天使と悪魔は鬼を狩る   作:もく 

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11話 天使と悪魔の出会い 4

出会い 風

 

 

 

照と月詠は、鬼が近くにいると報告されている街に到着した。

しかし、街に足を踏み入れた瞬間から違和感があった。夜に活動するはずの鬼の気配が、どこにもない。

 

「潜伏してるな」

月詠が低く言う。

 

「昼のうちに情報を集めよう」

照はそう判断し、二人は日中、街を歩き回ることにした。

 

市場、路地。

失踪者の噂は確かにあったが、どれも曖昧で、鬼の居場所を特定できるほどのものではない。

 

その途中、照は一軒の家の前で足を止めた。

子供の笑い声が外まで聞こえてくる。

 

照は戸口に立ち、声をかけた。

 

「すみませーん」

 

「はーい」

 

小柄な女性が出てきた。

 

「この辺りで、人が失踪していると聞いたのですが。何か知っていることはありませんか」

 

女性は、少し困ったように首を振った。

 

「そうね……わからないわ。ごめんなさいね、力になれなくて」

 

その背後から、元気よく走り回る子供たちの姿が見える。

 

「元気そうですね」

 

照がそう言うと、女性は少しだけ柔らかく微笑んだ。

 

「ええ。でも私は普段、ずっと働いていて……長男と次男に任せきりなの。

もしよかったら、この子たちと遊んであげてくれませんか。ここにいる間でいいので……」

 

月詠が微笑んで答える。

 

「わかりました」

 

その日から、照と月詠は情報収集の合間に、その家へ立ち寄るようになった。

 

 

 


 

 

 

翌日

 

庭先で子供たちと走り回る照を、月詠は少し離れた場所から眺めていた。

 

「……と言っても、こういうのは俺は苦手なんだよな」

 

そう呟いたところで、長男の少年が近づいてくる。

 

「いかねえのか?」

 

「子供の相手は、照の方が慣れてるんだよ」

 

月詠はそう言ってから、初めてその少年の名を呼んだ。

 

「実弥」

 

実弥は照と同い年だった。

 

「そういえばさ、なんでこの街に来たんだ?」

 

「仕事」

 

「もう働いてるのかよ!どんなのなんだ?」

 

「内緒。……でも夜は出歩くなよ。最近、人が失踪してっから」

 

実弥は少し真剣な顔になって、頷いた。

 

「わかった」

 

それから一週間。

照と月詠は街の情報を集めながら、何度も不死川家を訪れた。

 

弟たちと遊び、実弥と話し、鬼の話はあくまで軽く触れる程度に留めた。

その間、照と月詠は何度か母親と顔を合わせている。

忙しそうで、子供たちを気にかけながらも、どこか疲れの滲む女性だった。

 

そして――その夜。

 

 

 


 

 

 

街を歩く二人の足が、同時に止まった。

 

「……今日も収穫な――」

 

照の言葉が途切れる。

 

「来た……!」

 

「急ぐぞ。実弥の家の方だ!」

 

鬼の気配。

一直線に、不死川家へ向かっている。

 

二人が辿り着いた瞬間、鬼が家に飛び込むのが見えた。

 

「――っ!」

 

照は間に割り込み、鬼の動きを妨害する。

弟たちは、まだ生きている。

 

「逃げろ、みんな!」

 

しかし恐怖で体が動かない。

 

月詠が子供たちを外へ蹴り出した、その瞬間――

月明かりの下に立っていたのは、実弥の母親だった。

 

その事実を認識しているのは、照と月詠だけ。

 

珠世の言葉が、二人の脳裏をよぎる。

――首を斬らず、拘束を。

 

だが、躊躇した一瞬を突かれ、二人は弾き飛ばされた。

 

その隙に、鬼が子供たちへ手を伸ばす。

 

「――こっちだ、バケモノ!」

 

包丁を握った実弥が立ちはだかった。

 

必死に鬼を家から引き離し、かなりの距離を取ったところで、実弥の視界が冴えていく。

 

「……お袋……?」

 

認識した瞬間、鬼が実弥を狙う。

 

「――っ!」

 

月詠が割り込み、刃でその動きを止めた。

 

「……拘束するぞ。手伝ってくれ」

 

実弥自身は気づいていなかったが彼の稀血によって、鬼の動きは明らかに鈍っていた。

 

三人がかりで押さえ込み、夜明け前に気絶させることに成功した。

 

「……落ち着いて聞いてくれ」

 

月詠が静かに言う。

 

「お前の母親は、鬼にされた」

 

「……鬼。

お前らは……それを殺すのが仕事だったのか」

 

「うん……でも、保護するよ」

照が言った。

「何年かかるかわからないけど……鬼を人間に戻せる薬ができるまで」

 

「……そうか」

 

そのときだった。

 

「兄ちゃん……兄ちゃん……!」

 

玄弥が駆け込んでくる。

 

血塗れで倒れている母親。

刃物を持った三人。

 

「……え、か……母ちゃん……?」

 

「なんで母ちゃん殺したんだよ!

