天使と悪魔は鬼を狩る 作:もく
珠世の屋敷の奥。
灯りを落とした部屋の中で、四つの寝台が静かに並んでいた。
照、月詠、葵、煉。
四人の呼吸は浅く、限りなく止まっているようで、それでも確かに生きている。
仮死状態。
時間の流れから切り離された存在。
珠世が最後の確認を終え、静かに一歩引いた。
「……これで、彼らの身体は安定しました。彼らの体は徐々に再生していき、いつになるかはわかりませんが彼らはまた目を覚まします」
縁壱は、何も言わずに四人を見つめていた。
その目には、いつもの穏やかさはない。ただ深い後悔と、祈りだけがあった。
そのときだった。
羽音が、静寂を裂く。
一羽の烏が、開け放たれた縁側に舞い降りた。
縁壱の烏だった。
脚に結ばれた、小さな筒。
縁壱はそれを取り、静かに目を通す。
この手紙が届いているということはあなたの烏は無事、君を見つけることができたみたいですね。
今後の生活でもし私に出来ることがあるのだとしたら教えてほしいです。
あなたは鬼殺隊にいる間私たちに呼吸という大きなものを与えてくれました。
未熟な私ですが産屋敷家の当主としてせめてあなたに恩を返したいと考えています。
なんなりとお申し出ください。
産屋敷
10歳とは思えない丁寧な文字だった。
縁壱は、しばらく手紙を見つめたまま動かなかった。
そして、ゆっくりと筆を取り返事を書き始める。
先日照たち4人に鬼の血を飲むことで短時間鬼化をすることが可能であるという特異体質であることが判明しました。
彼らはその間鬼としての衝動を制御し鬼と戦うことが可能です。
しかし鬼舞辻無惨は私が生きている間は姿をくらますでしょう。
そこで彼らは珠世殿の提案で鬼化し仮死状態になることで私の死後に目覚め、戦うことを選びました。
先ほど珠世殿の協力で無事眠りにつかせました。
この眠りが何年続くかは分かりません。
数十年、あるいは数百年に及ぶ可能性もあります。
ですが私は、未来に賭けることを選びました。
鬼舞辻無惨が滅びるその時代へ、彼らを送り出します。
願わくば彼らが目覚めた後、
その生を終えるまで産屋敷一族のもとで保護していただけないでしょうか。
これが私の最後のわがままです。
筆を置く。
烏がそれを受け取り、闇の中へと飛び去っていった。
しばらくして、烏が戻ってくる。
短い返事だった。
承知しました。
彼らは、鬼殺隊の未来にとっても希望です。
産屋敷の名にかけて、
必ず守り抜きます。
縁壱は、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
誰に向けた言葉かは、分からなかった。
珠世は、その様子を静かに見届けてから、口を開く。
「……私は、ここを離れます」
縁壱が顔を上げる。
「鬼として生きる以上、同じ場所に留まるわけにはいきません」
珠世は、眠る四人を一瞥した。
「でも……この子たちが目覚める世界なら、少しは希望があるのかもしれませんね」
そう言って、背を向ける。
「縁壱さん、私を助けてくださりありがとうございました。さようなら」
「……ありがとう、珠世」
珠世の姿が闇に消え、屋敷には再び静寂が戻った。
縁壱は、一人、四人の寝顔の前に立つ。
幼い顔。
それでも、確かな覚悟を宿した顔。
「すまない……」
低く、震える声。
「君たちに、未来を託すしかできない私を……許してほしい」
そして、縁壱は静かに刀に手をかけた。
「私も……」
一歩、踏み出す。
「自らの技を、未来へ繋ぐとしよう」
その言葉は、誓いだった。
日の呼吸。
剣のすべて。
彼らが目覚めるその時まで——
絶やしてはならない光
その技がいつか彼らを助けてくれることを願って
灯りはひとつ消える
歯車はここで静かに止まり、
時間は未来へと流れ始めた
今後の投稿について
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全部時系列順に書く
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一気に原作開始まで飛ばす
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ある程度は時系列順、必要なときに回想