午後の授業、ヒーロー基礎学は救助訓練レース。
複雑に入り組んだ道が続く工業地帯を模した運動場γ。
救難信号を出すオールマイトの下へたどり着くレースを4人組5回ずつ。
最初のチームは緑谷、カムイ、芦戸、瀬呂。
他のクラスメートは1位はカムイとして2位は誰かと話し合う。
緑谷は最下位だろうと誰もが思っていた。パワーはあるが発動するたびに骨折しているイメージがあるからだ。
そして予想通りスタートの合図と同時にオールマイトの下へたどり着くカムイは『私が助けました』と書かれたタスキを受け取り他を待つ。
緑谷が途中まで2位だった。
壁、屋根、パイプを足場に跳ねていく。
壊れない程度の動きが出来るようになったようだ。まだ慣れていないのか限界値を超えないように集中するあまり足元がおぼつかなくなり落下したが。
その後オールマイトが何やら耳打ちをしていた。
その後更衣室で覗き穴を発見した峰田が覗こうとして耳郎のイヤホンジャックを突き刺され脳内に爆音を流されたりした。
カムイはオールマイトの下に向かう緑谷を見て盗み聞きするべきかと考える。
(…………まあ良いか)
カムイの任務はあくまで次の象徴となること。オールマイトに選ばれる、というのは成る程近道だろうが、結局強ければ人はその人を象徴とする。
誰か一人に縋る世界など脆いだけだと思うが、実際今そうなっている以上は先ずは引き継いでから変えていかないとならない。
実際オールマイトはそれなりの年だ。後内臓がやばいし、後どれだけ戦えるのか。個性の電磁波も弱まっている。
逆に緑谷が強まっている。もしかしなくとも、緑谷の個性ってオールマイトから渡されたものなのでは?
個性を移動させる個性を持つ裏の支配者がいた事を考えれば、そういう個性があってもおかしくはないのだし。
「名実ともに象徴の後継か。やっぱ必要ねえだろ、用意された象徴」
まあオールマイトは一時期報告義務を怠った非正規活動が警察内でも問題視されてたことがあるが。サイドキックと別れた後だったか………書類仕事が苦手なのだろう。
「ん?」
「見つけましたよ! えーと…………1位の人!」
ゴウ、とジェットで加速してくる少女を避ける。ちょうど開いていた窓から落ちていった。
「しかーし! 加速のほかにも飛行も可能です!」
飛んで戻ってきた。
「お前は確か…………………サポート科の……………」
「発目明です! 自己紹介しましたよ1位の人!」
「お前俺の名前言ってみろ」
「………………………さあそれより! 共にかわいいベイビーを作りましょう!」
「「「!?」」」
「ああ、そういやそんな話もしてたな」
「「「!?」」」
電気の力を貸してほしいとか、そんな話だったか。
「覚えているなら話は早いですね! さあさあその発電力でベイビー達を動かしましょう!」
峰田が血涙流しながら睨んできた。まあそういう話ではないのだが。
「そういえば体育祭の後カムイさんが使用したベイビー達を確認してみたら、機構を動かしたのではなく機能を動かしていたのですね!」
「ん? ああ」
発目製サポートアイテムの事だろう。内部機構を磁気で直接操り動かすのも確かに出来るが、あの時はプログラムに干渉して起動させていた。無理やり動かしたわけではないので撃鉄装置なんかも特に歪むことなく電池などをいれるだけで再使用可能だ。
「ベイビーとか言ってたからな…………まあ………」
乱雑に積まれた試作品を見る限り、そこまで丁寧に扱ってやる理由も無かったようだが。
「ではハッキング対策なんかも必要ですね。カムイさん以外の方に出来ないとは限りませんし!」
「因みに俺は電気の伝導率も操れるから電界の遮断とか意味ねえぞ」
因みに電気抵抗をあえてあげた後に電気を無理やり流すことで、その気になれば三万度以上の雷を発生させることも可能だ。大概の物質は三万度に耐えられないが。
「電気に関しては本当に万能ですね! つまりカムイさんの機械操作に対抗するにはプログラムのファイアーウォールを強くするしかないと!」
「その場合物理的に操るがな」
浮かしたサポートアイテムの中でガチンと機構が無理やり動かされた音が響いた。
「あ、そうだコピペ出来ます? まだプログラムを入れてないこの子達に1号ちゃんのプログラムをコピーしてください! チャンネル登録は後で自分でやるので!」
「コピペぐらい機械でやれよ」
「爆発でまた壊れました!」
また?
