このキヴォトスには変革が必要だ!だが、変革には犠牲が伴う! 作:王朝万歳
昼、連邦生徒会の防衛室に三人の生徒が集まっていた。一人の生徒は椅子に座り、他二人はその生徒の前に立っている。
椅子に座ったピンク髪のヤギのような目をした生徒。連邦生徒会防衛室、室長。不知火カヤ。
「……巨乳に入るんでしょうか? う~ん。しかし、あれはどう見ても胸筋のような?」
なにやら、呼び寄せた一人の身体的特徴について思案していた彼女だったが。首を振って正気に戻し、来客者たちに対応する。
「あなたが来月から我が防衛室に配属されるノボリさんですね」
「ああ。ミレニアム学園から来た」
私はこちらに顔を向けてきたカヤの言葉にうなづいて返事する。
「それで、そちらのあなたが、え~と……」
「今日から、あなたが保持する部隊。XOFの指揮官に戻らせていただく。
「ああー。そうでした。骸面フェイさんでしたね。忘れたわけではありませんよ。ただ、少し、思い出せなかっただけで」
「ええ。私は無記録な生徒。他意は無いと分かっています。それより、このような場で、面を被ってしまっていて申しわけない」
「あなたの事情は聞いているので、別に気にしませんよ」
次に、私の隣に立つ人物。スカルフェイスがカヤと挨拶をかわす。
初対面ということだったな。──ここは白を切っておくか
スカルフェイスとアイコンタクトを交わし、会話の終わり際に割り込み。カヤに疑問を呈す。
「すみませんが。カヤ防衛室長。XOFとは? 彼女は、私と同じ防衛室員ではないのですか?」
「そういえば、あなたには説明はまだしていませんでしたね。彼女について、疑問に思うのも仕方ないでしょう」
「長い話になるでしょうから。先ずは、そこの椅子にでも座ってください」
勧めに応じて、指さされた椅子に座る。
座ったのを確認したカヤが意味深に目を閉じた後、細目でこちらに問いかけてきた。
「ノボリさん、SRT学園について、ひいてはFOX小隊について、ご存知でしょうか」
「SRT学園は連邦生徒会長直属の治安維持組織で。その中で、最も優れた部隊がFOX小隊だったとか」
SRT学園。今は無き、連邦生徒会長直轄の治安維持組織。正式名称はSpecial Response Team 連邦政界から学園の自治区問題などを無視して、犯罪を取り締まることを許された法執行機関だ。
その中で、特に活躍していた部隊が、FOX小隊。
会話に齟齬を生まないようにするための前提知識の確認。カヤが満足した様子で頷く。
「なら、話が早いですね。FOX小隊。彼女たちは、重犯罪者の小坂ワカモやカイザーの逮捕など、キヴォトスの治安に大きく活躍しました」
「ですが、活躍の余り。SRT学園、およびFOX小隊は世間から英雄視されるようになり、後ろ暗い任務への適応が難しくなっていきました」
カヤがどこからか、狐のぬいぐるみを取り出し、カイザーグループの人形を押さえつけた後。
積みあがった書類の上に、ぬいぐるみをのせ、右往左往させる。
グレーな作戦を進める機関が活躍の結果。光の面が強調されていったことで黒い部分を出せなくなったということか。
「それでも、組織の運営。治安維持のためにはそういった役割が必要です。連邦生徒会長は光と陰を分けました。そう、英雄の陰の誕生です」
「それがXOF。連邦生徒会長がSRT学園の中から秘密裏に希望者を募り、学園を退学させ。その退学者たちで結成した部隊。陰に徹する者たち」
「ちなみにXOFは、副官(eXective Officer)の軍隊(Force)。SRTの指揮官を務めていた連邦生徒会長の副官であったフェイさんの軍隊という意味でもあったとか」
代わりの陰がいる。そう語ったカヤは、次に黒い人形を取り出し、動かす。人形は狐の人形と書類の陰に潜むと、機敏に動きだし、書類を載せていく。
光と陰の役割分担。それによる作業の効率化を表しているのだろう。
