アオハルメモリーズ(少女たちの青春記録) 作:tacorice
シャーレ内
「うーん……今日はなんか疲れたなぁ」
僕はそう呟き、深く息を吐きながら椅子に身を沈めた。
「先生、今日は大活躍でしたね!」
軽やかな、しかし力強い声が、手元のタブレット端末から響く。画面に映る少女――アロナが、満面の笑みを浮かべていた。
「いや、アロナのおかげだよ」
僕がそう返すと、アロナは胸を張るように誇らしげに笑う。
「フッフッフ!なんと言ったって、スーパーAIのアロナちゃんですから!」
彼女は自信満々にそう言い切った。アロナは、連邦生徒会長が残したタブレット端末に常駐するシステムOS。しかし、その明るさや、僕を支えようとする献身的な姿勢は、ただのプログラムの枠には収まらない、不思議な温かさを持っていた。
アロナの表情が、突然、真剣なものに変わる。
「先生!」
その声に、僕も姿勢を正した。
「これからシャーレの知名度が上がって、依頼もたくさん来ると思います!」
彼女の言葉は、確信に満ちていた。
「そうだね」
僕は小さく頷く。
「困っている生徒を助けてこそのシャーレです!」
アロナの声が、部屋に響き渡る。その言葉が、僕の胸の奥を熱くするのを感じながら、僕は静かに窓の外へ目を向けた。
学園都市キヴォトスに広がる、無数の学園と生徒たち。彼らの日常を守るために、僕はシャーレの先生として、この場所で歩み始めるのだ。
(あの〜俺の事忘れてない?)
「あっレイ先生っ」
「いや忘れてないから!」
(それならいいんだけどさぁ〜)
(それとショウはそろそろ寝ていいよ)
(あとの書類は全部やっとくからさ)
「まじ? 助かるわ〜」
「なんだか兄弟みたいですね....」
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先生が着任する少し前
午後12時 トリニティ郊外
後ろから聞こえていたうるさい音が、いつの間にかなくなっていた。アスファルトを走り続けた足は感覚がなくなり、肺は火がついたように痛む。それでも、見慣れない綺麗な建物が遠くに見える所まで来れば、もう大丈夫だろうと思った。
「ここまで来れば……大丈夫、かな……」
かすれた声が、カラカラの喉からやっと出た。息を荒くしながら、緊張していた気持ちがふっと楽になるのを感じた。
「そういえば、途中から追っ手がいなくなった?」
不思議なくらい静かだった。あんなにしつこく追いかけてきたのに、まるで境界線を超えたかのように、ぱったりと止まったのだ。でも、その理由を深く考える余裕はなかった。疲れて頭が回らない。
「とりあえずこの辺にテントを立てて……少し休まないと、体がもたない……」
疲労感がまとわりつく。ふと、目の前がグラグラと揺れた。頭がクラクラする。おそらく、逃げているときに、急いで隠れたあの瞬間だろう。銃の弾が頭の横をかすめていったのだ。そのときの熱い衝撃が、今になって鈍い痛みとして意識を奪っていく。
朦朧としながらも、最後の力をふり絞ってリュックからテントを取り出した。棒を立てて布をかぶせるだけの簡単な作業が、今はとても難しく感じられた。
「とりあえず……テントは、立てられた……」
そうつぶやいたのが最後だった。安心と疲れが一気に押し寄せ、目の前が真っ暗になる。彼はテントの中にそのまま倒れ込んだ。
ドサッ
入り口のシートが少し開いたまま、意識を失った彼の青白い顔を静かに照らしていた。
午後12時45分 トリニティ郊外
自警団に所属している生徒のハナとユキは、いつもの道を歩いていた。
「ユキ、あれはテント?」
ハナが、いつもの道から少し外れた場所に、一つだけ立っている見慣れないテントを見つけた。
「あんなところにテント?」
「何か事件に巻き込まれたんでしょうか……?」
ユキが心配そうに聞いた。ハナは「とりあえず、誰かいるか見てみようか。何かあれば、すぐに連絡するから」と言って、ゆっくりとテントに近づいた。返事はなく、風の音だけが聞こえた。
「失礼しま……」
ハナの言葉が驚きに変わった。テントの中には、知らない制服を着た生徒がぐったりと倒れていたのだ。
「?! 大丈夫ですか?!」
慌てて肩を揺するが、弱い声が聞こえるだけ。その時、ハナは倒れている生徒のおでこから少量だが血が流れ、髪を赤く染めていることに気づいた。
「……生きてはいるみたい……」
「ハナ先輩、これはひどい怪我ですね……」
ハナは彼の胸に耳を当てた。か細いが、確かに心臓が動いている。最悪の事態ではないことにホッとしたのも束の間、急がないといけない状況なのは明らかだった。
「とにかく、救護騎士団のところに連れて行ってあげないと!」
「はい、そうですね。私が背負います! 」
二人は決めて、すぐに自分のスマホで救護騎士団に電話をかけた。「こちらトリニティ自警団。負傷した生徒を発見しました。今から向かいます」と簡単に伝えた後、ユキは意識のない生徒を慎重に、でも力強く背負い上げた。トリニティの病院へと続く道を、二人は走り始めた。
二人の少女の影と、背負われた生徒の影が、トリニティの広い敷地へと伸びていった。
もう一人の子は次の話で名前を公開します
まぁどこ所属かははっきりわかりそうですがね