個性『雷獣』   作:超高校級の切望

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1年A組ライジング②

 毎回行われる雄英潰し。しかし今回は先着1割以下の狭き門に加え、雄英の生徒達が単独行動を行ったため獲物の奪い合いが起き、結果として現在八百万はフリー。

 

(他の場所でも戦闘が起きているようですが、私もそろそろ相手を見つけなくては)

 

 轟、爆豪、緑谷の殿堂入りともいえるカムイを除いた実質的なTOP3のような戦闘は出来ないので一度混戦から離れたが、結果として広すぎる試験会場で獲物がいない。

 

 恐らく別の場所では逆に密集しているだろうが、いっそそこに自分も混ざるべきだろうか?

 

「……雪?」

 

 工業地帯から季節外れの雪が僅かに飛んできて、人肌ですぐに溶けた。氷雪系の個性…………轟だったりするのだろうか?

 

 轟だけでなく、他の皆も進んでいくだろう。遅れるわけには行かない。きっとカムイが今も見ているだろうから。

 

 

 

 一方その頃、混戦相次ぐ試験会場。市街地の一角で優雅にティータイムを楽しむ女がいた。ケーキもある。

 多岐にわたる『個性』の中には特定のものを摂取する事で発動する『個性』もある。故に食べ物、飲み物の持ち込みは問題ないのだ。ちなみに彼女の『個性』にケーキは必要ない。そちらは単純に趣味だ。

 

「才様、雄英生の一人が高層ビルに入るのを確認いたしました」

「映像は出せて?」

「はい」

 

 青味がかった長い白髪、モノクルをかけた所作が上品な女の言葉にやや小太りな女が目を開ける。立体映像のように八百万の姿が映し出された。

 

「『物を作り出す個性』………」

 

 目を閉じる才と呼ばれた女。その頭の中には今日まで調べた無数の情報が目まぐるしく整理されていく。

 

「私達の獲物は決まってよ。(みな)を集めてもらえる?」

「はい。才様」

 

 白い制服にベレー帽。これまた統一されたコスチューム。それは一つの意志のもと統一された軍隊(チーム)である証。標的は決まった。

 

 

 

 

「…………やはりアレは轟さんの叢雪氷薗(そうせつひえん)………」

 

 ビルの展望室から創造した電子バイザーで工業地帯の一部を覗く。夏の暑さに負けず未だ凍り付いたアレは間違いなく轟の開発した奥義の一つ叢雪氷薗(そうせつひえん)だ。

 

 必殺技を生み出せという雄英の方針に従い生み出され、ミッドナイトに「そこまでとは言ってない」と言わしめた必殺技。

 

「!!」

 

 と、バイザーが接近する何かを感知し窓から距離をとる。窓がヒビ割れクラックガラスのように透明度が減る。狙撃? 何処から、と確認しようとするも窓ガラスに次々罅が入っていく。

 

 

 隣のビルから狙撃するのは白い制服にベレー帽の参加者。個性は『パチンコ』。左手が変形、右手で作り出したエネルギー弾を放つぞ! 飛距離、威力はそこそこだ!

 

 

 

「『イヤホン=ジャック』!」

 

 視界に頼れないならとバイザーにオーバーイヤーを追加。コードを床に突き刺す。

 モデルは耳郎。攻撃機能や本家ほどの探知性能はないがそれなりの音響探知は可能。

 

 必殺技訓練とは咄嗟でも行える型を作り出すこと。何でも出来る八百万は、ならばとイメージしやすいクラスメイトの型を幾つか作った。カムイの紹介で出会ったサポート科発目明により発明されたサポートアイテム。

 

 ()()の為に頭に叩き込めた物は少ないが、だからこそ有用な個性の再現は行えている。

 

「────!?」

 

 耳に響く爆音。咄嗟にオーバーイヤーを投げ捨てる。聴覚探知に対応された? 窓は全てクラックガラスになっている。別の監視?

 

 ひとまず柱の陰に隠れる。窓ガラス程度なら透過して監視しているのか、内部の状況を把握しているだけなのかは分からないが一瞬聞き取れた音は階段を上る音とエレベーターの駆動音。接近してきている。

 

 遠距離攻撃は外の狙撃だけとひとまず判断した。

 

「……………室温が」

 

 と、空調から冷気が流れてくる。冷房なんてレベルではない。恐らく換気設備に何かしている。

 

 

 その頃空調機械室にて、空気を送るパイプを凍らせた女がビルの防犯システムを制御。八百万がいる階層の窓のシャッターを閉めた。

 

 

 

「この音………扉の溶接?」

 

 息が白くなるレベルの室温。長い間とどまるのは危険。溶接されていないこれ見よがしな唯一の出口は間違いなく待ち伏せ。

 

 

 

「才様、第三段階終了いたしました」

「なら、暫し待ちましょう」

「はい」

 

 このまま冷気にさらされ続ければ、個性の都合上露出の多い八百万は満足に動けなくなる。空調をどうにかするには空調を防ぐ粘土にしろストーブにしろ、それなりの量、大きさを作る必要がある。

