個性『雷獣』   作:超高校級の切望

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守るものが多い者

 悍ましいものを見た。

 複数の個性……それだけならカムイと、急に襲撃してきた脳無で見た。だけど、違う。

 

 サーチに映る数多の個性。奪われ、支配される数多の個性が放つ恐怖に憎悪。おそらくは個性の元の持ち主達が無数に溶け合い崩れ合い、怨嗟の叫びを放つ。

 

 悍ましい死の塊。サーチを持つことを後悔しかけた。そうして隙をさらし、プロヒーローとして守らねばならない学生を攻撃させてしまった。

 

「っ…………ぁ」

「後悔する必要はないよラグドール。君の個性は戦闘向きじゃあない。僕がもっと有用に使ってあげよう」

「ひっ…」

 

 死の塊が手を伸ばす。瞬間、巨大な木の腕が内側からあふれた光に貫かれた。

 

「馬鹿が。その伝導率爺を殺したのは俺だろうが」

「知っているとも」

 

 荷電粒子砲。亜高速で放たれた電子が発生させた熱そのものが木を焼き切る。電気を流し逃がすなら、応用でどうとでもなる。

 

「──────!!」

 

 植物使い脳無が再び木を伸ばす。龍を模した木の触手に対してカムイが振るったのは砂鉄の蛇。粒子が高速振動するヤスリの如き牙が木々を削り斬る。砂鉄粒子がぶつかり合い発生した雷エネルギー。カムイが追加し、砂鉄のビームが放たれる。

 

「いいのかな? お友達が焼け死ぬよ?」

 

 砂鉄の砂嵐で木々を破壊し薪そのものを消し去り消火する。その刹那の間にオール・フォー・ワンが片手を向ける。

 

 光弾+ダークボール+電波+レーザー+重化+高速射出。

 

 山岳部の一部が削れ飛んだ。地形が変わるほどの一撃にカムイの身体が吹き飛ばされる。山の向こうに吹き飛ばされる。

 

「ヒーローは大変だ。傷つけてはいけないものが多すぎる」

 

 植物操作+植物活性+生命吸収+波動+エネルギー圧縮。

 

 植物使いが両手をカムイに向けると一匹一匹が鉄塔サイズもある木竜が周囲の木々を枯らしながら口内に光を溜め放つ。

 

 衝撃に山々が揺れ、崩れ、爆風により木々が吹き飛ぶ。戦いの規模がラグドールが体験してきたヴィランと何もかも隔絶している。だがそれはカムイも同じ。

 

 波動の中心。膨大なエネルギーで発生させた超高温プラズマの球体で防御した半獣型のカムイ。一瞬だけ合宿施設を見るとオール・フォー・ワンの懐に飛び込み下から拳を放とうとする。上空に打ち上げるつもりだろう。

 

 絶縁+ショック吸収+衝撃反転+ゴム化+シールド+障壁。

 

「ガア!!」

「ッ!!」

 

 爆音と共に空高く吹き飛ぶオール・フォー・ワン。その爆音すら置き去りに追撃を行おうとしたカムイは、しかし反転された衝撃で吹き飛んでいく地面がラグドールに迫るのを見て彼女を回収。

 

 一秒にも満たない時間の中で、魔王は笑う。

 

「ほら、大変だろう?」

 

 高速で動く木がカムイの腕に絡みつく。電熱を纏おうとしてラグドールに気付き動きが固まる。木竜がカムイの腕を食いちぎった。

 

「クソジジイが」

 

 放たれる砂鉄のビーム。サンドブラスターとは比べ物にならない威力で木々を焼き削る。

 

 氷結+温度維持+植物硬化。

 

「此奴、幾つの個性を!」

「いいだろう? 雷業の肉体は器として最適なんだ」

 

 距離を取ろうとするカムイの背後に現れるオール・フォー・ワン。高速移動? いや、瞬間移動!

 

「短距離転移さ」

 

 手刀+切断+切断強化+刃物化+ジェット+呪傷。

 

 手の側面から空気が吹き出し加速した手刀が向かうは()()()()()。回避、無理。防御可能? 不明!

 

 故に身を捩り位置を変える。カムイの首が切り飛ばされた。

 

「…………ぁ」

「咄嗟の人命救助………もう一度言おう。ヒーローは大変だね」

 

 力なく倒れるカムイの肉体からラグドールを奪い取るオール・フォー・ワン。掴んだ首から何かが抜けていく。

 

「さて………プロヒーローも素体として欲しかったけど、欲張り過ぎかな?」

 

 そう言ってラグドールを投げ捨てる。空中で受け止めたのはカムイの身体。

 

「クソが、傷が治らねえ…………!」

「回復を阻害する個性さ。一度使うと暫く使えない上に、僕にもダメージが入ると来た」

 

 ヒラヒラと血が流れる腕を見せるオール・フォー・ワン。

 

「おめでとう。君は彼女の命だけは僕から守り抜いた。で、結果は?」

「……………」

 

 本当なら目を逸らしたいが、あえてオール・フォー・ワンを見るラグドール。だが()()()()。カムイを見ても同じだ。

 

「窮屈だろう? もう利用される側に立つのは止せ。僕とおいで、自由を与えよう」

「欲しいのは俺の血か」

「それもあるね。死体から取れた血は限りがあるし、改造するともう別物。新鮮な雷業の血はもう君からしか取れないんだよ」

「そうか。死ね」

 

 降り注ぐ極雷。自然環境では発生し得ぬ膨大なエネルギー。これまた自然では決して育たぬであろう巨大な樹木が防ぐ。

 

「仕方ない。招待は君に任せるよ」

 

 植物使いの脳無に命じるオール・フォー・ワン。ゴボリと溢れ出した泥にその身が飲まれていく。追おうとしたカムイに迫る木々。

 

 一先ずラグドールを安全な場所に、とカムイが周りに目を向け…………。

 

「クソが!!」

 

 見渡す限り全ての木々がカムイに向かい牙を剥く。

 覚えのない電磁波………襲撃仲間であろう連中がいる場所は巻き込まないようにしているがなんて個性規模。

 

 雷業の肉体を素体にしているとはいえ規格外が過ぎる。おそらく生者が使えば即死レベルのトリガーを使用している。

 

 山の木々………いや、それが根ざす地面そのものもか。

 山々そのものがカムイの敵だ。動く死体にオーバードーズがあるとも思えない。

 

 対してカムイは足手まとい(ラグドール)を抱え、火事を含めた被害を考えて攻撃を選ぶ必要がある。後磁力で無理やりくっつけているが首は未だ取れたまま。傷口ごと吹き飛ばしてみるも僅かに癒着しただけ。

 

『ヒーローは大変だ。傷つけてはいけないものが多すぎる』

 

 オール・フォー・ワンの言葉が思考のノイズとなる。確かにラグドールを手放し周りの被害を無視すれば、()()()()簡単に消し飛ばせる。

 

「…………ヒーローは守るものが多い。だが、それでも勝つから英雄なんだよ!!」

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