このキヴォトスには変革が必要だ!だが、変革には犠牲が伴う!   作:王朝万歳

16 / 17
跳弾

 弾道ミサイルが直撃し、崩落し火炎が燃え盛るエデン条約の公会議場。

 

「なにが起こった? 敵の襲撃、いったいどこの誰が」

 

 ゲヘナ学園の風紀委員長、空崎ヒナは額から血を流しながら復帰する。アコや会場の警備に就いていた風紀委員たち、トリニティ側の生徒も、会場にいた全生徒が爆発に巻き込まれ負傷していた。そこかしこから生徒の呻き声や悲鳴が聞こえる。

 

「敵の狙いは何? いや、そんなことよりまず先生を助けないと!」

 

 あれほどの大爆発。自分たちでも重傷を負うほどのもの。弾丸一発が致命傷に繋がるキヴォトスの外から来た先生にとって、その脅威は計り知れない。

 早くこの場から先生を逃がさないと。ヒナは急いでミサイルの爆発前に先生がいたであろう地点へと向かおうとする。

 

「ひ、ヒナさん、ここで倒させてもらいます」

 

「……アリウス分校。そこをどきなさい!」

 

 だが、その行く手をアリウス生徒を連れたヒヨリが止めた。先生の救出に向かいたいヒナとヒヨリの統率するチームⅢとの交戦が開始した。

 

「やりましょうか」

 

「オーケーだ。リーダー」

 

 交戦開始と共にタバネたちの隊も前に出て、各々の武装でヒナに向けて発砲する。弾丸を受け、空崎ヒナが少し声を漏らしつつも撃ち返してくる。

 

「まとめて倒させてもらう」

 

「……! 総員、退避」

 

 不意に空崎ヒナのマシンガンの銃口から怪しい紫色の光が発せられ、無数の弾丸がビームのように発射される。危機を悟った、タバネは隊員たちに回避を呼びかけ、物陰へと退避する。

 

 逃げ遅れた他の隊の隊員たちは被弾し、少なくない数の前衛の生徒が持っていかれる。

 

「なるほど、手負いの虎ほど恐ろしい」

 

「まったくだ、リーダー。だが、対象は一人。カバーもいない」

 

「総員、瓦礫を伝って対象を包囲しろ」

 

 タバネは隣に逃げ込んだ隊員の一人と頷きあうと。

 無線でヒナの銃撃によって展開されている鉄のカーテンが止むまでの間に、隊員たちに瓦礫を使って隠密で移動するよう指示を出す。

 

「今だ! 突撃しろ!」

 

 装填した弾を撃ち尽くし、リロードでわずかに隙が生まれた空崎ヒナの下へタバネたち前衛組が物陰から抜けだし殺到する。

 周囲を取り囲むアリウス生たちの包囲網から空中へと飛び上がって逃げようと空崎ヒナはするが、その羽を一発の弾丸が掠めた。

 

「そのまま、足止めしていてください。私が撃ちます!」

 

「……っ。腕の良いスナイパーね」

 

 狙撃地点についたヒヨリからの狙撃だった。

 空中でのバランスを崩し、地面に転がるように激突する。

 

「ようこそ、空崎ヒナ」

 

「くっ」

 

 空崎ヒナの下へタバネが更に接近する。超接近戦。空埼ヒナは即座に手に持つ巨大な銃を槍のように突き出して牽制する。

 突き出される銃口。タバネはそれを体勢をずらすことで回避して懐に入り込み、手を回しこんで彼女の銃ごと投げ飛ばした。

 

「かはっ」

 

 勢いよく地面に投げ飛ばされ、地面に強く叩きつけられる。肺が圧迫され、ヒナの口から空気が漏れた。

 

「早く、先生の所に行かないといけない。だけど、彼女たちを何とかしないと」

 

 ヨロヨロと立ち上がりながら、ヒナは思案する。

 状況は悪化し、辺り一帯が戦闘区域になり、銃弾が飛び交っている。先生を見つけ出して退避させないといけない。その為に、彼女たちを退けないとならないがこちらの想定より遥かに強い。いや、上手い。物陰に隠れてこちらの攻撃をやり過ごしてくる彼女たちを倒すことは容易ではない。

 

「この状況でも、突破はできる。でも、それじゃあ、敵を先生たちの所に連れてきてしまう」

 

