最初に学んだことは、この世界は脆いということ。
チャートにこそ載らないものの、実力だけなら
田舎も田舎の学校で、掌から空気の塊を飛ばす少年に生意気だと迫られ校舎が消し飛んだ。
個性を把握する為の訓練場で己の腕が罅割れるような火傷を負った。
「個性が強すぎるんですね、単純に。感情で制御を外れるとかではなく、象が歩いたら蟻を潰すとかそんな感覚です」
そして個性だけかと思えば、銀行のATMを持ち上げ逃げる強盗に人質に取られた際にヴィランの肉を骨ごと握りつぶした。
大型の異形系のほうが彼よりもまだ貧弱である。電気信号による身体強化
雷速で移動し、その一瞬にも満たない時間を把握する時間感覚。そして世界を置き去りにした時間の中で動いて壊れない肉体。これは個性関係ない素の肉体。或いは
そんな肉体に電気抵抗があってもなお本来の電力は肉体の限界を超えるのだが。
「原因? やはり『血』としか………」
世界は脆い。己自身さえ。
子供同士の個性を使用した喧嘩なんて珍しくもない事例。主に世代ゆえに個性が劣り、かつヒーローでもないため個性を鍛えられない教師が大怪我し子供も時に重傷を負う有り触れた事件は、彼が関われば死者が出かねない。
「貴方が特別であることを自覚しなさい」
「本気で挑んではいけない」
「対等に接しては殺してしまう」
「花をいたわるように優しくしなさい」
個性を伸ばすはずの訓練は、そのまま個性を抑える訓練となった。例えるなら重機の操縦を学びにきて重機で針に糸を通すような………。
春。街を見下ろせば新たな出会いを果たした子供達がはしゃいでいる。自分は混ざれない。怪我をさせてしまうかもしれないから。
夏。テレビの向こうで子供が水辺ではしゃぐ。自分は行けない。殺してしまうかもしれないから。
秋。夏の残暑も消えたスポーツ日和。アスレチックに個性で挑む子供達。自分は参加できない。壊してしまうかもしれないから。
冬。カップルに嫉妬した突発ヴィランが暴れ、ヒーローが対応に追われている間に本物のヴィランが謀をする。みんなが忙しいので一人で過ごした。
対等などいない。友人など作れない。
全てが脆い世界でただ一人生きる。
加減を学ぶ。壊さないように。
加減を学ぶ。殺さないように。
人を慈しめと言う。英雄以外に生きる道はないと言う。
その血に宿る強すぎる力の片鱗。溢れ出す衝動の発散が出来るのはヒーロー以外ではヴィランだけなのだから。
それでもカムイはカムイなりに世界と関わる。触れれば倒れる花々とカムイなりに接してきている。
全力で戦える者達が羨ましい。対等に肩を組める者達が羨ましい。そう思う程度に人と関わりたいと思えるのは、やはり母のおかげか。
(オールマイトならわかるかね、この気持ち…………)
映像を見て思う。オールマイトも窮屈そうだ。
本気で動けばその風圧で街など軽く吹き飛んでいくだろう。一挙手一投足が全力なわけがないのはもちろんとして、その上でオールマイトも周囲に気を使って動いている。
自分達はそういう存在だ。
『遊び気分のお前とは違うんだ。俺は、こんなところで躓けない。本気で来い、本気のお前に勝たなきゃ意味ねえんだよ』
本気で世界に関われるくせに本気を出さず、そのくせ力を使えだと?
