「なんだよ彼奴。初期マップに高ユニット配置してんなよなああ」
脳無と殴り合うカムイを見て忌々しげに呟く死柄木。蛙吹達は距離を取っていた。
「す、すごい………!」
速度、威力、その全てが常軌を逸している。
光熱が大気を膨張させ引き起こす爆発の一つ一つが緑谷の幼馴染のそれを凌駕する。
それだけの威力で脳無と呼ばれたヴィランも少なくないダメージを負うがすぐに再生していた。
超再生の個性を持つ異形系個性? 怪力と頑強は異形系故の素の身体能力なのだろうか? いや、そうは思えない。手足を異形へと変えたカムイの一挙手一投足が雷を纏わずとも暴風を撒き散らす程の膂力。
鉄の身体を持つのならともかく、ただ異形なだけで耐えられるとは思えない。
「打撃に属性付与するなよなあ。ショック吸収が無駄になる」
ガリガリと肌を掻きむしる死柄木。ショック吸収? それが個性だとしたら、2つの個性を?
因みに個性の中には親の異形を受け継いだ上で発動型の個性を持つ場合もある。この場合異形に関しては個性としてカウントされない。
「どうしたどうした!? 再生が遅くなってるぞ!」
電熱を帯びた爪が脳無の腕を膾に刻むも再生を始める脳無だが、カムイの言うように再生が遅い。追撃に対する反撃にない腕をふるい懐に入られ、カムイの爪が肋を砕き肉を裂き心臓を抉り取る。
「ひぃ!? や、やべえよ彼奴!」
「──────!!」
カムイにドンびく峰田だが、脳無はまだ死んでいなかった。己の胸を貫くカムイの腕を掴み握力で圧し折ろうと力を込める。が………
「さっきより力が落ちてんぞ!」
片手で脳無を持ち上げ地面に叩きつける。同時に雷光。
バリバリと大気を引き裂く稲妻が青白い亀裂のように空間に広がる。
「───あん?」
地面に叩きつけられ黒焦げになった脳無の下から溢れる黒い靄。脳無の体ごと沈みかけ、脳無を踏みつけ距離を取る。
「危ないところでしたね」
「ふざけんなよなあ。こっちは雑魚ユニットばかりなのに、ゲームバランス考えろよ」
回収したのは黒霧と呼ばれるヴィラン。
ワープゲートから地面に落ちる脳無は心臓や焼け焦げた肉体を再び再生し始める。その胸にはまだ突き刺さったままの腕。
カムイは千切られた腕を見て一瞬で腕が再生した。
「脳無以上の回復力に、プロヒーローでも並ぶ者がいないであろう高出力の電撃………厄介ですね」
「もういいや、矜持とか。早く帰ろう」
「そうさせてもらえるか………」
カムイはジッと脳無を見つめている。獲物を逃がすまいとする獣のようだ。
「やだやだ。ヒーローの目じゃねえよ……こっち側だろお前」
「知らねえのか? ヒーローは個性使って暴れていいんだ。お前等みたいの相手にするだけでな」
バチチと大気が弾ける。雷を纏うカムイに死柄木は苛立つように首を掻き毟り獰猛な笑みを浮かべる。
「脳無はお前のサンドバックじゃねえ。オールマイトを殴り返すサンドバックなんだよ」
「そうか…………」
と、カムイが死柄木の言葉に入り口を見つめる。瞬間、入り口が吹き飛んだ。
「もう大丈夫。私が来た!」
「あー…………コンテニューだ」
ただでさえ脳無と互角以上に戦うガキがいるのに、本命までやってきた。本当にもう帰りたいと全身の雰囲気で語る。
そして新しく今度は使えるキャラを集めてやり直しだ。
「待ったよヒーロー。社会のゴミめ」
「あれが! 生で見るの初めて………迫力すっげ!」
「尻込みするなよ! あれを倒すために俺達は………!」
と、オールマイトが広場に向かい飛び降りる。一瞬で雑多なヴィラン達は気絶させられていた。
「相澤君。済まない………」
傷だらけの相澤を回収するとヴィラン達を睨む。次の瞬間には彼等から距離を取りつつも池の畔を陣取られ水辺から上がれなかった緑谷達を回収する。ついでに死柄木を殴った。顔につけていた手が落ちる。
今普通に水の上走ってたな、とオールマイトの手を避けたカムイは思った。
「助けるついでに殴られた。ははは、国家公認の暴力だ。流石に速いや。目で追えない………けれど、思ったほどじゃない。やはり本当なのかな? 弱ってるって話………」
「何の話だ、面白そうだな」
「稲妻少年………君も下がりたまえ」
「俺はもうちょい此奴と殴り合いたいんで」
「ええ………」
「なんなんだよお前………空気読めよ。ここから先はオールマイトと脳無の時間だろう? ああ、本当に偉そうでムカつくよお前!」
「稲妻少年。これ以上の交戦は許可出来ないぞ。君はまだ学生なんだ」
ヒーローの資格もないカムイは、本来ヴィランであろうと個性を使った加害行為は許されていない。オールマイトが来る前なら自衛で済むがオールマイトが来て交戦を辞めるように言った今、カムイにこれ以上の戦いを続ける権利はない。
「……………チッ」
カムイは舌打ちするとその場で胡座をかく。そのまま片手を突き出し「どうぞ続けろ」と促す。
カムイとの戦いでダメージが残っている脳無。それでもショック吸収という対オールマイトに相応しい性能を持っていたが、無効化ではなく吸収。
吸収しきれないだけ拳を食らわせ吹っ飛ばした。
いいもん見た、と満足なカムイ。
「……………?」
と、オールマイトの電磁波が急速に萎み始めた。
カムイが首を傾げていると死柄木達が動き出す。カムイが電撃を食らわせようとした瞬間、別の場所からオールマイトの電磁波。
緑谷が己の脚を砕くほどの力で加速し接近したのだ。
「オールマイトから離れろ!」
しかし黒霧は己をワープゲートに変え万物を崩す死柄木の手を転送。雷が死柄木を痺れさせ、さらに銃弾が手を貫く。
「ごめんよみんな。遅くなったね。すぐに動ける者達を集めた」
他の場所でもヴィランらしき電磁波に乱れ。傷を負ったのだろう。
「1ーAクラス委員長飯田天哉! ただいま戻りました!」
教師陣を引き連れ飯田が現れた。雄英の教師は全員プロヒーロー。大してヴィラン側は学生にもやられる程度の有象無象。
「ゲームオーバーだ。帰って出直すか黒霧」
と帰ろうとするが銃弾が雨のように襲う。それでも黒霧の中に消えていくが雷が落ちる。
「がっ!?」
「逃がすわけねえだろ馬鹿が」
「くそガキがぁ………」
加減したとはいえ気絶するに十分な電撃を食らってまだ動くか。こいつを突き動かすものはなんだ?