 このまま、あちらに行っても。先生を探している間にアリウス生たちに追いつかれてしまう。そうなれば、先生を守りながら戦う事になり、事態はますます悪化する。逃げるにしても先生を連れての即時離脱。これしかない。誰かが、先生を見つけてさえくれれば。

 

「どうする、リーダー。あの委員長、めちゃくちゃ粘るぞ。まずくないか」

 

「ここまでタフとは。想定外だった」

 

 ミサイルの砲撃、その後のアリウス生たちの追撃をくらってもまだ、まだ戦うつもりなのか、戦意を見せながら立ってくるヒナにドン引きする隊員。それにタバネも同意しながら困り顔を浮かべる。

 

 当初の予定としてはミサイル爆撃後に、ヒナに即座に追撃し戦闘不能にさせ。先生をこちらの班に確保して生かす予定だった。

 だが、ここまで粘られると。他のチームが先生を見つけ出し、始末されてしまう可能性が出てきた。それだけはまずい。

 ベアトリーチェ排除の為にはこの襲撃は必要だが。この襲撃が上手く行き過ぎてトリニティとゲヘナが消えるとベアトリーチェやアリウスを追う者がいなくなる。

 

 両陣営トップがいない今、トリニティとゲヘナによる全面戦争一歩手前のこの状況を無理やりにでもまとめることが出来るのは超法規的権限を持ち中立的立場を標榜する先生しかいない。

 例え建前であり、その実態が怪しくとも表向きはそうなっている。両陣営が戦争になった場合のことを考え、自分たちの有利の為先生の話に耳を貸す。そして、世間的に中立的立場の先生を担保に彼女たちはお互い刃を治めるだろう。

 

「一旦持ち場を離れるの手ではあるか」

 

 マダムからの指令で先生の殺害命令は出ている。アリウススクワッドのみならず自隊以外のアリウス生徒たち全員が競合相手だ。いつまでも時間を使ってはいられない。ヒナを倒すことを諦めここを抜け出すことをタバネは考慮し始める。

 

「先生、大丈夫ですか」

 

「“うん。なんとか”」

 

 事態が動いた。

 轟音が鳴り響き、シスターフッドの生徒がひと際大きな瓦礫が取り除いて、瓦礫の中から先生を救出していた。

 

「先生、無事でよかった。今いく」

 

「こいつ、まだこんなに力が!」

 

 ゲヘナとトリニティ、両陣営のトップが倒れた。この混乱を治められるのは先生しかいない。なんとしても逃がす。

 銃口が再び怪しい紫色の光を帯び、ビームのような弾丸が進行方向の生徒たちを襲う。銃撃をくらった隊員たちが倒れ、包囲網にわずかに穴が生れた。

 物陰に退避した生徒たちから撃たれながらも、それらを無視してヒナは強引に突破する。

 

「……くっ。何なのです。アレは!? 戦っても一切手ごたえのない、まるで幽霊のような」

 

「……」

 

「あれは聖徒会。……数百年前に消えたとされる「戒律の守護者」。シスターフッドの前身となった者たちです。ですが、どうしてここに?」

 

「調印が為された。……人形との取引上手くいったみたいだね、アツコ」

 

 ヒナの向かった先では正義実現委員会のハスミとツルギが、ミサキの指揮する調印によって複製された聖徒会のミメシスとアリウス生徒達と交戦を繰り広げていた。

 

「先生、ここから逃げて。この混乱を収められるのは先生しかいない!」

 

「“……生徒たちが危険な目に合っているのに、私が逃げるわけには”」

 

「ヒナ委員長ここから、先生を連れて逃げてください。お願いします、先生逃げてください」

 

「私からもお願いします、先生」

 

「“……わかった”」

 

 先生と合流したヒナは先生にここから逃げるように説得する。ヒナの説得に先生は抵抗するが、ツルギやハスミの説得も加わり苦渋の表情でそれを呑み込んだ。

 殿としてツルギとハスミをその場に残して、ヒナは先生を連れて逃げていく。

 

「ご、ごめんなさい。逃げられちゃいました」

 

「いいよ。それより、よくヒナ相手に生き残れたね、ヒヨリ」

 

「あ、あちらの隊の方々のおかげで助かりました」

 

