緑谷とオールマイトはほぼ目だけで会話を済ませ、一同はセントラルタワー最上階に向かう。
そこが警備システムの中枢、管制室。因みにまだニ十階あたりで発目はカムイの背に飛び乗っている。
「っ! シャッターが!」
80階。階段の先へ向かえないようシャッターが降りていた。壊そうかと提案する轟だったがそんなことをすれば警備システムに反応されるとメリッサが言う。
「ならこっちから行けば良いんじゃねえの」
疲れて頭が回らない峰田が扉に触れようとしてメリッサと緑谷が止めようとして、しかし間に合わない。
「この辺全部機械で制御されてんだぞ」
発目を抱えていたカムイも動けなかった。まず間違いなく存在を認知された。
開いてしまったものは仕方ないと扉の向こうの通路を渡ろうとするとシャッターが次々下りていく。
「ま、この距離なら…………」
カムイが壁に触れ内部の配線に干渉。シャッターが止まる。
「1枚だけなのですか?」
「まだガキって油断されてるだろうからな。下手にやりすぎると島民が危ねえだろ」
連中はプロだ。レセプション会場でも怪我人は一人いたが死人はいない。おそらくは無意味な殺しはしないタイプ。だが必要ならやる。
だから、あくまでちょっと出来るガキと判断させる。
「俺に開けさせりゃ見つかることはなかったがな」
「わ、わりぃ…」
通路にあった扉を開けると開けた場所に出る。植物プラントだ。個性の影響をうけた植物の研究をしているらしい。
「天井が高いな。一気に上がるか」
「待って!」
耳郎が叫ぶ。植物プラント内のエレベーターが動いていた。
「隠れてやり過ごそう!」
エレベーターは使えない。使えばバレるし、しかも核シェルター並みの強度で破壊も不可能。と、カムイがエレベーターの基盤に触れる。エレベーターが止まった。
「行くぞ」
「あ、うん…………」
哀れ、エレベーターを使っていたヴィランは閉じ込められた。まあ悪人だしどうでもいいだろう。
「……………ん?」
シャッターが空いていく。
その奥から警備ロボの大群。カムイが手を向けると全て停止した。
「カムイさん相手には最低限自立式にするべきですね」
「警備ロボにそれは無茶だろ」
学術都市。最先端の機械仕掛けの島。カムイにとってこれほど容易い島はあるまい。
「ここは?」
「風力発電システムよ」
そのまま進み、やがてたどり着いたのは幾つもの風車が存在する屋外。ここなら一気に階を短縮出来る。
「んじゃ行くか」
カムイはそう言うと垂直の壁を駆け上がる。合金の壁に磁力で干渉したのだ。
「このガキぃぃぃぃ!!」
と、非常扉を開けると手が剣になったヴィランが襲ってきたがカムイが頭に触れた瞬間感電して気絶した。
「先に行くぞ」
「案内は要らないのですか?」
「ここまでくりゃ奴等が邪魔するより先に乗っ取れる」
カムイがセントラルタワーに触れる。バチチと紫電が弾け自身のシナプスとシステムが直結。すぐさま脳内に直接響くシステムアラート。ハッキングを妨害するファイアウォール。
「黙れ」
五月蝿いと防衛システムを破壊するカムイ。警備システムの支配権はカムイが掌握した。発目はおー、と感心。
レセプション会場では拘束を解かれ、人質がいなくなったヒーロー達がヴィランの制圧を始めた。
「後は管制室に残ったヴィランだな。また乗っ取られりゃ意味が……………ん?」
生体電気。通信装置の電波はなし?
