天使と悪魔は鬼を狩る   作:もく 

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9話 天使と悪魔の出会い 2

出会い 岩、花そして蟲

 

月詠は、その日も悲鳴嶼行冥と行動していた。

 

柱との合同任務――

正確には、鍛錬と実戦を兼ねた巡回だった。

 

夜更け。

山間の集落へ向かう途中、月詠の足が止まる。

 

「……血の匂い」

 

微かだが、確かだった。

 

悲鳴嶼が口を開くより早く、月詠は地を蹴っていた。

 

「先に行きます」

 

短く告げ、闇へと身を投じる。

 

家屋が一軒。

灯りは、まだ消えていない。

 

――間に合え。

 

扉が破られる音。

悲鳴。

泣き声。

 

踏み込んだ瞬間、鬼の爪が二人の大人に迫っていた。

 

「――やめろ」

 

低く、しかし迷いのない声。

 

次の瞬間、刃が閃く。

一太刀。

 

鬼の首は床に転がり、闇は断ち切られた。

 

倒れ込んだ男女は、息をしている。

血は流れているが、致命傷ではない。

 

その背後で、二人の少女が固まったように立っていた。

 

年の近い姉妹。

怯えながらも、必死に両親を庇おうとしていた。

 

「……もう大丈夫」

 

月詠は刀を収め、穏やかに告げる。

 

その声で、ようやく現実が追いついたのか、

姉の方が震える声で言った。

 

「……ありがとうございます……」

 

ほどなく、悲鳴嶼行冥が到着する。

 

「……間に合ったか」

 

「ああ。全員、生きてる」

 

それだけで、十分だった。

 


 

翌朝。

事後処理のため、月詠と悲鳴嶼はその家に残っていた。

 

両親は命を取り留めていた。

だが、昨夜の出来事は家族の心に深く刻まれている。

 

庭先で、姉妹が並んで立っていた。

 

「……あの」

 

先に口を開いたのは姉だった。

 

「お願いがあります」

 

真っ直ぐな目。

 

「私たち……鬼狩りになりたいです」

 

空気が張り詰める。

 

両親は、何も言わなかった。

止める言葉を、飲み込んでいた。

 

昨夜、

子どもたちは逃げるのではなく、前に立とうとしていた。

 

その決意の固さを、

両親は誰よりも知ってしまったのだ。

 

悲鳴嶼が、低く息を吐く。

 

「……過酷な道だ」

 

「分かっています」

 

妹が、続ける。

 

「それでも……誰かが大切な人を失うのを、少しでも減らしたいんです」

 

月詠は、二人を見ていた。

 

守られた子どもの目ではない。

すでに、“選んだ者”の目だった。

 

「……俺が、守る」

 

ぽつりと、しかし確かな声。

 

「二人が折れそうになったら……その時は、俺が側にいます」

 

悲鳴嶼は、ゆっくりと振り向いた。

 

「月詠……」

 

少しの沈黙の後、静かに頷く。

 

「……任せよう」

 

その日から、

悲鳴嶼が多忙な間、月詠は姉妹の指導役を任されることになった。

 

剣の握り方。

呼吸の整え方。

 

そして――

 

「戦う理由だけは、忘れないこと。二人なら、きっと守れる」

 

月詠は優しく微笑んだ。

 

月詠は、月を見上げない。

 

だがその背で、

二羽の蝶は確かに羽化を始めていた。

 

静かに。

折れぬ強さを抱いて。

 

 

 

 

 

 

 


 

出会い 蛇

 

その任務は、街道沿いの警護だった。

 

煉と葵は、煉獄槇寿郎の背を追って山道を進んでいた。

槇寿郎はまだ現役の炎柱。

歩くだけで、空気が張り詰める。

 

「……気配が乱れている」

 

槇寿郎が足を止める。

 

次の瞬間。

 

藪を裂いて、小さな影が転げるように飛び出してきた。

 

「子ども……?」

 

葵が息を呑む。

 

ぼろ切れの衣。

痩せた身体。

そして、顔に刻まれた深い傷。

 

背後から、ぬるりとした気配。

蛇のようにしなやかな鬼が迫っていた。

 

「来るぞ」

 

槇寿郎が動くより早く――

 

「……っ!」

 

煉が地を蹴る。

 

「葵!」

 

「うん!」

 

煉が少年の前に立ち、刀を構える。

葵は、その横へ。

 

水の呼吸 壱ノ型――水面斬り。

 

滑るような剣閃が、鬼の進路を断つ。

 

――美しい。

 

少年は、思わず目を奪われた。

 

(……女……)

 

嫌悪が湧くはずだった。

怖い。

奪う。

縛る。

 

なのに。

 

その剣は、奪わなかった。

守るために、そこにあった。

 

蛇鬼が嗤う。

 

「なんだァ……ガキが増えただけか」

 

次の瞬間。

 

炎が、夜を切り裂いた。

 

「炎の呼吸 壱ノ型――不知火」

 

煉獄槇寿郎の一太刀。

蛇鬼は叫ぶ間もなく消し飛んだ。

 

夜が、静まる。

 

少年は、へたり込んだ。

全身が震えている。

それでも、叫ばない。

 

「……大丈夫?」

 

葵が、そっと近づく。

 

少年は身を強張らせた。

逃げもしない。

拒みもしない。

 

ただ、固まっている。

 

(……慣れてる)

 

葵は気づく。

 

「怪我、ひどいね……」

 

包帯を取り出した、その時。

 

――シャッ。

 

白い蛇が、少年の首元から現れた。

牙を剥く。

 

「っ……!」

 

だが。

 

「……やめろ、鏑丸」

 

かすれた声。

 

少年が、蛇を制した。

 

葵は目を瞬かせる。

 

「……巻くね。じっとしてて」

 

返事はない。

それでも、少年は抵抗しなかった。

 

触れない距離。

必要な分だけ。

丁寧な手。

 

(……怖くない)

 

その事実が、少年を戸惑わせる。

 

槇寿郎が、少年を見下ろす。

 

「名は」

 

「……伊黒……小芭内」

 

「そうか」

 

それ以上は問わない。

 

煉が隣にしゃがみ込む。

 

「助かってよかったな!よろしく、小芭内!」

 

無邪気な声。

 

少年は目を伏せた。

 

(……俺のせいで、皆、死んだ)

 

その言葉は、喉の奥に沈んだままだ。

 

その夜、少年は鬼殺隊の保護下に置かれた。

 

去り際。

 

葵が振り返る。

 

「君がどうするかは君次第。でも……ちゃんと、生きて」

 

少年は答えなかった。

 

けれど、

鏑丸はもう牙を剥かなかった。

 

炎に救われ、

水に触れ、

蛇は――その夜、初めて目を逸らした。

 

今後の投稿について

  • 全部時系列順に書く
  • 一気に原作開始まで飛ばす
  • ある程度は時系列順、必要なときに回想
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