個性『雷獣』   作:超高校級の切望

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個性の話

『てめぇの個性の話だ』

 

 そう言った爆豪に連れられグラウンドβに訪れた緑谷。初めての戦闘訓練。緑谷が爆豪に初めて勝利した場所でもある。

 

 そこで緑谷はその個性がオールマイトからもらったものだろうと問い詰められた。緑谷は一度、彼に勝った後自分の個性を『他人(ひと)から貰った』と告げてしまったのだ。

 

 神野では実際に個性を奪うオール・フォー・ワンというヴィランが現れ、プッシーキャッツの一人が個性を失った。

 

 そういう個性がある前提で、誰が緑谷に個性を上げたか考えれば、それはオールマイトだ。

 オール・フォー・ワンと面識があり、緑谷だけがオールマイトの『次は君だ』という発言を違う意味で受け取っていた。

 

 オールマイトは答えてはくれなかった。緑谷は、答えずとも違うと否定しない。

 

「………聞いて、どうするの?」

「てめぇも俺も、オールマイトに憧れた。なぁ、そうなんだよ。ずっと石ころだと思ってた奴がさぁ、知らん間に憧れた人間に認められて………だからよ」

 

 

「戦えや、今ここで」

 

 

 

 

『グラウンドβニテ1年A組ノ生徒2名時間外活動確認。オイ、イレイザザザザザ』

「無粋なことするなよ」

 

 警備ロボットをバグらせその上に座り文字通り高見の見物するカムイ。一応オールマイトには連絡しておいた。相澤にも遅れて連絡が入るようにするつもりだ。

 

「総合力でなら爆豪が圧倒的だな。気合だけで食い付ける相手じゃねえ」

 

 体が壊れない、されど傷付くレベルで己を痛めつけている。それで何とかやり合えている。長期戦は緑谷が不利だ。

 

 それでも顔だけ見るなら、まるで追い詰められているのは爆豪だ。

 

 ずっと後ろにいた男の背中を追いかけていて、見下していた相手が力を付けてオールマイトに認められている。なのに自分は()()()()()()()()()()()()

 

 爆豪が捕まらなければ、逃げられるほど強ければオールマイトは秘密を秘密のまま、平和の象徴として安心を与え続けていただろう。

 

 ずっと抱え込んでいたその思いを吐き出す爆豪、それを受け止められるのはきっと緑谷だけ。だから、戦う。サンドバッグになるつもりはないらしい。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ………」

「息上がってんぞ!!」

「っ!!」

 

 凝縮による超加速に威力向上。カムイに届くために編み出したクラスターという技。

 速度も破壊力も爆豪が上。

 

「一番強い人に個性を貰って、この程度かよ!!」

「んのやろ!!」

 

 ワン・フォー・オール20%。

 振るった腕が空気を巻き込み風を巻き起こす。速度は落ちるが、それでも突き進む爆豪に向かい緑谷は空を打つ。

 

 ドン! と花火のような音が響き爆豪が今度こそ吹き飛んだ。

 

「ぐっ!?」

 

 過剰行使。限界ギリギリを超える程度のつもりがそこそこ超え、腕に強い痛みが走る。筋肉の断裂どころか骨にも罅が入った。

 

「なめ、てんじゃねえ!」

 

 空中で体勢を直し再び加速。蹴りで迎え撃とうとした緑谷に掌を向け爆破による攻撃、と同時に減速。からの方向転換。

 

 緑谷の頭上を越え回転しながら蹴りを背中に放つ。地に根を張ったかのように耐えた。コフ、と吐き出した空気を再び吸い込み予想外の反作用にバランスを崩した爆豪を背中で吹き飛ばす。

 

 鉄山靠と呼ばれる技。ワン・フォー・オール出力は18%。

 

 尋常ならざる力が放つ技はトラックでも衝突したかのように人一人を軽々吹き飛ばした。

 

 体が痛い。だが動けないほどじゃない!

