このキヴォトスには変革が必要だ!だが、変革には犠牲が伴う!   作:王朝万歳

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SRTの幻影

 日曜日、DU地区の子ウサギ公園。二人の生徒が目的の人物と接触しに歩いていた。黒ずくめのトレンチコートを着た生徒と防衛室の服を着た生徒が辺りを見回して一人の生徒を探す。

 

「警察総会が終わった後、奴はいつもここにきているそうだ」

 

「さっき、ヴァルキューレ警察署を訪ねた時も公安局の局長も同じことを言っていたな」

 

「ああ、私の部下が調べた情報とも符合する。間違いないだろう」

 

 防衛室はヴァルキューレ警察に命令を出す立場にある。防衛室に新規配属されたばかりでは連携が取れなくて困る。という顔合わせの名目で私はヴァルキューレ警察生に挨拶してきた。そこで出会ったカンナ局長から目的の人物、毒蛇エイがどこにいるか聞き出し私とフェイはここに赴いていた。

 

「あいつか」

 

「ああ、あそこのベンチに座っている彼女だ」

 

 左手の義手に持たれかかって毒蛇エイは公園のベンチで一人たそがれていた。彼女が向ける視線の先では最近までSRT学園の廃校決定により公園を不法占拠してデモ活動を行っていたというラビット小隊の生徒たちがいる。どうやら、商店街の手伝いでもしたのか隊員の一人の手には魚がいる。

 

「そこの二人、止まれ」

 

 後ろから彼女に接近していると前を向いている彼女から制止の声がかかった。なかなか勘が鋭い。こいつは当たりかも知れない。

 

「防衛室員と黒ずくめの怪しい女か」

 

 私たちの方へ振り返った彼女はフェイに視線を向けた。

 

「そこのお前だな。数日前から私に妙な監視をつけたのは」

 

「ほう、どうしてそう思った」

 

 その指摘にシルクハットを片手に目を見開いたフェイが興味深そうに彼女に尋ねる。

 

「癖だ、特殊部隊特有の癖がある。それがあんたにも共通している。そして、あんたが一番音の消し方が上手い」

 

 フェイが監視につけたのはXOFの隊員たちだ。そこらの傭兵じゃない。監視に気づくのは一般のSRTの隊員でも難しい。それを目の前のこいつは監視を見抜くどころか癖を把握し私たちに気が付いたわけだ。

 

 こいつはいい。すごくいい。予想以上の掘り出し物かも知れん。

 

「歩行法を辿られたか。なるほど、腕は鈍っていないらしい」

 

「おい! 私は歯車ノボリ、こいつは骸面フェイ。お前の名前は」

 

 エイに尾行を気づかれたことにやれやれと言った様子で嘆息するフェイ。彼女に代わって私が前に出て彼女の名前を尋ねる。

 

「なんだ、あんた急に。まあ、名乗られた以上返すの礼儀か。私は毒蛇エイだ」

 

「毒蛇エイ、いい名前だ。話があるついて来い!」

 

「いや、面倒だ。話がしたいならここで聞かせろ」

 

 私からの誘いに怪訝そうに眉をひそめた彼女が話をしたいならここでしろと告げてくる。

 

「ヴァルキューレ警察の未来に関わる話だ」

 

「……! 分かった、行こう」

 

 自己紹介を済ませた私たち、3人は賑やかに騒ぐラビット小隊を背に公園を後にした。

 

「着いたぞ、ここだ」

 

「ここは……」

 

「そうだ、お前の懐かしの故郷だ」

 

 廃校になったSRT訓練場。元SRTに所属していたエイの故郷とも言える場所に三人はいた。

 

 エイは防衛室からの行政命令でヴァルキューレ警察に転校してから寄り付かなかった学園の訓練場を懐かし気に見ていた。

 

「過去の遺物か」

 

 そして、人が来ていないのか椅子に溜まった埃をそっとなぞって哀愁を浮かべると、指についた埃に息を吹きかけて飛ばした。

 

「それで、こんな場所に呼び出してまでしたい話ってのはなんだ」

 

「簡単な話だ。お前と私で協力しないか。私たちは今、防衛室内で派閥争いをしていてな、協力者がいる」

 

 私はエイに今起こっている防衛室内での派閥争いについて説明する。防衛室員がヴァルキューレ警察生を使うせいで上手く排除できない現状も一緒に。

 

「なんで私が協力する必要がある。私にメリットがない。それに私以外にも優秀な奴はいる。他を当たれ」

 

「謙遜するな、お前より優秀な警察官はそういない。それにメリットならある。SRTからヴァルキューレ警察への移転してから、随分暴れたそうじゃないか。それですぐに公安局から干されて地方に飛ばされたんだろ」

