このキヴォトスには変革が必要だ!だが、変革には犠牲が伴う!   作:王朝万歳

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正義の証明

 半分がポッキリと折れ、倒壊したタワー。

 

「速やかに、ここから退避しなければ」

 

 タワーの下敷きになった地面から、Keyは抜け出そうとしていた。悪運が強かったのか、うまい具合にタワーがクッションの役割を果たしKeyは軽症ですんでいた。

 

「今なら、都市の機能は停止しているはず」

 

 とはいえ、早く抜け出し、この混乱の内にここから逃げて、力を蓄えなければ。王女の説得も同時並行で進めて。しばらく、出ようともがいていると

 

「いい朝だな、Key」

 

 自分を埋めていたがれきがどけられ、今、最も会いたくない相手。自分たちを止めるために都市ごと破壊するといったイカレた手段をとった女が出迎えた。

 機械の自分にとって、夢は程遠いものだが、悪夢と言って差し支えない。

 

「運が悪いですね」

 

「そうだな。私は運がいい」

 

 痛む体に鞭打って、探したかいがあった。幸運にも私は奴の暴れる音を聞きつけ、その位置を補足することができた。

 

「AL-1Sの表層人格のデータはまだ、深層部に。その電極抜けば」

 

「今は停電中だ。関係ない。それに私はそんなことはどうでもいい!」

 

 Keyに繋がった電極を引き抜き、奴の体を取り押さえる。そして、フカメに連絡を入れ、迎えを頼む。

 少々待っていると、迎えは到着した。

 

「キイイイー! キイイイー!」

 

 フカメが寄越してきたワシ型の機械の足に掴まって、ケイを捕縛して連れ去る。

 とりあえず、ここから去らないと先生たちが来ちまうからな。

 ワシ型の機械は私たちをフカメ達の待つ小高い丘の上へと運んでいった。

 

「すばらしい! 威力だったろ! ノボリ!」

 

「雷帝の技術を生かしたんだったか、いいセンスだ」

 

 空に浮かんだ箱舟を粉砕した。銀の弾丸を放った超巨大砲台。その正体はレールガン。

 エンジニア部へのちょっとした対抗意識から、エネルギー弾ではなく、実弾を放つようにしている。

 

「この技術を応用すれば、隠密で! どこからでも超威力の一撃を放てるかもしれない!」

 

「まったく、夢が広がる話だ。だが、それは後日にゆっくり話そう」

 

 自分で発明して、実際に発明品の成果を確かめたことで、興奮ぎみのフカメを落ち着け。

 前へと振りかえる。そこには部員たちに捕縛を解かれていくケイがいる。捕縛を解き終わった部員たちは、私たちを円で囲む。

 

「その素体の体も実験に使いたい。あまり、壊さないでくれよー!」

 

「補償はしかねるな! なんせ、こいつは自己修復能力がある。壊れた後も発揮するのを祈っておいてくれ」

 

 円の外周に混ざったフカメからの頼みに善処すると伝え。私は手に持ったスーパー・ノヴァをKeyに寄越し、拳を構える。

 残念なことに、スーパー・ノヴァが重すぎて、これ以上載せると重量オーバーになりかけたので、パトリオットはタワーに置いてきた。まあ、元々、性に合わなかったので問題ない。

 

「今から、お前を殴ってスラップにしてやる!」

 

「くっ、野蛮な!」

 

 拳に電流を流し、アッパーをぶち込む。それをかわしたKeyは受け取ったレールガンのチャージを始める。

 こうして、戦いは始まった。

 

 私は拳で、Keyはレールガンで戦う。アドレナリンが大量に分泌されているのだろう。靭帯断裂や骨折の痛みが来るが全く気にならない。

 それに何度か攻防を交わしていると分かってきたこともある。

 

「チャージ完了、発射します」

 

「オラ! オラ! オラ!」

 

 長いチャージの動作から放たれる素直すぎる一撃を交わして、拳の連撃をくわえる。

 余りにも攻撃が素直すぎる。実戦経験を感じられない。初めは身体性能で向こうが拮抗していたので、多少の抵抗を許したが、時間が経つにつれこちらが押していく。

 