武装もしてない2人を探知する。
最上階、保管室。メリッサの父デヴィット・シールドと助手のサムだ。
「コードを解除出来た! 1147ブロックへ!」
「は、はい!」
円柱状の部屋の壁にびっしりと存在する鉄の扉のうち一つが開く。保管されていたケースから出てきたのはヘッドギアのような装置。
「やりましたね、博士!」
「ああ、ついに取り戻した! この装置と研究データだけは、誰にも渡すものか!」
「プラン通りですね。ヴィラン達もうまくやっているようです」
「ありがとう、彼等を手配してくれた君のおかげだ。サム………」
今回の騒動の黒幕。それは他ならぬデヴィットである。
彼がとあるヒーローのため開発したとある装置。機械的に個性を増幅させるそれは超人社会のバランスを崩壊させかねないとして各国政府、スポンサーから研究の凍結を言い渡され没収された。
彼はこれをどうにか取り返したいと思っていた時、サムが提案してきたのだ。
「仮想ヴィランを雇い彼等に奪われたことにして研究を続けましょう」。その言葉にデヴィットは乗ってしまった。
「成る程! 通常時より警戒態勢の強くなるであろうI・エキスポでヴィランが侵入できた理由はそれですか!」
「「!?」」
「タルタロス並の警備システムを掻い潜る画期的なアイテムでもあるのかと期待したのですが!」
「木馬だな………堅牢な城も中から開けられりゃ入り放題荒らし放題ってわけだ」
振り返ればいつからいたのか発目とカムイ。
「あ、いや………違うんだ! そう、これはサプライズで! 彼等は劇団で………」
「じゃあなんであんたはここに居るんだよ」
「っ!!」
普通ならデヴィット・シールドと言えども立ち入り禁止の保管庫。観客もなく入り、何の劇だというのか。
「追いついた!」
「パパ!?」
と、そこに新たに現れる緑谷とメリッサ。
「どうしてここに? もしかして、ヴィランが何か!?」
「とりあえずそれ、さっさと戻せ。今ならまだなかったことに出来るだろ」
「え? どういう………」
「…………駄目だ!」
デヴィットが叫ぶ。メリッサは滅多に聞かない父の怒声にビクリと肩を揺らし困惑する。
「これは、今この世界に必要なんだ! オールマイトが、今度こそ世界に平和を齎すために!!」
「…………な、何を言ってるのパパ?」
「実はですね! ヴィランが島内に武装を持ち込めたのは貴方のお父様が手引きしていたからなんです!」
流石空気読まないことに定評のある発目明。メリッサは顔を青くして父を見る。
「仕方のない、ことなんだ! オールマイトの個性が弱っている! このままでは、No.1ヒーローは………君達も知っているだろう? 各国のヴィラン犯罪率は20%を下回らない。だが、日本は僅か6%………!」
象徴の力だ。たった1人がいるだけで犯罪者どもはどうせ捕まると自粛する。結果としてどうせ解決するし、という考えがヒーロー側にもあるのだが。
「これは正しいことに使われる! だから………!」
「黙れよおっさん。テメェが本当に正しいなら、なんでヴィランと手を組んだ」
「それは………!」
「博士の研究を認めない世界が悪いんだ!」
と、サムが叫んだ瞬間カムイが振り返る。飛んできた鉄屑が磁力を誘導され地面に落ちた。
「ちぃ………!」
現れたのは鉄仮面を付けたコートの男。レセプション会場にいたヴィラン集団のリーダーだ。
「ウォルフラムさん! 装置はここに!」
と、サムがデヴィットからケースを奪い取りヴィランの下へ走る。
「サム!? まさか、最初からヴィランに装置を渡すつもりで……!」
「あ、貴方が悪いんですよ! 騙したのは貴方だ…………長年仕えてきたのに、研究は凍結。手に入れるはずだった栄誉、名声………すべてなくなってしまった。せめてお金ぐらいもらわないと割に合いません!」
「……………………そもそも貴方誰ですか?」
発目は首を傾げた。
デヴィット・シールドの助手。成る程優秀な人間なのだろう。だが、デヴィット・シールドという存在の横にいて、自身で発明することも発見することもなく甘い蜜を啜るだけの男などサポートアイテム大好きな発目だって知らない。最初から彼の栄誉も名声も用意されてなどいないのだ。
「はははは! あげく、ヴィランを呼び込んで島を危険にさらす片棒を担ぐんだ! 名声どころか悪名が轟くだろうよ!」
「……………!」
ウォルフラムの嘲笑にサムが何かを叫ぼうと口を開き、撃たれた。カムイなら止められたが、ヴィランまで救おうとするようなヒーローは目指してない。
「な、何故………約束が」
「約束? 忘れたな。謝礼はこれだよ──」
再び銃を構える。狙いは頭。だが………
「スマアァァアアッシュ!!」
「────!?」
デクの拳が振るわれる。床が盛り上がり壁となるが、鋼鉄の壁を破壊する拳。フルガントレットを使用しいつも以上の力で拳を振り抜いたようだ。
「クソガキがああ!!」
鉄の瓦礫を吹き飛ばしながら叫ぶウォルフラム。今、鉄の塊を個性ではなく力で吹き飛ばしていた?
