天使と悪魔は鬼を狩る 作:もく
照が目を覚ましてから、数日ほど時間が流れた。
部屋の空気に、わずかな変化が生まれる。
最初に反応を見せたのは――月詠だった。
微かに眉が動き、呼吸が深くなる。
やがて、ゆっくりと瞼が持ち上がった。
「……」
視線が天井を捉え、数拍遅れて現実を理解する。
「……照……?」
低く、掠れた声。
「起きてるよ」
そう答えると、月詠は小さく息を吐いた。
いつもの無表情だが、どこか力が抜けている。
「……生きてる、な」
「ああ」
それだけで、十分だった。
少し遅れて、隣の寝台からかすかな音がする。
「……う、ん……?」
葵だった。
寝返りを打つように身体を動かし、ゆっくりと目を開ける。
「……ここ……?」
状況を把握しようとするその目が、照と月詠を捉えた瞬間、少しだけ大きくなる。
「……二人とも……?」
「大丈夫だ、葵」
月詠がそう言うと、葵は小さく頷いた。
「……よかった……」
胸に手を当て、安堵するように息を整える。
最後に――
「……はは……」
小さな笑い声。
煉だった。
「目、覚めたら……知らねえ天井。
こりゃまた、派手に時代を飛んだもんだな」
ゆっくりと上体を起こし、周囲を見回す。
「全員……いるな」
「ああ」
四人が揃った、その瞬間。
長い眠りが、確かに終わったのだと実感した。
しばらくして、襖の向こうから静かな足音がした。
「入ってもいいかな」
柔らかく、落ち着いた声。
宇髄が応じる前に、襖が静かに開かれる。
そこに立っていたのは――
年若い少年だった。
白い髪。
病的なまでに細い身体。
だが、その目は、驚くほど澄んでいる。
(……お館様?)
直感的に、そう思った。
少年は、四人を見て微笑む。
「初めまして。産屋敷耀哉です」
その声に、場の空気が一段、引き締まった。
年齢は、どう見ても子どもだ。
それでも、この場を統べる“当主”だと、誰もが理解した。
四人が揃って頭を下げようとした、その時。
「そんなに畏まらなくていいよ」
耀哉は、少し困ったように笑った。
「今日は……お願いがあって来たんだ」
そう言って、少しだけ言葉を選ぶように間を置く。
「少し、我儘を聞いてもらってもいいかな?」
四人の視線が集まる。
「身分上、どうしても“対等”でいてくれる人がいなくてね」
どこか寂しそうな声音。
「上手く“友達”と呼べるような関係の子が、いないんだ」
照は、はっとした。
(……この人も、孤独なんだ)
「君たちは、少し若返っているらしいね」
耀哉は、そう言って僕たちを見渡した。
「見た目は幼いけれど……話していると、不思議と同じ歳のように感じるんだ」
——確かに、身体は子どもだ。
眠りにつく前より、明らかに幼くなっている。
けれど、僕たちの中身は違う。
戦国で過ごしたことになっている15年と、
そして――400年という“空白”を抱えたまま、ここにいる
「だから……友達のように、接してほしいんだ」
一瞬、静寂が落ちた。
最初に反応したのは、煉だった。
「……友達?」
「ああ」
「当主様とか、そういうの抜きで?」
「うん」
煉は、少し考えてから、豪快に笑った。
「いいじゃねえか!よろしくな、耀哉!」
その言葉に、耀哉は目を丸くし――
すぐに、嬉しそうに微笑んだ。
「……ありがとう」
葵も、少し戸惑いながら口を開く。
「……私でよければ」
月詠は、少しだけ視線を逸らし、短く言った。
「……構わない」
そして、照は小さく頷いた。
「こちらこそ、よろしく……耀哉」
その呼び方に、耀哉は満足そうに微笑む。
過去から来た剣士たちと、
未来を背負う当主。
新しい時間が、静かに動き出していく。
今後の投稿について
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全部時系列順に書く
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一気に原作開始まで飛ばす
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ある程度は時系列順、必要なときに回想