 

 彼女はヴァルキューレ警察から移ってから腐敗の実態に触れたのだろう。公安局に配属されてから手を出さないように上から言われていた犯罪者を逮捕したらしい。ちなみに、その犯罪者は賄賂を渡してその日の内に釈放されたそうだ。

 

 諦めの悪かった彼女はそのまま無駄骨を折り続け、ついに地方へと飛ばされ、捜査からは外されるように。そして、やっと落ち着いたそうな。SRTのエリートに待っていたのは苦い現実だったということだ。

 

 私はこいつにとって地雷を敢えて踏み抜いてやることにした。本気でこいつと一仕事してみたくなったから。

 

「お前がヴァルキューレ警察の腐敗をどうにかしたいって戦ってたのはうちでも少し噂になってたらしいじゃねえか」

 

 断りを入れて出ていこうとするエイを引き留める。埃を掃い終わった椅子を二人に渡して、私も座って話す。正面に座る右目に眼帯をつけた少女の眼帯で隠していない左目。鮮やか緑色をした目からの鋭い視線が私を射抜いてくる。

 

「諦めた夢だ」

 

「お前の目はそう言ってないようだがな」

 

 諦めた夢だと騙る彼女の目には強い意志が宿っている。

 私も負けじと彼女に向き合い、目を合わせる。お互いに目をそらさずにただ相手のみを見つめる。そうして無言で見つめること、数分。

 

「仮に私がお前の協力者になったとしても、腐敗は解決しない。上がお前に代わるだけだ」

 

「そうだな。だが、今の腐敗した上層部は消せる。私はお前を利用する、お前も私を利用しろ。目的達成のためにいつでもかかってこい」

 

 私たちは敵対者だ。一時的に協力者には成りはするが、目的は別。きっといつか敵対する、だがそれでいい。

 

「私の協力者になれ。毒蛇エイ。私はあいつらを排除できて名声が得られる、お前は腐敗を正せる。いい提案だろう」

 

 私は防衛室員やその手駒のヴァルキューレ警察生を公的に排除できて腐敗した官僚や警官を捕らえた分名声を確保でき、エイの方は私から資金提供を受けながら私という看板を使ってヴァルキューレ警察の腐敗を浄化出来る。

 

 お互いに利のある関係だ。一緒に低賃金で雇った無学籍の学生を使って犯罪をするようなクソ企業を資本ごとぶっ潰してやろう。

 

「少し考えさせてくれ、明日には返事する」

 

「おう、いい返事を期待しておく!」

 

 エイはしばらくその場で目をつむりそうとだけ言い残して帰っていった。

 

「……振られたな」

 

「いいや、奴はきっと私の提案に乗ってくる」

 

 去っていくエイを見て私の隣に立つフェイが協力の取り付けに失敗したなと言ってくるが、それを否定する。

 

 何がとは言えないが、私の心には確信のようなものがあった。

 

 ◇

 

「ただいま」

 

 夜、地方学区のヴァルキューレ警察寮。長い一日を終えたエイは誰一人いない自室に帰ってきた。そのまま、重苦しい警察の制服を脱ぎ捨てベッドに腰をかけたエイはぼんやりと部屋を眺める。

 

「未練がましいな」

 

 部屋の壁には手入れのいき届いたSRT生だった頃の制服がかけられ、机にはSRT時代の頃に受け取ったトロフィーや賞状が立てかけられていた。連邦生徒会の決定でSRTが廃校決定して、防衛室長の提案でSRTからヴァルキューレ警察に転校した時に持ちこんだ過去の遺物たち。

 

 捨てることはできす、今でも部屋に飾っているそれらが。SRTの廃訓練場に行ったせいか、今日は一段と目に留まる。あの勧誘に来たノボリとかいう少女の言葉が胸に残っている。

 

「私は正義を為せているのか」

 

 ベッドに仰向けに倒れ込んで天井を見ながらただ自問する。突然伝えられたSRTの廃校。移転先はヴァルキューレ警察、企業との癒着が噂されており問題がある所だった。それでも自分は公務員であり治安維持をする者、市民の平和を守れるならと粛々とそれを受け入れた。

 

「それじゃあ、ここで押収された違法兵器はあなたの土地に不法侵入した彼女たちが持ち込んだもので、あなたとは一切関係ないものなんですね♪」

 

「へっへっへ、もちろん」

 

 規制がかけられている違法兵器の受け渡し。運び屋の生徒たちと受取人を捕らえ、署に連れて行った。だが、署に後から来た上官は受取人から賄賂を受け取ってすぐに釈放した。

 