「……………ん?」
ビギンと部屋全体が軋む。否、それは金属が歪む音。範囲が広い。広すぎる。
「個性増幅装置を!?」
デヴィットが叫ぶようにウォルフラムは個性増幅装置を使用していた。カムイは装置から出る電磁波で個性因子の干渉方法を盗み見ていた。
「………成る程、あのパターンで……生体電気とこう干渉して。自己ブーストは無理だなありゃ」
自分でやると、自転車を漕ぎながら発生させた電力で充電機能のない電動アシストを動かそうとするようなものである。
「おお! 流石デヴィット・シールドの発明品! と言いたいところですが私あのヴィランの普段を知りませんね!」
「まあ、この規模はそうそういないだろ」
発目とカムイはいつも通り。しかし保管庫どころかセントラルタワーの上層が変形していく。
「メリッサさん!」
「サム!!」
緑谷はメリッサを………デヴィットはサムを助けようと駆け寄る。発目は保管庫が崩れ始めた時点でカムイの背中に飛びついている。
「こっちに集まれ!」
カムイは周囲に磁気結界を張りながら緑谷達を集める。次の瞬間、セントラルタワーの200階から180階が完全に崩壊した。
「ははははは! すげぇ、すげえ力だ! 今ならなんだって出来る気がするぜ!」
鉄板、コード、鉄骨………あらゆる鉄を集めて作られた巨大な…………烏賊?
先程までは触れた鉄しか操れていなかったようだが、今は触れていない鉄も操れるようだ。
「量産しなけりゃ金にもならねえ。そいつを寄越しなああ!!」
迫る大質量の鉄の触手。カムイが磁気を操り逸らそうとするも、無理やり突き進む。
「ちぃ!」
恐らく
半獣化し雷を放つ。今度は鉄の触手が膨大なエネルギーに焼かれプラズマ化し消滅。ただ質量が多い。
「お前………お前が一番邪魔だああああ!!」
「こいつ、個性を複数………」
それが活性化しているもんだから理性が吹っ飛んでやがる。放っておけば脳無同様何一つ考えることない肉人形に成り果てるだろう。
これは装置の不備と言うよりは、単純な容量超過。個性複数持ち前提で作られてないだけだな。
「まあ、それまで放置は被害がヤバそうだが」
物言わぬ肉人形になるのを素直に待つ必要もない。雷速の刺突が鉄の鎧を破壊する。
「ぐううう!?」
すぐさま鉄を集めるウォルフラムだったが、そこへ降り注ぐ爆撃の雨。
「かっちゃん!?」
「爆豪? お前、人類の行う行事に参加するのか」
「どういう意味だクソ舐めプ野郎!!」
パーティーに参加するためか正装の爆豪。絶対に来ないと思っていたカムイはちょっと驚いた。
「そのまま再生防いでろ!」
「命令すんじゃねえ半分野郎!!」
轟達も来たようだ。巨大な氷が鉄を閉じ込める。空いた大穴の向こうに見えるウォルフラム。そこへすかさず飛び込む緑谷。
「SMASH!!」
フルガントレットの許容値を超え亀裂が走る程の力。後2回使えば完全に砕けるであろう、そんな威力の拳。
鉄の防御を想定して振るった拳。しかし、ウォルフラムは生身で受け止めた。もう一つの個性は増強系か。
「!?」
「オールマイト気取りの小僧が! 忌々しいい!!」
ミシミシとフルガントレットが軋む。そのまま力任せに緑谷を投げつけ……。
「ふぅ、危ない危ない!」
下手したら海まで吹き飛ばされかねなかった緑谷を支えたのはオールマイト。
