私とテオは柱から指す光の線を辿って第一の試練の場へと向かっていた。
「ねぇテオ、試練ってどういうものなのかな?」
「オイラもわからないけど、パッチさんの話から考えると罠が待ってるか、恐ろしい番人が待ち構えてるとかじゃないかな」
「罠に番人って…」
「大丈夫!トウカのことはオイラが絶対に守るから!」
「っ!?」
…テオはこういうことを当たり前のように言ってくるから…本当に心臓に悪い。
「ん?どうかしたか?」
「…なんでもない」
私は早い胸の鼓動を抑えながらテオの隣を歩いた。
アマノシン様の神殿から2日ほど歩いたところで道標の光の線が目の前に聳え立つ山の頂上を指しているのが見えた。
「あそこが試練の場所?」
「たぶん…行こう!」
山道は綺麗に整備されていて登るのに特に苦労はしなかった。ここら辺では有名な山なのだろうと特に気にもしなかったが、ここで試練の場なのにと疑問を抱き、引き返しておけばよかったと後悔するのはすぐのことだった。
山の中腹を超えたあたりから急に霧が濃くなってきた。
「霧が濃くなってきたな、足元に気をつけて行こう」
そういってテオは右手を差し出してくる。
「うん」
私は微笑みながらその手を取り、気をつけながら足を進める。
『クォォォン!!』
「「!?」」
どこからともなく聞こえた声に驚き、私たちはあたりを見回すが濃い霧で声の主を見つけることはできない。
どこかアマノシン様と同等の存在と思わせるほどの存在感を感じた。
「誰だ!」
テオが私を後方に庇いながら謎の声に応える。
『クォォォン!!』
先程と同じ声、いや遠吠えが再び聞こえた。
まるで私たちにこれ以上進むなと警告しているように感じた。
「テオ、これ以上進むのはなんかいけない感じがするよ…」
「…いや、進もう。オイラたちは試練をクリアしなきゃいけないんだ」
「テオ…」
私たちは山頂へ向け再び足を進める。
何者かに見られているような気がするが、恐怖からテオに言うことはできなかった。
「着いたね…」
「ああ、山頂だ」
私たちは山頂に辿り着いた。
周りを見渡しても霧でよくは見えないが特に建物とかはない。
ごく自然の山の山頂だ。
「…ここで何をすればいいの?」
「…アマノシン様のヒントにある『天聳る霊峰』がこの山のことだと思う。と言うことは…」
「『全てを切り裂く白銀の閃光』…」
『クォォォン!!』
「なっなに!?」
「トウカ!」
登っている時に聞いた遠吠え、それが聞こえた瞬間にテオが私を守るように抱き寄せる。
何かが私たちの周りを目に見えない速さでまわっている。
『クォォォン!!」
「なんなの!!」
「落ち着けトウカ!」
私は恐怖で完全にパニック状態となってしまった。
そんな私を必死にテオが落ち着かせようとしている。
そんな私たちの状態を見てか、謎の存在がまわるのをやめて私たちの前に佇む。
ようやく見えたその存在は、美しい純白の毛を持ち、蒼の角を持つ獣だった。
「…あれは?」
「確か…アブソル」
アブソル…わざわいポケモンと呼ばれる存在。
『クォォォン!!』
アブソルの遠吠えが鳴り響くと濃かった霧が突風で一瞬にして晴れたかと思いきや、突如雷雨が降り注ぐ。
山の天気は変わりやすいと言われるが、いくらなんでも異常であることはわかった。
私とテオは、雨に打たれながらアブソルをじっと見つめるしかできなかった。
アブソルが口を開ける。
その開かれた口から黒のビームが放たれた。
私に向かって。
「!?ぐぅぅぅ!!」
そのビームは私の横腹を貫き、後ろにあった岩を破壊した。
あまりの痛みから私は地面に倒れ込む。
横腹に熱を感じながら。
「トウカ!!」
テオが叫び私を起こそうとする…がそれは叶わなかった。
「えっ?」
テオの声がした。
私の前に何かが落ち、顔に何かがかかる。
なんとか片目を開けると
目の前にテオのものだった右腕が落ちていた。
頭の理解が追いつかないまま顔に手を触れるとその手は真っ赤に染まった。
「うわぁぁぁ!!」
テオの絶叫が聞こえる。
「テ…オ…」
私の意識は暗闇に沈んでいくのだった。
「…ここは?」
私が目を開ける。見知らぬ天井だ。
「…」
私死んだのかな?