どの口で言ってんだ彼奴。
などという苛立ちを抱えたまま午後の部。A組の女子達が峰田と上鳴に騙されチアリーダー姿になってた。騙されたことに落ち込む女子達。葉隠だけは乗り気だった。
そのままレクリエーションが進み、最終種目。
トーナメントの形式のガチバトルだ。
因みに棄権した庄田の代わりに上がってきたのは鉄哲。振り分けは
第1試合 緑谷VS心操
第2試合 轟VS芦戸
第3試合 塩崎VS上鳴
第4試合 稲妻VS八百万
第5試合 飯田VS常闇
第6試合 青山VS瀬呂
第7試合 鉄哲VS切島
第8試合 麗日VS爆豪
レクリエーションにはそれぞれ参加したりしなかったり。カムイは一応名を売っておく必要があるため参加して借り物競争で『背脂』が出たのでラーメンの屋台から借りてきた。一度会場から出たけど普通に1位。
レクリエーションを挟んだことで少しだけ気分も晴れた。
トーナメントでは緑谷が心操に操られかけるも個性因子が意思を持ったかのように明らかに思考している電気パターンを放って緑谷が正気に戻ったのには驚いた。
第2試合。芦戸は酸性を薄めた薄く粘性の高い粘液を生み出し不凍液代りに対応しようとしたが、超巨大な氷塊に閉じ込められギブアップ。会場からはドンマイコール。
第3試合。塩崎をナンパした上鳴は瞬殺された。どうやら頭の茨は切り離して操れるらしく、地面に潜らせ電気を逃がしながら縛り付けた。開幕ブッパでアホになった上鳴はそのまま負けた。
そして第4試合。
『さあここに来るまで他を圧倒! 宣言通り頂点に佇みチャレンジャーを待つ文句なきチャンピオン! 稲妻カムイー! 対するは万能創造! 推薦入学だけありその才能は折り紙付き! 八百万百!!』
ステージに立った八百万は考える。何をすべきか。
絶縁体でガード? それとも速さに警戒して盾を? あえての攻撃? 何でも出来る、選択肢の広い個性故に迷う。
スタートの合図と同時に、八百万が選択したのは攻撃。ゴム弾を放つ銃。雷がソフトボールサイズもあるゴム弾を一瞬で蒸発させた。
そのまま攻撃が来ると警戒し絶縁シートを出そうとした瞬間、引っ張られるような感覚。
「──────え?」
視界がブレ気付けば場外。八百万の襟から手を離したカムイはそのまま控室に向かい歩いていく。
「……………あ………! しょ、勝者稲妻カムイ!」
『とんでもねー! 第1試合で見せた疾さは健在だー!』
『あの速度で動いたら稲妻本人はともかく八百万が無事じゃないだろ。ただ普通に速く動いただけだ』
相澤の言う通りである。そもそも雷速で動ける物体がある方がおかしいのだ。それが個性ならともかく個性の応用などと………。
(いや、雷獣が雷の速度で駆ける獣なのか? 変身してねえけど)
個性届では変形型だが、未だその全容は不明。というか変形してこそ全力の雷撃が放てるとすると、USJの一部を消し飛ばした以上の力を振るえるわけで………エンデヴァー以上の広域殲滅。個性は代を重ねる事に深化すると言っても一代でここまで変わるものなのか?
「圧倒的だな、あの子」
「選手宣誓で大きな口をたたくと思っていたけど、納得の強さだ」
第5試合。
第6試合。瀬呂のテープが青山を捕らえ場外に。
第7試合では殴り合い。
互いに硬くなる個性。暑苦しい戦い方に観客は沸き、最後にダブルノックアウト。後で腕相撲とかするらしい。
第8試合。
容赦ない爆発の連続に一部ヒーローがブーイングするが、実力を認めて油断しない事をいたぶるというヒーローは才能ないから転職しろと相澤が吐き捨てた。
麗日は爆発で破壊された瓦礫を浮かせ続けており、それを悟られぬために猛攻していた。個性を解除し降り注がせるが爆豪は瓦礫の雨を一撃で消し飛ばした。
それでも諦めない麗日であったが先に肉体が限界を迎える。動けなくなり爆豪の勝利。
その後鉄哲と切島の腕相撲。切島が勝った。
「…………羨ましいねぇ」
固い握手を交わす切島と鉄哲もそうだが、ちゃんと警戒して戦える爆豪も。
第2回戦
第1試合 緑谷VS轟
第2試合 塩崎VS稲妻
第3試合 常闇VS瀬呂
第4試合 切島VS爆豪
第1試合。
指を破壊しながら轟に全力を出せと叫ぶ緑谷。個性など何処まで行っても自分の力。本気を出さず勝とうなんて巫山戯てる。
緑谷の言葉に揺れていく轟の目にやがて宿る光。新しく宿った決意、ではないだろう。きっとあれは轟焦凍のオリジン。
左の炎を使い冷えた己の肉体を温める焦凍。エンデヴァーが何やら興奮して叫んでいるが無視して互いに全力。
個性100%使用の緑谷と一度大気を冷やし、熱して膨張させた轟。セメントスがぶつかり合う前にセメントを操り壁を作っていたがそれすら破壊しぶつかり合った衝撃は四方に吹き荒れ峰田が吹き飛びかけた。
緑谷は場外で気絶。準決勝は轟が進出。
第2試合。