「ハァ、ハァ、ハァ。放しなさい」

 

 何回かの攻防の末、Keyは私の足に踏みつけられ、くたばっていた。

 だが、目は死んでおらず、私を反抗的な目で見つめ続けている。それが気にいった。

 少しだけ足の拘束を緩めてやる。

 

「気に入ったぞ! Key、お前は殺すが、AL-1Sの命は見逃してやる」

 

「どういうことですか」

 

 私からの突然の申し出に怪訝な顔を浮かべるKey。

 胸ポケットからゲーム機を取り出し、彼女に提示して、私の提案内容を説明する。

 

「お前はゲーム機のデータとして、ミレニアムに入り込んできた。なら、お前がその体のメインデータになっている今なら、サブデータとして、AL-1Sをこのゲーム機に移せるかもしれんと思ってな」

 

「……それはできません。あくまでこの体の持ち主は王女です。それに、この体を失えば、私たちの使命は失われます」

 

 AL-1Sというキヴォトスを破滅させる爆弾と電子機器があればどこにでも入り込める消した確証の持てない火。爆弾がなければ、火が存在しようと爆発は起きない。

 AL-1Sを。正確にはその素体を破壊すればいい。別にAL-1Sの体を存在は消さなくていい。Keyの奮闘を称えて、提案したのだが。そうか、できないか。

 

「なら、お前たちをまとめて送ってやるまでだ」

 

「……待ってください! 「王女」のデータ移送は可能です!」

 

 馬乗りになって、拳を掲げて。止めを刺そうとしたら、Keyは焦りだし、先ほどの発言を取り消した。なんで、そこで私の説得を試みるんだ。

 

「お前な、まあいい。一分だけ待ってやる。後、今、思いついたが、AL-1Sを起こして、お前がゲーム機に移る手もある」

 

「私が「王女」を売るわけないでしょう!」

 

 ノボリから選択を突きつけられたケイの中で、激しく行動選択が行われる。

 従者として王女を教導し、キヴォトスを滅ぼさせる使命。従者と破壊兵器としての使命。矛盾なく、両立したそれが軋みあげる。

 選択するならば、王女を逃がし、兵器として最後までこのキヴォトスを滅ぼそうとするのが最善。だが、その選択は従者が王女から体を奪い取る選択。今までのように手本を見せるような行為とは全くの別物。

 たった一つ引っかかり、つまずいたKeyは失念してしまっていた。時間が限られていたことを。

 

「10……5・4……」

 

「……! 「王女」の体をそのき」

 

「3・2・1 最後は一緒にか。見上げた忠誠心だ」

 

 時間切れ。最後まで自分に課された使命に従い、忠を尽くした彼女に敬意を払って一発で仕留める。そう決意を固め、いま持てる限りの神秘を出し切って電気に還元し、拳を振り下ろす。

 

「させないよ!」

 

「アリスちゃんを傷つけないで!」

 

 だが、それは横合いから飛んできた弾丸によって叶わなかった。

 そちらに振り向けば、アバンギャルド君に乗ったエンジニア部、ゲーム開発部、リオ、先生。一部の兵器開発部員はなぎ倒されている。

 

「総員、構えろ!」

 

 なぜ、リオまでいるのかは知らんし。一思いにとどめを刺してやれなかったのも残念だが。ここまで、辿りついたのだ。

 とことんやろう! 最後まで力で語り合おう! 悪いが少し待っていてくれ。そう思い、気を失ったKeyを離して、立ち上がり、拳を構える。

 

「やれやれ、生身は苦手なんだが」

 

 フカメも電磁釵を構え、兵器開発部員もロケットランチャーなど各々得意の武器を取り出し、構える。さあ、決着をつけよう。そう意気込んでいると。

 

「“ノボリ、兵器開発部の皆、君たちを止めに来た”」

 

 先生がアバンギャルド君から降り、前に出てきた。部下の一人が撃ちますかと聞いてくるが。それを止める。早く、戦いましょうよと文句を言ってくる。私も早く戦い気分だ。だが、先生がどうするか、気になる。

 

