その昔、とある村で百物語をした。
本物の怪異を呼び寄せるとされている儀式だ。
娯楽の少ないその村では百物語は若者達の間での暇潰し。百まで語ると怪異が現れるので、99まで語ることはなかった。
そんなある日金髪の女が現れ、参加させてほしいと言い出した。旅をしているというその女を怖がらせてやろうと若者達は受け入れたが、女は怖がるどころかニヤニヤと笑い始めた。
99の物語が語られた後、それまで黙って聞いていた女が百番目の物語を語りだし、若者達が止めようとするも止まらず、語り終えると同時に最後の蝋燭が消えた。
再び明かりがつくとそこに女の姿はなく、警察と村人総出で捜したが見つかることはなかった。
ある日百物語に参加した若者の一人が女を見たという。見間違えだと誰も信じなかった。
翌日若者は死んだ。何か恐ろしいものを見たように、その顔は恐怖に染まり首には1本の金髪が巻きついていた。
その日から百物語に参加した若者が次々亡くなる。やはりその首には金髪が絡みつく。
村の老人達は、その昔金髪の赤子を産み不貞を疑われ子とともに山に捨てられた母親が、山の奥に住まう鬼に子を差し出し鬼になったという伝説を思い出した。
やがて村は流行り病であっという間に滅んでしまった。噂によると、死人のそばには金髪が………。
その村から引っ越した子供が故郷が懐かしくなり久し振りに村に戻ると、その村は廃村となっていた。
因みにこの怪談をしたのは常闇で、常闇曰く祖父の友人から聞いた話。引っ越した子供とはその友人で、友人は廃村で金髪の女を見たという。
そして数日後、その友人は突然亡くなりその首には長い金髪が絡まっていた。
というのが峰田達が聞いた怪談らしい。なぜ改めてそんな話を聞いたかといえば………。
「出たんだよぉ! 昨日の夜、オイラの部屋の前に来て名前呼んだんだぁ!」
ハイツアライアンスに幽霊が出たらしい。峰田の他にも怪談に参加していた梅雨、瀬呂、常闇、障子、上鳴、芦戸、耳の良い耳郎も声はともかく謎の物音を聞いたとか。
「ほらやっぱり! 本当にしてたんだよ!」
耳郎も肯定したことにより叫ぶ上鳴。本音を言えば気の所為にしたかったに違いない。全員に戸惑うような雰囲気が流れる。
「しかし、呪いかどうかは置いておいて、複数人が謎の音を聞いたとなるとこれは由々しき事態だぞ。もしかしたら寮の欠陥の可能性もある。音の正体を確かめねばなるまい。ここは委員長である俺が、今日、責任を持って起きていることにしよう!」
「寮長の俺じゃなくていいのか? まあ、どうせ幽霊じゃねえだろうけど」
飯田の言葉にカムイは興味なさそうに言う。飯田は任せ給え! と元気に叫んだ。
その日の夜、A組全員が音を聞いたと証言。峰田の隣の部屋の緑谷も、『ミネタミノル』と名を呼ぶ女の声を聞いた。
カムイはヘッドホンしながらモンスターをハントしていたからか聞いてないが。
さて、そんな音を聞いたA組が眠れるわけもなく、女子達は同じ階同士であったりしていたが結局寝不足。授業に集中してない生徒達を叱った相澤だったが流石に全員となると何かあったのかと理由を聞いた。
「音ねえ………稲妻、心当たりは?」
「謎の音って言われてもな。別に不思議な音はしなかった。しかしここまで幽霊信じる奴等ばかりだとは」
「し、信じてはいませんが………しかし不可解な出来事が起きているとなると………」
と、八百万。その顔には不安が浮かんでいた。
「い、いやだぁ! 毎晩名前呼ばれたら眠れねえよ〜! ベッドの中でならいざ知らず………いやベッドに入ってきたら呪い殺される……! でもそれが素っ裸の幽霊なら………いやでも!」
峰田が裸の女に対して葛藤するとは、相当恐怖を感じているようだ。
「呪いか。そういや、雄英にもそういう話があったな」
「何処にでもあるもんだな、学校の怪談」
雄英七不思議。ヒーローになれなかった卒業生の幽霊が彷徨ってそれを見ると呪われる。現れる場所は学校裏の森………現在寮の建っているあたり。
まず卒業してんのになんで学校内で幽霊になってんだとか、校舎や運動場ではなく森の中なのかと色々聞きたい事は多いが、教室は阿鼻叫喚。