「SRT学園廃校案の浮上による、FOX小隊の暴動。その煽りをうけて、彼女たちは潜伏していたそうで。私も最近になって、連邦生徒会長がこんな便利な駒を持っていたことに気がつきました。それで、彼女に接触を図り、SRT学園復活を条件に部下にしたのです」
「なるほど……」
彼女を呼んだ経緯を話し終え、カヤがコーヒーを注ぎ始める。
漂ってくるコーヒーの匂いが思考を整理する。
「どうぞ」
淹れてくれたコーヒーを受け取り、三人で飲む。
「このジャスミンの香り。紅茶に似た上品な余韻。いい豆を使っているな」
「エスメラルダコーヒーか。美味いな」
「そうでしょうとも!」
カヤが淹れたのは高級コーヒーだったらしい。
高級コーヒーだけあって、確かに美味い。だが、どうにもあまり慣れない味だ。自分が貧乏舌だからだろうか。
──おおよそ、カヤの理解が予定通りで助かる。
気になるのは、初対面の私にここまで機密情報を話す理由だ。
「説明を求められたとはいえ、なぜ、私にここまで話したのですか」
「ふふ。それはですねえ」
カヤがこちらへ薄い笑みを浮かべる。
そして、自身満々の顔で、ドヤ顔しながら、言ってきた。
「あなたが、同志だからです!」
「同志?」
「ええ。改革派の! あなたの支持者たちから聞いていますよ! 連邦生徒会を改革するために立候補したと!」
「ああ~、そういうことですか」
(この反応は、予想外だ)
そういえば、あのスピーチを聞いていた支持者たちに。外向きように私の推薦理由をマイルドな物にするように言った気がする。
それを聞いたわけか。
「クッ、ククク……この女がリベラル思想か」
隣の笑い出した骸骨女を睨んでおく。
「違うのですか?」
「いいや。違わない。私もあなたと同じように連邦生徒会を変えたいと思っている」
首をかしげるカヤに急いで、訂正する。
「やはりですか。なら、提案です。私は超人として、キヴォトスを変えたいと思っています。私についてきてください」
「それはできない」
カヤには悪いが、その提案は断らせてもらった。
カヤがやろうとしている政治は結局、連邦生徒会長からカヤに首が挿げ替えられるだけだからな。
「望みが違うからだ。これは私の身の上話になるが、私は元々、ブラックマーケット出身で……」
「……そう、だったんですか」
望みはぼかしたが、私の身の上話と無学籍の現状を変えたい思いを伝えた。
連邦生徒会長では救えなかった者たちがいる。その事実にカヤは、黙りこんでしまった。
「それでは、一応は、私の派閥に入ってくれるのですね」
「ああ、一応な」
「私たちの部隊もミレニアム近郊でやりたいことがある。ついで、彼女を送っていこう」
時刻も夜になり。スカルフェイス率いるXOF部隊の送迎してもらうために、部屋を出る。
「苦い、ですね」
去り際、陰りを増した部屋に、カヤの声が響いていた。
「驚いたな。君があそこまで、喋るとは」
「目的は言ったが、手段までは言っていない。問題ないだろう」
朝日の昇る中、ミレニアム近郊の道路沿いで降り、二人で話す。周りでは、XOFの隊員たちが車にもたれかかって、ラジオを流している。
「私は、彼女の武装放棄の意見に反対だがな」
「そこには同意する」
彼女の提案する銃規制。あれが実行されれば、声どころか、拳すら失うことになる。
「平和は互いに銃を持つことでしか、実現しない」
彼女が隊服のワッペンを外す。それに呼応するように部隊員もワッペンを外していく。
一つにまとめられたそれは地面に捨てられ、燃やされる。
それぞれ、消えた学校のシンボルが模されたワッペン。
XOFは姿を消していた間に、部隊を再編していた。廃校になった学校の武装組織や生徒会から引き入れる形で。
「制度は人を殺し、私のような亡者を増やす。力は統一されるべきではない。個人や一組織へ集中させることは悪だ。力の分散、それこそが平和を紡ぐ」
スカルフェイスが私に歩み寄ってき、目を合わせる。
瞳の奥には、煮えたぎる憎悪が宿っていた。
カヤに名乗っていた名である骸面フェイ。あれは偽名に過ぎず。
彼女は名前のない亡者でしかない。
彼女の肩に手を置き、押し出して距離を離す。
「やはり、私とお前では、思想が違うな」
