異形型個性。
個性黎明期に於いて特に差別されたそのあり方は、近年にまで影響を残す。『六・六事件』、『ジェダの大粛清』。個性が受け入れられてなお『気味が悪かった』の一言で行われる排斥、凶行。
人が多く関わりが希薄な都会では受け入れられているが、閉塞的な田舎などでは今でも強く異形排斥志向が残る地域がある。
障子の生まれ育った田舎のように。
「両親にこの腕はなかった。酷い村だったよ、人に触れようものなら総出で「血祓い」だ………」
幼い子供に平気で鉄の農具を叩きつけ、消えない傷を残した。
唇を縦に裂く大きな2つの傷に、口の端から首の後ろを通り一周する傷。
都会生まれの異形型には教科書の中の話を、今もなおやり続ける、そういう連中がいるのだ。
「許せんそんな奴ら! 根絶やそ!」
「それもいいが。やはり差異というものはある」
怒る芦戸を嗜める障子。峰田は無表情だったがすぐに顔を歪めた。
「オイラ、タコって言った気ィする!」
それは個性把握テストでの出来事。厳密には言ったのは瀬呂で、峰田は「タコってエロいよね」と便乗した形だが。まあ峰田の方が最低だなこれ。
「ごめんなぁ! でも気味悪ぃとか、そんなん考えてねーよ!」
「この腕からタコを連想するのは当然だ」
ヒーロー名だって『テン
「触れないで変に気を遣ってほしくない。それでもこの“傷跡”と“異形”は
顔に傷のある異形型。それだけで人々は障子に一つの在り方を押しつけるだろう。異形型なら代弁者、それ以外にとっても立派か、復讐するに違いないとか。
「だからマスクをしている。俺は復讐者と思われたくない」
「…………強いのだな」
「嫌なことは山程あったし、忘れることはない。でも………嫌な思い出を数えるより、たった一つでもこの姿で良かった思い出に縋りたいんだ」
ありがとうと言ってもらえたんだ。たとえその後「血祓い」として村人総出で攻撃されても、この姿だから救けられた少女に、ありがとうと、そう言ってもらえたんだ。
「たった一つとかヤメてぇマジで!」
「これからもいっぱいつくろうよお! もおおお!」
「僕らとさぁ! 良い思い出いっぱいさあ!」
「温いの知ってるの」
切島、芦戸、上鳴、峰田、口田、梅雨ちゃんが障子の腕の中に飛び込んだ。体が大きく、腕が沢山ある障子だから一度に沢山飛び込める。
「ぬくい、ぬくいよぉ………」
「…………うん。百年以上続く柵を一世代でフラットに出来るとは思わない。だからこそ、先人達がそうしてきたように、俺も紡いでいきたいんだ。世界一かっこいいヒーローになって、“次”に、いい思い出を」
「漢だぜ障子ぃ!」
切島がおんおん泣き出した。誰一人、障子の傷を不快になんて思っていない。
「俺ばかりすまない。カムイも、皆に伝えたいことがあるんだったな」
「あ〜………この空気で話していいもんかね。ま、こうして集まったしな………」
「カムイさんの話、ですか?」
「なになに〜? もう驚かないかんね、私達」
「ケッ。さっさとすませろ」
皆ちゃんと聞く気らしい。カムイはまず、と切り出す。
「俺の個性『雷獣』は雷が関係するあらゆる事が出来る。その一つに電磁波を感知とかもあってな? 赤外線とかX線とかテラヘルツとかも………よくサーモグラフィーとか暗視スコープとかあるだろ? あれよりも鮮明に見える」
「んん?」
急に何の話だ、と首を傾げる一同。つまり、とカムイは前置きする。
「俺には葉隠が見えている」
「あ、やっぱり? な〜んかカムイくんとは良く目が合うな〜って思ってたんだ! えへへ、なんか照れくさいな」
と頭をかく葉隠。峰田が待て! と叫んだ。
「つまりお前、訓練の時とか葉隠の裸見てんのか!?」
「………………あ」
全員が改めてカムイを見る。葉隠は固まっていた。
「い、いやでもさ! ほら、訓練の時だけ目が合わないっていうか、カムイ君こっち見ないようにしてくれてるよね!?」
「目を通して見てると言うより、感じてるから、どっち向いてようと結構見えてた」
「うにゃ〜〜!?」
葉隠はソファの陰に隠れるように小さくなった。
「もうお嫁に行けない………」
「…………わりぃ…………それと峰田、血が出てるぞ、目から」
「詳細を、詳細を言え〜! 葉隠の裸体の詳細をよ!」
「裸体はともかく、顔はこんなん」
と、カムイがテレビに手を向ける。電波を送ると電源がつき睫毛の長い、若草色で、所々プリズムのように輝く髪の毛をボサボサにしている美少女が赤くなった頬をモニモニしている。
葉隠を見る。見えないが、袖の位置的に頬を抑えているのだろう。後服装が一緒だ。