「その幽霊が寮の中、彷徨ってんじゃ………!」
「やめてぇ〜!!」
「ハイツアライアンスは呪われた寮なんだあ!」
「おい、お前ら………」
「寮全体が呪われてたら何処にも逃げ場ねーじゃんか!」
「し、塩まかな!! あ、ごま塩しかなかった!」
「今日の弁当で持ってきたわさび塩使うか?」
「カムイちゃん、そういう問題じゃないと思うわ」
「どうしよう!? 透明な私でも幽霊に気付かれるかな!? 気付かれたらやだよう!」
何時もならすぐに一喝する相澤も、燃料を投下した手前しばらく落ち着かせようとしたが結局最後は一喝した。
「そんなに音が気になるなら、今夜見回りをする」
「せ、先生ぇ!」
「つっても今夜嵐だぞ? 下手したら教員寮に戻れなくなるかもだし、明日でいいんじゃね?」
「カムイイイイイ!!」
「取り敢えず寮長として俺が改めて確認して、原因が分からなかったら明日報告すんよ」
『へ〜、焦凍もそういうの怖がるんだ!』
学校であったことだし、と冬美に連絡してみればそれでそれで、と聞いてくる。前回、次に会う時にと言っていたがやはり姉として弟の近況が気になっていたらしい。
「そろそろ切るぞ。見回りがあんだよ」
『え〜。もう少しだけ! お願い! あ、カムイ君は幽霊いたらどうするの?』
「他の幽霊の見つけ方聞く」
と、その時大きな音を立てて雷が落ちた。次の瞬間ハイツアライアンスが停電した。
「悪い。切る」
完全な暗闇。普段ならとかく、教室内での阿鼻叫喚を思えば常闇の
「キャアアア!?」
「八百万!?」
一階から悲鳴が聞こえた。不安になり集まっていたのだろう。寮内を雷速で駆け抜けるわけにもいかないので普通に走る。
「ん?」
一階に来ると口田のペットのウサギ
「ななななななななななんかいたぁ!」
「幽霊かよ、幽霊かよぉ! 幽霊ってあんな感じなのかよぉ! 初めて見るからわかんねえ!」
どうやら葉隠と上鳴はこのウサギを幽霊と勘違いしたらしい。八百万の悲鳴もか?
「み、緑谷。幽霊には氷と炎、どっちが効くんだ?」
「へっ? いや、そんな事考えたこともないからわかんないんだけど、幽霊って冷たいイメージがあるから逆に炎なんじゃないかなぁ!? というより物理攻撃効かないんじゃ!? ほら、実体がないから幽霊なわけだし!」
「! どうすりゃいいんだ!」
なんかみてて面白いな、と思いつつも予備電源を付けに向かう。電気が復旧した。
「あ、明かりが戻った!? 幽霊は!」
「それっぽいのはいねぇ!」
「や、やっぱり明かりと一緒に消えたのか!?」
「おい」
「うわひゃあああ!?」
混乱しているA組の面子に話しかけると耳が痛いぐらいの悲鳴を食らった。
「って、あ! カムイ君! カムイ君カムイ君カムイ君! 大変だよでたんだよ、白い幽霊!」
「それはコイツだ」
「えぇ? あ、ゆわいちゃん?」
ゲシゲシカムイの腕を蹴っていたウサギを口田に渡す。
「ごめん、部屋のドア、閉め忘れてたみたい」
「あのパニックじゃ最悪があってもおかしくなかった。気をつけろ」
コクコク頷く口田。
「で、でもよぉ。まだあの音の正体わかってねえじゃん。なんでカムイだけ聞いてねえんだよお! 最強か、最強だから幽霊の方から逃げてんのか?」
「だったら俺からも逃げるわボケが!」
何処で張り合ってんだ爆豪は。
「そもそもそれってどんな音なんだ?」
「えっと………ヴィィって、ケータイのバイブ音みたいな」
「………………あ〜」
カムイは納得したような声を出すと歩き出した。他の皆も不思議がりながら付いていく。
辿り着いたのは女子風呂の前だ。
「ここがどうかしたの?」
「時間的に、そろそろか」
「?」
と、その時、A組誰もが聞き覚えのあるヴィィという音が聞こえた。
「なんだよぉ! でるのか!? 出たのか!? 明るいのに!」
「やー!」
「ど、どこから!?」
「切島〜! 盾になって盾!」
「ば、おま、芦戸!?」
「梅雨ちゃーん!」
「ケロ」
葉隠がカムイの背に飛び付き八百万が不安そうに服の裾をつかむ。芦戸が切島の後ろに回り腰に抱きつきお茶子が梅雨ちゃんに抱き着く。耳郎はその場で固まる。イヤホンジャックが近くに居た上鳴の首に絡みつき盾にするように引き寄せた。