そう思っていると聞いたことのある声が発せられた。
『おお、起きたか。勇者の番よ』
「…アマノシン様ですか?」
『うむ、体の具合はどうかの?』
「!?」
そうだ、私はあのアブソルにお腹を貫かれたんだと思い出し、傷を確認するが見当たらない。
「なんで…」
『妾の力で治療を施したのだ。ああ、勘違いするでないぞ。残り2つの試練を越えてもらうためである。それにお主の子を作れぬ原因を治すことはできぬ』
「…」
『ふふふ、安心すると良い。勇者には伝えておらん』
「それは…ありがとうございます。ってテオは!?」
『お主の横じゃ』
体を起こし横を見るとテオが穏やかな寝息を立てていた。
ただ…体の至る所に傷の跡があり、何より右腕が肩から先がなくなっていた。
「!?テッテオ!!」
『今は休ませてやるが良い。勇者は見事第一の試練を越えたのだ』
「…試練を越えた?」
『うむ、これまでここを訪れた者は番人によって帰ってくることはなかった。だが勇者は試練の番人を見事打ち倒して見せたのだ』
「テオが…」
「ぐっ、うぉぉぉ!!」
『クォォォン!!』
テオは右腕を失いながらアブソルへ突貫した。
愛する者を傷つけたアブソルへの怒りと愛する者を守れなかった自分への怒りを糧として。
アブソルの遠吠えにより雷雨が止むが変わりにと雹が降り注ぐ。
「喰らいやがれぇぇぇ!!」
雹など気にせずアブソルへ左拳を突き出すが、アブソルが消え拳が空を切る。
アブソルはテオの周りを高速で走り回りながらビームやかまいたちを放つ。
「ぐっ、がぁぁぁ!!」
アブソルの猛攻に身体中に傷をつくり片膝をつくテオ。
それを見たアブソルは腹を掻っ捌こうと思ったのかテオの懐に飛び込んだ。
アブソルの角が高速でテオに振り下ろされる。
テオは…その角を左手に突き刺すことで止めた。
『クォ!?』
アブソルは驚愕しながらも距離を取ろうとするが突き刺さった角をテオは離さない。
テオにはアブソルが激しく動くたびに激痛が走る。
「オイラの…俺の雌に!手を出すなやぁぁぁ!!」
ばくれつパンチ
アブソルの角が突き刺さった状態で放たれた一撃は、大地を揺らし大きなクレーターを作った。
アブソルは力無く倒れ伏す。
その後、その体は光の粒子となって消滅した。
「はぁはぁんぐっ!」
テオはアブソルの消滅を見届けてトウカの元へ歩みを進める。
体は傷だらけで右腕はなく、左手も血だらけの状態。
激痛が常に襲っている状態だがテオは歩みを止めない。
そして、トウカの元へ着くと優しく覆い被さる。
「トウカ…終わったよ…」
テオのはトウカの顔を目に焼き付けながら、静かに目を閉じた。
『柱に灯りが灯ったのを確認して、妾は力で其方たちをここに呼び戻した。まさか2匹とも死にかけとは思わなかったがな』
「テオの右腕は、治していただけないのですか?」
『…妾の願いの秘薬であれば治すことは容易であろうが、それを今与えることはできぬ』
「そう…ですよね…」
『励むが良い。秘薬があれば其方らの傷も全て癒え、願いも叶うであろう』
「…はい」
『ああ、あと勇者が目覚めた暁には番の其方から褒美を与えてやると良い。一緒に寝床に入ったり、一緒に風呂に入ったりなぁ』
「…できるかぁぁ!!」
「えっダメなの!?オイラ頑張ったのに〜」
「なんで起きてんだテオォォ!!」