「で、言い訳を聞こうか」
「言い訳はしねえ。半分は寮長として、ぶつかるべきだと思って放置した。半分は観戦したかった」
相澤の捕縛布がギリギリ締まるがカムイは気にしない。その横では爆豪と緑谷も縛られていた。
「ぶつかるべき?」
「此奴等が視野狭窄のヒーローにならないためには必要な過程だ。死んで欲しくねえからな」
「………………」
その言葉に捕縛布が一瞬だけ緩んだ。が、すぐに強くなる。
「不吉なことをいうな」
「事実だ。お互い抱えたものも吐き出せずに、特に緑谷は非常時はヒーロー活動出来る。動きの鈍りは死に直結する」
「………………」
「相澤君………」
と、オールマイトも弁護に回る。
「爆豪少年は私の引退に負い目を感じていたんだ。そのモヤモヤを抱えさせたまま試験に挑ませ、結果劣等感を刺激してしまった。気付けずメンタルケアを怠った大人の失態が招いた結果だったんだよ」
「………………んん」
そう言われると相澤も言葉に詰まる。生徒のメンタルケアは教師の仕事。精神的に不安定なまま挑ませるなんてそれこそ合理的ではない。
「だからといってルールを犯して問題ない、じゃ済ませられません。然るべき処罰は受けてもらう。先に手ぇ出したのは」
「俺」
「僕も結構、ガンガンと」
「稲妻、お前は何処までなら良いと勝手に判断した」
「骨折まではセーフだろ」
実際緑谷も爆豪もそこそこ骨に罅が入っている。今はアドレナリンドバドバだがじきに激痛で動けなくなるだろう。だから緑谷達はあくまで形として捕縛布を絡めているだけだ。
「爆豪は4日間! 緑谷は3日間謹慎! その間寮共有スペースの清掃! 朝と晩! +反省文の提出! 稲妻の反省文は2倍! それから放課後グラウンドβの補修手伝い! それからシステムに干渉した際のレポートを提出しろ!」
爆豪達は流石に骨が折れてるのでリカバリーガールの治療を受ける。ただし大きな怪我だけ。勝手に作った怪我は勝手に治せ、とのことだ。
「以上! 寝ろ!!」
さて翌日、喧嘩して謹慎を言い渡された2人を笑ったり心配したりする。カムイはシステムの脆弱性、干渉するなら何処からだったか、個性への対策などをレポートに夜の内にまとめておいた。まあカムイが干渉したのはあくまで警備ロボット一体。
タルタロスやI・アイランド級のシステムですらある程度サーバーに近づければ制御出来るカムイ相手に雄英の警備ロボットが通信を行わせてもらえるわけもなく、雄英のシステムを疑うほどではない。それはそれとしてI・アイランドで干渉したシステムについても混ぜておく。これで苦労するのは雄英にハッキングする
「カムイさんもお止めにならなかったのですか?」
「男の喧嘩に介入は野暮だろ」
「あ〜、女性差別だ!」
八百万と葉隠がカムイによってくる。梅雨ちゃんもジッと見つめる。
「カムイちゃん、寮長とは言え自分のルールで動いてはいけないわ。カムイちゃんもルールを守るから、カムイちゃんのルールに意味があるのよ」
「へいへい、わーったよおねーちゃん」
弟を叱るような梅雨ちゃんにカムイはそう返す。お姉ちゃん呼びに梅雨ちゃんはむしろ嬉しそうにケロケロ笑った。
「蛙吹とカムイは姉弟だったのか………………複雑な家庭なんだな」
「ちげえよド天然」
「皆いいか!? 列は乱さず、それでいて迅速に! グラウンドに向かうんだ!」
寮ではカムイが長だが学校では飯田。整列を促しながら自分は列の外にいる事を瀬呂に指摘されていた。
「委員長のジレンマ!」
普通に並びながら叫べばいいのに。
しかし入学式は出れなかったが始業式には出れるらしい。いきなり個性の成長を見る個性把握テストを行ってもおかしくないのが相澤だ。昨日の件で疲れてるのかね? と、その時………
「聞いたよぉ────A組ぃぃ。2名! そちらから仮免落ちが2名も出たんだってええ!?」
「B組の物間。相変わらず気が触れてやがる」
「さてはまたおめーだけ落ちたな」
以前期末試験で自分も落ちた上でA組の落第者達に絡みまくった物間を思い出し切島が言うと高笑いして背中を向けた。
「こちとら全員合格。水が空いたねA組」
「おお、そうだな」←実質的なプロヒーロー
カムイの言葉に物間はふっ、と笑いそれ以上何も言ってこなかった。
