天使と悪魔は鬼を狩る 作:もく
柱との任務を終え、照たちは単独行動が許されるようになり、
照と月詠は早速浅草に訪れていた。
「……ここだ」
照が足を止める。
月詠も、同時に気づいていた。
音も匂いも、気配もない。
それなのに、不自然な空白がある。
「隠してるな。血鬼術だ」
「……間違いない」
耀哉から聞いていたのは、「浅草にいる」という情報だけ。
それでも二人は、剣士として積み上げてきた感覚で、その一点に辿り着いていた。
照が一歩踏み出した瞬間。
「――見つかるはずがないのに」
鋭い声が、空気を裂いた。
影から現れたのは、年若い男。
目には敵意と警戒がはっきりと宿っている。
「誰だ。どうやってここを――」
言い終わる前に、月詠が一歩前に出た。
「敵じゃない。鬼殺隊だ。」
その言葉に、男――愈史郎の眉が大きく歪む。
「鬼殺隊?
……冗談じゃない。あんたたちに、ここを嗅ぎ当てられる理由はない」
「血鬼術は完璧でも、気配までは消せない」
月詠の声は低く、淡々としていた。
「守る対象が“人”である限り、どうしても歪みが出る」
愈史郎が言葉を失いかけた、そのとき。
「……その通りですね」
奥から、静かな声がした。
照と月詠の視線が向く。
現れたのは、一人の女性だった。
穏やかで、丁寧で――そして、忘れようもない気配。
「お久しぶりです」
珠世は、微かに微笑んだ。
「照さん。月詠さん」
二人は、息を呑んだ。
「……珠世、さん」
「生きて……いえ、目覚めたのですね」
その言葉に、確かな時間の隔たりが滲む。
愈史郎は、二人と珠世を見比べ、困惑を隠せずにいた。
「珠世様……この人たちを、知ってるんですか」
「ええ。とても、大切な方たちです。どうぞお入りください」
その一言で、愈史郎の態度は一変した。
警戒は残しつつも、敵意は引いた。
屋敷の中は、静かだった。
再会の言葉を一通り交わした後、照が本題を切り出す。
「鬼の血を、採取したいんです」
珠世は、迷いなく頷いた。
「準備しています」
机の上に並べられたのは、刃の薄い器具。
ナイフに似ているが、明らかに用途が違う。
「採取用です。
無惨の呪いを、ほぼ完全に切り離せるようになりました」
月詠が目を細める。
「……ほぼ?」
「ええ。完全ではありません。
ですが、強制的に死へ導かれることも、位置を特定されることもなくなりました」
続けて、小さな小瓶を差し出す。
「こちらは保管用。
……あなた方の“鬼化”にも、使えるはずです」
照は、それを受け取り、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
珠世は、静かに首を振る。
「それと……大切なことを」
表情が、わずかに引き締まる。
「もし、あなた方の大切な人が鬼にされたとき」
その言葉に、空気が張りつめる。
「拘束できる状態であれば、私を頼ってください。
鬼を人間に戻す薬が完成するまで、保護することが可能です」
月詠の拳が、僅かに強く握られた。
「……分かりました」
珠世は、柔らかく微笑む。
「何かあったらまた訪ねて来てください」
愈史郎は、二人をじっと見つめてから、ぶっきらぼうに言った。
「……珠世様に何かあったら、許さないからな」
照は少しだけ笑う。
「それは、こっちの台詞かもね。珠世さんをよろしくね、愈史郎」
浅草の夜は、変わらず騒がしい。
けれどその奥で――
戦国から来た剣士たちは、
少しずつ未来を見据えていく
今後の投稿について
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全部時系列順に書く
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一気に原作開始まで飛ばす
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ある程度は時系列順、必要なときに回想