このキヴォトスには変革が必要だ!だが、変革には犠牲が伴う! 作:王朝万歳
「そうか、よく話してくれた」
大雨の降りしきる山海経の廃軍事キャンプ場、檻に閉じ込められた二人の生徒に骸骨の面をつけた亡者が話しかけていた。
「お前たちはクライアントを裏切った」
「これで、一人前のアウトローだ」
二人は情報を吐かさせるため、自分たちを拷問にかけた悪魔のような生徒の口が開くたびに、ガタガタと歯を鳴らしながら視線から逃れようと目を伏せる。
彼女たちは海賊団の船長と副船長だった。団員たちを率い、山海経への違法薬物の密輸および近海の貿易船からの物資の簒奪など、こなした裏稼業は多岐にわたる歴戦の海賊。
下手を打った政治家たちの亡命の手伝い。いつも通り、何事もなく上手くいくはずだった。
「心配するな、仲間とは会えるさ」
怯え切った海賊の二人を哀れみながら、歩き出す骸面フェイ。彼女の傍に控えていたXOFの隊員たちも動き始める。
「お前たちにはもう一仕事してもらう。ついて来い」
檻を開け、フェイは二人の千切れかけの耳にささやく。希望を見せる甘い言葉を。
「そうしたら、仲間に合わせてやる」
アキレス腱にボルトが貫通し、歩けない副団長の少女をXOFの隊員が担ぎ上げ、ジープへと運び込まれる。顔がうっ血して前が上手く見れない団長の少女は取り囲む集団の動きを頼りにジープに乗る。
そして、二人を乗せたジープは草が生い茂った道を進み、基地に駐屯する隊員たちの検問を受けながらヘリポートに辿り着いた。
着陸するヘリ。ジープから降りたフェイがヘリに特殊なブラックライトを当て、ヘリに記されたXOFのロゴを消す。
「先行隊は潜入した」
「害獣駆除に行くぞ、乗れ!」
フェイとXOFの隊員たちを乗せたヘリは海へと飛び立っていった。
ヘリコプターで空を飛ぶこと、30分ほど。フェイたちの眼下に燃え盛るカイザー社のクルーザー船と海賊船が現れる。
響き渡る銃声と生徒たちの悲鳴。船は地獄の様相を呈していた。
「おい、あれ。あれを見ろ! ヘリだ! 助けが来たんだ!」
「ホントだ! ヘリだ! ここだー! ここにいるぞー!」
クルーザー船の甲板へと上ってきた乗客たちがXOFのヘリたちを救助隊のヘリだと誤解し、手を振る。
「撃て」
助けを求める乗客たちをヘリコプターの機銃が薙ぎ払う。驚いた乗客たちは我先にと船へ戻っていくが。
狭い入口に突っかかり、入口付近の人波が生じてしまう。一塊になった彼女たちはいい的でしかなく。ヘリの機銃が再度向けられ、確実に意識を奪い取るため念入りに吐き出された弾丸が彼女たちを襲った。
「やっと、静かになった」
声をあげる者がいなくなった血まみれの甲板にフェイとXOFの隊員たちは降り立つ。そして、意識を失った生徒たちを縄で拘束する。
そして、フェイとXOFの隊員たちは、船内へと降りていく。
「ひぃぃ、助けてくださぁい」
「誰か! 誰か! 助けて!」
悲鳴をあげて廊下を走り逃げようとする生徒を、必死に声を押し殺し客室に隠れてやり過ごそうとする生徒を、誰一人取りこぼしのないよう撃っていく。
『こちら潜入班、警備の者たちの制圧に成功。4階からの制圧を開始します』
『よくやった。こちらは、最上階を制圧中だ。5階で落ち合おう』
乗客に紛れ込ませた隊員たちが警備員たちの制圧を完了したとの連絡を受け、フェイたちは隊員たちと合流するべく、更に下層へと下っていく。
「ここか」
「はい。護衛たちもいましたが、全員制圧しています」
部下からの標的を確保したとの連絡を聞き、5階のVIPルームの一室へと駆けつけたフェイたちが部屋に入る。
「早く離しなさい。私たちが防衛室員だと知っての狼藉ですか。私たちの手にかかれば、あなた達なんてすぐに牢屋に放り込めるんですよ」
「何なんですか、この集団は、あなたの子飼いの海賊たちが迎えに来る手筈だったのでは」
「違う。私が依頼したのは海賊たちで、そんな、まさか彼女たちが……」
煌びやかな装飾で飾り付けられた豪華な部屋の中央で、椅子に縛られた三人の防衛室所属の生徒たち。