人殺し!人殺しーっ!!」

 

月詠は一瞬目を伏せた。

 

「……実弥、悪い」

 

次の瞬間、玄弥は気絶した。

 

 

 


 

 

 

隠が到着した。

後藤を含めた数名で、夜明け前の張りつめた空気の中、手際よく状況を把握していく。

 

照は玄弥を一瞥し、静かに言った。

 

「この子は別にして、家の中にいる子供たちを本部へ連れて行ってください」

 

後藤は一瞬だけ戸惑ったが、何も聞かずに頷いた。

 

照は踵を返し、家の中へ向かう。

弟たちは家の奥、さらに物陰に固まるようにして隠れていた。

 

怯えきった目が、照を捉える。

 

「……照お兄ちゃん?」

 

震える声が、夜気に溶ける。

 

照は刀を収め、しゃがみ込んで視線を合わせた。

 

「大丈夫。もう危ないものはいないよ」

 

それでも、子供たちの恐怖は消えない。

母の姿がないことに、不安が募っているのがはっきりと分かった。

 

「この人たちはね、僕の友達なんだ」

 

照は、隠たちの方を軽く示す。

 

「ここは……狼に襲われちゃって、もう住めなくなった。だから、僕たちが新しい住む場所を用意するよ」

 

子供たちは顔を見合わせた。

 

「……お母さんは?」

「お兄ちゃんも……?」

 

一瞬、照の言葉が詰まる。

 

「……かなり大きな仕事が入っちゃったんだって」

 

できるだけ、優しく。

 

「でも、いつか絶対戻ってきてくれる。

実弥はね、お母さんの代わりに稼ぎに行ってるんだ」

 

少しの沈黙のあと、弟の一人が小さく頷いた。

 

「……わかった!」

 

その言葉に、他の子も釣られるように頷く。

 

隠に手を引かれ、弟たちは家を出ていった。

振り返ることなく、ただ前を向いて。

 

照は、その背中が闇に溶けるまで見送ってから、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

 


 

 

 

夜明け前

 

照が戻ってくると、月詠と後藤が待っていた。

 

「後藤さん。この人を運びます。手伝ってください」

 

血に濡れた女――鬼となった実弥の母親を見て、後藤は顔を強張らせる。

 

「……でも、そいつは鬼じゃ……」

 

「あとで説明する。今は運んでくれ」

 

有無を言わせない声だった。

 

家の中へ運び込み、手枷と足枷をかける。

暴れる気配はない。ただ、静かに、眠るように横たわっている。

 

月詠が低く言った。

 

「内密に頼む。

四百年前、俺たちを眠らせてくれた鬼の協力者がいる」

 

「……鬼!?

大丈夫なのかよ!?」

 

「人を食わず、血だけで足りるようになってる。

今夜、そこへ運んでくれ」

 

後藤は歯を食いしばり、やがて小さく息を吐いた。

 

「……わかった」

 

 

 


 

 

 

時を同じくして家の外

 

薄く白み始めた空の下で、照と実弥は向かい合っていた。

 

「……巻き込んじゃった、って形になるかな」

 

照の声は低い。

 

実弥は首を振った。

 

「いや。

お前がいなかったら、あいつらは死んでた」

 

一度、言葉を切る。

 

「……お袋も。俺が、殺してた」

 

「……これから、どうするの?」

 

「俺も鬼狩りになる」

 

その言葉に迷いはなかった。

 

「お袋を鬼にしたやつを、ぶっ殺す」

 

「……そっか」

 

それ以上照は何も言えなかった。

 

 

 


 

 

 

 

月詠が淡々と言う。

 

「耀哉には手紙を飛ばしてある。

俺と後藤で珠世のところへ行く」

 

そして照を見る。

 

「お前は実弥を連れて、耀哉に会ってこい」

 