「部下の教育頼むよ」

 

「はい。私から厳しく言っておきます」

 

 意気揚々と出ていったあの受取人はヴァルキューレ警察に武器を安く支給していた武器商人だった。彼の機嫌を損ねたら弾丸や銃を安く売ってもらえないから彼には手を出すなと上官に言われた。

 

 違法兵器の摘発。SRT時代にならなんの障害もなくできていたことがしがらみで出来なくなっていた。そこで、初めて実感したヴァルキューレ警察の腐敗問題の根深さを。自分たちがどれだけ特権の上で正義を語っていたのかを。

 

「ヴァルキューレ警察生にとって、私たちの活動は苦々しかったろうな」

 

 自分たちが厳しい現実の中で戦っているのに。連邦生徒会長の特権の下、自分たちのできない活動をやる。甘い夢の中の正義漢、ヴァルキューレ警察生たちは私たちを見る度に忸怩たる思いをしたはずだ。

 

「それでもヴァルキューレ警察が今のままでいいはずがない」

 

 現行犯だけを捕らえ続け、彼女たちを雇っている会社を処罰できないのであれば、永遠と同じことが繰り返されるだろう。

 

 それを彼女と連携が取れれば解決できるかもしれない。ただ、歯車ノボリ、彼女はデスペラード社やワールドマーシャル社とも仲が良いと推測されている。結局、正義のために悪に手を貸すことになる。

 

 罪に塗れ決して拭うことのできないこの真っ黒な手で自分は何ができるのか。こんな自分でもまだ何かの役に立てるかもしれない。エイは複雑な心境のまま半日を過ごした。

 

「決めた」

 

 翌日、エイは洗面台の前で髪を乾かしていた。鏡の中にはSRT時代の制服を来た自分の幻影(ファントム)がいる。エイは決心すると、ヘアドライヤーを置き、容赦なく鏡に映る幻影(ファントム)ごと拳で鏡を叩き割った。

 

 割れた鏡の破片が腕に刺さるが全く気にすることはない。

 

「私は悪に堕ちる」

 

 悪に堕ちる、正義を為すために。

 

『もしもし、あの提案だが乗ることにした』

 

 エイはニヒルな笑みを浮かべると部屋を出ていった。

 

「あの、ミヤコちゃん。あそこのゴミ捨て場見てください」

 

「どうしたんです、ミユ。これは……」

 

「SRTの制服か、ご丁寧に名前は潰されているが、このトロフィーや賞状、持ち主は優秀な隊員だったみたいだな」

 

「ええ、サキ。ですが、この隊員の方も心が折れてしまったのでしょうね」

 

「もう~三人とも検分してないで。商店街の蜂の巣駆除遅れちゃうじゃん」

 

 朝のゴミ捨て場にはSRT生徒の備品たちが捨てられていた。

 

V(ヴァルキューレ)が目覚めた。

 

 ◇

 

 数週間後、ヴァルキューレ警察の廊下で、公安局長のカンナは一時を共にした毒蛇エイに詰め寄っていた。

 何事かと騒ぎを聞きつけたヴァルキューレ警察生たちも遠巻きに二人の様子を見ている。

 

「どういうつもりだ、エイ!」

 

「別に大したことじゃない、職務を全うしただけだ」

 

 数日前、エイは防衛室と癒着している企業の社長を捕まえた。エイの凶行をヴァルキューレ警察の上層部が黙っているはずがない。活動費用の削減やクビもあり得る。

 

「それでお前はどうする! 最悪クビになるかもしれないんだぞ!」

 

「ああ、その心配はない。後ろ盾がある」

 

 カンナに掴まれた状態のエイはサッとその手を外すと、心配そうにこちらを見るカンナに答えた。エイの返事にカンナの顔がこわばっていく。カンナの中で防衛室の派閥争い、そしてつい最近ヴァルキューレ警察に訪れた歯車ノボリ。二つの事象が線で結ばれる。

 

「後ろ盾って、エイ。まさか、お前。お前はそういうことを一番に嫌っていたはずだろう!」

 

「私もそこらの凡庸な警官の一人だったってことだ。あんたには短い間だが、世話になったな」

 

 汚職に手を染めようとするエイにカンナは激怒するが、エイは公安局に配属された時の好青年のような顔が嘘のように悪人面を浮かべるだけだった。

 

「待て! まだ、話は終わって」

 

「すまないな。ボスはこれから私たちとの先約がある。これ以上はやめてもらおうか」

 

 カンナは去っていくエイを引き留めようとするがサングラスをつけた生徒と数人の生徒がそれを遮った。サングラスの警官はヴァルキューレ警察内でも小悪党として有名な生徒だった。