 ヒヨリたちも遅れてその場に現れ、ミサキたちに合流する。タバネが先ほどまで使用していた支給品の方のオートマチック拳銃の弾のリロードをしていると、話題に上がりミサキが一瞬顔を向けてきた。

 それに手を軽く挙げて応える。

 

「ふーん。ヒナには逃げられたわけだけど、リーダー、どうする?」

 

『追う、シャーレの先生は排除対象だ』

 

 ミサキが無線機を取り出し、会話する。アリウススクワッドのリーダーであるサオリと連絡を取り合っていた。ヒナが先生を連れてこの場を離れたことを聞いたサオリはミサキに先生の追撃に向かうように指示を出した。

 

「私たちは先生を追う。この場の指揮権はそこの生徒に委譲する。じゃあ、任せたから」

 

「苦しいでしょうが、が、頑張ってくださいねぇ」

 

 数十、数百体のミメシスを召喚。ハスミやツルギたちへ突撃させ、隙を作ると。ミサキたちはタバネにこの場のミメシスやアリウス生徒たちの指揮権を委譲して、ヒナと先生を追いかけていった。

 

「不味いことになった」

 

 タバネは冷や汗をかきながら、内心舌打ちする。

 ヒナには保護すべき対象である先生を連れて逃げられ、アリウススクワッドがそれを追っている。そして、こちらはこの場の指揮権を委譲され、正義実現委員会という別の厄介者の相手をさせられることになった。

 空崎はここまでの戦闘で満身創痍の状態に陥っていた。まして、先生を連れての離脱。アリウススクワッドに追いつかれるのは想像に難くない。

 

「っ、彼女たちには逃げられましたか。ですが! これ以上は通させません!」

 

「くひひひひひ、……ぶっ殺してやる! 羽虫ども!」

 

 ショットガンとスナイパーライフルの銃声。召喚されていたミメシスたちの多くが跡形もなく消し飛んだ。

 目の前には強い覚悟を思わせる表情のハスミとパニックホラーに出て来る怪物のような狂笑のツルギが立っている。

 

「どうにかしますか。総員、戦闘準備!」

 

 この二人の網をを上手く躱して、先生を追う。

 タバネは隊員たちを指揮し、正義実現委員会の二人との戦闘を開始した。

 

「私がハスミを抑える。総員、ミメシスを使いながらツルギを足止めしろ。そちらの指揮はお前に任せた、散会している兵たちもある程度戻せ」

 

「了解、リーダー。こちらで増員する兵数は調整しておく」

 

 すべてのミメシスを自隊の元のリーダーだった生徒に預け、タバネは単身ハスミの相手をする。

 崩れた瓦礫などの遮蔽物を使いながら、ハスミに距離を離されないようしながら交戦する。

 タバネからツルギの相手を頼まれた隊員はタバネの意図を理解して、指示に頷き、会場に散会している一般の正義実現委員会と交戦中の兵をこちらの呼び寄せて、ツルギ委員長と戦う。

 

「厄介ですね、チョロチョロと隠れまわって」

 

 崩れた柱や瓦礫が群生する地帯。

 ハスミが苛立ちを込めてライフルの弾を撃つが、姿を現していた目標であるタバネは柱に身を隠すことでそれを回避する。

 数秒後、拳銃の発砲音が聴こえ、柱に隠れているハスミの所に跳弾が跳んでくる。ハスミは別の柱に移動することで跳んでくる弾を回避する。

 

 戦況は硬直していた。撃っては隠れられ撃ち返される。この繰り返しである。向こう側ではツルギが単騎で奮闘している。

 こちらの相手を早く片付け、多勢に無勢のツルギを助けにいきたいハスミ。じわじわと焦りが生れてくる。

 

「流石は正義実現委員会の副委員長。正確な狙撃だ」

 

「なんなんですか。彼女は! ふざけているのですか!」

 

 撃ってきた方向から余裕綽綽といった様子のハスミへの称賛の声が届いてくる。

 普段なら手放しに喜べる声だが、声の主はこの会場を襲撃したテロリストの一員。まして、この状況をどこか楽しんでいるような声はハスミを更に苛立たせた。

 

「挑発はこんなものでいいでしょう。あの副委員長は感情豊かそうだったからな。状況は整った」

 

 怒るハスミとは反対に、柱に隠れたタバネは戦況を俯瞰して見ていた。

 

