このキヴォトスには変革が必要だ!だが、変革には犠牲が伴う!   作:王朝万歳

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カイザーPMC

「ノボリ様。よくぞ、いらっしゃいました」

 

「すまんなあ。いつも世話になっている」

 

 ブラックマーケット支部のカイザー銀行に。私はデスペラード社の収益の一部を納めに来ていた。

 

 ロビーの椅子に腰かけ、担当になった昔馴染みの銀行員と話す。

 

「おお、今月も上手くいったようですね」

 

「ああ、カイザーPMCの奴ら、随分と羽振りが良さそうだ」

 

「さらに儲けられますね」

 

 私たちデスペラード社は、同業のカイザーPMCをカイザー銀行からの依頼で潰している。

 

 一方で銀行は、基地を襲撃されたカイザーPMCに修理費を貸しつけていた。

 

 要するに、カイザーPMCがアビドス高校に仕掛けているのと同じ手口を、カイザーPMCに使っているのだ。

 

「貴方と付き合いだしてから、私の銀行内での地位もうなぎ登り。随分と出世させてもらいました」

 

 金を数え終えた銀行員はあくどい笑みを浮かべる。

 

「なに、私にも利がある。今後とも仲良くしようじゃないか」

 

 それに私も同じようにいい笑みを浮かべる。騙す側だと信じて疑わないカイザーPMCの滑稽さが、どうにも笑いを誘った。

 

「奴ら、自分たちが利用されているとも知らずに。本当に哀れだな」

 

「ええ、まったく」

 

 二人で笑いあっていると、突如、銀行が爆発した。

 ロビーが揺れ、窓ガラスが砕け散る。

 

「全員、武器を捨てて、その場に伏せて」

 

「言うことを聞かないと、痛い目にあいますよ☆」

 

「え、えっと、皆さん、武器を捨てて、大人しく伏せててください」

 

「武器を捨ててって、聞こえなかった」

 

「さ~て、ここまでは上手くいったねえ~」

 

「“皆、一般人には危害を加えないようにね”」

 

 紙袋と頭巾を被った五人の銀行強盗が侵入してきて、あっという間に銀行を制圧した。

 

「ひいい、助けて!」

 

「私の後ろに下がって、そのままじっとしてろ」

 

 銀行員を後ろに下げさせ、その場に伏せておく。

 

「ん、ファウスト、撤退の指示を」

 

「え、私ですか。え、えっと……み、皆さん、撤退しましょ」

 

 覆面水着団と名乗る珍妙な銀行強盗のリーダーが撤退を指示し、金を奪って去っていった。

 

「はあ……ひどい目に遭いましたね」

 

「まったくだ]

 

 二人で立ち上がり、元の椅子に腰を下ろす。

 

「ところで、金を盗まれたようだが、我々の報酬はちゃんと用意できるんだろうな?」

 

「あ、それは」

 

「おっと、困るな。金の話はなあなあではいかんだろ」

 

「か、勘弁してくださいよ」

 

 せっかくだから、銀行員を少々からかっておいた。

 

「後日、送金しておきますので」

 

「よろしく頼んだ。後、アカデミーの方にも頼んだぞ」

 

「……! ええ、任せておいてください」

 

 銀行員と金のやり取りを終え、外に出る。

 

「あの銀行強盗たち、アビドスの生徒たちか」

 

 ピンク髪の生徒が持っていた盾に見覚えがあった。

 

 彼女らは金に頓着していなかった。となれば、狙いは帳簿か。しかし、アビドス生たちが自力でカイザーの企みに気づいたとは思えない。

 

「そういえば、“先生”が来ていたな」

 

 連邦生徒会長の後任として外からキヴォトスにやってきた異物。先生がアビドスからの救援要請に応じて来ていたのを思い出した。

 

「となれば、事態は大きく動くな。カイザーの動きもきな臭い。そして、暗躍する黒服」

 

 自高の借金の実態に気づいたアビドス生たち。先日、襲撃をかけた時に倉庫に大量の武器を抱えていたカイザーPMC。そして、タバネから聞いた組織、ゲマトリアの影。

 

「なるほど、狙いが読めた。せいぜい、一儲けさせてもらおう」

 

 このアビドスを巡る暗闘に、私も一枚噛ませてもらおう。

 

