「ヒーロー公安から依頼? マジでプロヒーローみたいだな」
「権利は責務を全うして初めて保障される権限だからな」
週末、爆豪と轟が仮免講習、緑谷がどっかに出かけ、一部用事がある生徒を除いたA組は八百万とカムイの予習会。そんな中でカムイが言った言葉に上鳴が反応した。
「その責務が公安の依頼という事か。カムイ君の強さを見て与えられた権限に対する責務………相応な危険が待っていそうだな」
「大丈夫なの、カムイちゃん」
「どのみちプロになりゃ公安から依頼を受けることもある。トップヒーローになりゃ更に……なら、受けない選択肢はねぇだろ?」
その言葉は一つの真理だ。今はまだ、と危険から遠ざかる者がトップヒーローになれるわけもない。
「ご武運を」
「ごぶうんをー」
「おう」
八百万と葉隠に武運を祈られた。まあ、別に戦いになるとはまだ決まっていないのだが。それでも受け取っておく。
「構成員の個性直ぐ出んな。意外と律儀に報告してんのな………」
これは組長の方針だろう、とセーフハウスにて公安の資料を読むカムイ。
個人情報が保護される日本であくまで
(とは言え近頃の動き………勧誘から考えりゃ資料漏れの個性もいるだろうな………治崎自身の個性やブーストした入中の個性使えば地下に空間を作るのも可能。個性訓練程度積めるだろ)
ヤクザ………というより
(まあ逆に言や、それ前提にすりゃ大した脅威でもねえが…………)
最近の警察はヤクザを舐めてるから、その辺りの初動は遅れそうだな、と思う。
確か八斎會には他のヒーローも監視の目を向けていた。サー・ナイトアイだったか? そう言えば緑谷のインターン先。
「一先ず監視か。それなりに電波対策はしてるみてえだが、出口は見えてる」
侵入に備えた入り組んだ地下通路。人材の引き入れ、物資の運搬などはそちらで行っているのだろう。
無断で広げた地下設備。普通にこの時点で犯罪だが、八斎會本部を摘発したところで根がどの程度伸びているのかも不明。
資料見る限り慎重な性格ではあった治崎が、オール・フォー・ワン、オールマイトが
(まあこっちは予想で、治崎が俺が思うよりも向こう見ずな馬鹿の可能性もあるが………警戒すべきはヒーロー社会を壊せると判断するだけの『力』と………連合と接触したみてぇだし、七海とか言う女)
勝利後、油断をしていたことを差し引いてもカムイの近くをすり抜け接近し速度で上回った女。オマケに雷系個性の天敵ともいえる『停電』持ち。
油断すればまた負けるな。
脳裏によぎるのは武運を祈る少女達。
「油断はなしで行くか」
一先ず情報は頭に叩き込んだ。後は現地を見てみるか。
(当然、監視付き。これ以上近付けば気付かれるな………)
八斎會への秘密の入り口がある建物付近には機械的に監視が行われている。カムイが立つ場所がカメラに映らぬギリギリのライン。
人目を忍ぶからこそそこにある。下手に近付けば警戒されるだろう。
流石に人目がないとはいえ真っ昼間からここを使うこともないだろう。大通りに戻って昼飯でも食おう、と歩き出すカムイ。
スタミナ丼にでもするか、と昼食のメニューを考えていると、大通りが見えて来た。が、ふと足を止める。
背後から足音。子供と、大人。
「あっ!」
カムイに気付いて絶望的な表情を浮かべるのは、右の額に角を生やした少女。五、六歳程の幼女と言ってもいい年齢。
怯えるように隣の男を見て、カムイを心配そうに見つめる。その男は資料で見た………八斎會若頭治崎廻だ。
「………げて………」
小さな口から溢れた声にカムイは目を細めた。
「………やあ、もしかしてヒーローのイメルカムイ? テレビで見ましたよ。いやぁ、大した活躍でした」
「そりゃどうも」
「この辺りには何をしに? もしや、凶悪な
どの口が、と思うが警戒されてるなこれ。世間を賑わす学生ヒーローが自分達のシマの近くにいるのだ。そりゃ警戒もする。
「プロヒーローと同等の権限与えられてもまだ学生なんでね。学ぶことも多い。今はインターンだ………俺以外にも2人、この辺りをパトロールしてる」
少し調べれば見慣れないヒーローがいるのはすぐに分かるだろう。それが何処の事務所から来てるのか、その事務所が何人雇ったかまでは分からないはず。それを利用する。
と、治崎が何やら大通りの方に目を向ける。さては既にあったな?