 

(八百万とか言う女子の個性は脂質を消費する。つまり、物を作る能力には限界がある)

 

 逆に言えば、脂質がある限り取れる手は名の通り万に通ずる。体育祭において、決勝でこそ稲妻カムイに何もさせてもらえなかったが障害物走では大砲を生み出していた。瞬間的な火力は文字通り兵器級。

 

 だが彼女本人の身体能力は鍛えた無個性の域を出ない。創造を使い切らせ体力を削ぐ。それこそが才と呼ばれた女が編み出した完全勝利の方程式。

 

 聖愛学院印照才子(いんてりさいこ)! 個性『IQ』。紅茶を飲み目を閉じた間だけIQが倍増。なお彼女の素のIQは150。紅茶のブランドによって能力に差が出るらしいぞ!

 

「ふふっ」

 

 勝利を確信し嗜虐的な笑みを浮かべる才子。彼女はSなのだ。その笑みを見てゾクゾク興奮している彼女の部下達。彼女達はもれなくMなのだ! 惹かれ合うんだね。

 

「さあ、個性を使いなさい。その時が貴方の最後でしてよ」

 

 仮に大砲を出されても数発なら防ぐ準備もしている。さあ、どう出る?

 

 

 

 

 

 それは皆のテスト勉強を見るために家に誘った時のこと。分からないを教えるということが分からないカムイに教え方を教えるという何とも奇妙な一時であった。

 

「成る程、こうやって解き方を教えるのか」

「はい」

 

 ちなみに同日、爆豪に勉強を教わっている切島も教え方が分からない爆豪の教えに困惑してたりする。幸いカムイには八百万がいたのでこの後勉強組は無事教わる事が出来た。

 

「助かる」

「そんな、助けなんて! それに、演習の方ではお力になれないでしょうしこれぐらい」

「………体育祭からお前自信喪失気味だよな」

「そ、そんな事は………」

「気ぃ使うな。別に俺のせいとか思ったりしねえよ。弱いお前が悪い」

「………………すいません」

 

 しゅん、と落ち込む八百万。

 

「でもまあ、俺はこれでもお前には期待してんだぜ?」

「私なんかに?」

「負けん気の強い爆豪や、勝ちたいって轟、勝つつもりの塩崎………そりゃ強さも心も強いけどよ。お前だけあの時、俺に勝てると思ってなかったろ?」

「………………………すいません」

「謝んなよ。むしろだからこそだ」

 

 だがカムイはむしろ楽しそうに笑う。

 

「勝てないと諦めるやつは多々いれど、お前はその上で()()()を模索する。出来ることが多いから考え過ぎるのが玉に瑕だが、答えを出せた時のお前はぜってえ楽しいだろうな」

「………期待に応えられるでしょうか」

「ま、瞬殺した俺が言っても説得力がねえか。今日はお前を元気づけに来たわけでもねえし、自信戻ったらまたやろうぜ」

 

 

 

(未だ貴方に勝てるとは思えませんし、それでも挑む人は私だけではなくなってしまいましたが………)

 

 A組もB組も、カムイの地獄のAコースで扱かれ、実力差を痛感したうえでそれでも勝ちたいと、超えたいと思い鍛えている。

 

 自分も未だに勝つ目は見えてこない。だが、それでも彼に挑み続けるのを惰性にするつもりはない。

 

「こちらを警戒してくれてありがとうございます。おかげで()()()()()…………」

 

 

 

「さて、そろそろ十分………」

 

 個性を使ったにしろ警戒し寒さに耐えていたにしろ、万全に動ける状態ではないだろう。

 

「突入の準備を……」

「「「はい!!」」」

 

 個性『針鼠』体から針を出すぞ!

 個性『鞭腕』両手が鞭のようにしなり伸びる!

 個性『触髪』髪の毛が融合し無数の触手を操る!

 個性『刀』掌から刀を出せる!

 個性『聴覚』長耳は集中すればどんな音も聞き逃さない! サポートアイテムで戦うよ!

 

(さて、中はどうなっているかしら? とても楽しみ)

 

 ドゴォと扉が破壊された。

 

「…………は?」

 

 現れたのは3メートルほどの鉄の巨人。獣人を思わせる鋭い爪と逆関節の足を持つ。全身を覆うは金属光沢。異形型………否、パワードスーツ!?

