洸汰を襲ったヴィラン、血狂いマスキュラー。
おしゃべりな性格で狙いはヴィラン側の爆豪とカムイである事をベラベラと話し緑谷を甚振る。
ワン・フォー・オールの100%に耐える驚異的なタフさを見せるが洸汰を守るために限界のその先、さらに向こうへ力を出し切った緑谷が辛勝。
施設に向かう道中合流した相澤に預けてマンダレイにヴィランの狙いを報告。テレパスで通達された。その間にも響いていた遠雷と轟音が止まっている。
因みにマンダレイ達は武器を失った蜥蜴の異形型スピナーを捕らえ、何らかの個性で複製されたらしきマスキュラーはピクシーボブが討伐、武器がなくとも虎と互角に渡り合えていたマグネと言うオカマは再び土塊に拘束されていた。
最初の不意打ちが失敗しピクシーボブが無事な以上山岳部で彼女に勝てる者は上位ランカーのヒーローでもそうは居ない。
A組B組の生徒にイレイザーヘッドの名の元に戦闘許可を出しつつもほぼほぼ彼女の独擅場になるだろう。
「情けねえよなあ皆!」
毒ガスを操るヴィラン、マスタードもやられたらしい。全身タイツのヴィラン、トゥワイスはやられた者達に怒るように叫ぶ。
「ああ、俺もやられたらしいし、弱くて嫌になるねえ」
「そんな事ねえよ! 皆頑張ってるぜ!」
仲間を馬鹿にする火傷のヴィラン、荼毘にトゥワイスは怒った。
「俺とマスキュラーを増やせ」
「雑魚を増やしても無駄だって! 頼りにしてるぜ!」
トゥワイスの手からドロリと泥のようなものが溢れ荼毘とマスキュラーを模す。
個性2倍。生物、無機物を2つに増やす個性。同時に増やせるのは2つまで。複製した物体は一定のダメージを受けると崩壊してしまうぞ!
「ところでさっきまで静かだったのに今はうるせえな!!」
「あー………」
確かに先程まで響いていた轟音や遠雷が聞こえない。何か山よりも巨大な影が2つに裂かれ倒れたあたりから。
「おいおいなんだ? 俺は複製だよな? 俺がやられたってことかぁ!? ハハ、楽しいねえ!」
「やっちまえマスキュラー!」
「行ってこい俺」
と、荼毘が自身の分身に命じた瞬間大量の土が迫る。マスキュラーの拳が吹き飛ばし、2つの蒼炎が圧力を伴う勢いで放出され突き進む。
「まあ………燃えねえよな土って」
「軽!!」
超重量の土に飲まれ叫ぶトゥワイスと驚異的な反射神経で木の上に逃げる荼毘。その木も飲み込まんと迫る土をマスキュラーの分身体が吹き飛ばす。
「トゥワイス! 俺が消えた、もう一体マスキュラー増やせ!」
「嫌だねばぁか! 任せろ!」
土流が内部から吹き飛び新しくマスキュラーが現れる。
同時刻、ムーンフィッシュと言う死刑囚が暴走した常闇の
ちょい前。
「お茶子ちゃん、腕、大丈夫………」
「ん! ん〜……血、少ない、浅い!」
突然現れお茶子の腕をナイフで切り裂いた女の
「ヒミコちゃん、よね……?」
「梅雨ちゃん。梅雨ちゃん! 久しぶりねえ、会えて嬉しい!」
「し、知り合いなの?」
「ショッピングモールであった………カムイちゃんのお友達よ」
「カムイ君………そう、カムイ君! 探してるの、知らない?」
切りかかっておいてまるで友達と話すように語りかけてくるトガにお茶子達は薄ら寒いものを感じた。
「急に斬りつけてくるなんて酷いじゃない」
「ごめんね、梅雨ちゃん。麗日お茶子ちゃんも、痛かった? でもお仕事なの。ごめんね? でも血が流れたお茶子ちゃんもカァイイよ」
梅雨のみならずお茶子の名前まで。雄英体育祭の映像だろうか?