「それから電力借りますね! このベイビー消費電力が大きくて先生の許可がないと使用できなかったのです!」
カムイに妙な装置をくっつけそこに別の機械をコードで繋ぐ発目。遮光ゴーグルをつけて早速何かを作り始めた。
電池扱いで手持ち無沙汰なカムイは言われた通りプログラムを読み取りコピーしていく。
「ところでカムイさん、サポートアイテムはご入用ではありませんか!?」
「今の所必要ねえな…………」
探知、攻撃、防御、移動…………基本的にカムイは何でも出来る。唯一出来ないのは回復ぐらいか。X線などで体内の状況を見る程度なら出来るしそれに伴う応急処置の知識はあるが。
「強いて言うなら災害時救出に備えて生命維持装置と、俺にじゃねえけど磁気の影響受けにくいペースメーカーとか?」
倒壊したビルの鉄筋に感触して瓦礫を浮かすのは簡単だが、その結果ペースメーカーなどが誤作動を起こしては意味がない。いや、誤作動を起こさない程度に操れはするが。
「むむむ。それは学生の領分を超えていますね!」
「ちげえねえ………他に欲しいものつってもな。
「ふむふむ。素材はタングステン等ですかね」
「まあ宙斬があるからあまり必要とは思えねえが」
「そういえばサポートアイテムでヴィランを撃退したとか! 見せてもらえますか!?」
「機械じゃなく特殊金属だぞ」
「かまいません!」
金属というか骨だが。因みにカムイは骨以外にも血もかなり特殊だ。蓄電してるらしく、エネルギー資源としての活用方法もある。
「これ、素材は何ですか?」
「企業秘密。俺の血やるから詳しく聞くな。吸うなよ?」
「吸いませんよ」
でも吸った馬鹿が昔いたんだよな。カムイが漸く個性の制御が行えるようになった頃、雷業の分家を潰した後、怪我が塞がってない時に公園で迎えを待ってたら知らない女がチウチウと。
カムイが自分の肉体がサポートアイテムの素材になるのでは、と思ったのはあの時の経験が大きい。
強力な個性因子に対応する肉体。人の形を保つ変形型個性でありながら、カムイの本質は異形型に近い人の規格そのものから外れた力なのだ。
「むむ。確かに発電していますね! どの程度のエネルギーが?」
「その時の体調によるが、その量だと大きめの家の家電をフルで動かして2日ぐらいか」
「はかどりますねえ!」
「えー、そろそろ夏休みも近いが、当然君達が30日間一ヶ月休める道理はない」
「まさか!」
「夏休み林間合宿がある」
「知ってたよー! やったー!!」
皆超嬉しそう。
「肝試そー!」
「風呂!」
「花火…」
「風呂!」
「カレーだな……!」
「行水!」
峰田がうるさい。
「自然環境ですとまた活動条件が変わってきますわね」
「いかなる環境でも正しい選択を、か………面白い」
「湯浴みぃ!」
「寝食皆と! ワクワクしてきた!」
「男女互いの部屋にお邪魔パァ!」
うるせえのでカムイが電気で痺れさせ蛙吹の舌が顎をぶっ叩いて気絶させた。
「ただし、その前に期末テストで合格点に満たなかった奴は………学校で補習地獄だ」
「頑張ろうぜ皆!」
「? 合格点とりゃいいだけだろ」(首席入学者無自覚の煽り)
「カムイ! 頼む、勉強教えてくれ!」
「俺も俺も!」
上鳴、瀬呂が頼み込んできた。
「3人か? この人数集まれる家は?」
因みに現在のカムイの部屋は1K。
「でしたらカムイさん達も家へ来ませんか!?」
と、芦戸や耳郎に頼まれてとても喜んでいた八百万がそのまま話しかけてきた。
「教える者が多いほど捗りますし!」
「おお、筆記1位と2位!」
「私もいいかしら?」
「梅雨ちゃん? 必要だったか?」
カムイが尋ねる。蛙吹は実は6位と結構高い。
「前にも言ったでしょう? カムイちゃんを怖がらないためにも、もっと仲良くなりたいのよ」
「………………………まあ良いか」
「私も! 皆で勉強会、楽しいよね!」
「女子が5人! オイラも行くぜ!」
増えた。ますます広い部屋が必要だ。
「フフ、問題ありませんわ。我が家はそれなりの広さがあります! カムイさんにはあらゆる面で劣りますけど………」
体育祭でカムイに瞬殺されたのが、まだ尾を引いているようだ。
「俺は教えるのは下手だろうからな。頼むぞ八百万」
「──! はい!」
頼られるととても嬉しそうだ。