「まずは感謝を。騎馬戦にて戒めを解いてくださりありがとうございます」
「たまたまだ」
感電して正気に戻ったようだがそれは本当に偶然なのだ。意図してない。
「ですが、やるからには全力で……!」
「……………全力ねえ」
地面に突き刺してから体に巻き付く茨。カムイは先程の戦いを思い出す。結局左を使ってんじゃねえかと吐き捨てたくなる思いと………嫉妬。
「────!」
カムイの体が光り茨が一瞬で焼け焦げた。
電熱を纏うカムイに触れられるものは少ない。
「くっ!!」
片手を向けるカムイに対して防御態勢を取る塩崎。無数の茨を折り重ね地面に電気を逃がすよう張り巡らせた。
ついでに速度に警戒してか周囲に網のように張りめぐらされた茨の網。
(貫通は容易いけど下手しなくても死ぬな)
なら、と陽電子を集める。反発し合うそれを一方向に射出。そのまま全てをぶち抜いて進みそうになるので途中で拡散させ無害化。結果生まれたのは………。
『ビームサーベル!?』
『たぶん電子サーベルだな』
厳密には荷電粒子砲を途中で切ってるだけ。なので伸縮自在。
剣のように横に振り一瞬だけ伸ばす。茨の壁が一瞬で切り裂かれた。というより触れた部分が消滅した。
「…………降参します」
カムイ、準決勝進出。
第3試合。
第4試合。爆豪の猛攻に個性を維持できなくなった切島が負けた。
準決勝。
「少しいいかな?」
会場に向かう途中エンデヴァーが話しかけてきた。
「君の試合は見させてもらった。素晴らしい個性だ。現状1位なのも頷ける」
「……………で?」
「だが、焦凍は頂点に立つ義務がある。ようやく左を使ったが、まだ迷いがあるようでね。君には是非焦凍の全力を引き出してほしい」
「………………」
「迷っている時間など無駄なだけだ。あの子は………」
「……………お前、誰を見ている?」
「…………………何?」
カムイの言葉にエンデヴァーが訝しむ。
「最初は自分の代わりかと思ったが、どうも違ぇ。罪悪感と、逃避? お前、誰かを忘れるために轟に執着してないか?」
「─────」
ボボッとエンデヴァーの纏う炎が強まる。睨みつけるような目が、カムイの言葉の正しさを告げる。
「まあどうでもいいが。あんたの親って、あんたをそうなるように相手を選んだのか?」
「……………違う」
「なら妙な期待はするな。たかが1代目、俺とは深さが違う」
元よりこの業は、並ぶ者なき深さだが。
「君は………だが、それでも! 焦凍は俺を、オールマイトを超えていく!」
「………無理だな。やるのが遅い。それを見せてやる。だからもう押しつけるな。お前の罪悪感も、理想も、受け取る相手にその気がないなら誰も続かない」
「失礼する!」
「ああ、あと一つ」
去ろうとするエンデヴァーにカムイは待ったをかける。
「サインもらっていいですか」
兄がファンなので。
『さあさあ準決! 一般受験の頂点と、推薦入試の激突! 勝利の女神はどちらに微笑む!?』
開始の合図と同時に迫る氷結。カムイの腕が黒く染まり、振るった風圧で吹き飛ばす。
「全力を見せろ、だったな? 悪いが、見るにはお前は弱い。片鱗程度は見せてやる」
次の瞬間、カムイの肉体が一回り大きくなる。体操着が破れ剥き出しになる黒い肌。爪は鋭く伸び尾がステージの一部を破壊する。
「「「────!!」」」
会場の誰もが息を呑む。
威圧感……恐怖? 違う。例えるなら海底がむき出しの海、大雨の際の山、冬の森から立ち上る黒煙、海の向こうに見える巨大な雲…………厄災の前兆をみたかのような、漠然とした不安感。
「オオオオオオオオ!!」
咆哮とともに走る雷。先程まで晴れていた空が雷雲に包まれる。
『天候操作!?』
吹き荒れる風。突如発生した雷雨を伴う大嵐。薄暗いなんてレベルではない程の影が差すほどに分厚い。
これが人の持つ力? こんなものが個性という単語で済ませられるのか!?
「落ちろ」
響く雷轟。輝く閃光。
聴覚も視界も麻痺する程の落雷。
『ど、どうなった…………』
土煙が晴れる。焼かれた視界が戻る。
目にした光景はステージの残骸に腰掛けるカムイと、咄嗟に張ったであろう氷の壁ごと吹き飛ばされ気絶した轟。
立ち込めるオゾン臭を払うようにカムイが腕を振るい風を起こす。人の姿に戻っているのに強風程度には強い風が吹く。
『どうなってんの、お前のクラス』
『俺に聞くな』
「素晴らしいね」
そんな試合をテレビ越しに見る男は楽しそうに呟いた。
「世代を経る事に混ざり、深化する“個性”。より強力に、より複雑に………見ているかい、雷業。君の目指した力は正に、ここにある」
数少ない親友とも呼べる相手を思い出す男。
「周りの反対を押し切り彼を産んだ母親には感謝しないといけないね」
カムイが聞いたらブチギレていた事だろう。
「是非とも欲しいけど、
因みにオールマイトなら落雷前に雷雲を吹っ飛ばせる。