天使と悪魔は鬼を狩る   作:もく 

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とりあえず柱たちとの出会いは最後です
あとはそれぞれの後日談を書いていきます


12話 天使と悪魔の出会い 5

出会い 水

 

実弥の件が一段落した数日後。

産屋敷邸の一室には、珍しく穏やかな時間が流れていた。

 

畳の上には小さな卓が置かれ、色とりどりの菓子が並んでいる。

甘い匂いに、どこか懐かしさを覚えながら、四人は向かい合って座っていた。

 

「……これ、全部初めて見る」

 

葵が目を輝かせて言う。

 

「四百年前にはなかったものばっかり!

しかもおいしい!」

 

「調子に乗るなよ〜」

 

煉がからかうように言った。

 

「太るぞ〜」

 

「失礼な!たくさん走るから関係ないんです〜!」

 

即座に返す葵に、照が小さく笑う。

 

穏やかな空気の中、月詠がふと菓子をつまんだまま口を開いた。

 

「そういやよ、耀哉」

 

「なんだい?」

 

「俺らは昔、縁壱さんの紹介で鬼殺隊に入って、今は籍があったから戻ってきたわけだろ」

 

視線を少しだけ上げる。

 

「今の鬼殺隊って、他の奴らはどうやって入るんだ?」

 

耀哉は一瞬考えるように目を伏せ、それから穏やかに答えた。

 

「毎年、最終選別というものを行っているよ」

 

「最終選別?」

 

「藤襲山という山があってね。周囲は一年中、藤の花で覆われている。

その中にいる鬼と戦いながら、一週間生き残れたら入隊だ」

 

少しだけ間を置いて、付け加える。

 

「今年の選別は、ちょうど来週だね」

 

「へえ……」

 

煉が首をかしげる。

 

「槇寿郎さん、そんなの教えてくれなかったぞ?」

 

「それは多分」

 

葵が即座に口を挟んだ。

 

「杏寿郎君が、まだ選別に行けるほどの実力じゃなかったからじゃない?

鱗滝さんのところにいた二人は、選別に向けてずっと頑張ってたよ」

 

そして月詠を見る。

 

「なんで月詠は聞いてないのさ!」

 

「俺がいたの一瞬だろうが」

 

月詠は肩をすくめた。

 

「あいつらとは、ほとんど話してねえよ。

……まあ、あの二人なら大丈夫だろ」

 

「じゃあさ」

 

煉が菓子を手にしたまま言う。

 

「俺らは、やんなくていいのか?」

 

耀哉は困ったように笑った。

 

「君たちが行ったらね……中の鬼を、全部倒してしまう」

 

「……ああ」

 

「柱の子が鬼を“捕獲”するのも、結構大変なんだ」

 

照が、少し遅れて口を開いた。

 

「……不合格の人は、鬼に喰われちゃうの?」

 

その問いに、部屋の空気がわずかに張る。

 

耀哉は、すぐには答えなかった。

 

「……うん」

 

静かな声だった。

 

「僕も、このやり方には納得できていない。

でも、七日間、山の中の全員を守れるほどの子は……今はいないからね」

 

「じゃあ」

 

月詠が即座に言った。

 

「俺らがやるよ。それ」

 

煉も頷く。

 

「要は、山で死にそうな奴がいたら守って下山させて、

隠として採用するか、また来年来てもらうか選ばせればいいんだろ?」

 

照が耀哉を見る。

 

「……今の当主は耀哉だから。

耀哉の好きなようにしていいんだよ?」

 

耀哉は一瞬驚いた顔をして、それからふっと笑った。

 

「それじゃあ……お願いしてもいいかな」

 

「人数的に、二人だね」

 

耀哉が言ったその直後。

 

「「「「じゃんけんぽん!」」」」

 

声が重なる。

 

「……お」

 

月詠が手を見て言う。

 

「ツイてる」

 

「やった!」

 

葵が声を上げる。

 

「……残念」

 

照が小さく呟き、

 

「あーあ」

 

煉が肩を落とした。

 

耀哉は、楽しそうに目を細めた。

 

「それじゃあ、来週は二人にお願いするよ」

 

「ああ」

 

「うん!」

 

外では、風に揺れる藤の香りが、かすかに届いていた。

次の夜を告げるように。

 

 

 


 

 

 

狭霧山は、相変わらずだった。

霧に包まれた小道、湿った土の匂い、そして――変わらぬ静けさ。

 

「鱗滝さ〜ん!」

 

葵の明るい声が、山に響く。

 

しばらくして、天狗の仮面の男が姿を現した。

 

「おお……久しぶりだな」

 

「お久しぶりです!」

 

葵がぺこりと頭を下げる横で、月詠は周囲を一瞥してから口を開いた。

 

「……二人は?」

 

鱗滝は、ほんの一瞬だけ言葉を選ぶように間を置いた。

 

「……もう行った。

無事に、帰ってきてくれたらいいんだがな……」

 