「ん? あれ………誰この子可愛い」
「葉隠」
「……………私!? やー! 見ないでー!」
葉隠が慌ててテレビの前に立ったので消しておく。
「え〜!? 葉隠ちゃん、すっごい可愛いやん!」
「天使は此処にいた!」
「髪の毛が結構跳ねていたわ」
「癖っ毛……というよりは見えてないからと手入れしてないのでしょうか? いけませんわ葉隠さん!」
「天使は此処にいたぁ!」
「ねえねえ葉隠ぇ! 今度カムイに映させながらオシャレしよう!」
「普通に可愛いじゃん」
「天使は」
「峰田、うっさい」
葉隠は女子達にもみくちゃにされ始めた。芦戸は顔や髪を触りほうほう、と頷く。
「百点! そっくり!」
「そのまま映してるからな」
「てか、マジで万能だな。俺の立つ瀬がねえよ」
と、上鳴が笑う。それでも嫉妬したりしないのがこの男だ。
「………血が深いからな」
「血?」
首を傾げる上鳴。轟がまさか、とカムイをみる。
「俺はあれを親と見てる気はねえが、血は消えない。俺の父親は
ヴィラン名『雷帝』。本名雷業
「雷帝! 聞いたことある、確か何人ものプロヒーローを殺して、オールマイトから逃げ切った事もある……! でも本名公開されてなかったような…」
「雷業については消されたからな。あの家は、あったという事実すら認められない。雷帝が出たからじゃねえ………彼奴の強さに至った理由が理由だ」
初代雷業家当主雷業帝。彼は個性黎明期、先天性ではなく第二次性徴前後に目覚めた部類………謂わば0.5世代の人間であった。当時の姓は竜之宮。竜の住まう宮の王。
竜之宮は歴史の浅い元華族で終身華族制度ギリギリに功勲を立て滑り込んだような家。だから常に下に見られ、されど祖先の威に縋る愚かさを嫌う、そんな一族。
『血の歴史』を尊ぶ旧公家、旧大名と異なり、彼等が尊ぶのは
競馬でより良い馬を産ませるように、人間でそれを行おうとしたそんな一族。その中の一人竜之宮帝は超常が起きると同時にそれを遺伝する物と妹を見て判断し
自身と妹を超える雷を見て確信した彼は同系統………雷の個性を持つ者達を纏め上げ名を雷業に改めた。
目的はただ一つ、最強の超常を人の身に宿らせる事。
電波、放電、増電、幕電、給電、吸電、静電気、電磁波、磁力、電気ウナギ、電気ナマズ……果ては絶縁、避雷針など電気に関連する者は耐性含めて家に引き込み、子を作らせた。
雷業を名乗れるのはその時代特に力を持つ子を産んだ家。雷業とは集団。
血に拘らぬためヴィラン、ヴィジランテなどからも有力な存在が現れれば引き込む。だがその家が何よりも異質なのは、雷業帝の執念が強く深く染み付いていたこと。
世代を経るごとに強くなるのだからと世代交代を早めるために精通したばかりの当代当主に妻が充てがわれ、強力な力を持つからと母体の健康を無視して若すぎる妊娠をさせられた少女もいる。雷業にいたかは知らないが、世界には十に満たない妊婦もいたらしいし、人間その気になれば世代交代は早い。
雷業と言う『集団』であり一族ではない。血の繋がりが薄い時もあれば
「世代交代が早いから当然、第五世代とされる今の連中の世代なんてとっくに超えて、俺は十一世代」
「……………」
全員顔が青い。特に個性婚で生まれた轟は自分と同じ………それ以上の
「時には無理やりさらって子供作ったり…………正直どうしてそこまで出来たのかさっぱりだ。それだけ力が魅力的だったのか………各方面に広がる雷業の血は政治、ヒーロー、指定
傭兵といえば聞こえはいいが、強力な個性を持つ集団から人間を金と交換。雷業家にとっては落ちこぼれでも他にとっては強力な個性の雷系統や、雷業に不要な雷を受け継がない突然変異。
研究用に、傭兵に、個性婚に売って金を手にして、手広く広げすぎた所に最高傑作たる統琉が生まれるも逃げられ混乱し、隠すのが雑になり始めた。
「家から逃げたの? その人も嫌だったの?」
「嫌ではあったんだろうよ。報いの如く、早世し始めた」
強く深くなる個性因子は人の肉体では抑えが利かなかった。人体を侵食し、肉体を作り替え、人の形を失いしかし耐えきれず死ぬ。
どうせ死ぬなら好き勝手生きてやると統琉は家を捨て好きに生きた。道徳も法律も無視して。
「そうして俺の母を
運命的な出会いなどなく、自由を求めた先に会った奇跡なんてなく、ただただ犯罪者の犯罪の一つ。
強盗、殺人、そして強姦。
「雷帝の子を宿した女は何人かいた。基本的に堕ろして、堕ろさなかった奴は死んだ」
「え、でも……」
「母さんの個性は『健康長寿』。自己回復の個性だ」