 

 彼女たちに道を遮られている内に見失いカンナはエイと別れをつげることになった。

 

 ◇

 

 DU自治区郊外の海、洋上プラントフォーム。ギラギラとした目のヴァルキューレ警察の生徒たちがボスの帰りを待っていた。ヘリコプターから降りて来るボスの姿を見つけると彼女たちは歓声を鳴らす。

 

「あんたがノボリ社長の言っていた。協力者か」

 

「ああ、そうだ」

 

 歓声を上げる彼女たちの中からアリウス生徒を連れた罪織タバネが地面に降り立ったエイの前に出て来て握手を交わす。タバネはノボリからのメッセンジャーとして来ていた。

 

「初任務、ご苦労様。社長も喜んでいた」

 

「そうか、そりゃ嬉しいね」

 

 ノボリはエイの腕を確認するため、依頼を出していた。それを見事果たし、協力者に相応しい実力を見せたエイにノボリはカイザーから奪った廃造船場を改修して海上プラントとしてここを渡した。

 

「それで、組織名は決まったのか」

 

「ああ、カガミ。発表してくれ」

 

 カガミと呼ばれた生徒が生徒たちの前に出て来て決まった組織名を発表する。

 

「組織名を発表する。組織名は『Dirty Dogs(DD)』 腐敗の泥に塗れ、その泥を喰らって生きる汚れた野犬たち。自らの輝きを失った私たちにふさわしい名前だ。私たちは無様に地べたを這いつくばってでも、あの腐り切った上層部の喉元へ喰らいついてやる!」

 

「奴らから私たちが喪った正義を返してもらう!」

 

 ここに集まった生徒たちは皆かつて正義を志しながらも、現実に負けた生徒たち。ある生徒は上に逆らって閑職に飛ばされ、ある生徒は資金難から力なき正義の無力さを知り力を手に入れるため汚職に手を染めた。

 

 自らの正義を喪い今も幻肢痛(ファントムペイン)に襲われる彼女たちの願いはただ一つ、上からふんぞり返って自分たちの手を汚さずに甘い汁を啜り、彼女たちの正義を踏みにじったヴァルキューレ警察への報復。

 

「カガミ、私たちは喪くした物のためではなく、未来のために戦う。それだけは忘れるな」

 

 カガミの言葉に熱狂する生徒たち。その渦虫にいるカガミにエイはそっと耳打ちする。自分の副長が決して復讐心に身を焼き尽くされることのないように。

 

 ヴァルキューレ警察がよりよくなるために、今後現れるカンナのような警官が矛盾に苦悩することなく真っすぐな道を歩けるように私たちは戦う。

 

「じゃあ、あなたたちへの連絡はそちらの副長さんがやるということで」

 

「ああ、依頼なら私に声をかけてくれ。受けるかどうかはこちらで精査して返事する」

 

 タバネと名乗る生徒に今後、依頼はDDの副長であるカガミに伝えるように言っておく。それに了承した彼女はノボリに伝えておくとだけ告げて眠そうにしているアリウス生徒を連れて去っていった。

 

「待たせましたね、さあ、ブラックマーケットに帰りますよ」

 

「ええー、タバネさん。もしかして今から見て回るんですか」

 

「当たり前でしょう。あなたがチームの皆の就職を手助けしたいと言ったんですから」

 

 職業斡旋をするとかなんとか、二人共何とも和やかな雰囲気だった。

 

「ボス、早速で悪いが依頼が入った。今から言う座標の場所に向かってくれ」

 

 二人を見送ると、カガミが近づいてきて任務を知らせてきた。場所はカイザーコンストラクションのゲヘナ支部。スラム街の生徒を低賃金で働かせていると告発者が現れ。その告発者が捕らえられているらしい。

 

「依頼主はその告発者だ。彼はどうやら自社を潰す材料を渡すことを約束にデスペラード社に寝返ったそうだ。目標はいつものクズだが、無傷で確保してくれ」

 

 依頼主が捕らえられているであろう場所の予測図がエイの端末に送信されてくる。

 

「元SRT所属のヴァルキューレ警察生たちが警備しているそうだ。同じ元SRT生徒のあんたの説得ならこちらに引き込めるかもしれない。倒した彼女たちをフルトン回収してくれ。後でこちらで回収する」

 

「了解、これより任務を開始する」

 

 エイは軍用ヘリからゲヘナのスラム街に飛び降り、そして任務を開始する。黒い光沢を放つスニーキングスーツを着用した片角の悪魔が一人ゲヘナの街を駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

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