個性『雷獣』   作:超高校級の切望

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神野の悪夢3

「ワン・フォー・オールの先代継承者、志村菜奈から」

「貴様の穢れたその口で、お師匠の名を出すな!」

 

 巨悪に戦うための力を託してくれた…………初めは何もない彼にだからこそ勝ち取ったのだと言ってくれた師を思い出し叫ぶオールマイト。

 

「理想ばかり先行してまるで実力の伴わない女だった! ワン・フォー・オールの生みの親として恥ずかしくなったよ。実に情けない死に様だった………何処から話そうか」

「Enough!!」

 

 聞く気はないと怒り任せに大振りを振るおうとしたオールマイトを吹き飛ばすオール・フォー・ワン。

 

「もう動くのもつらいと思っていたんだけどね。消耗が少ない…………雄英襲撃で削れなかったみたいだ」

 

 USJに投入された対オールマイト用脳無はカムイが殆ど削った。結果としてオールマイトは余裕を持って倒している。

 

「ところでウォルフラム君を覚えているかな? ()()()()()()()()()()()彼さ」

「!! オール・フォー・ワン!」

「嫉妬かな? 交友関係を縛るものじゃないぜオールマイト!」

 

 何処までも人の神経を逆撫でするオール・フォー・ワン。デイブが犯罪に手を染めた元凶だって、元を正せば此奴が!!

 

「その時彼にあげたトリガー。アレは因子を増幅させ、最後には因子に支配されてしまうんだけどね………因子を取り込み支配する僕が使えば、少しはマシになるのさ」

 

 カシャンと音を立てガラスの筒が割れた。次の瞬間、オール・フォー・ワンの右腕が異様に膨れ上がる。

 

 ニタニタと笑う人面の触手。骨だけの魚。無数の鱗のみで形成された肉なき蛇。数多の異形に変じ、風の刃、骨の杭、光、闇の弾、炎、氷など数多の個性を扱う。

 

「こういうふうに、ね」

 

 襲いかかる異形の群れ。やたら歯並びの良かった人面が骨の杭を乱杭歯の様に生やしコンクリートの瓦礫を噛み砕く。

 骨の魚が鉄を溶かすほどの炎に包まれ突撃し、鱗の蛇が風の刃に鱗の破片を混ぜ、無数の穴を持つ触手が黒曜石のような鏃を放つ。

 

「TEXAS SMASH!!」

 

 それらを風圧だけで相殺するオールマイト。あまりの手数に相殺しきれなかった余波がオールマイトの体と街を破壊する。

 

「ぐっ…!」

「ほら、放送されてるぜ? もっと頑張らないと、皆が不安になってしまうよ」

 

 騒ぎを聞きつけた数多の報道ヘリがその場に集まり、『電波』に乗り日本中に放送される。

 

『悪夢のような光景! 突如として神野区が半壊滅状態となってしまいました! 現在オールマイト氏が元凶と思われる(ヴィラン)と交戦中です! 信じられません! (ヴィラン)はたった一人! 街を壊し、平和の象徴と互角以上に渡り合って!!』

 

 

 

「なにこれやば」

 

 酒を飲みながら、何処かの家の誰かが呟く。

 

 

「オールマイトボロボロじゃん」

「うわっ、めっちゃやられてる」

「神野って何処だっけ〜?」

「明日パパの会社休みかも」「わぁ!」

「他のヒーローは何やってんだ!?」

「最近(ヴィラン)暴れすぎじゃね?」「てかヒーローがやられすぎな気ぃする」

「たるんどる! なんつって!」「まーでも、実際あると思うわ」

「いやぁ、しかし結局今回も!」「オールマイトが何とかするっしょ!」

 

 ヒーローへの信頼…………平和の象徴への無責任な期待はこの程度ではまだ崩れない。

 

「弔がせっせと壊してきたヒーローへの信頼。決定打を僕が打ってしまっても良いものか………そう思うんだけどね。同時にオールマイト、君が僕を嫌いなように、僕も君が嫌いなんだ」