「はっ、まさか、今更、説得するわけじゃないだろうな」

 

「“その通りだよ、私は君を説得しに来た。これを見て”」

 

 先生が青いタブレットを取り出すと、映像が表示された。

 

「なに!? どういうことだ!」

 

 表示された映像には、本日からのアリスをミレニアム学園の生徒とする旨を認めるアリスの入学書類が映し出されていた。

 

 偽装を疑ってよく確認するが、見れば見るほど書類は本物だった

 あり得ない。得体の知れない存在を。学園の審査委員会たちは通したというのか。精査の時間も無しに。半日も過ぎていないんだぞ。

 

「これがあったから、リオは先生に協力したのか」

 

「ごめんなさい。私はもうあなたたちまで人殺しにできない」

 

 私の質問に顔をそらして、リオは答えた。

 タワーの崩壊で地下に格納していたアバンギャルド君たちも多大な故障していたはず。それを修理して動かすには、エンジニア部だけでは足りない。設計者の力もいる。

 誰かが説得したはず。嫌な予感に、体がいうことを効かない。

 

「“ノアとユウカに協力してもらったんだ。アリスはもうミレニアムの生徒だ。だから……”」

 

「……わかっている。もう、アリスを傷つけることはできない」

 

 予感は的中した。無理筋を可能にする。法を超越する権限。先生の超法規的権限が法を捻じ曲げ、歪ませ、奇跡を起こした。

 

 ……ふざけるなよ

 

 合理的な理由を断ってでも感情を優先したい。だから、力で押し通そうとしたんじゃないのか。

 先ほどまで、お互いの譲れない信念があって、意見が衝突したから。力で正しさを証明しようとしたんじゃないのか。

 

 ……断じて、許せる行為ではない

 

「本当に、この結末が正しいと思っているのか」

 

「“……? 誰も傷つかないのが、私は最善だと思うよ”」

 

 魂の凌辱。力で語るキヴォトスのミームが。私の心に最も根付いた。それが踏みにじられている。先生を正当化するミームに。これほど屈辱を感じたのはいつ以来か。

 今、こいつをぶん殴って、AL-1Sを仕留めるのも可能だ。だが、そんな無理を通せば、私の改革は破綻する。ここは飲み込まなければならない。

 

 力みを解くことはできないので、あえて全身を力ませて動きを封じる。ゆっくり深呼吸して、話す。

 

「アリスの破壊は諦めよう、お前たちも構えを解け」

 

「“ありがとう。君たちの不安を取り除いてみせるよ”」

 

 先生はほっと胸を撫で下ろし。彼女たちと笑い合っていた。次はアリスをどうやって起こそうかという話に進んでいる。ゲーム開発部たちがリオに奇跡を起こして見せると。精神ダイブ装置を預かっている。

 

 ……今日から、先生。あんたは私が倒すべき敵だ

 

「フカメ、行くぞ」

 

「そうだな。私も調べたいことがある」

 

 ……認めよう。今日、私はまた負けたのだ。大人に。

 

 その後、順調に進み。Keyは意外にあっさりとアリスが勇者になるのを認めたようで、アリスは勇者として目覚めた。そして、奇跡的に物語は表面上、誰も傷つかないハッピーエンドを残した。

 

 ◇

 

 後日、危なく、リオが失踪しかけたことで、問題を提起した側がいなくなり、アリスの処遇について有耶無耶になりかけていたので。

 

「リオ、お前がアリスを殺そうとしたことを自責するというのなら、仕方ない。だが、いわれのないこと言われたり、気に入らないならぶん殴れ。意外にスッキリするぞ」

 

「私は堂々と輪に混ざりいくぞ。お前もこい! それでも、居づらいなら、私と来るといい!」

 

 ミレニアムを去り隠れようとするリオの居場所を以前殴った際につけておいた小型ナノマシン発信機で突き止め。リオを説得して、連れ戻し。

 

「先生、このまま、対策案を話し合わず。もし、また、アリスが暴走したなら、アリスを殺す」

 

「“わかった。話し合おう”」

 

 先生を説得して、会議を開かせた。

 

