天使と悪魔は鬼を狩る 作:もく
縁壱さんが無惨と遭遇したのは、僕たちが直接その場にいない任務の最中だった。
後から聞いた話でしかない。
だが、その内容はあまりにも重かった。
――鬼舞辻無惨。
鬼の始祖。
縁壱さんは、確かに彼を追い詰めた。
だが、無惨は逃げた。
そして、その場にいた一人の女――珠世という鬼を、縁壱さんは討たなかった。
理由はわからない。
ただ、縁壱さんは「討たなかった」のではなく、「討てなかった」のだと思う。
それから間もなく、もう一つの知らせが届いた。
継国巌勝。
月詠の師であり、縁壱さんの兄が鬼になった。
その事実は、鬼殺隊全体を揺るがした。
鬼殺隊本部
重苦しい空気の中で、縁壱さんは静かに立っていた。
僕たち4人は、少し離れた位置からその背中を見ていた。
お館様が、ゆっくりと口を開く。
「君が、我々のために戦ってくれていたことは分かっている……」
その声は、震えていた。
「……だが、結果として鬼舞辻無惨を取り逃がし、鬼を見逃し、そして兄が鬼になってしまった」
縁壱さんは、何も言わない。
深く、頭を下げる。
「すまない…君を……鬼殺隊から追放する。」
その瞬間、胸の奥が強く締め付けられた。
理不尽だ。
そう思った。
縁壱さんがいなければ、鬼殺隊はとっくに滅んでいた。
それでも、組織としての決断なのだろう。
「……承知しました」
縁壱さんは、静かに答えた。
その背中は、あまりにも孤独だった。
僕は、気づけば前に出ていた。
「僕たちも……一緒に行きます」
お館様が、驚いたようにこちらを見る。
「照……」
「縁壱さんがいない鬼殺隊に、僕たちが残る理由はありません」
葵が、はっきりと頷いた。
「私もです」
煉も、迷いなく言う。
「当然だろ。師匠を置いていくわけねえ」
月詠だけが、少し遅れて口を開いた。
「……俺も行く」
その声は低く、感情を押し殺していた。
今まで育ててくれた師を失い鬼殺隊という居場所まで失う。
月詠の胸中は、僕には想像することしかできなかった。
お館様は、しばらく沈黙した後、静かに言った。
「……分かった。止めはしない。本部の場所が知られてしまったから我々は本拠地を変えることになる、だから君たちはこの場所に残ってもいい。」
お館様が頭を下げる。
「不本意だが申し訳ない、手紙を書いて烏に送らせるよ。このようなことになってしまってすまなかった」
珠世の屋敷
僕たちは、縁壱さんに導かれ、山奥にある珠世の屋敷を訪れた。
珠世さんは鬼だった。
だが、人を食わず、医者として人を救っていくことを選んだようだ。
「……あなた方が、縁壱さんの弟子ですね」
珠世は、僕たちをまっすぐに見つめた。
屋敷の中で、縁壱さんが口を開く。
「既に4人は知っているだろうが」
縁壱さんは、僕を見る。
「照が、短時間だが鬼化したそうだ」
空気が、張り詰める。
「私も、それを相談されて気になり、鬼の血を口に含んでみたが……何も起きなかった」
縁壱さんは、静かに続けた。
「おそらく、体の仕組みが違うのだろう」
そして、縁壱さんは目を閉じる。
「私の目…透き通る世界で、君たちを見た」
その言葉に、背筋が伸びる。
「4人とも、心臓の形が少し違っていた」
葵が、息を呑む。
「これは、あくまで私の予想だが……」
縁壱さんは、はっきりと言った。
「君たち4人は、鬼の血を摂取することで、短時間鬼化する体質なのだろう」
沈黙が落ちた。
「俺たちも…」
月詠が言うと、縁壱さんは頷いた。
「そしてもう一つ」
縁壱さんの声が、低くなる。
「私が生きている間は……無惨は姿を現さないだろう」
その言葉は、希望ではなく、現実だった。
珠世が、一歩前に出る。
「……私から、提案があります」
全員の視線が集まる。
「あなたたち4人の、その体質を利用する方法です」
珠代は、落ち着いた声で続けた。
「鬼化の性質を使い、身体を仮死状態に近づける。時間の流れから切り離す方法」
それは、逃げではない。
待つための選択だった。
「無惨が再び動く、その時まで」
僕は、仲間たちを見る。
誰も、迷っていなかった。
「……やろう」
僕が言うと、3人が頷いた。
縁壱さんは、目を伏せ、静かに言った。
「すまない……君たちに、こんな選択をさせてしまって」
「違います」
僕は、はっきりと答えた。
「これは、僕たちが選んだ道です。短い間でしたがありがとうございました」
こうして僕たちは、
時代から一度、姿を消すことを選んだ。
次に目を覚ます時、
この世界は、きっと大きく変わっている。
――それでも。
運命を変えるために。
僕たちは、眠りについた。
今後の投稿について
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全部時系列順に書く
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一気に原作開始まで飛ばす
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ある程度は時系列順、必要なときに回想