発砲。今度は近い。

 

“軽巡棲鬼”も身体を捻って回避を強いられ、その間に“出雲”はさらに前へ出る。

 

敵と「建御雷」の間へ、一歩でも、一海里でも、自分がここにいる限り、向こうへは行かせない。

 

 

「邪魔」

 

聞き覚えのない声が飛んできた。

 

ほぼ同時に、別方向から砲火が走る。

 

「っ!」

 

避け切れなかった。

 

右側の艤装へ衝撃が叩き込まれ、装甲板が弾け飛ぶ。

 

身体ごと横へ持っていかれながらも、“出雲”は海面へ倒れ込む寸前で踏み止まり、水を大きく抉りながら強引に姿勢を戻した。

 

顔を上げる。そこには、見覚えのある黒い砲口があった。

 

“重巡棲姫”。

 

「シツコイナァ……」

 

「そりゃどうも……!」

 

放たれた砲弾を寸前でかわし、“出雲”も即座に撃ち返す。“重巡棲姫”はそれを避け、互いの砲撃は決着を生まないまま、海面だけを荒らしていく。

 

───でも、それでいい。

 

敵が自分へ砲を向けている。

 

向けられている時間の分だけ、「建御雷」は遠ざかる。

 

 

だが、一体へ意識を向けている間にも、別の攻撃は容赦なく飛んできた。上空からは“空母棲姫”の航空隊、正面には“駆逐棲姫”、左右からは軽巡級の姫と鬼、さらにその奥では、“水母棲姫”と“水母水姫”までもが射線を作っている。

 

一体の動きを読んだところで、その外から別の攻撃が差し込まれる。回避先を読めば、そこには別の敵がいる。

 

先程まで第二特務艦隊全体が味わっていた地獄を、今度は“出雲”一人が引き受けていた。

 

航空攻撃を避けながら“駆逐棲姫”へ応射する。その動きを待っていたように、“軽巡棲姫”が横から突っ込んできた。

 

避ける。……だが、間に合わない。

 

脇腹へ衝撃が走った。

 

装甲が裂け、艤装の一部が黒煙を噴きながら海面へ落ち、そのまま沈んでいく。

 

「っ……!」

 

それでも“出雲”は踏み止まった。そのまま接近してきた“軽巡棲姫”へ、主砲を突き付けるように向ける。

 

至近距離───発砲。

 

「───ッ!」

 

“軽巡棲姫”が咄嗟に身を翻す。直撃こそ免れたものの、至近で炸裂した砲弾の爆風に煽られ、海面を大きく滑っていった。

 

 

一瞬だけ、正面が開く。

 

その向こうにいたのは、“戦艦棲姫”だった。

 

「…………」

 

こちらを見ている。

 

攻撃へ加わっていないわけではない。時折放たれる重い砲撃は、一発ごとに他の上位個体とは明らかに違う圧力を持っていた。

 

避けたはずなのに至近弾だけで身体を揺さぶられ、着弾した海面そのものが吹き飛ぶ。

 

それでも、本気ではない。

 

理屈ではなかった。だが、何度もあの存在と戦ってきた“出雲”には、何となく分かってしまう。

 

こちらは既に全力だというのに、あちらにはまだ余裕がある。

 

「……随分と、舐められたものね」

 

返事は無い。

 

“戦艦棲姫”は、ただ静かにこちらを見ていた。その態度が妙に腹立たしかったが、同時に、今だけはありがたくもあった。

 

本気でないのなら、その分だけ時間を稼げる。

 

 

“出雲”は一瞬だけ視線を外し、「建御雷」の姿を確認した。

 

離れている。

 

確実に遠ざかっている。

 

だが、まだ足りない。今すぐ追撃へ移られれば、いずれ追い付かれる。

 

 

ならば、まだ倒れるわけにはいかなかった。

 

 

 


 

 

 

戦いがどれほど続いたのか。

 

数分だったのか、それより短かったのか。

 

それすらも“出雲”にはもう分からなかった。

 

 

砲撃をかわすたび、身体が重くなる。

 

右側の艤装は大きく損傷し、左側も無傷ではない。装甲は何ヶ所も裂け、傷口からは血液だけではなく、艦娘特有の赤黒い油まで滲み始めている。

 

機関も苦しかった。出力を上げるたび、身体の奥から熱が押し寄せる。

 

それでも止まれない。

 

敵の一体が南へ向こうとすれば撃ち、別の一体が追撃経路へ出ようとすれば、その前へ割り込む。

 

自分へ攻撃が戻れば、それでいい。

 

「コイツ……」

 

“駆逐棲姫”が、明らかに苛立った様子でこちらを見る。

 

その顔を見て、“出雲”は荒い呼吸のまま僅かに笑った。

 

「そう……それでいいのよ」

 

放っておけないと思わせる。邪魔だと思わせる。先にこいつを何とかしなければならないと、そう思わせ続ける。

 

それこそが、今の自分に出来る戦いだった。

 

 

再び砲撃が飛ぶ。

 

“出雲”は回避しようとしたが、脚が僅かに遅れた。

 

直撃ではない。それでも至近弾の衝撃だけで身体を叩かれ、海面へ片膝をつかされる。

 

「……っ」

 

───立て!