「ごめんなさい。アリス、私はあなたを犠牲にしようとした。あなたたちに迷惑をかけた」

 

「アリスは気にしてません。リオ会長も皆のことを思って行動したと思っていますから」

 

「ふん。そこのどす黒い太陽を巻き込んだことはかまいませんが、トキを……ちょっと、何するんですか!」

 

「ハイハイ。今大事な話をしてる最中だから」

 

 会議の初めにリオからアリスへ謝罪がなされ、二人は和解した。まあ、数日前に争ったばかりなので、簡単には飲み込めない生徒もいたが。それでも、絶対にリオを許さないといった生徒はいなかった。

 

「ゲーム開発部の危険区域への侵入を禁止。後、アリスちゃんには監視をつけてもらいます」

 

「ごめんねえ。アリス~」

 

「構いません。レベルの問題で、エリア制限を受けただけです。それに、勇者はパーティーメンバーとは常に一緒にいるものです!」

 

「リオ会長は横領したセミナーの費用、返してくださいね。兵器開発部、ヴェリタスは部費を一部削減します」

 

 会議の結果、アリスは今回、Keyが持ち込まれた危険区域への移動制限、モモイとトキによる監視を受けることになり。リオは横領セミナーの費用の返済、兵器開発部とヴェリタスは問題行動で、部費削減の罰則を課されることになった。

 

「貴重な部費が~」

 

 一応だが、世界を滅ぼす兵器AL-1Sの対抗策も練り、安全を確保することもできた。100%の安心は得られないが、できることはやり終えた。

 

「あなたにも、迷惑をかけたわね。ありがとう」

 

「望む結果は得られなかったが、得る物はあった。楽しい日々だった」

 

 翌日、リオの見送りを受けて、私はミレニアム学園を去った。

 

『聞いてくれ、ノボリ。廃墟を掘り起こしたんだが』

 

「……本当か!」

 

 プロトコル<アトラ・ハーシス>のコード。AL-1Sの肉体を構成していた破片つきナノマシン。

 得るものの多い。母校での最後の一か月だった。

 

「用事は片付いたのかね。私は用事を済ませておいた」

 

「ああ、キッチリな」

 

 スカルフェイスと合流し、私は新生活を始めた。

 

 ◇

 

 DU自治区の喫茶店、4人の生徒が席に座り、お茶をする。

 

「今日という良き日に乾杯しようではないか」

 

「乾杯、よろしく、毒蛇エイ、和平ピスカ」

 

 隣に座るスカルフェイスの音頭に合わせて、私は対面に座る二人とコーヒーカップを合わせる。

 

「皆で、誰も傷つかない。ありのままの世界を作りましょう!」

 

 純白の羽をしたトリニティ生であり、元正義実現委員だった和平ピスカ。立ち上がった彼女の手には私から受け取ったパトリオットが握られている。

 

「お前たちを利用するだけだ。おかしな真似をしてみろ、すぐに私がお前を捕まえる」

 

 元SRT所属のヴァルキューレ警察生、毒蛇エイが対抗するように宣言してくる。

 

「それでいい、一時的とは同じ船に乗るんだ。仲良くしようぜ、同志よ」

 

 彼女たちと手を取り合って、深い握手を交わす。

 

 私はあの日、負けた。だが、そんなもんは大したことじゃない。命があるんだ。次はもっと強くなって勝つまでだ。

 あの敗北を分析した結果、キヴォトスは大きな病魔に侵されていることが分かった。法を超越する絶大な権力をもち。生徒をかばい、責任を無くす。すべてが正しくなるミーム。

 罪を消し、正しさを問われない。声なき被害者はゴロゴロいた。私はそいつらも私の勢力に引き入れ、規模を拡大した。何度でも立ち上がって、そのたびに大きくなってやる。

 

「終わらせてやる!」

 

 利益を与えることで学園の上層部とも癒着し、学園の上位組織から下部組織を動かす規範。表には立たず、陰からキヴォトスの生徒を支配する。国家に住む生徒を無意識下で管理する先生という愛国者を。先生=善だと。思考停止し、盲目的に先生を信仰する生徒たちを。

 

 

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