 

 長い年月をかけて積み上げてきたその全てを崩したオールマイト。今を闇に生きる年寄達が姿を消しても恐れ続けている魔王を一度終わらせかけた男。

 

 魔王の夢を阻む英雄。可能な限り惨たらしく死んでほしい。

 

 殺意に反応するように異形達が身を捩る。でかい攻撃が来る、と避けようとするオールマイト。

 

「避けていいのかい?」

「────!」

 

 ガラッと後ろから音が聞こえた。オールマイトは踏みとどまり巨大なミミズが吐き出す雷の伴う雲の濁流を弾く。

 

 氷の粒が皮膚を削り雷が体を焼く。2つに裂け突き進む雷雲は大地を吹き飛ばしながら漸く霧散した。

 

「君が守ってきたものを奪う。まずは怪我をおして通し続けたその矜持。惨めな姿を世間に晒せ」

 

 そこにいたはずの英雄の代わりに、痩せ細り衰えた一人の男が立っていた。

 

 

「………え?」

「お?」

「なんだ、あの骸骨」

 

 

 それは知られざる英雄の真の姿。6年前の大怪我により個性の維持すら難しくなったオールマイトの、完治不能の重症で後遺症に悩まされ続ける崩れかけた平和の象徴。

 

 世間を不安にさせぬためにひた隠ししていた平和の象徴が全盛期の力を失っている事実が再び電波を通して世間に伝播する。

 

『えっと、何が………え? 皆さん、見えますでしょうか? オールマイトがしぼんでしまっています!!』

 

 アナウンサーもただただ困惑するしか無かった。

 

 頬はこけ、目は窪んだ貧相な姿。それこそがオールマイトの本当の姿(トゥルーフォーム)。だが、その眼光は未だ衰えない。

 

「…………そっか」

「体が朽ち、衰えようとも、その姿をさらされようとも………私の心は依然平和の象徴!! 一欠片とて奪えるものじゃあない!」

「素晴らしい。参ったな、強情できかん坊なことを忘れていたよ。じゃあこれも今の心には支障ないかな? あのね………」

 

 オール・フォー・ワンはさらなる悪意を投下する。

 

「死柄木弔は志村菜奈の孫だよ」

「──────」

「君の嫌がることをずぅっと考えていた」

 

 それこそその身が機材に頼らねば生きていけない状況になるより以前から、依然彼は己の夢の邪魔をする全てが嫌いで、憎い。()()()()()歴代継承者達その全てを苦しめて殺したい程に。

 

「嘘を………」

「事実さ。分かっているだろう? 僕のやりそうなことだ……あれ、おかしいなオールマイト。笑顔はどうした?」

 

 顔の横にニタニタと笑う人面触手を持ってきて問いかけるオール・フォー・ワン。口元がマスクで見えずとも、その口は歪に歪んでいることがその声から想像できる。

 

「き、さ………ま!」

「やはり楽しいな! 一欠片でも奪えたろうか?」

 

 師の家族。彼が………そんな彼に手を差し伸べることもせずに………心が欠けそうになる。と、その時………

 

「負けないで………」

 

 声が、聞こえた。

 

「オールマイト、お願い……救けて」

 

 

 

「オールマイト!」「…やばくない?」

「…………──て」

「そんな、いやだ……」

「オールマイト」

「あんたが勝てなきゃ」「あんなの誰が勝てんだよ」

「姿は変わってもオールマイトはオールマイトでしょ!」「いつだって何とかしてきたじゃん!」「オールマイト、頑張れ!」

「負けるなオールマイト!!」

 

 絶望的な状況。されど絶望に沈むには、彼が灯した希望という光を放つ炎は未だ強く、勝つ姿に憧れた少年、救う姿に憧れた少年もその声に混じりながら叫ぶ。

 

「勝てやぁ!」「オールマイトォ!!」

 

 

 

 オールマイトの右腕が膨れ上がる。なけなしの個性因子、灯火とも呼べない残り火を強く強く灯す。

 

「お嬢さん、もちろんさ……」

 

 例えその身が朽ちかけようと、例え師の血縁が利用されていようと、救けを求める声が聞こえた。ならば応える。応えてみせる。その誓いこそが彼のオリジン!!