「お仕事?」
「
「脅されているの………?」
「ん〜ん、連合に入ったのは私の意思です。カムイ君に好きに生きてほしいので」
「………カムイちゃんはヒーロー志望よ」
「うん。そう、でもね梅雨ちゃん。聞いて聞いて! カムイ君、とても生きづらそう! 私解るよ! カムイ君強いから、手加減しながら叩かなきゃいけないの!」
その言葉は梅雨も納得する部分がある。A組のTOP3と言えばカムイ、爆豪、轟だが、カムイはその中でも突出している。しすぎている。期末の実技試験でも1年生で唯一特別枠が用意される他と隔絶した実力者。
「だからね、私はカムイ君が全力を出せるヴィランになりたいの! 今は新人だけど頑張るね!」
「カムイちゃんの隣に立ちたいとは思わないのかしら?」
「これが私の立ち方だよ。好きな人の隣で、ずっと見上げるより同じ目線に立ちたいの。お茶子ちゃんなら解るよね」
「え、私!?」
「好きな人がいますよね。私と同じです! 恋バナしよっ!」
「斬りかかりながら!?」
ナイフ片手に襲いかかってくるトガ。梅雨が舌でお茶子を投げ飛ばすもベロに激痛。
「梅雨ちゃんは好きな人いる!? ヒーロー科、かっこいい人多い? あ、でもカムイ君好きになったら駄目だからね」
最後はしおらしく…………状況と言動が合わなさすぎる。
戦闘許可自体は降りているが相澤は「倒せ」ではなく「身を守れ」と許可したのだろう。梅雨もすぐに離脱しようとするがトガが投げたナイフが梅雨の束ねた髪を木に縫い付ける。
「血ィ出てるね、梅雨ちゃん。カァイイねえ、血って好きだよ私」
と、その時。これまで響いていた遠雷や轟音と比べ物にならない轟音と振動。少女達の体が浮き上がる程の衝撃。山の向こうからの暴風が頭上を駆け抜ける。
「おー………カムイ君かな? 強いねえ、すごいねえ。ね、梅雨ちゃんもそう思うよね」
と、その隙にお茶子がトガへ迫る。体勢が崩れていたトガの腕を絡め取りそのまま地面に押しつけた。
ガンヘッドの元で体験学習した際に学んだ近接格闘術
「梅雨ちゃん、ベロで手! 拘束できる!? 痛い?」
「凄いわお茶子ちゃん。ベロは少し待って………」
押さえつけられたトガは慌てることなくお茶子を見つめる。
「お茶子ちゃんすごいねえ。頑張ってるんだね、私達そっくりねえ………好きな人に追いつきたい。その人みたいになりたいって思ってますよね。乙女だもん、わかりますよ」
「!?」
私もデク君みたいに、そう思ったことは確かにある。思わず身を強張らせるお茶子に、トガは笑みを深めた。
「好きな人と同じになりたいよね、当然だよね。同じもの身につけたりしちゃうよね。でもだんだん満足出来なくなっちゃうよね。その人そのものになりたくなっちゃうよね、しょうがないよね。お茶子ちゃんの好みはどんな人? 私ねえ、血の香りがするカムイ君。血が出てなくても好きだよ………強くて孤独で、だから絶対に追いつくの。ねえ、お茶子ちゃん。楽しいね、恋バナ楽しいねえ」
プスッとトガの身につけていたサポートアイテムの針が刺さる。自動的に血を吸い取る機械だ。チューブ内がお茶子の血の色に染まっていく。
「麗日!?」
と、その時茂みからボロボロの緑谷を抱えた障子とB組生徒を抱えた轟が現れる。
「障子ちゃん、皆!」
お茶子の気が一瞬それたのを見逃さず拘束から逃れるトガ。
「あっ、しま………!」
「人増えたねえ。恋バナまた今度ね」
トガはそう言うと茂みの奥へと消えていった。
「なんだ今の女」
「
「麗日さん! 怪我を………」
「大丈夫。全然歩けるし………っていうかデク君の方が……!」
この中で一番傷が多い。また無茶をしたのだろう。轟が立ち止まってないで早くいくぞと急かす。
「とりあえず無事でよかった。そうだ、一緒に来て! 僕ら今、かっちゃんの護衛をしつつ施設に向かってるんだ」
「……………………ん?」
「爆豪ちゃんの護衛?」
状況を簡潔に説明する緑谷だが2人は困惑する。
「その爆豪ちゃんは何処にいるの?」
「え? 何言ってるんだ、かっちゃんなら後ろに……」
この非常時に油断する人間などいるはずがなかった。だが、振り返った先には誰もいない。爆豪も常闇もその姿を消していた。
