天使と悪魔は鬼を狩る 作:もく
目を開けた瞬間、最初に感じたのは――音だった。
遠くで、風が木々を揺らす音。
どこかで、鳥が鳴いている。
……生きている世界の音だ。
次に、瞼の裏に差し込む、柔らかな光。
眩しさに思わず目を細める。
「……」
声を出そうとして、喉がうまく動かない。
身体は重く、指先に感覚が戻るまで少し時間がかかった。
ゆっくりと、深く息を吸う。
――空気が、違う。
血と鉄と死の匂いが当たり前だった、あの時代とはまるで違う。
澄んでいて、静かで、どこか穏やかだ。
「……ここは……」
掠れた声が、自分の耳に返ってくる。
そのときだった。
「派手に目覚めると思ったが、ずいぶん地味だな」
低く、張りのある声。
視線を向けると、少し離れた場所に一人の男が立っていた。
背が高く、がっしりとした体躯。
額には宝石のような飾り、派手な装飾の施された隊服。
――知らない顔だ。
だが、その存在感だけで分かる。
(……鬼殺隊の剣士だ)
「安心しな。ここはお館様の屋敷だ」
男は腕を組み、こちらを値踏みするように見下ろしている。
「俺は宇髄天元。今はお前らの“見張り役”ってところだ。
……つっても、今日たまたまこの仕事が回ってきただけだがな」
……お前ら?
その言葉に、意識が一気に冴えた。
「……他の、三人は……」
喉が鳴り、ようやく言葉になる。
宇髄は顎で、部屋の奥を示した。
「まだ寝てる。全員な。
お前が一番最初だ、白髪」
視線を動かすと、少し離れた場所に並ぶ寝台が見えた。
そこに横たわる、見慣れた三つの影。
月詠。
葵。
煉。
胸の奥に、じんわりとした熱が広がる。
(……戻ってこれた)
生きている。
四人とも。
「……どれくらい、眠ってたんですか」
そう尋ねると、宇髄は一瞬だけ言葉を切った。
「……さてな。
少なくとも、俺が生まれる前だ」
その一言で、すべてを察した。
(……相当、未来だ)
縁壱さんの顔が、脳裏をよぎる。
珠世さんの声。
眠りにつく前の、あの静かな覚悟。
「……そう、ですか」
宇髄は、ふっと鼻で笑った。
「驚かねえんだな。
もっと『ここはどこだ!』とか『無惨は!?』とか騒ぐかと思ったぜ」
「……状況は、あとで聞きます」
ゆっくりと身体を起こす。
まだ少しふらつくが、立てないほどではない。
「まずは……仲間の無事を確認したい」
その言葉に、宇髄は目を細めた。
「なるほど。
派手じゃねえが……悪くない目だ」
そして、くるりと背を向ける。
「お館様には、もう伝えてある。
他の連中が起きるまで、俺がここにいる」
一歩、縁側へ向かいながら、振り返る。
「歓迎するぜ、ずいぶん昔の時代から来た剣士さん」
外に出るとちょうど日の出だった
止まっていた歯車が――
今、確かに回り始めた。
この話では宇髄天元は原作より3年早く産まれていて早めに産屋敷耀哉に出会い入隊しています
今後の投稿について
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全部時系列順に書く
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一気に原作開始まで飛ばす
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ある程度は時系列順、必要なときに回想