「あれだけお強いのに、しっかりしてらっしゃる。パトロール、頑張ってください」
要するにさっさとどっかいけということだろう。
「そのガキは?」
「娘ですよ」
治崎の娘? 出生届は確認されていない筈だが………。と、再び少女に目を向ける。
「随分、怯えてんな」
「叱りつけた後なので」
「この包帯はその躾か?」
「遊び盛りでよく転ぶんです………」
カムイの言葉に治崎はあくまで丁寧に返す。そのどれもがありふれた理由。怪しいところなど少女が怯えすぎていることぐらいか。
「……………ああ、もう。面倒くせぇな」
と、カムイは取り繕うのをやめた。話していてイライラする。
「てめぇがこの子を見る目……あの家の連中が俺を見ていた目と同じ。子供はな、てめぇ等の道具じゃねえんだよ」
「………何か誤解があるようだ。説明させてください、私は……」
そういいながら手袋を脱ごうとする治崎。それを見たエリが顔を青くしてカムイに向かって叫ぼうと口を開いた。
「ガキに物騒な
「だ、駄目! 逃げて!」
「ああ、ガキに見せるもんじゃねえからな」
治崎が手を伸ばし、しかし何もない空間を薙ぐ。周囲を見渡すが
「………クソ!」
治崎が毒づく、
「あ、え? あわ………わぁ!?」
風が吹いたと思えば街が遥か下。エリは混乱しながらも本能的にカムイに強く抱き着く。
「警察に駆け込むことはねぇだろうが………やっちまったな」
はぁ、とため息を履くカムイ。あの異様な執着、すぐにでも去ろうとした態度、出生届のない娘………おそらくこの少女には何かある。そしてそれは治崎にとって、少女の存在ごと知られたくない事だろう。
案外一般人だったら速攻で殺していたかもしれない。ヒーローコス………は関係なく顔の売れたヒーローだからこそ騒ぎが大きくならなかった。
「きゃあああああ!?」
「落ち着けほら。今浮いてる」
カムイの言葉にエリは恐る恐る目を開ける。確かに下の街との距離は先程と変わっていない。でも高い。震えながらカムイに抱き付き、下を見ないように顔を上げ広がる雲と青空、遠くの山々、海が見えた。
「…………わぁ」
さてどうしたもんか。
向こうが警察に駆け込めないように、カムイもこの事を報告できない。虐待の立証は案外難しいし、それ以前にカムイは誘拐犯だ。被害届こそ出されないだろうがじゃあ、と警察に預けるには証拠が足らない。
虐待を受けていた可能性のある少女の保護、ならヒーロー活動で通せるが、どうにもこの少女自身他人を巻き込むことを恐れ証言しない可能性がある。
「取り敢えず飯にするか」
公安が用意しているセーフハウスはいくつかある。が、今は灯台下暮らしでこの街でいい。それなりのセキリュティがあるマンションだ。
屋上に降りて部屋に向かう。
ソファに座らせる。
「飯買ってくるからちょっと待ってろ」
「だ、駄目! 見つかっちゃう!」
と、昼飯を買いに行こうとするカムイの手を掴むエリ。
「…………大丈夫。俺最強だから」
「さい、きょー?」
「ああ、負けないって事だ」
「で、でもあの人は………」
恐怖が根強いな。深く染み付いた恐怖を会ったばかりのカムイが溶かすことは出来ない。仕方ない、とカムイは冷蔵庫に向かう。
適当に何かを作るか。と、カムイが出ていかないように見張るつもりか付いてきた少女も冷蔵庫の中を見る。
「……………林檎」
「ん?」
「あ………」
慌てて口を噤むエリ。どうやら林檎が好きなようだ。昼飯は林檎グラタンにしてやろう。
「わぁ……わあぁ」
りんごの形をしたグラタンに目を輝かせるエリ。くり抜いたりんごの一部はグラタンの具に、残りはデザートの焼き林檎にでもするか。
「た、食べていいの?」
「ああ」
「いただきます! あふっ!」
出来立てだからそりゃ熱い。涙目になったエリだが、フゥフゥと冷ましてハフハフ食べ始める。
「………………」
カムイも自分の分を食ったあと残ったリンゴを焼く。ついでに公安委員会会長に連絡。エリは香るシナモンの香りによだれを垂らしていた。
「ああ、もしもしババア?」
『貴方がホークスではなく私に連絡してくるなんて珍しいわね。何か問題?』
「幼女誘拐しちまった」
『…………………………………………は?』