 

そう自分へ言い聞かせるより早く、腕へ力を込めて身体を起こした。まだ、「建御雷」は逃げ切っていない。

 

「……まだ……!」

 

今度は上空から航空攻撃が降り注ぐ。

 

爆発が連続し、視界が揺れた。

 

耳鳴りの中、艤装の何かが千切れて飛んでいく。何が壊れたのかを確認する余裕すらない。

 

それでも、主砲は残っている。まだ撃てる。

 

発砲。

 

砲弾が追撃へ移りかけていた敵の足元へ落ち、巨大な水柱を上げる。相手が再びこちらへ振り向いた。

 

───成功だ。それでいい。

 

けれど、限界が近いことくらい、“出雲”自身が一番よく分かっていた。

 

このままでは足りない。

 

あと少し、あと少しだけでいい。

 

「建御雷」が確実に逃げられるところまで。“磐手”が、海斗が、美香が、あそこに乗っている皆が帰れるところまで。

 

 

また砲弾が飛んでくる。

 

“出雲”は辛うじてかわしながら、その一瞬だけ、戦場とは違う景色を思い出した。

 

 

家族と過ごした日々。

 

まだ何も知らなかった頃。

 

艦娘となり、戦い始めた頃。

 

何度も傷付き、何度も壊れ、その度に修理されて、また海へ戻った。

 

 

気付けば、随分長いこと戦っている。

 

 

 

そして───秋吉。

 

以前、彼から聞いたことがあった。

 

艦娘の機関には、安全のために設定された限界がある。

 

当然だ。どんな機械にも限界はある。

 

だが、安全限界というものは、それ以上の出力を物理的に絶対出せない地点とは限らない。

 

壊さないため。

 

乗っている者を殺さないため。

 

そして何より、戦場から生きて帰ってくるため。

 

そのために、そこに線を引いているだけだ。

 

逆に言えば、その線を越えること自体は出来る。安全装置を殺し、機関へ本来許されていない負荷を掛け、その先にある出力を無理矢理引きずり出す。

 

当然、代償はある。

 

機関や艤装が壊れる。自分自身も、ただでは済まない。

 

秋吉が話してくれたのも、「使え」と言うためではなかった。「最後の最後、他に何も残っていない時に、理屈の上ではこんなことも出来る」……ただそれだけの話だった。

 

 

───なら。

 

帰ってくることを考えなければ、まだ上げられる。

 

 

「……は」

 

自分で考えておきながら、馬鹿みたいだと思った。

 

“磐手”が聞けば、間違いなく怒る。秋吉だって、今の自分を見れば止めるだろう。

 

それでも「建御雷」は、水平線上にまだ小さく見えている。

 

 

あと少し。

 

本当に、もう少しだけ。

 

 

「……仕方ない、か」

 

“出雲”は小さく息を吐いた。

 

そして、身体の奥、自分を動かし続けてきた機関へ意識を向ける。

 

艤装内部で働いていた妖精達が、一瞬だけ動きを止めた。何をしようとしているのか、彼女達にも分かったのだろう。

 

“出雲”は、そんな小さな仲間達へ僅かに笑った。

 

 

「───ごめんね」

 

 

妖精達は何も言わなかった。

 

ただ、次の瞬間には全員が一斉に持ち場へ散った。

 

燃料が送られる。どう見ても、いつもの量ではない。

 

石炭が次々とボイラーへ叩き込まれ、火床が一気に赤く染まる。送風が強められ、燃焼が激しくなり、蒸気圧が上昇していく。

 

 

圧力計の針が安全域の端へ近付き、そして……越えた。

 

それでも止めない。

 

本来なら開くはずの安全弁を封じ、自動制御が出力を落とそうとするのも切る。

 

さらに燃料を入れると、針が跳ね上がった。

 

艤装の奥から、低い唸りが聞こえ始める。それは次第に、軋みとも轟音ともつかない音へ変わっていった。

 