「ぎゃははははっは、再生するって言うならそれ以上の早さで壊してやる!」

 

 あちら側ではツルギと自身の隊員たちがミメシスを盾にしながら戦っていた。無限に再生する壁と合間合間に差し込んでくる射撃に苛立ったのか。

 ツルギが被弾覚悟で、敵を倒して回っている。

 

 今なら、注意が逸れている。

 

『ミメシスたちだけで前線を固めろ』

 

 タバネは無線で向こう側へ指示を出す。

 

「そろそろ、決着をつけようかじゃないか。羽川ハスミ」

 

 左手を胸ポケットに入れながら、隠れていた柱からタバネは出る。タバネの様子にハスミは怪訝な顔をする。タバネは胸ポケットから爆弾を取り出した。

 

「この爆弾。なんだと思う」

 

「……ただの爆弾に見えますが」

 

 タバネが取り出したのは何の変哲もないただの爆弾だった。この局面でただの爆弾が何だと言うのか。確かに一定の効果は見込めるが、そこまで大層に掲げるものではない。

 彼女の様子にハスミは困惑する。

 

「そう一見すればただの爆弾だ。だが、これが百合園セイアの暗殺に使われる爆弾と同型の物だったら?」

 

「……! まさか!」

 

 予想される最悪な未来がハスミの顔を一瞬で青ざめさせた。

 確かにその爆弾なら戦況を大きく変える要因になる。そして、その爆弾の最も有効な使用先は相手は一人しかいない。

 ニヤニヤと意味深に笑うタバネの視線はここから少し離れた地点で戦うツルギに向けられていた。

 

「……ツッ」

 

「おっと、そうはさせない。早撃ちなら私の方が早い」

 

 投擲される爆弾。放物線を描きながら飛んでいくそれをハスミは撃ち落とそうとするが、それよりも早くタバネがリボルバーを引き抜き、ハスミの手からライフルを撃ち落とす。

 

「貴様の想定通りだ。副委員長、そうこれは……」

 

 もうハスミに残された手段は一つしかなかった。

 

「ツルギ! 危ない!」

 

「な、ハスミ」

 

 自分がツルギの身代わりになる。自己を顧みない友人への最大限の献身。その場を跳躍し、空中でカチカチと音を鳴らしながら二転三転する爆弾より早くツルギの下に辿りつき、ツルギに覆いかぶさる。

 

 爆発までの後わずか。自治区の治安を守るための治安維持活動。ツルギに自身のダイエットを手助けしてもらったこと。ハスミの中でそれらが走馬灯となって流れる。

 

 ああ、こんなにもあっけないものなのですね。

 

「ツルギ、それに正実の皆、楽しい3年間、ありがとうございました」

 

ツルギの耳がハスミからの感謝の言葉を捉える。

 白洲アズサが百合園セイアの暗殺に使用する予定だった爆弾と同じもの。

 

「ヘイローを破壊する爆弾……」

 

キヴォトス人に特攻効果を持つと予想される殺人兵器が爆発する。

 

──────バン──────

 

 響き渡る爆弾の炸裂音。その音と共に正義実現委員会の副委員長、ハスミの命が落ちる―

 

「……」

 

「え! あれ、どうして」

 

「……じゃない!」

 

 ―ことはなかった。爆弾は爆発音だけ立てるだけで、実際に爆発することはなかった。

 

 

―バン、バン、バン、ウキキイイイ──!! ―

 

 

 代わりに、SARUと書かれた独特なバンダナを着けた黒いシンバルを持ったピポ猿のホログラムを投影されていた。SARUは一定のリズムでシンバルを鳴らし、こちらを小馬鹿にするように跳ね回っている。

 

「……」

 

沈黙。漂う居たたまれない空気。ミメシスたちまでも首を傾げながら、ハスミをじっと見つめていた。

シュールな間がその空間に生まれていた。

 

「……あ、あの、これは」

 

悲壮な覚悟を決めていたハスミの顔が一転、その気恥ずかしさから、かあーと赤く染まっていく。

 

「ハスミ。重い、どいてくれ」

 

「は、はい。それとそこまで太ってません!」

 

 ハスミの下敷きにされたツルギからの苦情。最近、深夜にパフェをドカ食いしてしまったことで、増量を気にしていたハスミにとってはクリティカルだった。

 羞恥心は限界突破。ハスミの顔は顔から火を噴くのではと思わせるほど赤くなった。

 