彼女たちは予定していた人物たちとはまったく違う人物たちに突然、拘束されたことで、亡命の手配をした一人を責めていた。
「やあ、防衛室の諸君、随分と私の周りを探りまわってくれたな」
「……!」
そんな彼女たちの前に躍り出て、フェイは話しかける。先ほどまで、言い争っていた三人の顔が青ざめた。
「一週間前、私の研究施設に手先の者を送り込んだな」
「彼女たちは始末させてもらった。だが、一部のデータを回収されてしまった。どこに隠したか、教えてくれないか」
防衛室に入ってきた新人、歯車ノボリ。それと同時期にカヤの私兵としてスカウトされてきたXOF。カヤ派閥に所属しながらも、虎視眈々と防衛室長の椅子を狙っていた彼女たちは二人の弱みを握ろうとした。
そして、フェイ主導の極秘研究の一部を暴いてしまった。
「彼女たちのように、成りたくはないだろう」
フェイの後ろに待機するXOFの隊員たちが三人の目の前に海賊の二人を差し出す。
「……すいません、失敗しました」
「あなたたち裏切りましたね、あれだけ助けっ、きゃあああ!」
申し訳なさそうに彼女たちを見る海賊たち。海賊たちが裏切りに、防衛室員たちは怒りの声をあげようとした彼女たちだったが、その声が続くことはなかった。海賊たちの受けた執拗な拷問の痕に、ただ息を吞んでいた。
「わ、渡したら、見逃してくれますか」
「ああ、君たちが自首してくれさえすれば、解放しよう」
恐怖に染まった一人が伺うように質問し、フェイはそれに答えた。
「今、持ってます。そこのアタッシュケースの内ポケットにUSBが入ってるはずです」
「確かに入っているな。コピーは、誰かに渡したか」
USBを差し込みノートパソコンに繋げて、データを解析すると。
ヘイロー虫:バレル
中には、廃工場のチューブを繋げられた状態でベッドに寝かされた生徒たちの写真付きの電子試料があった。写真に写るゲヘナとトリニティの生徒を中心に集められた全学園の生徒、彼女たち全員のヘイローは虫食いにあったように欠けていた。
「いえ、まだです。この後、カイザーに渡す予定でしたが。まだ、渡してはないです」
「そうか、縄を解いてやれ」
フェイの命令で、XOFの隊員たちが防衛室の彼女たちの縄を切って、解放する。身動きが取れるようになったことで、青ざめいていた彼女たちの顔も少し生気を取り戻す。
「設置完了しました」
フェイに外で作業させていたXOFの隊員たちからの無線が入った。
「そこの二人、仲間に会わせてやる」
約束通り。自分のクライアントを売った海賊の二人に、ご褒美を。
フェイは船内に捕らえている海賊の仲間たちと会わせてやることにした。
「お頭たち、どこ行ってたんですか。急にいなくなったから、心配したんですよ」
「お前たち、無事でよかった」
捕縛された仲間の海賊たちと海賊の二人は二週間ぶりに再会し、お互いに涙する。
「自首するぞ、お前たち。頼む、生き残るにはそれしかないんだ」
「わかった、そうします」
船長たちの怪我と計画とは違う内容に動揺した団員たちだが、裏社会の経験から明らかに正規の警察や軍隊と違う部隊の雰囲気を感じ取っており、すぐにその提案に受け入れた。
「君たちに、ボートを用意した。それで、海を渡るといい」
「……助かる」
フェイから大破した海賊船にかわりに船に備えつけられていた救難ボート2隻を渡され、海賊たちは捕縛された防衛室員たちを連れて、自首しに向かった。
「もう懲り懲りだ」
「命がいくつあっても足らない、もう潮時かもな」
少しずつ、遠ざかっていく海賊たち。彼女たちの声が聴こえなくなった所で、フェイは手元の爆弾のスイッチを押す。ボートの船底に取り付けた大量のC4爆弾。それらが一斉に起動し、海賊たちと防衛室員たちはボートごと爆散した。
彼女たちが最後に見たのは、仲間の笑顔ではなく、紅蓮の炎だった。
「帰還するぞ」
同じように、船底の燃料タンク、機関室、そして甲板の支柱。船の構造上、最も脆い部分に設置されたC4爆弾が一斉に起爆させる。
衝撃破が船内を駆け抜け、窓ガラスは粉々に吹き飛び、船体が真ん中からへし折れていく。
「……美しい」