『もしもし? 何、授業中? それは悪かったな。お前たちに頼みたい仕事ができた。ああ、代わりの者を送っておく』

 

 砂漠で梔子ユメを拾った日、離れの砂漠で拾ったアビドスの生徒たち。

 

 我が社の社員を派遣することにした。

 

 

 ◇

 

 ブラックマーケット中央区の地下。ひび割れた校舎の教室。

 

「教官たち、仕事に行くのか」

 

「ああ、社長直々に仕事の依頼が入った。お前たち、私が外にいる間はBDで勉強しておけよ」

 

 教壇に立ち、ヘルメット団やストリートチルドレンなど、無学籍の学生たちに勉強を教えていた。

 

 茶髪の長身の生徒と赤髪の小柄な生徒。ウェスタンな服装を着た彼女らが。

 

 社長のノボリから依頼を受け、動きだす。

 

「仕事の時間だ、相棒」

 

「ええ~、話聞いてたけど、アビドスじゃん。私、あそこ、行きたくないんだけど」

 

 教室から出ていきたがらない。赤髪の少女を。茶髪の少女が無理やり引っ張て、愛車の助手席に乗せる。

 

「喜べ、社長からのご達しだ。“過去と決別しろ”だと」

 

「……! 最高、やる気出てきたかも」

 

 現金な相棒に呆れながら、運転席に乗車した少女はアクセルを踏み。二人の乗る車はアビドスに向かった。

 

 アビドスに到着した二人は、ターゲットの人物が出てくるのを待ち。

 

「待っていたぞ。小鳥遊ホシノ」

 

「誰、君たち」

 

「そんなことはどうでもいいだろう。それより、黒服と契約したんだろ」

 

「っ! 何でそれを知ってるの」

 

「さあな、だが、小鳥遊ホシノ。お前に決して拒めない提案をを一つ持ってきた」

 

 大人たちの策謀渦巻くアビドスで暗略が始まった。すべては、勝者となり。奪われたすべてを奪い返すために

 

 

 

 

 

 ◇

 

「待っていましたよ、先生」

 

「“あなたが黒服”」

 

 オフィスビルの上階の執務室で、黒いスーツを着た異形の男と先生が対峙していた。

 

「“ホシノは私の生徒だ。返してもらうよ”」

 

「ほう。しかし、この契約は正当性のあるものです。一方的に反故にできるものではありませんが」

 

「“私は彼女たちの顧問だ。顧問である私のサイン無しではその契約は成立しない。彼女は返してもらう”」

 

 小鳥遊ホシノを神秘研究のための実験台にしたい黒服と、大事な生徒を守りたい先生の大人の戦い。

 

 黒服は契約書の正当性を主張し、先生は顧問として自身のサインの不備を突いて契約の正当性を揺るがす。

 

「先生、私たち、ゲマトリアの協力者になりませんか」

 

「“断る”」

 

「“ホシノの居場所を教えて”」

 

 舌戦に勝利した先生は、黒服からホシノの居場所を聞き出す。アビドスでの事件解決に向けて、一歩踏み出した先生。

 

「ここか。邪魔するぞ」

 

「邪魔するよ~」

 

 その前に見知らぬ生徒たちが現れた。

 

「おや、あなたたちは? この場所は一部の人間にしか知らせていないのですが」

 

「私たちは獅子川ダウと月治ヨウコ。旧アビドス生徒会のメンバーだったものだ。ここへは、そこの先生をつけてきた」

 

 予想外の来訪者だと尋ねる黒服に、彼女たちは旧アビドス生徒会メンバーだと答える。

 

「それで、ダウさんとヨウコさんは今回は何の用で?」

 

「なに、ただ、黒服、お前にとっていい知らせを届けに来ただけだ」

 

「私と貴女たちは初対面のはずですが。そんな私にいい知らせですか」

 

「そう、いい知らせだ。私たちは小鳥遊ホシノからアビドス生徒会を引き継ぎ生徒会長になった」

 

 獅子川ダウと名乗った生徒の言葉に、先生と黒服、二人共固まった。

 

 旧アビドス生徒会の彼女たちは、あの日、黒服と契約した小鳥遊ホシノを脅迫し、契約を迫った。

 

