職場体験。
カムイが選んだのはそこまで有名でもないヒーロー。
有名ではないが、月にそこそこの事件解決を行うヒーローだ。チャートに載る日もそう遠くないだろう。
「生きていれば、な」
「な、なんで………こんな! どうなるか分かってんだろうな!?」
「ヒーロー殺し………厄介だとは思ってたがさらに面倒なことになってるなあ」
「はあ!?」
「犯罪見逃す代わりに、近所の破落戸に安くトリガー売るよう売人と繋がるヒーローとか、世間はいい標的にする」
「!!」
カムイに踏みつけられていたヒーローの顔が青く染まる。
「だから、ヒーローの信用を取り戻す必要があるわけだ。具体的にはお前はこれからトリガーの売人を漸く突き止めこれ以上犠牲を出さない為に戦い命を落とす。そういうことになる。良かったな、地方のちょっとした英雄だ」
「お、俺を殺しても奴等がお前に………そ、それにバレたら」
「バレねえよ。上が決めたから」
「終わったぞ」
売人の方も殺しておいた。これでヒーローの悪事を知る者はカムイと公安のみ。
今ネットで話題のヒーロー殺しステイン。
元々そこそこ妙なファンは居た。ステインが現れた後犯罪率が減ったと言う話もあった。
で、この映像。
『こい…! 来てみろ、贋物共! 俺を殺していいのは
気絶寸前に放たれた威圧。強迫観念にも似たブレることなき信念。元々が『報酬に基づくヒーロー活動』への不満…………個性使用というある種の特権を持つヒーローへの不満は、存外ある。
抑圧されていたそれらはその不満を吐き出す場所を求め、
雄英を襲ったチーマーの集まりから、そういう思想団体扱いになった彼処はあらゆる悪意の集まる場になる。思想に感化された者、何かになれると思った者、名を利用したい者など様々ではあるが、数とは力だ。
「案外、時期が早けりゃあんたが生かそうとしている俺の先輩も入ってたかもな」
『あの子は────』
と、そこまで言いかけた時、背後で爆音が響く。振り返ると巨大なコンクリート。
売人集団のボスの個性は『ひっつき』。触れた物体と一時的に混ざれるが、範囲は狭い。精々が手足の表面を石にする程度。トリガーを使ったか。
場にあったのは押収していた。体内に隠していたのが破れたか、或いは故意か。
トリガーのタイプは、少し前ある街で突発性敵を大量に発生させていた理性を吹っ飛ばすタイプ。後発動系であろうと異形系の特徴が出る。それでも動ける怪我ではなかったろうが、麻薬なども取り込んだせいで痛みを感じてないのか?
「かけ直す」
通話を切ると同時にコンクリートの拳が飛んでくる。カムイが蹴り上げ拳を破壊した。すぐに再生。そりゃそうだ、寄せ集めだもの。
「おおおおお!!」
「炎?」
部下の肉体も取り込んで個性を使用しているのか。トリガーありとはいえ、何気に強個性。というかこれ完全に暴走してるな。個性因子の電磁波が乱れに乱れている。
「うわああああ!? ヴィランだ!」
「ヒーローはまだか!?」
そのヒーローは今アジトの中で死体が転がっている。他のヒーローは事務所が遠い。東京ならともかくこのあたりはそんなものだ。だから成績欲しさに突発性敵を作ってたわけだし。
(さてどうするか)
仮免もないカムイは個性を攻撃に使えない。物理的に破壊は可能だがこのサイズ………。周囲への被害が面倒。
「じゃあ、性能テストと行こうか!」
カムイが現在使用している事務所に向かい手を向けると何かが文字通り雷速で飛んでくる。
それは黒い槍のような大剣。サポートアイテムなので、個性使用には該当しない。
USJにて脳無に引きちぎられたカムイの腕の骨を下地に造られた剣の名は雷爪・宙斬。その機能は単純明快。
雷速・伸縮変形。
「──────!!」
音を置き去りにする一瞬の変形。無数の爪に枝分かれした剣身が内部の本体と混ぜられていた部下を切り離しコンクリートの塊から抉り出す。
パァン!
と押しのけられた空気が破裂するような音が遅れて響いた。
「制圧完了………あ、クソババア。さっきの続きだが、ヒーロー殺しのニュースはどのみち消せねえ。いっそ過激な馬鹿作って世間に批判を集めさせるのがいいんじゃねえの?」
具体的には感化されて他ヒーローにまでケンカを売る、とか。折を見て処分したいヒーローは対処し続けても少ないが尽きることは無いし、なんなら実際ヒーロー殺しの影響を受けるヒーローも居るはずだ。
そいつらの所業をちょっと大げさにして放送すりゃいい。
「あ、そうだクソババア………異能って知ってるか?」
『古い個性の呼び方ね。どうして?』
「今日つぶした売人の一人が異能だの解放だの喧しくてな………ありゃどっかの思想に感化された目だった」
後なんか誘われた。まあ売人の仕入れルートを探るために生かすのは数人でいいのでそいつは殺したが。
『解放思想ね………』
「デストロだっけ? 昔見た資料にあったが、また信者がいるみてえだな」
『何時の時代も一定数はいるものよ。貴方は………』
「俺は良いや。溜まるには溜まるが、だからといって解放するにはこの世界が脆すぎる」
世界を壊す力もない前提の自由にやろうぜ、なんて無責任もいいところだ。個性は深化していく。自分達がヒーローより強いと思ってる子供もいるし、実際下位ヒーローよりも強い子供もいる。そもそも個性だって破壊的なものから嘘を見抜くとか、条件が揃わなければ無個性と変わらないものもあるのだ。
確かにこの社会は個性に対応しきれていない、超常以前の規格から抜け出せていないが、それらを取り払った混沌に生きるのは人の社会ではなく獣の生存。人が人らしく、から今より離れるだけだろう。
「俺、毎週のジャンプが楽しみなんだよ」
『そう…………おすすめの漫画はあるかしら?』
「ワンピ」
ヒーローの訃報はニュースとなった。
最後の最後でトリガーを使い暴走状態のヴィランと戦った勇敢な英雄。
そして個性を使用するわけには行かないと言うハンデを背負いながらもサポートアイテムで見事ヴィランを捕らえた学生。
ヒーロー殺しの熱を奪うことはできなかったが、多少の話題そらしにはなる。
「緑谷たちも大変だったけど、カムイもすげぇな! 大金星じゃん!」
体験学習終了翌日、飯田の前でヒーロー殺しの信念をかっこよく感じたと言ってしまった上鳴は誤魔化すようにカムイに向かう。
「まあ結構ギリギリ扱いだったけどな」
サポートアイテムとはいえ人に向けたのだ。警察に早計だったのではと言われたが、まあ形式的なお小言で済んだ。これは別に上の力は働いていない。
「でも、お世話になったヒーローが殉職してしまったのよね。カムイちゃん、辛くはない?」
「あ………」
やらかした、と更に落ち込む上鳴。
「ありがとな梅雨ちゃん。短い付き合いだったし、薄情だがあまり………」
「そう……よかった、は違うかしら。でも、元気で何よりよ」
ケロケロと微笑む蛙吹。同世代に心配されるなど初めての経験である。