デヴィット・シールドは今回の騒動を招いた責任で逮捕。まあ当然だ。だが、主な責任はサムが負うことになった。I・エキスポが中止されるレベルの損害………サムの名は広く知れ渡るだろう。
逆にデヴィットは騙された被害者という印象になるような印象操作が行われている。各国政府としては個性増幅装置を取り戻そうとしたデヴィットの思惑を無視できないが、彼の優秀な頭脳は類似個性なんて代替品が存在する類ではない。
徹底的な監視をつけた実質的な飼い殺しになるだろう。今後新しい研究は出来ても完璧な自由はあるまい。
「仕方のないことだけどね…………」
「オールマイト………」
オールマイトの寂しそうな背中に緑谷が心配そうに呟く。心配させてしまったね、とオールマイトはニッカリ笑う。
「さあ! 今日まで頑張った君達にご褒美だ! 存分に食べてくれ!」
「「「イェーイ!!」」」
一同はオールマイトの奢りでBBQ。来ていた他のA組とも合流して行っている。
「カムイ君はどんどん食べて〜! 頑張ってたんでしょ?」
「お肉だけじゃなくお野菜も食べなきゃ駄目よ」
2日ほどI・アイランドのサーバー代わりを行って部屋から出てこなかったカムイに葉隠と蛙吹が絡む。最先端学術都市の一部だけとは言えシステム維持に脳を酷使したカムイは眠そうに欠伸をして食べさせられていた。
「それで、君は何をどこまで知っているのかな」
帰りの飛行機が来る1時間前。カムイ、緑谷………
「あんたの内臓が損傷していること。最初はそれに伴う栄養失調かなんかで個性の低下だと思っていたが、緑谷の個性因子の同調、増幅を見る限り個性の譲渡を行った事も………まあこっちは予想の範囲」
「!?」
緑谷が目をかっぴらく。嘘は苦手のようだ。
「そうだね。緑谷少年は、私の後継。知られているなら、むしろ君にも詳細を伝えるべきだろう」
この力が何と対峙するのか。これから先、何に巻き込まれる可能性があるのか。
(………まあ、だいたい知ってたが)
裏社会を支配していた魔王、その戦い、昨日の個性複数持ちのヴィランをはじめとした脳無の存在から生きていた魔王。
そこはまあカムイも知ってたし予想の範囲。
知らなかったのはオールマイトから緑谷に譲渡された個性【ワン・フォー・オール】。
オール・フォー・ワンが弟に与えた個性が変異した、というのは初耳だが。
『力をストックする個性』が弟の持っていた『個性を与える個性』と融合し、ストックされた力は脈々と受け継がれていった。
「だから緑谷の個性、複数の個性因子が混じってるのか………オールマイトの戦歴を見る限りあくまで因子があるだけっぽいが」
「「え?」」
「え?」
さて、日本に戻ってきた一同。
上鳴と峰田からプールを使わないかという誘いがあったと緑谷が連絡してきたがカムイは上から呼び出しを受けていた。
「見合い? ああ、んなこと言ってたな……………え、マジで?」
「大マジよ」
「マジかぁ………」
カムイも忘れかけていたインターン前の見合話。忌々しくも濃い『血』を薄めうる可能性がある相手を見つけてきたらしいが………。
「会うだけ会いなさい。別に無理に婚約させる気はないわ」
緑谷の誘い乗っときゃ良かった。
都内に存在する和食店。女は不機嫌そうな顔で座っていた。
「…………あまりそういう顔をするものじゃない」
「突然お見合い話を取ってきたのは何処の誰?」
「話を聞くだけでもいいとのことだ。まさか公安からこのような話を打診されるとはな」
女は数日前、突然見合いの話が来たと父に言われた。なんでもヒーロー公安………実質的な全ヒーローの上司のような物からの打診だとか。
父は確かに上昇志向を持つが、あくまで実力で手に入れるものと思っている。そういったやりとりはないとは思うが、見合い自体を断りづらい相手ではあるのだろう。
「何故突然。連係を高めるため? いや、だがヒーローでもないこの子に婚姻はないだろう………」
父も意図を読めぬらしい。普通に考えればNo.2ヒーローと公安の繋がりを強くしたいから、と思うがこのタイミングで? 確かにステインや
「おまたせしました」
「……………まさか貴方が直々に連れてくるとは」
まず入ってきたのは公安委員会会長。彼女がこんなお見合いに付き添いでくるとは、公安の秘蔵っ子ということだろう。
「………どうも」
「!? 貴様は!」
「え、エンデヴァー?」
続いて入ってきたのは正装に身を包んだ気怠げな男。見覚えがあった。背は高いが未だ若く、末の焦凍と同じ年齢のはずの少年。
最高傑作たる焦凍を軽く圧倒した強大な個性を持つ少年、稲妻カムイ。
あれが見合いの相手か、とカムイはエンデヴァーの横に座りこちらの年齢に驚いている女を見る。
確か、名前は冬美だったか?
「貴方は………焦凍のクラスメイトの」
「ああ、まあ………」
「あの、どういうことでしょうか? 彼はまだ子供ですよね?」
キッと会長を睨む冬美。会長を狼狽えさせるほどの力は当然ない。たかが小娘に気後れするならヒーロー公安委員会の職員などやっていけまい。
「彼は将来有望なヒーローです。いずれ隣にあるに相応しい相手を選んでやるのが、育て親たる私の役目です」
「相応しいとかではなく! まだ子供で、これから好きな人だって出来るかもしれないのに縛るなんて………!」
強い女だ。
名前の通り触れれば溶けて消えてしまいそうな雪のような美しさの奥に炎のような強さを持つ女。
「好きな子が出来たとして、この子が結ばれることはありません」
「そんな言い方………」
「………言い方だよな。言葉を選べよクソババア」
と、カムイは呆れたようにいう。
「一応、こんな言い方だけどこの人は俺を思って今回の見合いを計画している。ヒーローと公安の結束とか、俺の将来への箔付けとかじゃない」
「…………………」
「…………庭園、歩けるようだ。少し話そう………大人は大人で話すこともあるだろうからな」
「…………わかったわ」
チラリとエンデヴァーを見る冬美。エンデヴァーが頷くと立ち上がった。2人は揃って外に出る。
「まず、あの婆が俺とあんたを結ばせたい理由は氷叢の血だ」
「お母さんの実家の? それって……個性婚?」
「まあ、ある意味な。ただ個性を強くするというよりは、弱くするためだが」
「……………どういう」
「くそったれな雷業は、血を深くしすぎた。世代交代を早め、他所から取り込み………そうした果てに出来た俺は、生まれる時母親を感電死させた」
「────」
「雷以外で、かつ同じように一つの属性で特化した血で薄める必要がある」
それで氷叢の血縁で、母の因子を濃く受け継ぐ冬美に目を付けたわけだ。
「別に断っていい。家庭を持てば幸せなんて、あのババアらしい前時代的な考えだからな」
はっ、と笑うカムイに、冬美は何も言えず彼を見つめる。
彼女は教師で、目指した理由は幼い時壊れていると知りながら踏み込めず弟が苦しんでる姿を見て見ぬふりをしてきたから。
そんな弟と同じ年の子供が、育て親が思う人並みの幸せを前時代的と切り捨てている。
「……それは、本当?」
「………………」
「貴方が子供を作れないから、そう諦めた訳じゃないの?」
「踏み込むな、初対面のくせに」
「うん。踏み込めなくて、後悔したから」
「………………」
「それで、どうだったの?」
「焦るなよクソババア。まあ、少し年の離れた友達が増えた」