 小鳥遊ホシノが退学することで、実務を行える生徒会はいなくなり。アビドス生徒会は解散。学校の運営者がいなくなったアビドス高校は土地の不法占拠者としてカイザーに潰される。私たちをアビドス生徒会に入れろ、代わりに助けてやると。

 

「そして、生徒会長の権限で小鳥遊ホシノを退学させる。これで、小鳥遊ホシノはアビドスの生徒ではなくなった」

 

 私たちが居ることで、アビドス生徒会は続いている。

 

 私たちの協力者にならなければ、アビドス高校を襲うことの正当性がなくなるぞと。カイザーPMC理事にも脅しをかけ、自主退学をすることを交換条件に基地内の査察や重要情報の提供するよう契約させた。

 

「これで、黒服との契約は正当なものになった。先生、あんたの出る幕はない」

 

「“っ~~~~~”」

 

 彼女たちから教えられた事実に先生は、拳を力強く握りしめる。爪が手のひらの肉に刺さり、血が数滴垂れる。

 

「契約は続行。これからは黒服と先生、どちらが小鳥遊ホシノを確保するかの勝負になるな」

 

「“ホシノ!! ”」

 

「わっと! あぶな! って、もういないし」

 

 先生は部屋から走り去っていった。

 

「黒服、あんたは動かないでいいのか」

 

 先生が去って、なお机に座ったまま動こうとしない黒服に問いかければ。

 

「もう動いても意味はないのでしょう」

 

「バレてたか」

 

 作戦に気づいたのだろう黒服の態度に、流石にバレたかと苦笑しながら、手元から携帯を取り出す。

 

『社長、契約は続行だ。動いてくれ』

 

『流石はわが社の社員。すばらしい交渉力だ』

 

 デスペラード社が本格手に行動を開始した。

 

 ◇

 

 デスペラード社、本社。

 

『わかった。今すぐ、そちらに向かおう』

 

 部下からの連絡を受け終え、私は電話を置いた。

 

「何か、急用でもできたのか。ノボリ社長よ」

 

「ああ、部下からショーに誘われてな」

 

 シルクハットを被り、骸骨のお面をつけた。

 うちと提携して違法薬物の取引をしている。元SRT所属で、現在は山海経所属の生徒。

 

「お前も来るといい。スカルフェイス、面白い物が見れるぞ」

 

「同行させてもらおう」

 

 彼女をこれからアビドスで始まるショーに誘う。

 

「それで、ショーのチケット代は」

 

「連邦生徒会の権限による、事件のもみ消しで頼んだ」

 

 察しのいい彼女に、事件のもみ消しを頼み。ヘリに乗り込む。

 

「おい、皆、襲撃にいくぞ!」

 

 大勢のデスペラード社、社員がカイザーPMC襲撃に向かった。

 

 先生が生徒たちに協力を要請し、ホシノ奪還のため、カイザーPMCと戦っていた。同時刻。

 

「なぜ、貴様たちが私たちを襲うのだ」

 

「気分が変わっただけだよー」

 

「私たちは、最もキヴォトス人として純粋だからな」

 

 PMCの裏手から、火が上がった。

 

「オラオラ、くたばりやがれ。このクソ企業が」

 

「てめえらの汚い地上げ行為で、うちらの学校は潰れたぞ。お前らも、少しは痛い目見ろや!」

 

 それを皮切りにデスペラード社員が基地を襲い始めた。

 

「襲撃が止んだか。ここらで撤収する」

 

 表にいる部下からトリニティとゲヘナによるカイザー襲撃が止んだのを教えて貰い。

 

「箱舟、ビナー、それに大量の武器と資源か。随分、潤わせて貰った」

 

 カイザー保管庫から、奴らの隠していた機密情報、物資や資金を奪い、撤収した。

 

 ◇

 

 翌日

 

 昇る朝日の中、先生とアビドス生たちの手で、ホシノを取り戻し、喜びあっていた。

 

「あ! いたいた。アビドスの子たち」

 

「ここにいたか」

 

 そこに、旧アビドス生の二人が現れた。

 

「君たち、まだ何かするつもりなの」

 

「ん……これ以上、何かするっていうなら、相手する」

 

 先生から彼女たちが今回起こったアビドスを巡るカイザーとアビドス生との間の動乱に暗躍していたことを聞いた。アビドスの生徒たちは二人を警戒する

 