私は更地なった後で作られる新秩序なら、たとえ統一されてもいいと思っている。
「ああ、確かにその通り。だが、通過点は同じ。まだ、何処かで生きながらえている連邦生徒会長」
「シッテムの箱を作り、サンクトゥムタワーに鍵をかけ、力を私有化し。そして、それを大人に。私たち生徒では決して、手の届かない天へとキヴォトスを売った」
スカルフェイスの胸中に映る苦い記憶。
『待て! 貴様! 今からやろうとしていることの意味が分かっているのか!』
『ごめんなさい。フェイちゃん。でも、必要な事なんです』
彼女の計画を知り、連邦生徒会長の襲撃を企て。駅で列車を待っていた彼女を襲ったが、手傷を負わせるだけにとどまり取り逃してしまった。
「売国奴が築いた支配を打ち壊す。それだけは共通目標のはずだ」
スカルフェイスが煙草を取り出し、ライターに火をつける。私もポケットから、葉巻を取り出し、口に結わえて、彼女にかざす。
ライターの火で葉巻に火がつき、ゆっくりと煙の味を楽しみながら吸って吐く。
「まあいい。私は君のいない間に、邪魔者を始末して、君の足場を固めておこう。君は、さっさとミレニアムで起きた問題とやらを片付けてきたまえ」
「なるべく、早く済ませよう。帰ったら選別を始めよう」
宙に吐き出された、紫煙が重なる。
帰ったら、防衛室員から、有能な者、無能な者。不正を働く者、働かない者。金でなびく者、金でなびかない者。それらを選別する。
計画に使えそうな者と使えなさそうな者で分ける。そのために、私たちは、防衛室に所属した。
「一か月後、また会おう」
「また、会おう」
私はバイクに、彼女たちは車に乗って、帰った。
◇
「ひさしぶりに、戻ったな」
翌日、連邦生徒会に配属されることが決まった私は、荷物の整理と連邦生徒会への出向手続きのため、長らく登校していなかったミレニアム学園に来ていた。
学園内では、生徒が実験をしている姿や犬型のロボットが歩いている。ミレニアム学園特有の近未来的な風景にはいつ来ても驚かされる。
「リオからの連絡か。例の都市開発はどこまで進んでいるのか」
リオから聞かされた。キヴォトスに迫る世界の危機。それの対策としての都市開発。
誘いを受けた、私と兵器開発部は都市開発に参加することになった。私は資金援助とリオ不在下での生徒会業務、兵器開発部は都市に配備する兵器などの仕入れと開発で。リオに協力している。
普段、企業の運営、学校開発などで手を外していて、あまり現場に行けていない。
電話で進捗を聞いたりはしているが、やはり直接会話し合わないとわからないこともある。
現場で都市開発に携わっている分、フカメ達の方が詳しいだろう。と言っても、彼女も部下に任せることも多くあまり詳しくはないが。
「ちょうどいい。手続きも直ぐに終わる。その後、リオに会いに行けばいいか」
長い廊下を歩き、エレベーターに乗って、ミレニアムの学園の生徒会「セミナー」が居を構えるセミナ室へと向かった。
「あら、誰かしら。この時間にアポイントメントは取っていないはずなのだけど。どうぞ。……あ!? ノボリ副会長!」
「ひさしぶりですね、ノボリ副会長。こうして、直接会うのは、一か月ぶりでしょうか」
「ひさしぶりだな、ユウカ、ノア。あまり顔を出せずにすまないな」
セミナー室には、ミレニアム学園の生徒会所属する。会計の早瀬ユウカと書記の生塩ノアが二人で仕事をしていた。
「こうして来て、業務をしてくれてるので別に構いませんけど。それより、副会長、普段より少し来るのが早くないですか」
「そうですね。いつもは週末なのに、今回は週の初めごろなんて……」
定期的に訪れて、彼女たちから仕事を受け取り、副会長としての業務とリオの分の業務を行っているが。常在しているわけではないので、二人には多少だが負担がかかってしまっている。
そんな彼女たちに心苦しいが。伝えなければならないことがある。
「ああ、その事なんだが。前々から、連邦生徒会に入りたいと言っていただろう」
「確かに、そんな事を言っていたような。って、まさか!?」