「わかった」

 

二人はそれぞれ、別の道へ歩き出した。

 

 

 


 

 

 

珠世の屋敷

 

「来ましたか。そのお方は……」

 

後藤は息を呑む。

 

月詠は淡々と告げた。

 

「任務先で会った友人の母親だ。どうやって保護する」

 

「あなたたちを眠らせたものと似ています。

仮死状態にします。今は電気がありますから、昔より楽です」

 

「……鬼を人間に戻す薬は?」

 

「作ることは可能です。

ただ、今はまだできません」

 

「……血がいるのか」

 

「はい、一部で構いません。あとあなたたちの血も定期的に送ってもらうことは可能でしょうか」

 

「ああ。照にも伝える」

 

 

 


 

 

 

産屋敷邸

 

「いきなりのことで、動揺しているかな」

 

「……ああ」

 

「弟たちは鬼殺隊で保護する。

君のお母さんは、照の紹介で別の場所に保護している。

君はどうする?」

 

「俺も鬼狩りになります。

……あいつらには、隠してください」

 

「わかった。

育手を紹介しよう。力をつけてから、照たちと戦ってもらう。それでもいいかい」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

別れ際

 

「またな……」

 

「死なないでね」

 

「ああ……」

 

そう言って実弥は育手の元へ向かっていった

 

 

 


 

 

 

1ヶ月後

 

産屋敷邸に、月詠への招集がかかった。

 

突然の呼び出しに、月詠は廊下を歩きながら小さく舌打ちする。

 

「急に呼び出して、なんだよ耀哉」

 

障子の向こうで、穏やかな声が返った。

 

「君に、ちょっと会ってほしい人がいるんだ」

 

月詠が中へ入ると、耀哉はいつも通り静かに座していた。

だが、視線が一瞬だけ、入口の方へ向く。

 

次の瞬間、扉が開いた。

 

入ってきたのは、小柄な少年だった。

 

俯きがちで、拳を強く握りしめている。

 

玄弥だった。

 

「……」

 

月詠は、すぐに察した。

あの夜のことを――血塗れの光景を。

 

玄弥は顔を上げ、必死に言葉を絞り出す。

 

「兄ちゃんのこと……聞いたんだ……」

 

声が震える。

 

「俺、酷いこと言っちゃった……

兄ちゃんにも……照さんにも、月詠さんにも……」

 

月詠は一瞬、目を細めたあと、淡々と言った。

 

「あれだけ見たら、誰でもそう反応する」

 

玄弥の肩が、びくりと揺れる。

 

「お前は悪くない」

 

耀哉が、ゆっくりと続けた。

 

「……実弥のことを考えて、今は居場所を教えることはできない。

でも、実弥は鬼殺隊に入るため、育手のもとで鍛錬を積んでいるよ」

 

玄弥の目が見開かれる。

 

「実弥は、元々身体能力が高かった。

入隊も、そう遠くはないだろう」

 

耀哉は一拍置いて、静かに問いかけた。

 

「もし君が、鬼殺隊で実弥と一緒に戦いたいなら――

私は、君にも育手を紹介することができる」

 

玄弥は、即答だった。

 

「やらせてくれ!」

 

声が、はっきりと響く。

 

「俺は……兄ちゃんに謝らなきゃいけない……!」

 

その言葉に、月詠が口を挟む。

 

「謝りたいだけなら、やめておけ」

 

玄弥がこちらを見る。

 

月詠の目は、厳しかった。

 

「鬼狩りは命懸けだ。

俺が実弥を呼んで、直接会わせることだってできる」

 

それでも、玄弥は引かなかった。

 

「……俺だって戦える……!」

 

震えてはいるが、逃げていない目だった。

 

月詠は、しばらく玄弥を見つめ――小さく息を吐いた。

 

「……耀哉」

 

視線を外さずに言う。

 

「紹介してやってくれ。

こいつは基礎体力から必要だ。時間はかかるだろうが……」

 

その先は言わなかった。

だが、覚悟は伝わっていた。

 

耀哉は、静かに頷く。

 

「わかった。よろしくね、玄弥」

 

玄弥は、深く頭を下げた。

 

「……はい!」

 

 

希望と後悔を抱えたまま、また歯車が噛み合った。




これは2話に分けてもよかったかもしれませんね

今後の投稿について

  • 全部時系列順に書く
  • 一気に原作開始まで飛ばす
  • ある程度は時系列順、必要なときに回想
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