「私にはまだ、やらなければならない仕事がある。ここらでお暇させてもらおうか」

 

 いつの間にか、二人から距離をとっていたタバネは笑いながらそう言い残してその場を後にしていった。

 ハスミやツルギはそれを追おうとするが、彼女たちの行く手をミメシスたちが阻んだ。

 

「諦めろ。もう追いつけない。救助隊が誘因された、彼女たちを守りに行くぞ」

 

「ツルギ。もう、何なのですか、あの生徒は!」

 

 ブチィィイイイイと言う擬音が鳴って、ハスミの脳内の血管が切れた。

 先ほどまでアリウスに向けていた怒りとは別種の怒り。ガスマスクで顔は見えなかったが、明らかに人を食ったような笑いを浮かべていたあのアリウス生徒に向けた極めて個人的な怒りを抱きつつ、ハスミはツルギとアリウス生徒たちに襲われている救助部隊の救援に向かった。

 

 ◇

 

『はい。そのまま、誘因した救助隊を使ってハスミやツルギを振り回してください。決してまともに戦わないように。後、負傷者への過度の追撃は禁止、くれぐれもヘイローは消すな』

 

『了解。危なくなったら引くけど、いいよな? リーダー』

 

『ええ、それで構いません。では、私が戻ってくるまでそちらを頼みます』

 

 会場から抜け出したタバネは無線で、部隊を任せた隊員にツルギの相手する為に層を薄くしたことで、誘因されたトリニティ側の救助隊を襲わせ、ツルギたち正義実現員会に負傷者を抱えての撤退戦を行わせるように指示を出す。

 

「いい支援ですね。令嬢のご友人たち」

 

 少々手間取ったが。これなら、まだ間に合う。

 作戦の支援をしてくれる令嬢から預かった令嬢の学友たち。ハスミとの戦闘中に連絡を取って、彼女たちに置いてもらっておいたバイクにまたがり、エンジンをかける。

 タバネはミサイルによって飛び散った瓦礫たちを躱しながら、バイクを全速力で走らせ、先生やアリウススクワッドを追った。

 

「セナッ! こっち!!」

 

「先生! 手を!」

 

「ようやく追いつきました」

 

 市内をバイクで走ること数分。タバネはギリギリのところで間に合った。

 空崎ヒナがサオリの魔の手から先生を必死に庇い、助けに来たゲヘナ救急医学部のセナを乗せようとしていた。

 先生が救急車の車両に引っ張りあげられるまでの間、射線が通る。そのチャンスを逃すまいとサオリが正確に武器を構える。

 

「逃すか!!」

 

「させませんよ」

 

 サオリの手が引き金を引く前に、後ろからサオリの頭を撃ち抜いた。突然の頭部への衝撃。サオリは体勢を崩してしまい、銃口はずれ、弾丸は明後日の方向へと跳んでいった。

 間一髪、先生やヒナは負傷を負いながらも無事にその場を後にしていった。

 

「貴様、なぜ邪魔をした!」

 

「っていうか、どうしてここにいるの。私たち、あなたにあそこの指揮任せなかったけ」

 

「ス、ス、スス(逃げたの?)」

 

「アツコちゃんの言う通りですね。本当に仲間を置いていっちゃたんですか」

 

 他の三人が、本来ここにいるはずのない人物がいることに困惑する中。サオリがタバネになぜ、先生を排除する邪魔をしたのか詰め寄ってくる。

 命令を無視したのか。あの場での指揮はどうなったのかなど、サオリが鬼の剣幕でタバネの胸倉を掴みながら答えるように次々質問する。

 

「指揮権は委譲しました。それとあの一発は誤射です」

 

 ふう。なんとか間に合いましたかとタバネは内心で安堵しつつ。

 

 烈火の如き怒りようのサオリの顔を間近に、タバネは一切怯むことなく飄々とした様子でサオリにそんなことを嘯いた。

 あまりのふてぶてしさ。火に更に油を注ぐ行為。

 

「それにアリウススクワッドからは既に裏切り者が出ています。不安になるのは当然でしょう」

 

「もういい。持ち場に戻れ」

 