「安心しろ。もう何もしない。ただ、私たちはお前たちに忘れ物を届けに来ただけだからな」

 

「忘れ物ですって」

 

 茶髪の少女が語る内容にセリナは怪訝そうにつぶやく。

 

「おい、小鳥遊ホシノ、スマホを差し出せ」

 

「あ、ちょ。何するの」

 

 ホシノがスマホを差し出すと一瞬でひったくられた。

 

「返すぞ、口座を見てみろ」

 

「な、なにさ。この大金」

 

 返却されたスマホの銀行口座には多額の金が取引されている。

 

「私たちが、黒服から預かっていた金だ」

 

 その額、4億8118万。アビドスの借金のキッチリ半額が口座に振り込まれていた。

 

「それと私たちは、ここを自主退学した。これで、アビドス生徒会は梔子ユメと小鳥遊ホシノ、お前たちだけだ」

 

 更に二人は、自分たちが生徒会を抜け、自主退学したことを、ホシノたちに伝えた。

 

 カイザーPMC理事もどこかに去ってしまった今、もうホシノを縛る者はいない。

 

「結局、君たちは何がしたかったの」

 

 彼女たちの不可解な行動にホシノが疑問を口にする。

 

「過去との決別をしにきた。後はシンプルに依頼が来たからだ」

 

「過去との決別?」

 

 砂漠が日の光に照らされ、燦然と輝き、ハゲワシたちが空を飛ぶ。

 

「そう。私たちは土地と一緒に沈む哀れなこの学校を潰しに来た」

 

「私たちは、3年前に旧アビドス生徒会で庶務を勤めていた。拡がる砂漠化問題に旧アビドス生徒会が出した結論は土地と心中することだった」

 

「ふざけた結論だ。学校は人が作るものだ。私たちが、移動して他の学区に移り住めば、アビドスは存続する」

 

「当時の私たちはそう考え何人かのアビドス生を連れ、他の学区にアビドス高校を建設することを目指す。アビドス再建委員会を作った」

 

「だから、死にたがりのリーダーに率いられた邪魔なお前たちを排除し、一度学校を取り潰して。新たに、アビドス高校を再建しようとしたってわけだ」

 

「だが、幹は腐っても枝葉は生きていたらしい。後輩の助けで、小鳥遊ホシノは救出され、アビドス高等学校は存続した。今回の話はそれだけだ」

 

 彼女たちの出自と目的の暴露に、その場にいる全員が息をのんだ。

 

 静寂の中、着信音が響いた。

 

『社長か。要件は済ませた。今、そちらに向かう』

 

「“ちょっと、代わって"」

 

 彼女の上司であるノボリとの会話に割り込み。

 先生は電話を変わるよう声をかけた。

 

 ダウが相棒に目を合わせると、相棒はやれやれといった様子で手を挙げながら、首を横に振っていた。

 

『社長、先生が変わってほしいそうだ。変わるぞ』

 

「”ありがとう”」

 

 ダウから先生にスマホが手渡される。

 

『“初めまして、あなたが彼女たちの社長かい"』

 

『そうだが、それがどうした』

 

 電話先の相手が彼女たちに指示を出していた人物である。そうわかった。先生の声色が変わる。

 

『“今回、タイミングが誤れば、ホシノは死んでいた"』

 

 事実、デスペラードの二人が、先生と黒服との交渉に割り込むのが少しでも早ければ、先生はホシノの居場所を掴めずに、死なせていたかもしれない。

 

 生徒が死ぬかもしれない状況を、生徒を使って作り出した。電話先の大人であろう人物に先生は怒っていた。

 

『お優しいじゃないか、先生。だが、こんなことはブラックマーケットや裏社会では日常茶飯事だ』

 

『そもそも、黒服と安易に契約した。小鳥遊ホシノの自己責任だ。私に怒りを抱くのは筋違いだ』

 

 先生のドスの効いた声に相手も一切動じず。通話相手は安易に裏社会の人間と契約した小鳥遊ホシノの自己責任だと言い切った。

 

『“生徒が責任を負う必要なんてない。それに、私は大人として生徒が犠牲になるのは見逃せない。絶対にあなたの下にたどり着いて、あなたから間違った教育を受けている生徒を解放してみせる"』