 

 爆豪は迫る追撃を爆破で無理やり身体を動かし回避する。

 

「げぇ………っはぁ! げほ、はあ!」

 

 全身に広がる激痛。それでも無理に立ち上がる。嫌な汗がドロリと流れる。

 

 本来クラスターは多量の汗を必要とする。夏の暑さで掻く汗には事欠かないが、反動はでかい。

 

(知るか!!)

 

 緑谷だって体を壊しながら戦っている。自分にやれない道理など何処にもない!!

 全身が砕けるような痛みだろうと砕けてない。なら戦える。

 

「おおお!!」

「あああ!!」

 

 2人同時に飛び出す。爆豪の方が速度も機動力も上。それでも緑谷も諦めない。

 

「そういうのが気色悪かったんだよ! どんだけぶっ叩いても張り付いてきやがって! 何もねえ野郎だったくせに! 俯瞰したような目で! 見てきやがって! まるで全部見下ろしてるような、本気で俺を追い抜こうとしているつもりのその態度が! 目障りなんだよ!」

 

 そりゃ普通は、あれだけいじめられればもう関わりたくないと思うだろう。事実中学ではかっちゃん呼びは変わらずとも緑谷から爆豪に関わろうとはしなかった。

 

 それでも本気で離れようともしなかったが。

 

「嫌なところと同じぐらい、君の凄さが鮮烈だったんだよ。僕にないものをたくさん持ってる君は、オールマイトより“身近な”凄い人だったんだよ!!」

 

 ワン・フォー・オール。25%! 

 右足亀裂骨折! まだ動ける!

 

「づあああ!!」

 

 激痛に吠えているのか気合を入れているのか、叫びながら放たれた拳が爆豪に直撃する。フルカウルが乱れた。今のはただちょっと速度が乗った拳だ。

 

 それでもそれなりの威力。爆豪が再びアスファルトを転がる。

 

「こんなもんかよ!!」

「ああ!?」

 

 助けなきゃという気持ちより、勝たなきゃという気持ちが強くなると緑谷は何時も口が悪くなる。それは緑谷にとっての勝利のイメージ、勝利の権化として思い浮かぶのが爆豪だからだろう。

 

「なめんなクソデク!!」

 

 爆破、加速、方向転換。一つ一つの動作の切り替えが速い!

 

 瞬間的な加速力なら勝ってもその後に痛みで動きが一瞬止まる緑谷では動きを捉えられない。

 このままでは負ける。掴むことさえ出来れば、破壊力はともかくパワーならこちらが上。もう一度空気を放って動きを鈍らせ──

 

 その瞬間、緑谷の体から黒い何かが溢れ出した。

 

「!?」

「んだ、こりゃあ!?」

 

 黒いエネルギーの塊は無数の稲妻のような形。しかし実体があるかのようにその場に留まったかと思えば蠢き凝縮し、弾ける。

 

 壁に、電柱に、地面に、信号機に張り付いたかと思えば暴れまわり破壊する。

 

(エネルギー体の鞭? なんだ、これもオールマイトの個性? いや、オールマイトは一度だってんなもん使ってなかった!)

 

 可能性としてあり得るのは、緑谷自身が自覚してなかった彼本来の個性がここにきて目覚めたか、或いはオールマイトさえ自覚してなかった個性の能力?

 

 超パワーでは説明が出来ない。

 

「かっ、ちゃん…………逃げて!」

「────!」

 

 緑谷の言葉が耳朶を打ち、思考を止める。明らかに制御できてない力。痛みだって感じているだろうに、あくまでも自分以外の心配。

 

「それをやめろってんだよ、デク!!」

 

 敵意に反応したのか、或いは近づかないでという緑谷の意思に従ったのか爆豪へ向かう黒い鞭。()()()()避ける爆豪だが緑谷に接近する程に攻撃の密度は増す。

 

「こ、の………止まれ、止まれよ…………止まれってんだよ邪魔すんなああああ!!」

 

 暴れる力を恫喝。爆豪と本音で語り合う喧嘩を邪魔するなと叫び、鞭が霧散する。

 

「ごめん………邪魔が入った」

「………………」

 

 あのままだと、爆豪は結局避け切れず敗北していただろう。それを邪魔と呼ぶか。

 

「…………()()()()()

「うわっ」

 

 心配するような声でありながらその顔は凶悪な笑み。緑谷は思わず引いた。

 

「大丈夫、だよ」

「んじゃ続きだ!! さっきので気が散ったとか負けた言い訳すんじゃねえぞ!!」

「するわけねえだろ!!」

 

 ワン・フォー・オール過剰使用(23%)!!

