天使と悪魔は鬼を狩る 作:もく
調整期間が始まってから、ほぼ一ヶ月が経った頃。
四人は、再び産屋敷の屋敷に呼ばれていた。
陽の差し込む座敷。
静かで、どこか張りつめた空気。
正面に座るのは、耀哉だった。
「来てくれてありがとう」
いつもと変わらぬ穏やかな声。
けれど、その眼差しは、四人一人ひとりを正確に捉えていた。
「この一ヶ月、育手や柱のもとで調整をしてもらったね」
照が、わずかに背筋を伸ばす。
月詠は黙って頷き、
葵は手を膝の上で組み、
煉は視線を真っ直ぐ向けている。
「結論から言うと――」
耀哉は、微笑んだまま告げた。
「君たちは、もう“動ける”」
その一言に、空気が変わった。
「もちろん、万全とは言えない。
でもね、実戦でしか見えないものもある」
そう前置きしてから、続ける。
「だから、柱と一緒に任務に就いてもらおうと思う」
反対の声はなかった。
むしろ、どこか納得した沈黙。
耀哉は、一人ずつ視線を向けていく。
「照」
「はい」
「君は、音柱――宇髄天元と」
照の脳裏に、派手な笑顔が浮かぶ。
「雷の呼吸の完成度は高い。
宇髄は、実戦での判断力と視野が広い。
今の君には、ちょうどいい」
次に、月詠。
「月詠は、岩柱――悲鳴嶼行冥と行動してもらう」
月詠は、短く息を吐いた。
「剣だけじゃない部分を、彼から学んでほしい。
君は……強い。でも、それだけじゃ足りない」
月詠は、何も言わずに頷いた。
「葵、煉」
二人が同時に顔を上げる。
「君たちは、炎柱――煉獄槇寿郎と」
煉の目が、わずかに輝いた。
葵は、静かに驚きを飲み込む。
「任務だけでなく、警護や巡回も含めて動いてもらうよ。」
耀哉は、少しだけ表情を和らげた。
「これは、試験じゃない。
でも――君たち自身が、自分の立ち位置を知る機会にはなる」
そして、最後にこう付け加える。
「無理はしなくていい。
危険だと判断したら、必ず柱の指示に従ってほしい」
少し間を置いて。
「……それでも、行くかい?」
答えは、決まっていた。
「はい」
四人の声が、重なる。
耀哉は、満足そうに微笑んだ。
「じゃあ、準備をして。
君たちの“今”を、見せてもらうよ」
その言葉を合図に。
彼らは、それぞれの柱との出会いへと向かうことになる。
――この先で、
同じ年頃の誰かに“救われた記憶”が、
未来へ繋がっていくことも知らずに。
出会い 音、恋
柱同行任務が決まった日。
照が向かった先で、ひときわ派手な声が響いた。
「お、あの時の白髪じゃねえか!
派手に元気そうでなによりだな!」
振り向けば、派手な装飾と自信満々の笑み。
音柱・宇髄天元だった。
「よろしくお願いします、天元さん」
「固えよそういうとこは地味なやつだな。
派手に四百年も生きてんだから、もっと親しくしてもらっていいんだぜ?」
一瞬考えて、照は少しだけ言い直す。
「……じゃあ。よろしく、天さん」
「おう!よろしくな照!」
それだけで距離が一気に縮まった気がした。
任務の合間、二人は街の食事処に立ち寄っていた。
照が天元の向かいで静かに箸を進めていると――
視界の端で、とんでもない光景が広がる。
山のように積まれた皿。
それを、迷いなく、次々と平らげていく一人の少女。
桃色がかった髪。
頬を膨らませながら、心底幸せそうに食べている。
「……」
「なんだ、じっと見て。気になるのか?」
天元に肘でつつかれ、照は素直に答えた。
「うん。
作ってくれた人が羨ましいなって」
「は?」
「だってさ。
こんなにおいしそうに食べてくれる人、そうそういないよ。
料理する側からしたら、宝物みたいな存在だと思う」
天元が一瞬、言葉を失った。
「……へぇ」
照は気づいていない。
その言葉を、少女――甘露寺蜜璃が、聞いていたことを。
周囲から向けられる視線。
「気味が悪い」「女の子なのに」
そんな声を、彼女は何度も浴びてきた。
けれどその日、
自分を“変だ”と言わず、
ただ肯定してくれた少年がいた。
胸の奥が、じんわりと熱くなった。
その夜、街に鬼が現れた。
悲鳴。
逃げ惑う人々。
蜜璃が物陰に隠れた瞬間、
鬼の影が迫る。
――次の瞬間。
白い影が前に立った。
「下がって」
短い言葉。
迷いのない剣。
一閃で、鬼は地に伏した。
「……大丈夫?」
震える蜜璃に、照はそう声をかけた。
「……ありがとう」
しばらく沈黙の後、蜜璃は言った。
「あのね……私…他の人より力があって、その分たくさん食べちゃって……
気味悪がられてたの」
照は首を振る。
「そんなことないよ」
「……でも、君の言葉で……
私、自信が持てた。」
ぎゅっと拳を握る。
「私も……君みたいに、誰かを守れる人になりたい」
照は、少しだけ驚いた顔をして、
それから柔らかく笑った。
「じゃあ……今度会った時。
その気持ちが変わってなかったら、だね」
名前は名乗らなかった。
ただ、天元が去り際に叫ぶ。
「照!行くぞ!」
蜜璃は、その名前だけを胸に刻んだ。
帰り道。
「……たらしかよ」
「何言ってるんですか天さん」
「しかも天然。
あいつ、苦労すんだろうな〜」
「……え?」
照は最後まで、気づかなかった。
今後の投稿について
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全部時系列順に書く
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一気に原作開始まで飛ばす
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ある程度は時系列順、必要なときに回想