その声に、葵は一歩前に出る。

 

「……今年からは、大丈夫ですよ」

 

「何?」

 

「実は――」

 

葵は、今年から最終選別に監視役が入ること、

そしてそれを照たち四人で交代しながら担当することを説明した。

 

「命を落としそうな子は、ちゃんと助けます。

来年に回すか、隠として迎えるかも、その場で判断できます」

 

鱗滝は黙って聞いていたが、やがて小さく息を吐いた。

 

「……そうか。

だが、それはお前たちに負担をかけることになる」

 

「別に」

 

月詠は、あっさりと言った。

 

「大勢を守るなら、それくらいできねえと」

 

「もし二人が危なくなっても!」

 

葵は力強く言う。

 

「必ず助けます!」

 

鱗滝は、ゆっくりと頷いた。

 

「……そうか」

 

月詠が踵を返す。

 

「それじゃ」

 

「待て」

 

鱗滝が呼び止めた。

 

「お前たちに、渡すものがある」

 

差し出されたのは、二つの狐面だった。

白地に、静かな表情。

 

「厄除の面だ。

私の弟子には毎年渡している」

 

視線が月詠と葵を順に捉える。

 

「月詠は一週間、

葵は一ヶ月ほどだったが……確かに、私のもとで学んだ」

 

葵は面を受け取り、ぱっと顔を明るくした。

 

「ありがとうございます!」

 

二人が山を下りていく背中を見送りながら、鱗滝は静かに呟いた。

 

「……義勇を。

錆兎を、頼んだぞ」

 

その声は、霧に溶けていった。

 

 

 


 

 

 

藤襲山――最終選別。

 

山の麓では、隊士候補者たちが緊張した面持ちで集まっていた。

 

「あまねさ〜ん!」

 

葵が手を振る。

 

「お久しぶりです」

 

あまねは柔らかく微笑んだ。

 

「主人から話は聞いています。

よろしくお願いしますね」

 

「は〜い!」

 

 

 


 

 

 

一日目。

 

夜の山。

二つの影が、木々の上を静かに移動していた。

 

月詠と葵は別行動。

狐面で顔を完全に隠し、ただ“見る者”として在る。

 

その時――

 

「義勇!」

 

錆兎の叫び声。

 

最初の鬼。

義勇は深手を負い、意識を失った。

 

「すまない……義勇を頼む!」

 

錆兎は、近くにいた候補者に義勇を託し、助けを求める声に向かって走り去る。

 

木の上から、その一部始終を葵は見ていた。

 

(……気を失ってるけど)

 

(他の子に任せるか……)

 

(君の努力は、私が一番わかってる)

 

 

 


 

 

 

「この人は誰ですか」

 

「彼女は神野葵、鬼殺隊員だ。

一ヶ月だけ、ここで調整する」

 

「何かあれば、彼女に聞くといい」

 

一週間後。葵は2人のもとへ訪ねていた

 

「本当に岩を斬るんだ〜!」

 

「……俺は月詠のおかげで斬れたんだが」

 

錆兎が苦笑する。

 

「義勇が、まだできてない」

 

「ちょっと見せてよ」

 

「……わかった」

 

――キン。

 

刃は弾かれた。

 

「なるほどね」

 

葵は頷いた。

 

「義勇君は、型に囚われてる」

 

「型に……?」

 

「でも型って大事だろ?」

 

「うん、それも正しい」

 

葵は木の実を拾い、軽く放った。

落ちてくるそれを、自然な動きで斬る。

 

「水は、流れるものだから。

型を極める前に、流れを感じて」

 

「全集中の呼吸で、その場に合った動きをするの」

 

「……」

 

「さ、やってみて!」

 

――キン。

 

少し、ひびが入る。

 

「いい感じだよ!」

 

数日後、義勇は岩を斬った。

 

 

 


 

 

 

葵は、木の上で小さく呟いた。

 

「大丈夫。

君は、絶対に強くなれる」

 

そうして、静かにその場を離れた。

 

そして一日目が終わった。

 

 

 


 

 

 

七日目、夜明け前。

 

月詠と葵は、山中で合流した。

 

「……全部、錆兎がやってるな」

 

「出番なしだね」

 

「いいことだとは思うけど」

 

月詠は視線を遠くに向ける。

 

「……ずっと錆兎を追ってたが、刀がそろそろ限界だ。

あと一匹、硬いのが出てきたら折れるかもしれねえ」

 

「わかった」

 

葵は即答した。

 

「さすがに、錆兎君がそれで死んだら、鬼殺隊にとって大きな損失だし」

 

少し、柔らかく付け足す。

 

「……私も、悲しいから」

 

「最後まで見てあげて。

介入しても、あの子は合格だからね」

 

「そっちの判断も任されてたし」

 

月詠は、肩をすくめた。

 

「それでいっか」

 

藤の花が揺れる中、

最後の夜へと向かっていた。

 

 

 


 

 

 

 

「鱗滝め……鱗滝め……!」

 

