雄英高校が全寮制に切り替わる。
生徒が狙われるという事件があったのだ。なら生徒の安全を守るための措置が行われる。一般的な住居より余程セキュリティに優れた施設が生徒達に用意される。
当然一度侵入を許し、セキュリティレベルは比べるべくもなく低いとは言え所在を隠していたはずの林間合宿にまで襲撃を許したのだから、信用してもらう為に説明に向かう。
「いいってよ」
「…………ちゃんと連絡したんだよな?」
カムイの下に訪れれば、保護者はおらずカムイは許可を貰ったとだけ。仮にも攫われ、大怪我を負い、魔王と戦ったりしたカムイを雄英に簡単に預けしかも説明は聞かないと………。
「仲、悪かったり?」
「そういうんじゃねえけど。まあ信頼されてるのと…………」
思い返すのは見舞いに来たクラスメイト達の顔。
「友達がいるからな」
「……………そうか。ああ、後…………」
と、相澤はそこで言葉を区切る。言葉に迷う、というよりは言いたくないという雰囲気だ。
「……………ヒーロー公安委員会から、お前に」
そう言って差し出してきたのは『ヒーロー活動特例認可資格免許』と書かれたカード。
本来は『仮免許』を取って高校を卒業してから『ヒーロー活動認可資格免許』を手にしてプロヒーローとなるわけだが、これはその条件を無視してプロヒーローと同等の権限を与える免許。
「早い話が学徒動員だ。受け取らないって選択もあるが」
「貰う」
と、受け取るカムイ。公安から既に言われていた。
名を上げるには実戦が必要だし、平和の象徴が引退した今カムイという戦力をわざわざ遊ばせておく理由もない。
「ちゃんと自分の命も大事にすんよ。そう言われたからな」
「ならいい。よくはないが…………」
相澤としてはどれだけ強かろうと学生が戦力として数えられるのは反対らしい。
「お前に命を大事にするように言い聞かせた奴に、ちゃんと礼を言っておけよ」
「あ〜…………」
「というわけで何か欲しいものあるか梅雨ちゃん」
「唐突な呼び出しで何かと思えば……御礼なんて別にいいのよ?」
というかカムイは自宅待機なのでは、と首を傾げる梅雨。爆豪はそうだろう。カムイは特例免許があるからいざ襲撃を受けても個性を使って対処していいのだ。
「心配してたのは私だけじゃないの」
「言われなきゃ気付けねえような奴だからな、俺は。言葉にしてくれた事に礼はしておきてえ」
「そういうことなら…………引っ越しの準備を手伝ってもらえるかしら。いろいろ新調しておきたいものもあるの」
「部屋のものそのまま使えばいいんじゃねえの」
「戻った時にそのまま使ってほしいそうよ。私の家だもの」
親が部屋をそのまま残したがったということだろうか? 実の娘に来客用の出迎えをしたくないのだろうな。
「梅雨ちゃんって髪、綺麗だよな」
薬局にてトリートメントなどを買う梅雨にカムイが唐突に呟いた。
「そう言ってもらうと、お手入れしている甲斐があるわ」
ケロケロ笑う梅雨ちゃん。確かにクラスで一番艷やかな黒髪だが、手入れを意識していたらしい。
「まあこの前ちょっと大変な目に遭ったけど…………あの時、ヒミコちゃんがいたの」
「知ってんよ」
「……………そう」
まあ大方、カムイの敵になりたいとかそういうところだろう。どうにも生きづらそうで、それを共感したのだろう。
「ヒミコちゃんは、ルールの向こう側に行ってしまったの」
「まあ俺も結構ギリギリだったけどな………ルールだけじゃ人は守れねえ」
「それでもルールを守らなければヴィランと何も変わらないわ」
真面目な梅雨ちゃんらしい回答だ、と思った。委員長投票の際よく知らないから飯田に投票したが、今なら梅雨ちゃんとの二択になりそうだ。
「で、大変な目って?」
「髪の毛がナイフに絡まって木に拘束されたのよ」
長いからなあ。
「でも切らないのか」
「カムイちゃんは短いほうが好きかしら?」
「どっちでも………まあ、伸ばしたいなら好きにすりゃいいさ。ヒーローが好きな事諦めて生きる社会なんざ平和の正反対。ヒーローが暇するぐらいが丁度いい」
これは受け売りだが、カムイもそう思う。そもそもカムイはヒーローになる気はあるがなりたい訳ではないし。
「そうね。それは素敵だわ………そしたら私、羽生子ちゃんと遊びに行けるわね」
「ああ、勇学園の………」
林間合宿前、他校とちょっとした交流があった。その際に来た生徒の1人だ。うち1人がなかなか強力だが使い勝手の悪い個性だったのと比べ万偶数羽生子のアレは中々。
見た相手を弛緩させる個性に加えて、異形系故に素の身体能力も高い。そう言えばオール・フォー・ワンが似たような個性を使っていたな。案外彼女の血縁から奪ったのかも。
「ゾンビウイルスも中々面白かったがな」
「ケロ…………」
感染した状態だとゾンビの名の通り意思を無くす。ただし原典のブードゥーと違い所謂ホラー映画の制御不能な方のゾンビ。使用者も噛まれてた。
ゾンビ化するとダメージを受け付けなくなりカムイの電撃にも耐えていた。さすがに肉体が消し飛ぶレベルなら死ぬだろうが、感染中は気絶しないしなんならゾンビ化しても個性を使える。制御可能になれば対多数において最強の個性になるだろう。
「一応ゾンビ化しても全くの無意識でもなかったしな」
万偶数の場合梅雨ちゃんの呼びかけに反応していたしゾンビ化しても仲が良かった。
「買いたいものはこれで終わりかしら」
結局家具の殆どは郵送。カムイがしたことと言えばレジに運ぶくらいだ。まあ家においておいても邪魔なだけか。
ついでに買った夕飯の材料を持ち蛙吹家に向かう。
「カムイちゃんは一人暮らしだったわね。良かったら食べにいかない?」
「飯は八百万に誘われてる」
「そう。残念だわ」
梅雨ちゃんと別れ、指定された場所に行くと高級車が待っていた。促されるまま入ると八百万がいた。
「お待ちしておりました。それで、御用とは?」
「俺と爆豪助けに行く際出費があったんだろ? その分の金を払いに」
「まあ、そんなことでしたの? お気になさらず、大した出費ではありませんでしたし、何より貴重な体験でした!」
ドンキ・オオテで服とかカツラとか買ったらしい。入りたかったんだろうな。
「そうか? 用件はそれだけだったんだが」
面と向かって礼を言うために会いたいとだけ言ったら飯を用意された。しかしもう話も終わってしまった。
「わざわざ奢らせるのもな。予約したわけじゃねえならこのまま帰るが」
「いえ、皆さん無事を祝いたいとおっしゃっておりました。今はあまり自由に動けませんから、一足先に私の家で………お母様達も心配されていましたし」
「…………見てなかったが、いるもんだな」
「?」
強いだけでは、心配をかけなくなる訳じゃないらしい。
八百万はシェフが腕によりをかけて、と言っていたがどうやら娘の友達の無事を祝うのだからとママヨロズが腕によりをかけたらしく屋敷に着くなり異臭がして、シェフが爆発で気絶したらしいので結局カムイが飯作って食事にしてから帰った。