 

身体が熱い。

 

いや、熱いなどというものではない。

 

機関から無理矢理引きずり出された出力が艦娘としての身体へ流れ込み、筋肉も、神経も、骨も、その異常な出力へ強制的に付き合わされていく。

 

視界が変わった。音も変わった。

 

───身体が軽い。

 

 

敵がこちらを見る。

 

「何かが変わった」……そう気付いたのだろう。

 

“出雲”は顔を上げた。

 

そして───

 

 

「オーバー……」

 

 

「───ドライブッ!!」

 

 

その叫びに呼応するかのように機関が吠える。

 

足元の海面が、爆発したかのように弾け飛んだ。

 

 

 

『ジェネレーター・オーバードライブ』

 

略して───GOD。

 

機関に定められた安全限界を意図的に踏み越え、その先にある出力を強引に引き出す、艦娘にとって最後の最後の切り札。

 

それが今、初めて戦場で解き放たれた。

 

 

 


 

 

 

“出雲”が消える。

 

少なくとも、“駆逐棲姫”にはそう見えた。

 

「ッ!?」

 

次の瞬間、“出雲”はその懐へ潜り込んでいた。

 

主砲が火を噴く。

 

至近距離で爆炎が膨れ上がり、“駆逐棲姫”の身体が海面を跳ねるように弾き飛ばされた。

 

だが、“出雲”はもう次を見ている。

 

“軽巡棲鬼”が砲口を向ける。

 

───遅い。

 

発砲されるより先に射線から抜け、横へ回り込み、そのまま撃つ。

 

「───!」

 

相手が直撃寸前で回避する。

 

 

これまでとは違う。

 

避けさせるために撃ったのではない。避けなければ当たる攻撃を、こちらから押し付けている。

 

 

「ナ───」

 

“軽巡棲姫”が動く。砲口が光る。

 

だが、“出雲”は既にそこにいない。

 

砲弾の間を抜ける。

 

先程までは、避けるだけで精一杯だった。

 

だが今は、見える。

 

砲口、視線、肩の動き、重心。

 

攻撃へ移る直前に生じる僅かな予備動作まで、何もかもが遅く見える。

 

 

加速、反転、発砲、再加速。

 

“出雲”は海面へ長い白線を刻みながら、複数の姫・鬼級の間を駆け抜けていく。

 

 

「何、コイツ……!」

 

驚いた声が聞こえた。

 

誰の声なのか知らない。名前なぞどうでもいい。

 

全員が、今はこちらを見ている。

 

「そうよ……!」

 

砲弾が飛ぶ。

 

“出雲”はただ避けるのではなく、その射線上へ別の上位個体を挟むように滑り込み、着弾寸前で進路を変えた。

 

背後で爆発し、敵同士の位置が崩れる。

 

そこへ踏み込む。

 

「私を見てなさい!」

 

主砲が再び火を噴いた。

 

 

一方的だった戦場が、

 

ほんの短い間だけ、確かにひっくり返った。

 

 

 


 

 

 

“出雲”が速い。

 

先程までとは、比べものにならない。

 

敵が狙いを定める頃には別の場所へ移っている。撃とうとすれば懐へ入り、距離を取れば、今度はこちらの砲撃が追う。

 

当然、撃沈には至らない。

 

相手は上位個体だ。姫や鬼と呼ばれる化物達は、そこまで脆くない。

 

それでも、一瞬では止められない。

 

“重巡棲姫”の砲撃が飛ぶ。

 

“出雲”は、その射線へ正面から飛び込むように加速した。

 

「!?」

 

発砲の瞬間、進路を変更する。

 

砲弾が髪のすぐ横を通り抜け、そのまま距離を詰めた。

 

「さっきのお返し!」

 

主砲の一撃。

 

爆発に押され、“重巡棲姫”が後退する。

 

上空から航空機が降下してくればかわし、反転しながら撃ち返す。そのまま海面へ戻り、“水母棲姫”の横を抜けざまに砲撃を叩き込む。

 

追撃へ移ろうとしたところへ別方向から砲撃が飛んでくる。

 

それすら抜ける。

 

 

 

“出雲”は笑っていた。

 

苦しい。痛い。

 

身体は既に悲鳴を上げている。

 

それでも、先程までとは違う。

 

まだ、時間を稼げる。

 

視界の隅で、「建御雷」が水平線に消えていく。

 

もっと。もう少し。

 

「行って……」

 

誰にも届かない声が漏れた。

 

「そのまま……行って……!」

 

 

“磐手”。

 

戻ってくるな、絶対に。

 

