天使と悪魔は鬼を狩る 作:もく
僕たちには耀哉から屋敷が与えられた。今後柱になったら別々に与えられることになるらしい。
少しずつ体を動かし過ごしていたら突然耀哉から呼び出された。
耀哉との面会は、朝の光が差し込む座敷で行われた。
風が障子を揺らし、庭の木々が静かに音を立てている。
戦国で慣れ親しんだ殺気のある空気とは違う、穏やかな時間だった。
「目覚めてから、数日が経ったね」
耀哉は、穏やかな声で切り出した。
「身体の調子はどうかな?」
「……問題ありません」
照が答えると、耀哉は小さく頷く。
「そう言っても、君たちの身体は“長い眠り”から戻ったばかりだ。
いきなり前線に出すのは、当主として許されない」
その言葉に、四人は黙って耳を傾ける。
「だから、少しだけ時間をほしい」
耀哉は、真っ直ぐに彼らを見る。
「一ヶ月。
それぞれに合った育手のもとで、身体と呼吸を“今の時代”に馴染ませてほしいんだ」
煉が首を傾げる。
「育手って……俺たち、もう戦えるぞ?」
「うん、知ってる」
耀哉は即座に答えた。
「でもね、“戦える”と“生き残れる”は、少し違う」
その言葉は、優しいが揺るがなかった。
「時代が変われば、戦場も変わる。
鬼の質も、人の強さも、全部だ」
少し間を置いて、耀哉は続ける。
「君たちには、これから先……鬼殺隊の中核に立ってもらう可能性がある」
四人の表情が、わずかに引き締まる。
「だからこそ、急がせたくない」
そして、柔らかく微笑んだ。
「紹介したい育手がいる。
君たち一人一人に、ちゃんと意味がある人たちだ」
照は、静かに頷いた。
「……分かりました」
「ありがとう」
耀哉は、少し安心したように目を細める。
「それじゃあ――
君たちの“今の時代の第一歩”は、そこから始めよう」
その言葉を合図に、四人の新しい修行の日々が、静かに動き出した。
耀哉との話の数日後、照は一人、山深い屋敷を訪れていた。
雷の呼吸の育手、元鳴柱桑島慈悟郎。その名は、耀哉から簡単に聞かされていた。
「ほう……お前さんが、戦国から来た剣士か。儂も何回か見張りを任せられたことがあったがまさか起きるとは」
初対面の印象は、厳格。だが目はよく人を見ていた。
照は正直に打ち明けた。
日の呼吸を使えること。だが負荷が大きく、今の体では長くは持たないこと。
そして――雷の呼吸を“補助”ではなく、“主武装”として完成させたいこと。
「欲張りじゃな」
そう言いながら、慈悟郎は笑った。
「だがいい。雷は“一撃”の呼吸だ。覚悟が定まっていれば、迷いは斬れる」
縁側に落ちた小石を、杖で軽く弾く。
「一瞬で決めるということは、その一瞬に、覚悟のすべてを込めるということじゃ」
訓練は苛烈だった。
足運び、呼吸、踏み込み。
霹靂一閃などの技を「速さ」ではなく、「確実さ」で当てる修正。
「今は速さは置いておけ、正確に一点を貫け」
照は何度も地面に倒れた。
だが、戦国で日の呼吸に押し潰されかけた記憶が、今は支えになっていた。
――完璧に修得して日の呼吸の負荷にも耐えてみせる
1ヶ月後
一度は静かになった照の雷の呼吸は、「速さ」を誇示するだけのものではなくなっていた。
踏み込みは低く、無駄がない。
一歩で距離を詰め、一太刀で終わらせる。
それは雷というより――
避雷針のように、必ず“そこ”へ落ちる剣だった。
月詠は、月の呼吸を使わなかった。
使える。だが、使いたくなかった。
「……理由は、聞かない」
悲鳴嶼行冥は、そう言った。
鱗滝の下での基礎調整を終えた後、
月詠は岩柱のもとに預けられた。
「お前の剣は、迷っている」
最初の一言で、心臓を掴まれた気がした。
月の呼吸、鬼となってしまった師が使っていた呼吸
「剣を憎むな。使わぬなら、それでもいい。
だが、己の弱さから目を逸らすな」
訓練は、剣を振る以前のものだった。
岩を押し、鎖を引き、呼吸を乱されても立ち続ける。
「折れぬ心がなければ、その刀は力となる」
夜、月詠は一人で座った。
月を見上げることは、しなかった。
それでも1ヶ月後、
彼の剣は、以前よりも重く、揺るぎなくなっていた。
月の呼吸を使わずとも、
彼は“斬る覚悟”を取り戻し始めていた。
葵は、自分の欠点を自覚していた。
「……手加減、しているな」
鱗滝左近次の指摘は、静かだったが的確だった。
鬼を斬る瞬間、ほんの一瞬、ためらう。
救えないと理解していても、感情が剣を鈍らせる。
「優しさは悪くない」
鱗滝は、淡々と言った。
「だが、優しさを理由に剣を止める者は、いずれ“斬らせた”責任からも逃げる」
葵が息を呑む。
「守りたいなら、まず決めろ。
斬るときは、迷うな」
その言葉は、重かった。
訓練は、水の呼吸の“流れ”を壊すところから始まった。
型を繋げない。
あえて止める。
判断を迫る。
「判断が遅い」
葵は何度も剣を止め、何度も叱責された。
それでも――
彼女は剣を捨てなかった。
「私は……生きてほしい。でも……」
「それでも斬れ」
「…分かっています」
1ヶ月後。
葵の剣は、以前より冷たく、澄んでいた。
優しさは消えていない。
ただ、それが“決断の後”に来るようになっただけだ。
煉の修行は、少し特殊だった。
煉獄槇寿郎は、既に前線を退きつつあった。
だが、剣の重みは失われていない。
「炎は、燃え上がるものだと思うな」
低い声。
「炎とは、“絶やさぬと決めた意志”だ」
愼寿郎の言葉は重かった
そして、隣には杏寿郎がいた。
彼はまっすぐで、熱くて、眩しい剣士だった。
「一緒にやろう!煉!」
その声に、煉は笑った。
訓練は、任務の合間。
短く、濃い。
「炎は感情だ。だが制御できねば、味方を焼く。激しさだけが炎ではない」
煉は、派手な技を封じられた。
地味な素振り。
地味な型。
より繊細に…より正確に
だが、炎は消えなかった。
「……悪くねえな」
1ヶ月後。
煉の炎は、爆ぜるものだけではなく、燃え続けるものにもなっていた。
杏寿郎と肩を並べ、槇寿郎に背を正されながら。
彼は確かに、炎を“受け取って”いた。
今後の投稿について
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全部時系列順に書く
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一気に原作開始まで飛ばす
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ある程度は時系列順、必要なときに回想