峰田は涙目、轟は炎と氷、爆豪はバチバチと小規模な爆発を発生させ緑谷は震え飯田は眼鏡をクイクイ。砂藤はファイティングポーズをとり瀬呂はテープを打ち出せるように肘を持ち上げ青山は臍を突き出し常闇は
「ミネタ、ミノル………ミツケタ」
「うわああああああ!! 名前呼ばれたああああ!?」
「でたああああ!?」
「切島ぁ! 硬くなってほら! 幽霊なんてぶっ飛ばしちゃえ!」
「柔!!」
峰田が何時ぞやの林間合宿の如く決壊させ、葉隠が何も見ないとばかりに目を閉じ叫び芦戸が切島に更に強く抱きつき切島が腰に伝わる柔らかさに固まる。カムイはうんざりしながら片手を上げる。
「あれだな………」
「え?」
カムイが指差した天井を見ると、よく目を凝らさないと見えない黒い小さな粒のような何かが天井を動いていた。
それは女子風呂の前に設置されたセキュリティアイテムへ巣に入る虫のように入っていく。
「充電中……充電中………」と言う声が聞こえた。
「えっと………?」
「発目が勝手に付け足した夜回りオプションアイテムだ。特に峰田を警戒して部屋にいるか確認するって言ってたな………」
「余計なことを!」
「じゃ、じゃあカムイ君だけ聞こえなかったのは………」
「単純に俺はそれを異音と思ってなかったからだな。発目のアイテムが今日も動いてるな、としか………」
このアイテムを相談したのは女子達だが、出来たそれを受け取りに行ったのはA組で一番発目と仲が良いカムイだ。その際に色々得意げに語られた。
「の、呪いじゃなかったのか。良かった〜!」
「怖かった! チョー怖かった!」
「まあそれはそれとして、お前等今下手したら個性家ん中で使おうとしてたな?」
寮長の言葉にギクッと固まる男子達。
「お前等も怖がりすぎだろ。心霊スポットになってるトンネルの崩落事故の救助活動とかどうすんだ」
「そんな限定的な…………いえ、ないとは言えませんが」
「面目ない………」
「怪談禁止………としておきたいが、耐性つけといたほうがいいのも事実。幸い今回は寮破壊までいかなかったしな。ただ、寮長権限で二学期まで就寝時間は八時! 次怪談で騒動起こしたら…………物間あたりに伝えるか」
A組全員の頭の中にHAHAHAHAHA!! と高笑いする物間が現れた。
『あれあれあれえ!? 聞いたよA組! 警備ロボを幽霊と勘違いして怖がったんだってえ!? 個性まで使いかけたってねえ! えー、そんな事普通あるのかなあ!? もし林間合宿の肝試しが続いてたら怪我してたかもしれないなんて怖いなあ! 個性で人を傷つけるなんて
全員もれなくイラァ、とした。
「それが嫌なら夜に慣れることだな。後峰田は掃除しとけ」
じゃあ解散、とカムイが言うと一同部屋に戻る。男子では切島がまだ固まったままだ。女子では葉隠が………
「あの、腰が抜けちゃって………」
「耳郎」
「あ、うん。ちょっとごめん」
「あひゃひゃ! く、くすぐったい! 耳郎ちゃん、変なとこ触らないで!」
「え、ウチどこ触ったの!? ちょ、暴れないで! 仕方ないじゃん、見えないんだし!」
「あ、そっか。じゃ、カムイ君。ん」
と手を伸ばしてくる葉隠。カムイはため息を吐きながら葉隠を抱える。
「えへへ〜、お姫様抱っこだ!」
「部屋まで送りゃいいんだな」
「うん。ベッドに寝かせて〜」
峰田が今なら逆に幽霊が逃げ出しそうな顔でカムイを睨んでいたが無視して葉隠を部屋に送り、自室に戻った。翌日内容を聞いた相澤は呆れ、罰を与えたが内容はカムイと大体同じだった。
さて、そんな騒動がありつつも時間は進む。
全員で飯田の誕生日を祝ったりしながら、修行の日々は続く。そして、その日がやってきた。
「降りろ、到着だ」
「ここが………」
「試験会場国立多古場競技場」
ヒーロー仮免許取得試験当日!!
「…………俺何すんの?」
「見学。これは強さ以外も見る試験だから、本当なら俺はお前も参加させたかったんだよ」
「もってことは強さも見るのか。皆気張れよ、俺に追いつきたいのに、学生程度に後れを取るな」