「よくやってくれた皆! 後は任せなさい、もう大丈夫。私が来た!!」
「オォォォォルマイトォォォォォ!!」
オールマイトの活躍により数多の悪党が隠れて過ごすことになった。ウォルフラムもその類なのか、オールマイトへの憎悪と、それを殺せるかもしれない力への喜色を滲ませる。
「オールマイト、あの野郎筋力増強を持っている」
「!? 個性の複数持ち! まさか、奴が!」
下がどの程度の強化率かは知らないが個性増幅装置の影響でオールマイトに迫る力を振るう。
「なら、どうすれば!」
「簡単さ緑谷少年。敵が強いなら………」
「より強い力でぶちのめす」
両手両足を獣化させるカムイ。オールマイトもニカッと笑う。それを見て緑谷もウォルフラムを睨みつけた。
個性の活性化する感覚に酔い全能感に支配されたウォルフラムは自らに対峙する三人の英雄を生意気だと睨みつける。
「潰れろおおおおお!!」
迫りくる大質量の鉄の塊。タワーを押しつぶし、浮島に穴を開けかねない規模の攻撃。迫りくるそれに緑谷は逃げずオールマイトは笑う。
「ワン・フォー・オール………100%!」
「ヴィランよ! こんな言葉は知っているか!?」
緑谷とオールマイトが呟きながら構える中カムイも無言で拳を握る。
「さらに向こうへ! プルスウルトラ!!」
「デトロイトスマァァァァッシュッッ!!」
「くたばれ!!」
その衝撃で天候を変えるほどの3つの拳。ウォルフラムが振り下ろした腕に連動して迫った鉄塊は急激に加わった圧力で変形、赤熱化して砕け衰えることなく突き進む衝撃波が鉄の鎧ごとウォルフラムを吹き飛ばした。
「…………づぅ!」
緑谷のフルガントレットが砕けオールマイトが血を吐く。カムイはピンピンしてる。とりあえずウォルフラムを回収して………。
「………………ん?」
コツン、と歩き出そうとした足に当たる軽く硬い感触。筒状の物体。エピペン………いや、これは注入器?
「────!!」
ズウウン! とI・アイランドが揺れる。カムイは感じ取った強力な電磁波に視線を向ける。ウォルフラムが吹き飛んだ方向で建物、車、遊具…………島を形成する鉄が形を変えていく。
「オオオオオオオアアアアアアア!!」
渦巻く鉄の濁流の中央で叫ぶウォルフラム。その腕が異様に巨大化し、次に体、足、皮膚は内から溢れる鉄に割かれ、姿が変わっていく。
「シット! 変化系の個性まで持っていたか!」
「いや、個性は2つだ…………これは!」
個性因子が肉体を侵食している。
「…………雷業の血か。消えてまで人を不快にさせる一族だなぁ!!」
カムイが忌々しげにその名を吐き捨てる。知らない緑谷は困惑し、知ってるオールマイトは目を見開く。
この世で最も個性に固執し、個性因子にいかなる存在よりも適応した一族。その血を加工して作られたトリガー。
活性化した個性因子が人であった部分を飲み込む。異形型………とも厳密には異なる個性に適した肉体への変容。
『ゴアアアアアアアアアアア!!』
鉄の竜へと姿を変えたウォルフラムの咆哮が響き渡った。
早い話、ラグナクリムゾンの竜王が人を竜に変える血みたいなもん。因みに最終的には個性因子が生物としての部分まで塗り替えるのでウォルフラムの場合鉄の塊になって死ぬ。
強大になっていく個性を支配するための肉体がマスターピースならこれは個性に支配された