「悪ぃ…………皆………」
仮免に落ちた轟が自分のせいで、と暗くなる。切島が慌てて慰めた。
「ブラドティーチャーによるゥと、後期ィはクラストゥゲザージュギョーあるデスミタイ。楽シミしテマス!」
と、アメリカ人のポニー。
「へっ、腕が鳴るぜ!」
そんなポニーにコソコソ話しかける物間。
「ボッコボコにウチノメシテ………ヤンヨ?」
「What a cruel thing to say, "I'm going to beat you up!"」
「Oh! What are you making me say!?」
カムイの言葉にポニーが既に拳藤から制裁を食らっていた物間をぶん殴った。ペコペコ頭を下げてくる。
「オーイ、後ろ、詰まってんだけど」
と、普通科に言われて慌てて飯田が謝罪し再び進む。注意してきたのは普通科心操だ。
夏休み前………というより体育祭前より筋肉がついている。成長しているのは何もA組だけではない事実にカムイは楽しそうに笑った。
さて、長々と続く校長のありがたい一言というのは、普通高校もヒーロー高校も、そしてヒーロー高校最高峰の雄英も同じようだ。
くっそ長い話を簡潔にまとめるとオールマイトの引退により社会は大きく乱れる。ヒーロー科は
後どの科も等しく社会の後継者である事を忘れるな。
最後に生活指導のハウンドドッグから注意事項。
「グルルルル……昨日ゔゔルルルル! 寮のバウッバウバウッ! 慣れバウバウグルル! 生活バウ!
アオオオオン!!」
「「「……………」」」
「さすが生徒に向き合う生活指導のハウンドドッグ。耳が痛いぜ」
昨晩喧嘩があったことを伝え、慣れない寮生活でも節度を持つように注意された。むしろ喧嘩を煽った立場ともいえるカムイはちょっと反省。何でわかるかって? 脳が放つ電磁波を読み取ったんだよ。言葉に出す思考は強いから。
さて、校長の話にあった
以前の職場体験と違うのは仮免を持つ生徒達は本格的なヒーロー活動を行う………現場を見せるお客様から現場で戦うヒーローの一人として扱われる。
つまり相手も信頼できる生徒を指名するわけだが………。
「カムイ君! ねぇカムイ君! 私私、私サイドキックやるよ〜!」
「その、私も出来ればカムイさんの下で学ばせて欲しく………」
葉隠と八百万。峰田がガリガリ爪を噛み血の涙を流す。
「よおカムイ〜! 俺雇ってくんね!? 同じ雷系個性の仲だろ!? 一番学べると思うんだよね俺!」
と、上鳴も参戦。カムイは自分にインターンを雇う資格まであるのだろうか、とヒーローと少しだけ考えた。
今丁度面倒な依頼も受けているんだよな、と昨日の電話を思い出す。
「死穢八斎會?」
『貴方が以前潰した違法薬物組織。そこと交流があったのよ』
「時代遅れのヤクザが関わる組織なんざそりゃ後ろ暗いだろうよ。資金洗浄? どっちにしろ組織解体できるほどの情報はないんだろ?」
ヒーローの隆盛により解体、摘発され衰退の一途を辿る指定
「特に死穢八斎會は俺好きだぜ? 資料で推測しただけだが、そこの組長が良い。指定
『その組長が現在意識不明で、若頭が組を動かすようになってから明らかに灰色の動きをしているのよ』
明確な証拠はない。今日まで生きてきたヤクザだ。隠すことには慣れているだろう。
「若頭が組長が倒れたのをいいことに組を私物化してるってか?」
『極めて黒に近いグレーだけど、そういう事ね。黒である証拠さえつかめれば直ぐにでも摘発できる』
「なるほどねえ……で、潰せと。やることやってんなら解体かあ………組長が動けねえ時、組長に従わねえ馬鹿のせいで」
苛立ったように言うのは、カムイが先程言ったように死穢八斎會の組長を気に入っているからだろう。
それから数日後。カムイは焼き林檎を作りながらどう報告したものか、と頭を悩ませる。
シナモンの香りにタラリとよだれを垂らしこちらを見つめる少女。
「ああ、もしもしババア?」
『貴方がホークスではなく私に連絡してくるなんて珍しいわね。何か問題?』
「幼女誘拐しちまった」
『…………………………………………は?』
どうしてこうなったのか? 話を戻そう。どうせならインターンが始まるより前、インターンについての説明を改めて受ける、緑谷の謹慎が解けたあたりから。