 アリウススクワッドを裏切り、トリニティ側についた裏切り者。白洲アズサ。彼女の存在を持ち出され、サオリは少し罰が悪くなったのか胸倉を掴んでいた手を離す。

 そして、一連の様子からこれ以上問い詰めてもこの隊員には無駄だということを確信し、タバネを元の場所に帰すことにした。

 

「アリウススクワッドの皆さん。元仲間ということで、情に流されて負けるなんてことがないよう祈っておきますよ」

 

 サオリから元の場所に戻るように言われたタバネはアリウススクワッド全員にそんな軽口を言うと、こちらに見せつけるようにガンプレイした後、ホルスターにリボルバーを仕舞い込んで帰っていった。

 去っていく彼女の後ろ姿。オートマチック拳銃のほかに、わざわざ、SAAなどという骨董品を別に装備しているから誤射など起こすのではないかとその場の四人は声には出さないが思った。

 

「はあー、まったく、スバルの奴、どういう教育をしているんだ。教育はしっかりとしたいものだな? アズサ」

 

「……サオリ」

 

 サオリがビルの曲がり角に向けて声をかけると、身を潜めて動向を探っていた白洲アズサがアリウススクワッドたちの前に姿を現した。

 

 

 

 ◇

 

 エデン条約から数日後。トリニティ領内の企業ビルの地下室でタバネたちの隊はゆったりとした様子で話し合っていた。

 

「今頃、スクワッドの連中、どこにいるんでしょうねえ」

 

「マダムは私たちを使って捜索は続けている。いずれは見つかるだろう。トリニティが自治区の境界線で検問も行っているから、トリニティ自治区内の廃墟やスラム街が有力だろうが」

 

 結局、エデン条約は復帰してきた先生の指揮の下、主にトリニティたちの尽力によって結ばれ、アリウス分校による襲撃は失敗に終わった。総指揮を務めていたアリウススクワッドの面々たちは襲撃の失敗と同時にアリウスから失踪した。

 

 今は、彼女たちの失踪に怒り狂ったマダムの命令で、アリウス生徒たちが彼女たちの身柄を確保するべく捜索を行っている。タバネたちも例外ではなく、捜索に加わっている。

 

「むむむ!」

 

「おっと、口枷を外してませんでしたね」

 

「はあ、はあ……もう全部喋った! 早く私を解放してくれ!」

 

 室内の中央。アリウスの大人。アリウス生徒たちを教導する教官が濡れたタオルを被せられ、口枷を嵌められた状態で椅子に縛り付けられていた。

 アリウススクワッドの捜索活動を監視すると言って、現れた教官だったが。不幸なことに通報を聞いて駆け付けたトリニティの正義実現委員会に追い立てられ、連絡を取れなくなった後。

 タバネたちに拘束され、拷問にかけられていた。

 

「いいや、まだだ。まだ、マダムがゲマトリアの協力者と取引したミサイルの取引記録。その隠し場所を教えてもらってない」

 

「私は知らない。本当だ。本当なんだ。もういいだろう、もう十分のはずだ。早くここから出してくれ!」

 

 タバネが教官の首に注射器を刺しこんで、自白剤を投与する。先天的か、後天的か。耐性を持っているだろう。教官はなかなか首を割らない。

 口の堅い教官に、タバネはため息を吐くと、教官に耳打ちをする。

 

「マダムは私たちを駒としか思っていない。教官であろうと生徒であろうと、彼女にとっては等しく搾取の対象でしかない。一度、その身柄を押さえられた、お前をマダムはどうすると思う」

 

「……」

 

 自分がどうなるか、想像したのだろう。タバネの言葉に教官の顔が青ざめていく。

 

「賢い選択をするべきだ。そうでなければお前に明日はない」

 

「……わかった。言おう。その代わり、マダムが捕まるまで私を匿ってくれ」

 

 とうとう諦めた教官はタバネに自身の命を保証してもらうことを交換条件に情報を吐いたのだった。

 

 教官から聞くべきことを聞きつくし暫く、タバネたちは地下室で寛いだ。

 午後からの捜索活動を開始しようと思っていた頃。丁度、タイミングよく無線が鳴った。

 

『こちらC班。スクワッドを発見した。応援を頼む』

 

『はい。了解しました。すぐに向かいます』

 

 無線の内容は失踪したスクワッドを発見報告。

 タバネたちは近辺で見つかったスクワッドを捕らえにむかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。