手鬼の咆哮が、山中に響き渡った。

 

「鱗滝め鱗滝め鱗滝め!!」

 

巨大な影が動く。

 

錆兎は歯を食いしばり、刀を構えた。

 

「水の呼吸

壱ノ型――水面斬り……!」

 

刃が、首元へ走る。

 

――だが。

 

硬い。

 

今までの戦闘で蓄積した刃こぼれ。

そして、異様なほどに強靭な首。

 

鈍い音と共に、刀が折れた。

 

「……っ!」

 

次の瞬間、無数の腕が地面をえぐりながら錆兎へ殺到する。

 

逃げ場は、ない。

 

――その時。

 

一閃。

 

空気が裂ける音と同時に、迫っていた腕が、すべて斬り落とされた。

 

「なに……?」

 

手鬼が目を見開く。

 

「……鱗滝の面……?」

 

闇の中に立っていたのは、狐の面を被った剣士だった。

 

「お前……誰だ……!」

 

錆兎も、息を呑む。

 

「……?」

 

剣士は一歩前に出て、静かに面を外した。

 

「全部、ひとりで背負い込むなよ」

 

月詠だった。

 

「……危なかったな」

 

「……お前……!」

 

その声に、錆兎の脳裏に、過去の光景がよぎる。

 

 

 


 

 

 

「クソッ……!」

 

岩の前で、何度も何度も刀を振る錆兎。

 

その背後から、足音がした。

 

鱗滝のもとに月詠と葵が来て、六日後のことだった。

 

「……水」

 

差し出された水筒。

 

「少し落ち着けよ」

 

「なんだよ!」

 

錆兎は振り返る。

 

「邪魔すんな!

一人でずっと鍛錬してただけのやつが!」

 

月詠は何も言わず、その場を離れた――かと思った次の瞬間。

 

ゴゴ……。

 

視界の端で、岩が動いた。

 

「……お前……!」

 

月詠は、岩に手をかけていた。

 

「お前は無駄な動きが多い」

 

淡々とした声。

 

「怒りも焦りも……全部捨てろとは言わねえ」

 

岩を押し出しながら、続ける。

 

「だが、常に冷静でいろ」

 

「そうすれば――」

 

月詠は、構えた。

 

「斬れないものはない」

 

一度だけ、見せる。

 

「ヒュゥゥゥゥゥゥ……」

 

風が、流れる。

 

――スパッ。

 

刃は、淀みなく岩を断った。

 

そこに、無駄な動きは一つもなかった。

 

「力は足りてる」

 

月詠は言った。

 

「家族の無念を晴らしたいなら、

一時の感情に惑わされるな」

 

月詠が見守る中、錆兎は――岩を斬った。

 

「……その……ありがとよ」

 

錆兎は視線を逸らしながら言った。

 

「あと……ごめんな」

 

「ああ」

 

月詠は短く答えた。

 

「俺は明日、別のとこに行く」

 

「隊士になったら、また会おうぜ」

 

「……元気でな」

 

 

 


 

 

 

藤襲山

最終選別最終日

 

月詠は錆兎へ、一本の刀を投げた。

 

「前に言ったよな」

 

静かな声。

 

「どんな時も、冷静に刀を振れ。そうすれば…」

 

錆兎は、柄を掴む。

 

月詠と、同時に言葉を紡ぐ。

 

「「―斬れないものはない」」

 

深く息を吸う。

 

「ヒュゥゥゥゥゥゥ……!」

 

「水の呼吸

拾ノ型――生生流転!」

 

渦を描くように、刃が舞う。

 

伸びてくる腕を、次々と断ち切り――

 

そして。

 

ついに、首が落ちた。

 

手鬼の巨体が、崩れ落ちる。

 

「……やった……!」

 

錆兎は振り返る。

 

「月詠!

……あれ?」

 

そこに、月詠の姿はなかった。

 

 

 


 

 

 

夜が明け、藤襲山の入口。

 

隊士候補者たちは、全員、下山していた。

 

「おめでとうございます」

 

あまねの声が、穏やかに響く。

 

説明が一通り行われ、解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

少し離れた場所。

 

「俺ら、出番なかったな」

 

月詠が言う。

 

「錆兎君救ったんだから、十分でしょ」

 

葵は笑った。

 

「お忙しい中、ありがとうございました」

 

あまねが頭を下げる。

 

「いえいえ!」

 

葵は元気よく返す。

 

「今度また一緒に、何か食べましょうね!」

 

「……太るぞ」

 

「ちょっと、あんたねえ……!」

 

「……あ、義勇のとこ行かなきゃ」

 

「待ちなさいこの!」

 

「ふふっ」

 

あまねは、静かに微笑んだ。

 

こうして――

史上初の全員合格。

 

一人の死者も出さず、最終選別は終わった。

 

今後の投稿について

  • 全部時系列順に書く
  • 一気に原作開始まで飛ばす
  • ある程度は時系列順、必要なときに回想
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