「もっと育てて食いてえが、ヴィラン見逃すとうるせえんでね。ここで………」
「おえ」
ゴボッとヴィランの一人が黒い泥を吐き出す。
そこから現れる脳みそ剥き出しの異形。脳無の兄妹かと緑谷達が思う中、その正体を察しているカムイだけが性能を楽しみに笑う。
放つ雷が不自然に歪み背中から生えた蜘蛛の足のような器官に吸い込まれた。
『誘電』………いや、『避雷針』か? 吸収しきれなかった雷に身を焼かれている。
「ラ、ララ、ライ………」
ギョロンと単眼がカムイを捉える。取り込んだ雷がその瞳に収束し、放たれた。
「効くかよ!」
だが、効かない。
氷結系統の個性持ちが暑さに弱く寒さに強いように、炎系統の個性持ちが熱に強いように、電気系統の個性持ちは電気に対して高い耐性を持つ。ましてやカムイに至っては
本気でもないカムイの電撃で火傷を負う程度の下位互換の力を多少上乗せされただけでは全く脅威にならない。
先に死柄木………黒霧の動きを封じて………。
「ラ、ラ、ライ…………ライゴー………?」
「──────あぁ?」
ビキリとカムイの額に青筋が浮かび、意識から死柄木達が消える。ただ呟くだけでそこに意思などないと知りながらも、その単語だけは聞き逃がせない。
「消し飛べ」
話は変わるが、雷がジグザクに進む理由は知っているだろうか?
答えは簡単。空気は電気を通さないからだ。
それでも無理矢理大気を引き裂きながら少しでも通りやすいルートを探り折れ曲がりながら進む。
カムイは狙った場所に雷を落とせる。それは阻まれながらも雷そのものを操れるから。
だからそれは、ただ進めという単純な操作を出力で実現し全てを破壊する一撃。
「
発生した雷を大気が阻まんとする。そのままぶち抜き曲がる事なく突き進む。
表面が僅かに剥がれるように枝分かれする巨大な光の柱。その余波ですら嵐の落雷に匹敵するエネルギー量。
超高密度のエネルギーの本流は避雷針に誘導されることもなく雷へ耐性があるはずの細胞を一瞬で塵一つ残さずプラズマに変えた。
「…………………やっちまった」
眼前には巨大な穴。コンクリートも鉄筋も蒸発し、縁が赤く発光して熱した飴のようにドロリと溶ける。
死柄木達は何時の間にか逃げたし、雄英の設備を一部消し飛ばした。空の雲に大穴が空いている。
「…………っ」
腕に刻まれたひび割れのようなリヒテンベルク図形。この状態での限界電力を超過してしまったらしい。
「感情に流されるとかまだまだだなあ。十三号先生の話聞いた後にこれだ……我ながらガキだね俺も」
容易く人を殺せる。カムイが持つ個性とはそういうレベルの個性だ。だからこそ制御しなくてはならないのにあの単語を聞いただけでこれだ。
「とりあえず怒られとくか」
一方その頃、とある地下のバー。
黒い靄が渦を巻き死柄木が吐き出される。
「脳無がやられた。手下共も瞬殺だ………子供も強かったなぁ。平和の象徴も健在だった………話が違うぞ先生」
『違わないよ』
と、死柄木の愚痴にモニターから声が聞こえる。
『ただ見通しが甘すぎた』
『うむ。なめすぎたな……
どうやらモニターの向こうには二人いるらしい。
『ワシと先生の共作脳無は? 回収してないのか? 対オールマイト用の方』
「吹き飛ばされました。正確な位置情報が把握できなければいくらワープと言えど探せないのです。もう一つはいいのですか?」
『あれは使い捨てだから構わないよ。もう一つは、折角オールマイト並みのパワーにしたのに。まぁ…仕方ないか。残念』
「パワー………そうだ。一人オールマイト並みの速さを持つ子供がいたな………」
『………………………へえ』
楽しそうな声が聞こえた。
「それから、やけに強いユニット。卵でも雛でもねえよ、あれは」
『そうかい。なら、ちょうどいい。かわいい生徒に、転校生を紹介しよう』
「…………は?」
キィと扉が開きコツンと靴音が響く。
現れたのは女だ。異形系で、首から上が存在しない。
『