……今度こそ、守らせて。

 

 

少女と「出雲」の思いは、一つだった。

 

 

 


 

 

 

異変は、すぐに始まった。

 

最初に壊れたのは、既に損傷していた右側艤装だった。限界を越えた機関出力へ耐え切れず、内部から鈍い破裂音が響く。

 

「っ……!」

 

それでも速度は落とさない。

 

続いて配管が破裂した。高圧蒸気が噴き出し、艤装内部から白煙が立ち上る。

 

妖精達が走る。

 

損傷系統を切り離し、応急処置を施し、別の経路へ繋ぎ直す。だが、直した傍から、また別の箇所が壊れていく。

 

 

……当然だった。

 

別に“出雲”が強くなったわけではない。

 

古い身体、古い艤装、古い機関。

 

そこから、本来なら決して出してはいけない出力を、無理矢理引きずり出しているだけなのだから。

 

身体も、艤装も、何もかもが今の出力についていけない。

 

 

それでも、

 

「まだ……!」

 

加速しつつ射撃。

 

敵弾を躱して、また発砲。

 

しかし、少しずつ、本当に少しずつ、動きが遅れ始めた。

 

先程なら完全に抜けられた砲撃が艤装を掠める。次の一発は避け切れず、装甲を吹き飛ばした。

 

「ぐっ……!」

 

血が飛ぶ。

 

赤黒い油が混じる。

 

それでも、“出雲”は砲を撃ちながら「建御雷」の去った方向を見る。

 

……もう見えない。

 

少なくとも、今から追撃へ移ったとしても、すぐには追い付かれないところまで行った。

 

 

「…………」

 

“出雲”の口元が、僅かに緩んだ。

 

「……よし」

 

目的は達成した。

 

そう理解した瞬間、ほんの少しだけ、身体から力が抜けた。

 

 

 

───その時だった。

 

背筋を、冷たいものが走った。

 

“出雲”が顔を上げる。

 

 

前方。

 

これまで、他の上位個体ほど積極的には前へ出てこなかった白い姿、“戦艦棲姫”がこちらを見ている。

 

「…………」

 

さっきまでとは、何かが違う。

 

笑ってはいない。怒ってもいない。

 

何も言わずに、主砲を向けている。

 

「……あ」

 

───避けろ。

 

身体がそう叫ぶ。

 

動け。

 

まだ動ける。

 

右へ……いや、左でもいい。

 

何処でもいいから、とにかくここから離れろ。

 

 

 

だが、脚が一瞬だけ遅れた。

 

 

光───衝撃。

 

 

何が起きたのか、分からなかった。

 

音が消え、視界が白く染まり、次には赤へ変わる。

 

身体の中央を、何か巨大なものに殴り抜かれたような感覚。

 

血が飛び、赤黒い油も混ざる。

 

艤装が砕ける。

 

つい先程まで吠えていた機関の音さえ、急速に遠ざかっていった。

 

オーバードライブが止まる。

 

 

「……いわ……て……」

 

 

声になったのか、それすら分からない。

 

ただ、遠く、もう見えないはずの「建御雷」を思い浮かべた。

 

 

逃げられた。多分、大丈夫。

 

……なら、いいか。

 

 

身体が海面へ倒れ込む。

 

 

 

……冷たい。

 

そう感じた次の瞬間、“出雲”は海の中にいた。

 

光が遠ざかっていく。

 

海面だけが上へ、上へと離れていく。

 

反対に、“出雲”の身体は暗い海中へ沈んでいった。

 

腕も、脚も、もう動かない。

 

音も、ほとんど聞こえない。

 

 

 

壊れた艤装から漏れ出した小さな泡だけが、“出雲”を置いていくように、次々と海面へ向かって昇っていった。

 

 

 


 

 

 

やがて、海上から砲声が消えた。

 

戦いは終わった。

 

“出雲”は沈んだ。

 

「建御雷」は既に遠い。

 

そこに残る理由を失った上位個体達も、一体、また一体と海域を離れていく。後詰めとして控えていた者達が戦うことも無かった。

 

静けさだけが戻ってくる。

 

 

 

暗い海の中、“出雲”は光の届かない方へゆっくりと沈み続けていた。

 

その傍を、何かが通り過ぎる。

 

大きくはない、細長い影。

 

一度、“出雲”の横を通り過ぎたそれは、少しして止まった。

 

やがて、戻ってくる。

 

 

 

暗い海中。

 

二つの目が、沈んでいく彼女をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

続く





あ と が き

最後の影は一体?


次回 姫と姫
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