 

 クラスター+徹甲弾(A・P・ショット)!!

 

「スマッシュ!!」

 

 地面を蹴り、その勢いを身体に流し拳から放つ。技術、パワーを持って放たれる空を打つ衝撃。

 汗を球にして爆発を凝縮、さらに一点集中による貫通力の向上。

 

 2つの衝撃がぶつかり合い先程緑谷の暴走でボロボロになっていたビル群が更に罅割れる。

 土煙の中から飛び出してきた爆豪。迎え撃とうとする緑谷は、しかし全身を走る激痛に固まる。爆豪がその胸ぐらを掴み地面に叩き付けた。

 

「俺の、勝ちだ………」

 

 オールマイトから力を授かり、自分の物にするために鍛え続けて………結果はこれだ。

 

「俺に負けてんじゃねえよ。なぁ………何負けとんだ」

「そこまでにしよう、2人とも………」

 

 と、そんな2人にかけられる声。振り返るとオールマイトが立っていた。オールマイトは爆豪を真っ直ぐ見つめる。

 

「気づいてやれなくて、ごめん」

「…………今、更………なんでデクだ」

 

 何時からだと思うと問われれば、間違いなくヘドロ事件………爆豪が(ヴィラン)の人質になり、緑谷が助けようと飛び出し、オールマイトが解決したあの事件の後だろう。

 

「なんで此奴だった」

「非力で、誰よりもヒーローだった。君は強い男だと思った。既に土俵に立つ君じゃなく、彼を土俵に上げるべきだと判断した」

「………俺だって弱ぇよ。あんたみたいに強くなりたかったのに、弱ぇから!! あんたをそんな姿に!」

()()は君のせいじゃない。どのみちこうなる事は決まっていた。君は強い」

 

 だが、その強さに甘えてしまっていた。抱え込ませてしまっていた。

 

「すまない、きみだって少年なのに………」

 

 肩に手を置き頭を撫でるオールマイト。爆豪は乱暴に振り払う。

 

「長くヒーローをやってると思うんだよ。爆豪少年のように勝利に拘るのも、緑谷少年のように困ってる人間を助けたいと思うのも、どっちが欠けていてもヒーローとして自分の正義を貫く事は出来ない」

 

 緑谷が爆豪に憧れたように、爆豪が緑谷を恐れたように、気持ちをさらけ出した今2人もわかっているはずだ。

 

「互いに助け合い真っ当に高め合うことができれば、救けて勝つ、勝って救ける最高のヒーローになれるんだ」

「…………そんなん、聞きてえ訳じゃねえんだよ」

 

 ドサリとその場で腰を下ろす爆豪。緑谷に目を向けず語りかけた。

 

「お前………一番強い人にレール敷かれて、負けてんなよ」

「……………強くなるよ。君に勝てるように」

「…………デクとアンタの関係知ってんのは」

「リカバリーガールと校長………君と同じく自力で察していた稲妻少年。そして君だ」

「バレたくねえんだろ、オールマイト」

 

 オールマイトが隠そうとしていたこと。誰にも言わない。デクのようにバラしたりもしない。ここだけの秘密だ。と、その時………

 

 パラパラと砂埃が落ちる。ぼろぼろのビルが限界を超え自重で崩れ始めた。

 

「まず──」

 

 い、と言い切る前にカムイが現れる。

 

(物質を構成する原子………を構成する電子、陽子に干渉!!)

 

 物質崩壊『雷塵(ライジン)』!!

 

 巨大な瓦礫が文字通り崩壊し塵となる。

 

「カムイ少年………」

「………………」

 

 このまま寮に戻って知らぬ存ぜぬでやり過ごすつもりだったが出てきてしまった。これは相澤に怒られるな、とカムイはため息を1つ。

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