「そのまさかだ。来月から、連邦生徒会に配属されることになった」
伝えた内容に、ユウカは悲鳴をあげ、ノアはのほほんとした表情で私の配属を祝ってきた。
ユウカが悲鳴を上げた後、電卓を取り出して、「このままじゃ。仕事の量が二倍」と計算結果に驚愕する。そんなユウカをノアが元気づける。
「生徒会に出向したら、セミナーから私を外してもらってかまわない。それで、代わりに誰か、副会長を任命してくれ」
「そんな人、なかなかいませんよ~」
私の言葉にユウカがため息をつきながら微笑んだ。
「じゃあな。ユウカ、ノア」
楽しい時間も過ぎ、手続きも済み。私は、兵器開発部で待っていたフカメを拾って、リオに会いに行った。
ミレニアム、要塞都市エリドゥ。
「ノボリ、フカメ。実は、あなた達には黙っていたのだけれど、数か月前から、この学園には名もなき神々のの王女が入学しているの……」
私たちは、リオから初めて、キヴォトスを破壊する兵器。名もなき神々の王女「AL-1S」がミレニアム学園に入学しているのを知らされた。
しかも、名もなき神々の王女はヴェリタスの手引きで裏口から入学してきたらしい。
「いつの間に、ミレニアムは人体錬成できるようになったんだ」
「……?」
ただの機械が。人間を模しただけのガイノイドが。ハッキングで学籍を不正習得し、人より上等な立ち位置に立った。
それが、私の神経を逆なでした。鼓動が早まり、血管が頭に浮かぶ。
「おい、リオ。なんで、そんな重要なことを黙っていた」
「ヒマリと話し合った結果、あなた達は、アリスに悪影響を及ぼすと考えたからよ」
リオは手でこちらを指差しながら、キッパリと答えてきた。
「ふむ。悪影響とは?」
詰め寄ろうとした私はフカメに手で遮られる。フカメが代わりに、リオに問いただした。
「あなた達が一般的にどう呼ばれているか。知ってる?」
「知らんな」
「裏世界の首領の娘と、悪逆非道のマッドサイエンティストよ。それに、フカメに至っては、協力する代わりに、もしも王女を捕獲できたら、データー収集のために解体させてくれって頼んでいたわね」
裏世界に関わっている点では、確かにその通りだ。なかなか、的を得ている。
「そんなあなた達を、キヴォトスを破壊しかねない爆弾である。アリスに近づけて、下手に刺激を与えるわけにはいかなかったわ」
「じゃあ、なぜ、今になって、なぜ、私たちに話した」
「二か月程前から、“Division”という機械の兵隊がミレニアムに襲ってくるようになったの。私とC&Cで対応しているけど、数が多すぎて、手が足りてない。いずれ、防衛ラインをすり抜ける個体が現れるかもしれない」
「だから、私たちに知らせたわけか」
選択肢は削られ。もはや、手段を選べる状況ではなくなったため。過激な手段をとるであろう私たちに協力を申し出たってことか。
「黙ってた手前、私が頼める立場にないのは分かってる。それでも、ミレニアムを守るためにはあなた達の力が必要なの。私に協力してちょうだい」
リオが頭を下げて、協力を頼んできた。
「黙っていたことには目を瞑ってやる。貸し一つだぞ」
私は、リオに協力することに。早速、AL-1Sを破壊するよう進言したが、却下された。
そこから、半月ほどは、不服ながらリオの方針に従って、攻め込んでくる機械と戦ったり。
「フカメ、兵器開発部と協力して。監視カメラのデーターから、いつ頃から、AL-1Sが現れたか調べてくれ。それと……」
「オーケー」
もしもの時ようの備えをして、過ごした。
──そして、日常の些細なことで、その時は訪れた。
◇ミレニアム学園。アリスを取り戻すため、ミレニアム生徒が作戦を練るオフィス。
「“わかった。みんなで、アリスを取り戻そう”」
才羽モモイの復活。活気を取り戻したところに。
「邪魔するぞ! AL-1S破壊に完全な解を持ってきた。シャーレの先生と話しがしたい!」
「最悪です。この成金女」
「“その声、君はいったい? ”」
私はヒマリを連れ出し、先生の前に現れた。
この訳の分からん状況で納得するため、私は動く。