上空へと離脱するヘリ、フェイは眼下で紅蓮の炎が何もかもを飲み干していく様を見下ろしていた。
眠らされた乗客も、海賊も、政敵も。
全ての「真実」と「言葉」が、海へと沈んでいく。
「これで、目撃者はいなくなった」
フェイは回収したUSBメモリーをポケットにしまい、燃え盛る船に背を向け帰投した。
夜の海には、ただ波の音と、バチバチと弾ける炎の音だけが響いていた。
翌日の朝、DU地区の防衛室。カヤとフェイが対面していた。
「大型クルーザー船が海賊に襲われた!? で、では、被害のほどは」
「残念ながら、船は大破、生還者は不明。更に、偶然、船に乗り合わせていた防衛室の3人が海賊たちに拉致されました」
海賊たちによる、大規模な爆破テロに動揺するカヤ。フェイは淡々と事件を聞きつけ極秘裏に行ったという調査結果をカヤに伝える。
「海賊たちに屈しなかった彼女たちは、海賊たちの隙をついて爆弾を奪い取り名誉の自爆を果たしたそうです。名誉の戦死かと存じます」
「……そんな」
「失礼します」
フェイは報告の内容に呆然とするカヤに退室を告げ、去っていった。ポケットでスマホの振動がなる。
通話を繋げると嬉しそうな声が響いた。
『もうすぐ、ミレニアムでの用事が終わりそうだ! そっちはどうだ!』
『こちらも厄介な案件が片付いた所だ。早く、戻ってくるといい』
『おう!』
短いやり取りを交わして、通話が切れる。ふと、ビルの外の景色へと目を向ける。
『大型クルーザー船をテロリストたちが襲撃。船は真っ二つにへし折れ……』
電光掲示板にて、クロノスハイスクールの生徒たちがニュースを届けている。
予測される犯人として、海賊の船長と副船長の顔が流れていた。
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【録音データ:海賊団・尋問記録】
「えへへ。ごめん、捕まっちゃった」
「馬鹿、何で、ここに来たんだ」
「吐け、奴らがいつ、どの便に乗るのかを」
「待って、これ以上はリーダーが死んじゃう」
「ゴホ、ゴホ。気にすんな!! 私は大丈夫だ」
「誰が吐くかよ、下種野郎。私たちにだって、仁義があるんだ。口が裂けても言わねえぞ」
「面白い、その言葉が本当か、試してみよう」
「ヒドイ。口が裂けて……」
「ぼっといてくれ。おばえがきてもなんの意味もながったのに」
「私はただ、あなたが心配で」
「それが迷惑だったんだ。昔から嫌いだった、そうやって私について回るところが、私にとって、お前は手下Aに過ぎないんだよ」
「……つっ」
「私の質問に答えろ、簡単な質問だ、誰でも答えられる、お前たちのホームを教えてほしいんだ」
「馬鹿だな、そもそも、そいつは大して情報を持ってない、飛び出した時点で、見捨てられてる」
「わ、私を、私を殴ってください!」
「いいだろう」
「ぐう、もっと、もっと、私を殴ってください」
「ハッハ、大好きな親友に、いい恰好を見せたいか。やり方を変えよう」
「君は随分と口が堅そうだ。このままでは埒が明かない。お前が口を開かない以上、奴に聞くしかないな。幸い、彼女にはまだ割れる口がある」
「玄武商会の一番倉庫、人数は100人、昼と夜の19:00に交代して……」
「よく喋ってくれた」
「この情報で、彼女はもう用済みになった。後は、餌にするか、見せしめにするぐらいか」
「やめろ」
「防衛室員とやり取りしていたのは君と作戦参謀だけらしいな。君が教えてくれないと、私は大勢と話し合わなければいけなくなる」
「やめてくれ」
「君が守れるのは契約か、仲間か、どちらかだ」
「教えてくれ、防衛室員たちがどの便に乗るのか、どこで落ち合うのか」
「私が喋ったら、あいつは、仲間たちは助かる?」
「可能性は十分ある」
「あいつらの未来は?」
「自首すればいい、手柄をもって。今なら、間に合う。被害者になれる」
「明日の21:00にここを出航する……」
「少し、トラブルがあったけど、問題ない。作戦通りに行く、お前たちは手筈通りにやっておいてくれ。私は別の方法で現地に向かう」
「最後に、お前たちにはもう一つ役に立ってもらう」
「私はお前たちに祝杯をあげたいんだ」