 

「お下がりください才様!!」

 

 触髪が拘束しようと髪を伸ばす。爪に切り裂かれた。刀と針鼠が迫るが傷一つつかない。

 

「っ! ご無礼を!」

 

 鞭腕が固まる才子に腕を絡め撤退を選択。これまで作戦を外したことがない才子は、想定外に弱かったようだ。

 

 ドン、と床を踏み砕き鉄の巨人が頭上を飛び越える。

 

「逃がしません!」

 

 八百万が創造で生み出した物は切り離さない限り肉体と接合している。このパワードスーツはそれを逆手に取った特別製。

 

 ヒーローの義手義足にも使われる神経伝達マニュピレーターで操作するパワードスーツは肉食獣を始めとした様々な動物、昆虫の関節や外骨格などを参考にしている。

 

 混成大成『YAOYOROZU'S CHIMAERA SUITS(ヤオヨロズズキマイラスーツ)』。難点は創造に時間がかかること。それを除けば、この八百万の近接戦闘はA組でもトップクラス。

 

 姿勢制御を兼ねた尾が背後から迫る氷結個性持ちを吹き飛ばす。各センサー良好。

 

「溶接して!!」

 

 と、扉を溶接していた参加者が迫るも回避される。

 

「才様をお守りしろ!!」

 

 針鼠が鋼鉄にも迫る硬度の針を増加し壁を作る。大砲の一撃だって防いでみせる針山。

 

 機装『超振動(ブレード)』。

 

 が、一瞬で破壊された。そのまま何かが発射される。

 

「『創造』!?」

 

 八百万が生み出し八百万の肉体の結合しているパワードスーツは()()()()()()。創造し排出可能。

 

「『イヤホン=ジャック 攻撃用(アタック)タイプ』!」

 

 飛び出した球体から耳触りな高周波が響き渡る。立っていられない程の音響攻撃。一人、また一人と気絶する。

 

「っ! 2次、試験もあるの……ですよ………」

 

 明らかに脂質を大量に消費した八百万。まだ試験は続くというのに、勝つためとは言え悪手すぎる。

 

「ええ、存じています。そこの対策もしていますわ」

 

 八百万が肉体との接合を切り完全に創造を終えるとパワードスーツは脱皮するように剥がれ落ちる。

 

 八百万は腰のポーチから缶を取り出した。

 

『脂質を消費する? ではこれなんておすすめです! 開発に熱が入り食事を忘れた時に愛飲しているのですよ!』

 

 そうして渡されたのがこの『スーパーゲル状デロドロンドリンク』。とても不味いし喉越し最悪。だけどカロリー摂取にはもってこい。

 

 頑張って飲んだ。

 

 

 

 さてその頃別の場所。

 

「此奴、攻撃が当たらねえ!!」

「電気の個性じゃねえのかよ………まるで予知だ」

「悪いね。理屈は俺もよくわかんねえっす」

 

 上鳴電気。個性訓練により電気を引き寄せる性質を人間が放つ電磁波レベルにまで向上。相手の動きを先読みするぞ! サポートアイテムで電撃も飛ばせるようになった。やったね!!

 

 

 

「保護色なんて意味ないぜ! 俺はコウモリ、音で見る!」

「ケロ………」

 

 個性『コウモリ』がカエルっぽさを磨く特訓で保護色を手に入れた梅雨ちゃんを見つけ仲間に知らせ数で押す。一対複数。

 身体能力に優れる異形型なれど増強系も含まれた集団に対して殲滅力はない。これまでは………

 

 すぅ、と大きく息を吸う。胸あたりが大きく膨らんだ。

 

「ゲロゲロゲロ!!」

 

 『カエルの歌 お父さんバージョン』!

 

 響く大音量のカエルの鳴き声。重低音の音速の衝撃はコウモリはもちろん他の参加者を吹き飛ばす。

 ちなみにお母さんバージョンは高音の高周波で主に捕縛などで使う予定だぞ!! ケロケロ鳴く。

 

 

 

「体育祭で見た時より、疾い!」

「どうやってこんな短期間でそこまで…」

 

 飯田はその言葉に訓練期間を思い出す。あれはそう、カムイとの戦いで偶然足のマフラーが破壊され新しく生えたマフラーが生え変わる前より強いものになっているのに気付いた飯田は頑張って引っこ抜いた。

 

 何回か繰り返して、自分の力だけでは抜けなくなるとカムイに頼んだ。その時の激痛とくれば………。いやそれよりも、早く疾く出来る方法を知って楽しそうに引き抜くカムイの顔よ………。

 

「震えるなこの足め!」

「何をそこまで!?」

 

 

 

「集光屈折はいチーズ!」

「目がああ!?」

「からの〜! 集光収縮虫めがね〜!」

「あっちぃ!!」

 

 

「オクトブロー!」

 

 

「グレープラッシュ! からの跳峰田!」

 

 

 

 

 単純な肉体や個性の強化から応用、解釈の拡大など、A組は段階をすっ飛ばしたかのように強くなっている。

 

「どうやんだイレイザー? 教えろよ、教育のノウハウ」

「………ここまで出来れば上出来。そういう段階を作って育てていくのが合理的だ。見えないゴールなんて心が持たないからな」

「え、教えてくれんの!? とうとうデレた!?」

「教えねえぞ……………ま、今の彼奴等は不合理の極みだよ。道も見ずに、絶壁があるかもしれねえ山道を頂天(ちょうじょう)だけ見て駆けるんだから」

 

 そりゃ想定された段階も気付かず突き進んでいくわけだ。

 


 

『YAOYOROS'S ITEM』

 

 万の手段を持つゆえに予め決めておく対応策。即席で活用できるようクラスメイトの個性をモデルにしたサポートアイテムを主に使う。早い話がアーマードオールマイトの下位互換。

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