「彼なら俺のマジックで
木の上から響く声。仮面をつけたシルクハットにコート姿の男がビー玉サイズの球体を二つ手で弄ぶ。
「こいつぁ
「!? 返せ!」
「返せ? 妙な話だぜ。爆豪君は誰のものでもねぇ。彼は彼自身の物だぜエゴイストめ!」
「返せよ!」
「どけ!」
直ぐ様轟が地面を凍らせ男の立つ木まで氷結を伝播させる。男は足が凍りつく前に飛び退いた。
「我々はただ凝り固まった価値観に対し「それだけじゃないよ」と道を示したいだけだ。今の子等は価値観に道を縛られている」
音もなく後ろの二人を攫った………おそらく個性は正体不明なそれで、身軽さは素の身体能力。
「わざわざ話しかけてくるたぁ………舐めてんな」
「元々エンターテイナーでね、悪い癖だ。常闇君はアドリブだ」
常闇が先ほど蹂躙した男は死刑判決を控訴棄却されるレベルの生粋の殺人鬼。それを一方的に打ちのめす暴力性を見て
「この野郎! 貰うなよ!」
「落ち着け緑谷!!」
ボロボロの体で叫ぶ緑谷。轟が円場を預け大規模氷結を行うが男は無傷。
「悪いね、俺ァ逃げ足と欺く事だけが取り柄でよ。ヒーロー候補生なんかと戦ってたまるか」
そのまま男は耳に手を当てる。何かを操作するような動作。おそらくは通信機。
「開闢行動隊! 目標回収達成だ! デケェ音止まって、最速とやらが来てねぇならナナちゃんの方もだろうよ。短い間だったがこれにて幕引き、予定通りこの通信後5分以内に回収地点に向かえ!」
「幕引きだと………!」
「ダメだ……!」
轟達に背を向け森の奥へと向かう仮面の男。ピッと指を2本立てた腕を振るい回収地点とやらを目指して走り去る。
「させねえ! 絶対に逃がすな!」
「聞いたか荼毘! ミスターがチンタラ回収したってよ! 早えんだよな! 見つかっちまってるぜ!!」
「そう言ってやるな。よくやっている」
ピクシーボブの土流を力任せに吹き飛ばすマスキュラー。連合の中でも規格外の破壊力を持つマスキュラーがよりにもよって増えた。何度か質量で潰しても増やされる。そいつまで土流を流したいのにまた増やされる。
最大は2体。生み出されればすぐに突っ込みたがるマスキュラーの1体を咄嗟の防御に使う為に温存しているせいで周囲を気にした土流では吹き飛ばされる。
もっと個性の範囲を広めれば………広めていいの!? この辺りに他に生徒は残ってる!? と、その時。
「がっ!?」
夜闇に刻まれる一条の光。ピクシーボブの身体に走る激痛、熱。電気!?
「ピクシーボブ!」
「新手か!!」
雷光が走った先を睨む虎とマンダレイ。ヒタリと2人の頭をつかむ細い指。そのままピクシーボブの土流により耕された地面に叩きつける。
「がっ!?」
「ぐぅ!」
首のない女。その細腕からは想像できないほどの膂力で地面に押しつけバヂと空気が弾ける音が響きマンダレイが気絶する。
「よくやったナナ! さあ、この贋物に粛清を!!」
と、スピナーが気絶したマンダレイの首に触れた瞬間感電した。
「帯電させてるから危ないよ?」
「さ、先に言え………このまま殺すんだな!?」
「子供が見てる」
「そういう問題か!?」
スピナーの言葉を無視してプイと(残ってる首の動きからして恐らく)顔を逸らすナナと呼ばれた女。
「ぐ、ぬ、おおお!!」
虎が痺れる体を無理やり動かそうとするが全身に流れる電気が脳からの命令を体に伝えるのを邪魔する。
「流石だな虎! 傷ついても助けようとする姿勢、貴様は生きる価値がある!」
「だ、まれ! 少しも、響かんぞ………!」
「ところでお前の回収目標は?」
そんな虎を無視して荼毘がナナに訪ねるとスッと茂みの奥を指さす。
「あれ、まだこんだけですか?」
カムイを背負ったトガが現れた。その腕の中にはカムイの首。
「おいおい、殺したのかよ?」
「まだ生きてる」
「は?」
「本当ですよ。背中越しにカムイ君の鼓動を感じますもん」
首切られて生きてるってどんな生き物だよ、と呟く荼毘。と、不意に聞こえた風切り音に顔を上げる。
次の瞬間シルクハット男を踏みつけながら落ちてきた緑谷、轟、障子。
「知ってるぜ此奴等! 誰だ!?」
ピクリと、カムイの指が微かに動いた。