起きたら案の定まず真っ先にカムイを探しに来た。それは不安から来るもの。ただし、安心出来ないのはカムイの身。
自分が勘定に入ってない。緑谷なんかもそうだが、あれは行き過ぎた善意に対してこちらは善意と罪悪感だ。自罰的というか、どうにも本音の部分で自分が救われてはならないと思い込んでいる節がある。
などと考えながらテレビを見ているとインターホンが鳴る。
「!!」
ビクリと震えたエリ。カムイが出ようとすると服の裾をつかみ首を振る。
「大丈夫だ。昨日注文したもんが届いただけ………」
「ほんと?」
「逆にエリを追いかけてる悪い人は、扉一つ壊せないのか?」
暫く考え、もう一度頭を振るエリ。漸く手が離れた。
扉を開けると宅配業者。お急ぎ分の割り増しの金を払いサインをして風呂場に向かう。滑り止めの風呂マットを敷くためだ。チョコチョコついてくるエリが手伝おうとしたので手伝わせた。
(…………離れねえな)
トイレの時以外ずっと引っ付いている。懐いている、というよりは………
外に憧れて抜け出したわけではなく、ただそこにいたくないなら逃げただけ。だから自分で自分を閉じ込める。とは言え動物番組やヒーロー番組を見せて少しずつ外に興味は持たせている。
一番手っ取り早いのはさっさと八斎會を潰すことだが、ヒーローは警察じゃないし警察は動くのに手続きがいる。
まあエリの反応からして似たような目に遭っている子供は居ないようだが。と、その時携帯が震える。
『HN』……ヒーローネットワークを通して連絡が来たという通知だ。
「……………ナイトアイからのチームアップ? どうすっか」
向かいたいがエリが絶対離れないだろうし……………そうだ、夜更かしさせよう。
昼。アニメで夜更かししたエリはそれでも何となくカムイが外に出ようとしたのを察したのか起きようとしていたが漸く寝た。雨戸とカーテンを閉め部屋を暗くした残暑の残る季節でも寝苦しくならないようエアコンは自動。それでも遅刻だ。
まあカムイは八斎會の刺客と思われる相手と戦ってるし、外すということはないと思うが。
「「今度こそ必ずエリちゃんを、保護する!!」」
ナイトアイ事務所にて集められたヒーロー達。チャートによるトップランカーから地方のマイナーヒーロー、イレイザーヘッド……更にインターン中の麗日、梅雨、波動、ミリオ、緑谷、天喰、切島という学生まで集められていた。彼等の目的は八斎會。
認可されない違法な薬、更には一時的にではあるが
個性前提のヒーローにヴィラン。個性を破壊する薬などばら撒かれれば、八斎會はこの世界を表と裏どちらも牛耳る力を手に入れる。
だがヒーロー達が真に止めなくてはならないと心に決めた理由は、個性を壊す薬、その材料。
個性破壊弾に入った弾丸から検出されたのは
最悪の可能性は
とは言え計画の核となる子供が抜け出し、学生で仮免だとしてもヒーローに見られている。素直に本拠地に置かれるとは考えにくい。
故にこそチャートヒーローのみならず地方のヒーローまで集められた。八斎會と接点のある組織、或いは八斎會が所有する土地を探るのだ。
回りくどいとも言えるその立ち回りにファットガムという切島、天喰のインターン先ヒーローが苦しんでる子供がいるのに時間をかけるのかと激昂したが、急いては事を仕損じる。
取り逃せばより深い闇に隠れるだろう。何より取り逃したという事実が
「今回も
「手を組んだ? 確かですか?」
「その証言をしてもらう為にあるヒーローを呼んでいる。少し遅れるとのことだが……」
「わりぃ、遅れた」
と、カムイが会議室に入ってきた。
「ああ?」
「あら」
「お」
「ん……」
全員が様々な反応を見せる。その誰もが現れたヒーローを知っていた。有名だからだ。
「カムイちゃん?」
「梅雨ちゃ………フロッピー?」
今は一応ヒーロー活動中なのでヒーロー名に言い直すカムイ。
「デクに烈怒頼雄斗、ウラビティにイレイザーヘッド………3人まで」
「サンイーター………」
「ルミリオンさ!」
「私ねぇ、ネジレチャン! ねえねえ、どうして遅刻したの? 関西の人も間に合ったのに。もしかして事件に巻き込まれた? もう解決したの? 頑張りやなの? それとも別の理由? 不思議ー」
「ねじれ、話が進まないから………」
と、波動を諌めるのは波動、梅雨ちゃん、麗日のインターン先ヒーローリューキュー。
「遅刻の理由を聞こうか………」
教師の相澤がじろりと睨む。
「寝かせてた」
「?
気絶させたということだろうか?
カムイは資料に目を通していく。
「………あー、成る程。個性破壊。その核と成るであろう少女の保護ね」
「その通りだイメルカムイ。だが、その障害となるであろう八斎會の他にも
「ああ、この前な。八斎會の刺客と思われる連中に襲われたんだ。ぶっ飛ばしてやったが溶けた……」
「林間合宿でも見たな、そんな光景………」
「トゥワイスだろうよ…………ところでこのガキなんだが」
カムイは連合の話など興味ないというように話を変える。ファットが立ち上がった。
「おう! 絶対に助け出すで! 泣いとる女の子を救えずして何がヒーローや!」
「その事なんだが………」
「そうだぜカムイ! 俺達全員、同じ気持ちだ!