 

「………ああ、多いよ! ヒーローは………守るものが多いんだよ、オール・フォー・ワン! だから、負けないんだよ!!」

「渾身………最後の一撃かい? 手負いのヒーローが最も恐ろしい。2、3発は無理にでも撃ってくるだろうね……」

 

 今でも思い出す。その瞳を失い何を映すこともなくなった視界が見た最後の光景。腸をまき散らしながら迫るオールマイトの姿を。

 

「気持ちよく戦わせないよオールマイト。手数勝負、防げるものなら防いでみると良い」

 

 右腕の異形達が四方に向き直る。オールマイトが気付き駆け出そうとする、ギリギリで間に合うよう攻撃準備。だがオールマイトの足が止まった。

 

 空を走る光が見えたからだ。

 

「見つけたぞ」

 

 光を見てから刹那の時もない一瞬。その瞬きの間に聞こえるはずのない声をオールマイトは確かに聞いた。

 

「やってくれたな梅干し頭!!」

 

 轟雷。

 視界を白く染め耳から音を奪うような極雷がたった一人の右腕の付け根を狙い破壊する。半壊した街並みに稲妻が駆け巡り、舞い上がる瓦礫の内部の鉄骨に一瞬糸のようにつながる紫電が見えたかと思えばオール・フォー・ワンへ向かい殺到する。

 

 瞬時に再生した右腕の異形達が防ぐ。

 

「……………」

「オールマイト? 死にかけてんじゃねえか………幸い俺ぁ、戦闘許可降りたままで撤回は聞いてねえからよお」

 

 ザリッとオールマイトの隣から聞こえる地面を踏みしめる音。

 

「救けてやろうか?」

「…………稲妻、少年」

「ゲボ!」

「ええ!?」

 

 首と胸から血が噴き出す。「死にかけてんじゃねえか」と言っておきながら彼も重傷だこれ!?

 

「まさか……抜け出たのか。雷に耐性がある脳無ばかりだったはず」

「物理的に弱かったな。武器はちゃんと取っとけ」

「七号…………!」

 

 カムイの担ぐ雷爪を見て不甲斐ない部下を忌々しげに呼ぶオール・フォー・ワン。考える頭を文字通り奪ったのは彼等だが。

 

「雷業を滅ぼしたヒーローに与するのかい?」

「俺は稲妻だ………そうなる前は、再状(さいじょう)カムイ………それ以外の名前は必要ねえんだよ」

 

 忌々しげに睨みつけるカムイにオール・フォー・ワンは肩を竦める。

 

(やはり阻むか、僕の夢を………それにしたってまともに動ける体じゃ無いはず。()()()()()か………)

 

 死してなお子離れ出来ずに欠片のまま我が子に縋りつき生かしているらしい。

 

「稲妻少年! 救けはいらない、下がれ!」

「嫌だね」

「じゃあなぜ聞いた!?」

「勘違いすんなボケ」

「ボケ!?」

「救けてと言える奴は救う。言えねえ奴は救わねえ………そんな奴がヒーローになれるかよ」

「……………ならばもう止めない。だが」

「ああ、俺を救けてえならそうしろ」

 

 膨大な量の電気が空へと昇る。巨大な光の柱の如き落雷ならぬ昇雷の中央に立つは一人の異形。

 

 黒い外骨格。伸びた首。雷光の如き輝きが両手両足、胸の傷から漏れる。

 

「倒すぞ、2人で」

「ああ、力を貸してもらう。稲妻少ね………イメルカムイ!!」

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