ただしそこまで強くはない。傷や病気の治りが他の人間の3倍程。唯一の強みは腕を失おうと1年ぐらいで新しく生え変わる。ただし個性発現前に負った背中の火傷は治らなかったらしい。
「ただ、個性は酷使すれば成長する。林間合宿で皆も学んだろ?」
雷業の血を宿した胎児は生まれる前から母体を焼く。殻を食い破る顎を持つ虫ですら自分が完成するまでは大人しくしているというのに、ただ腹の中の身動きですら、雷業の血は雷に耐性を持たない母体を傷つけた。カムイの母、再状カンナだけがダメージが蓄積し死ぬ前に傷を癒やし、癒す度に個性がより強くなっていった。
やがてただ傷を癒すのみならず、個性は癒した肉体に傷の要因に対する適応をさせ始めた。雷に対して縁遠い血筋でありながら、カンナは最期の方には強力な電気に耐えるだけの耐性を得ていた。
「だけど、俺の産声は母さんを殺した」
「え…………」
カムイが母を好きなのは皆なんとなく察していた。だが、その言葉はカムイはそもそも母を知識としてしか知らないことを意味する。
「なんなら俺本人も、雷業の血が薄い肉体を個性が焼いた」
本来なら生まれてすぐ死ぬ赤子。それを生かしたのは、やはり母の力。
酷使される度により増殖する母の個性因子。焼かれ、焦げ、剥がれた破片は臍の緒を通りカムイに蓄積された。
それはただの偶然なのか、我が子を想う母の愛か。
かくして、死ぬ筈の赤子は生き残り、癇癪のたびに雷業の個性が暴走し、母の個性が我が子を守り成長する。
「俺の再生能力は、母さんから受け継いだ胎児の途中で手に入れた個性。俺には2つの個性がある」
『健康長寿』を超えた『不老長寿』。そして『雷帝』をより深くした『雷獣』。それがカムイの持つ個性。
「その後雷業が俺を見つけ、新たな当主に据えようとしたが………ドナー記憶とでも言うのかね? 個性因子に宿る母さんの記憶の断片があった俺は、最期まで俺を愛してくれていた母さんと俺を個性の器としか見てない雷業の差異に気づいて……………なんやかんやあって今に至る」
「急に雑!!」
「雷業は個性婚の有用性を示す一族。果てこそ殆ど自滅だったが、俺という当主を据えるために他が疎かになり政府に見つかった後はその存在を抹消された」
あってはならないんだ、こうすれば強い個性を持つ子供が確実に作れる、なんてノウハウは。それは人から人権を奪い去る。
「俺はそういう一族の血を引いていて、母を殺している。そういう人間だ………それでも、俺を救ってくれた母さんのように、誰かのヒーローになってみたいとは少し思ってる。まあ、大半は力使う場所が欲しいってだけなんだが」
沈黙が場を支配する。普通に生きていて聞くような話ではなかったか。
「カムイ、一ついいか?」
「峰田か。なんだ?」
「子供作ること推奨されてたってことは………お前まさか、もう卒業してんのか!?」
「…………………………………………………………は?」
「峰田君!? 何を言ってるんだ君は!」
「流石にないわよ峰田ちゃん」
「うるせえ! オイラにとっては重要なことなんだよぉ!? どうなんだお前やることやってんのかぁ!?」
「いや、てかされる前に逃げたし」
「つまり童貞ってことだな! …………なら良いや」
「…………………」
峰田は再び障子の腕の中に戻る。
「お前が経験してねえなら、オイラはそれでいいよ」
「…………峰田君の発言はともかく。その………僕も、君の血も、過去も、否定しない」
そう緑谷が続いた。
「君は君だよ」
「その通りだ! 辛い過去を話してくれて、そこまで信用してくれてありがとう!」
「その、なんだ。体育祭の時俺だけが辛いみたいな反応して悪かったな」
「ケッ!」
「まーあれよ? 電気系個性に限らず同系統の個性同士で結婚しやすいじゃん? 俺も両親電気系だからさ」
「親が誰であれ、過去がどうであれ、私達はカムイさんの優しさを知っていますわ」
「そうだよ! ていうか生まれてくる子供を道具として見るなんて許せん! カムイ除いて根絶やそう!」
「もう根絶ってるよ三奈ちゃん」
「カムイ! お前は漢だぜ! 負けんなよ、血の歴史なんかに!」
「宿命は、血ではなく信念に宿る」
上鳴が肩を組んできた。他の皆も背中をたたいたり寄ってきたり。カムイを否定する者は誰もいなかった。
「………………そうか……………そうか」
全部が全部、話せた訳では無い。それでも自分という存在の始まりを話し、受け入れられた。
「ありがとな、皆」
実はカムイって兄姉妹がいるんだよね。みんな生まれる前に死んでるけど。死体は当然病院などで死因を検査されて政府は個性婚の果を絶対に隠すと決めた。