 

『ほざけ。なんの経験もない。道徳だけで、物を語る、青二才が。やれるものなら、やってみろ』

 

 ブチっと何かがキレたような音がして、通話が切れた。

 

「じゃあな、二度と会うことはないだろう」

 

「じゃあね~」

 

 デスペラードの二人も帰っていった。

 

 

 

 

 ◇

 

 トリニティ総合学園のとあるカフェテラス

 

「ガキがッ、舐めやがって」

 

「ボス、落ち着いて」

 

「落ち着きたまえよ、ノボリ」

 

 先生と会話し、キレたノボリを友人二人がなだめる。

 

 その様子をノボリ直属の秘書三人組が背後から見守る。

 

「お客様、注文のお品のイチジクのタルト、ガトーショコラ、モンブラン。ドリンクのアメリカンのホットをお一つ、ブレンドコーヒーのホットをお二つになります」

 

 店員が注文していたメニューを届ける。

 

「おい、なんだ。その砂糖の量は」

 

「角砂糖が8、9、10個。凄い。テーブルから角砂糖が消えた」

 

「うるさいなー 私は君たち脳筋と違って、頭を使うんだ。これぐらいの砂糖は必要なんだ」

 

 ケーキが届くやいなや、コーヒーに大量の砂糖をぶち込み始めた。友人、識見フカメの行動にドン引きしたのか。キレていたノボリは冷静になった。

 

 そこからは三人仲良く談笑しながらケーキを食べ始めた。

 

「それで、いつ彼は来るんだい」

 

「もうすぐのはずだ」

 

 ケーキを食べ進め、残り半分に差し掛かった頃、フカメはノボリに本題の話を切り出した。

 

 彼女たちはある男性を待っていた。

 

「社長、ご会談、予定の方が来ました」

 

 秘書が約束の人物が到着したことを伝えてきた。

 

 楽な姿勢を解いて、佇まいを正す。

 

「おや、遅れてしまったようですね。申し訳ありません」

 

「いや、時間通りだ。席に座って、好きな物を注文するといい」

 

 待ち合わせ時刻、秘書の一人に連れられて、黒服がノボリたち三人の前に現れた。

 

「では、お言葉に甘えさせてもらいましょう。そこの店員の方、ショートケーキとコーヒーのエスプレッソを一つ」

 

「かしこまりました」

 

 席に着いた黒服が店員に注文し、注文を受けた店員が下がる。

 

「それでは、取引を始めましょうか」

 

「そうだな」

 

 黒服との取引が始まった。

 

「こちらが、黒服。お前がカイザーを使って、アビドスに介入していた証拠の抹消。それと、神秘の関する幾分かの研究成果を提供する」

 

「代わりに、私は神秘に関する研究成果をそちらより多めに提供する。約束でしたね」

 

 取引の内容はシンプル、黒服がアビドスに関わっていた証拠の抹消と神秘に研究成果の交換だ。

 

「無名の司祭たち、アトラハーシスの箱舟、デカグラマトン。欲しかった情報とは少し違うが、有用だな」

 

「なるほど、契約した後でも、代理の者に引き継ぐことが可能。そして、所属した学園によって、生徒に学園のコードのようなテキストが貼り付けられると。興味深い」

 

 意見交換は有意義に終わった。

 

「では、私は帰らせていただきます」

 

「そうか、意外に有意義な時間を過ごせてよかったぞ。だが、次は敵かもしれんな」

 

「ククク、そうならないことを祈りますよ」

 

 黒服は荷物をまとめ、ゆったりと歩く。

 

 帰り際、交渉中一言も喋っていなかったタバネと呼ばれていた少女と目があう。そこには深い憎悪があった。

 

「キヴォトスに現れた異物。先生、それに大人を狩る子供たち、デスペラード。とても興味深い存在です。ですが……」

 

 先生とは現状、敵対寄りの中立だが。デスペラード社とは敵対関係にあるだろう。いつ、こちらが狩られるか。わからない。

 

「後で、ゲマトリア、全体に注意喚起が必要ですね。特にベアトリーチェには念入りにしておかなければ」

 

 黒服は同じゲマトリアの同僚。ベアトリーチェをどう説得させるか、考えながら道を後にした。

 

 

 

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