そうだろ、緑谷、通形先輩!」
「ああ、だがよ…………」
「もちろんだよ! 今度は、絶対に手を離さなさい!」
「俺が先延ばしにしたせいで、あの子がどれだけ辛かったか! 放置できないんだよね! 俺は、
「ああ、うん…………で、だ………」
全員とてもやる気だ。絶対に資料の少女を救うと言う意志を感じる。特に緑谷とミリオはどうやら出会っているようだ。そして救えなかった………いや、救わなかった、か。ミリオは先を考え確実に保護しようとしたが故に。その事を悔いているようだが…………
「そのガキ、俺が保護したんだよな」
「「「…………………は?」」」
幸せだったあの頃に、時間は巻き戻らない。
父が居て、母が居て、二人はとても優しくて。
だけどある日、角がムズムズして、父親が消えた。
母親はその日から自分を化物をみるような目で見て、罵った。呪われている、生まれてきちゃいけない、そう言いながら祖父に預けたのは、最後の親心なのか、傷つけることで呪われるのを嫌ったのか。
優しいおじいちゃんだった。でも忙しい人で、個性について別の人に任せてた。それが始まり。
痛くて苦しくて、やめてって叫んでも助けてと叫んでもやめてくれない。助けてくれない。
なんで、と聞けばいつもこう答える。
「お前は呪われている」
『お前は呪われている!!』
大好きな母が自分を捨てた時と同じ言葉。制御出来ない恐ろしい力を持つのが悪いのだと、男は言う。
「俺ならその力を上手く使ってやれる」
刻まれて、刻まれて、痛みと失血で思考が出来なくなるほど苦しくなると最後には……
思考が晴れ、また刻まれるように作り直される。
意を決して到頭逃げて、最初に出会った人に助けを求めた。その人達を男は殺そうとした。それが本気であることをエリは見ていた。
『
助けを求める事はその人を殺すこと。だから駄目だ。助けを求めちゃ駄目なんだ。助かっちゃ駄目。そう思っていたのに、その人は簡単にあの男からエリを攫った。
高い高い空の上から世界を見下ろした。とても綺麗だった。また見たいって言いたかったけど、外は危ない。あの男がきっと自分を探している。この人が殺されちゃう。
だから絶対に外に行かないように見てなきゃ。
「……………あれ」
窓から差し込む光で起きるエリ。記憶がぼんやり。
何時眠ったのだったか?
「…………お兄さん?」
部屋には居ない。別の部屋かな、と部屋から出る。あの人は危ないって何度言い聞かせても平気で外に出ようとするから、ちゃんと見てないと。そう思いながらリビングに向かう。
「全く手間を掛けさせてくれたな壊理」
「──────ぁ」
あの男が居た。思わず後ずさった壊理の背中は別の男の足に当たる。
「俺から逃げられると本気で思っていたのか?」
「あ、あの人は………? お兄さんは、何処に………!?」
「………………」
「っ!! 戻る………戻る、から。あの人に手を出さないで!」
「おかしなことを言うな、壊理」
そう言って男が指差すのは背後。開きっぱなしの扉から覗く寝室に、脱ぎ捨てられた服。まるで着ていた人間がそのまま消えたかのように不自然な形で床に投げ捨てられていた。
「殺したのはお前だ。父親のように、この世から消した」
呼吸が荒くなる。息が苦しい。
振り返り、男を見ればこちらを睨むのは母親に変わっていた。
「お前は呪われている」
「いやあああああ!!」
飛び起きた。カーテンも雨戸も閉められた真っ暗な部屋でエリの体はハァハァと必死に酸素を取り込み脳を落ち着かせようとする。
上手く呼吸が出来ない。頭が働かない。怖い。苦しい。助けて………
「あぇ………お兄さん………?」
居ない?
先ほどの悪夢が蘇る。エリはすぐに部屋から飛び出した。
居ない。何処にも。
先程の悪夢を思い出し飛び出した寝室を見る。もしも、彼処に服が落ちていたら………。
一歩進むごとに足が重くなる。呼吸が荒くなる。もう少しで部屋に………
「!!」
ガチャリと鍵が回る音。ビクッと震え涙がこぼれる瞳で振り返る。扉が開く音が聞こえる。足音が近付いてくる。
「…………あ、起きてる!?」
「────────ぁ」
お兄さんがそこにいた。バツが悪そうな顔で何か言い訳を言おうとしているその胸に飛び込む。
「……………エリ?」
「………………」
「…………怖い夢でも見たか? 悪かったな、一人にして」
暖かい手。優しい手。
父と母を思い出す。ひぐひぐ泣いて何の説明も出来ない自分の頭を撫でてくれる。
これが幸せだ。思い出せた。嬉しくて、暖かくて……でも、だから………。
「ごめん、なさい…………」
「…………あ?」
「帰り、ます。帰らなきゃ………私、呪われてるから……お父さんみたいに、お兄さんが消えちゃう」
「呪い?」
「全部、私が消しちゃった…………」
既視感。
少女と出会い、ずっと感じていたそれはただ道具として扱われているからだとずっと思っていた。けど違ったらしい。
「ごめんなさい………ごめんなさい! お父さん、お母さん………生まれて、ごめんなさい………」
子供がそんな言葉を言ってしまうほど追い詰められることがあるのをカムイは知っている。
「あの人なら、使えるから………誰も呪わなくていいから、私だけ、痛ければ……」
「父親を殺したのか?」
「!!」
「俺も母親を殺してる」
カムイとエリは、同じ傷を持っている。