敵は雷業の死体を使った脳無。おそらくは過去カムイが殺した雷業の粛清部隊の一人、個性『伝導率』を持つ老人が主体の改人。あれはもっと老いていた気がするが、身体は少し若い。そういう改造をしたのか?
他の個性。現状確認できるのは植物の操作、活性化、強度増加………これは因子が混じりほぼ一つの個性になっている。
これに伝導率を組み合わされると雷はほぼ流される。伝導率程度カムイも操れるが雷系統万能個性でそれに特化した個性と争うのは愚策も愚策。高熱状態のプラズマや荷電粒子砲作ったほうが手間も少ない。ただしやり過ぎると山が火事になる。
雷雲呼んで雨を………土砂崩れの可能性もある。これは最終手段。
「………!」
木竜が大口を開ける。口内に溜まるエネルギーに舌打ちし砂鉄をその口に叩き込む。
植物による質量攻撃も厄介だが更に面倒なエネルギー攻撃。活性化させた植物のエネルギーを吸収し、圧縮し放つエネルギー砲。雄英体育祭の映像で見た『波動』と同系統の個性を更に圧縮させ威力を高めている。
防御に関しては氷結と………おそらくは氷結を維持する個性。
元々雷系統への対抗個性とも言える雷業の粛清部隊。更に超質量による攻撃、防御、熱への耐性。カムイへの対策が見て取れる。
なら対応策は……。
「来い、
物理的に破壊する。
雷速で枝分かれし伸びる雷爪。山々の木々を蹂躙する。
しかし向こうも強化され、しかもすぐに再生しながら襲い来る無限と見紛う木竜の群。牙がカムイの頬を掠る。
「っ!」
『咄嗟の人命救助………もう一度言おう。ヒーローは大変だね』
ラグドールの脳裏に蘇る巨悪の言葉。明らかに動きにくそうなカムイ。それは間違いなく自分と言う荷物を抱えているから。
ヒーローである自分が、ヒーローの卵である学生を追い詰める要因になっている。グッと腕に力を込めカムイを押しのけようとした瞬間、ラグドールを抱えるカムイの腕の力が増える。
「おい………今手ぇ離したら殺すぞ」
迫る巨大な木竜を雷爪で内側から破壊したカムイはラグドールを睨み言う。
「掴まってろ……」
お荷物? 足手まとい?
ヒーローにそんなものがあるわけないだろうが。守れるもん全部守って、守れないって思うようなもんも守ってこそのヒーロー。
免許制だの、プロヒーローだの、分けるから面倒くさいんだ。ヒーローを目指し誰かを守ろうとするなら等しくそれは誰かのヒーロー。今のカムイなら、ラグドールの。
「俺は強えし疾ぇからよ。守りながらでもすぐにぶっ倒してやんよ」
「…………うん」
腕に力を込める。今度は、離れないために。
迫りくる木竜の群にカムイが獰猛な笑みを浮かべる。
振るわれる雷爪。一瞬で数十キロに伸びた爪が木竜の群を切り飛ばす。途中で勢いが落ち、止まった雷爪に絡みつく木竜の群れが巨大な木竜となり噛み砕こうとする頃にはカムイの手元にナイフサイズに戻り、かと思えば文字通りの雷雨の如く無数の雷速の刺突が巨大木竜を引き裂く。
「…………?」
違和感。植物使いはただ命じられた行動しかしないために気付かないが、ラグドールだけは気付いた。『
一撃毎に、破壊される木竜の数が増えている?
疾すぎる戦いで確信はない。だが、先程までは少しずつ押し込んでいた木竜の群の突撃、咆哮が徐々に後退している。
そもそもの話………雷爪・宙斬は未だ作り出したばかりのサポートアイテム。製作してから一年どころか半年すら経っていない。
機能を十全に発揮できるのはカムイだけだろうが、それは十全に振り回せるという意味ではない。
経験が足りない。ましてやまともに振り回せる相手など強すぎるカムイにはオールマイトぐらいしかいない訳で………それが今、枷をはめた事で逆に機会が与えられた。
緩やかだった成長線が、雷爪の技量だけに限るが急激に上がり始めた。
一つ振るごとに技量が上がる。
一つ突くごとに速度が上がる。
一つ切るごとに威力が上がる。
植物使いが優勢だった戦いは互角に、互角からカムイ優勢に、優勢から圧倒に。
最早木竜は生まれることすら叶わない。木々に変化があった瞬間貫かれる。
植物使いも防戦一方。故に賭けに出る。
周囲の山々の木々が枯れ、取り込んだ生命力を一つの山の一部に収束。
これまで以上の植物硬化。鋼鉄よりも硬くなった樹木が植物使いを取り込み絡み合い、全長ではなく標高で表すような超巨大木竜が生み出される。
口内に溜まる光は山々の生命力を吸収し放たれようとしている波動。オール・フォー・ワンが行った地形を容易く変える攻撃に匹敵するであろう破壊が解き放たれようとしていた。
カムイは雷爪を通常サイズに戻し居合のような構えをとる。
求めるのは疾さ。
求めるのは強さ。
求めるのは鋭さ。
その技の名は、剣と同じ。
「
放たれた波動も木竜も内部の植物使いも後ろの山も纏めて切り裂く雷速の居合。刻まれた爪痕は崖となり、高速で駆け抜けた物体に世界が遅れて気付くように暴風が吹き荒れた。
「窮屈な生き方だとか、生きにくい世の中だとか………文句なんざ幾らでも出るけどよ……
轟音を立てて崩れ落ちる木竜。後で地図書き換える人は大変だろうなと思いつつカムイはラグドールを降ろす。
「とりあえずどっか物陰に隠れてろ。残りのヴィラン共を──」
トン、とカムイの肩に誰かが触れる。即座に宙斬を振るう。
「──────あ?」
都合8度の斬撃がカムイの胸を刻む。
理解出来ない。いや、理解は出来る。ただ斬られた。だからこそ理解の外だ。何か妙な個性を使った方がカムイにとっては理解の範疇。
ただただカムイよりも早く動いて疾く斬った。
「え………」
遅れてラグドールが気付く。何時の間にかそこに佇む首無しの女。
倒れた衝撃で繋がりかけの首が再び千切れたカムイが雷を放とうとして、大気を焼く雷光が消えた。
「………『停電』!」
雷業の粛清部隊の長である男が持っていた対電気系個性としては最強の個性。あらゆる発電、通電を一時的に停止させる。その気になれば都市の電力供給から、個性因子による発電………そして生命の機能としての生体電気も。
カムイの頭にそっと触れた瞬間カムイの意識が途絶える。
「っ!!」
立ち上がり女の胸を貫こうとしていたカムイの身体が再び倒れ、ラグドールが飛び掛かるも首無しの女はトン、と軽く額を小突く。それだけでラグドールの身体が吹き飛ばされた。
「回収………」
何処から声を出しているのか、カムイの身体を抱えながら呟く女。首を拾い切断面を合わせる。
「…………そ、の………その子、を離すにゃ」
フラフラと立ち上がるラグドール。首無し女は見ているのか見ていないのか、暫くそこに佇みしかし直ぐに背を向けた。
雷光が輝き雷鳴が響く。思わず目を瞑ったラグドールが目を開けば、そこには女の姿もカムイの姿も無かった。