無くし物は、どこですか?   作:深夜の社畜ちゃん

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#00 「胡蝶の夢」

 

気が付けば、独りになっていた。

何気ない、酷く平和で幸せな日々を、送っていた。

 

はずだったんだ。

 

「おい、このガキはどうすんだ?」

「俺に聞いてんじゃねーよ」

 

息が上手く吸えない。

息ってどう吸っていたんだっけ。

 

「パッと見たところ、体弄くってはなさそうだな」

「最高じゃねーか、綺麗なガキは旨いし出回らないってんで相場がいーんだよ」

 

動悸が治まらない。

うるさいなぁ。

 

「弱っちぃ親だったしっ、なっと」

「オイオイひでーな、普通蹴るかよキモ」

 

あ。

 

目が、合った。

 

あんなにも暖かかく見守ってくれた瞳はもう、酷く冷たくて。

 

柔らかに微笑んでくれた口はもう、重力に従うのみで。

 

あんなにも優しかった顔はもう、見ていられない程グチャグチャで。

 

「生命保険に入ってても脳みそ潰しちまえばいいし、問題なーし」

「悪趣味だよな、お前の綺麗に脳だけ壊す技術」

 

もう何も、なくなっちゃったんだ。

夢だったら、良いのにな。

 

「首ぶった斬ったの見てイカレたのかぁ?喋んねーなコイツ」

「まぁ良いだろ。ほっときゃ」

「んーーー」

 

ユメだったら、いいのになァ。

 

「あっ!」

「唸ったと思ったら、デケー声出して、うるせー野郎だなテメー」

 

止めてくれ。

 

「片方何処だよ、おっと、あったあった」

「気持ちワリィ、良く触れんなぁ俺ァ無理だわ」

「パパとママに会わせてやろー、ってな俺優し」

「サイコパスかよ」

 

触るな。

 

「ほれほれー、ってコイツの顔殴りすぎたなキッショ」

 

「さわ、るなっ!」

 

「お、喋ったな、じゃぁ仕上げに__ッがァァア」

「テメー!!何してやがるッ!!」

 

気付けば両手で両親の髪を掴み、自分の顔に近づき屈んで、プラプラと頭を揺らしていた奴が、痛みで頭を放り投げ両目を塞いでのたうち回っていた。

自分の両手がヤケにドロッとして生暖かい感触が、自身が相手の両目を少し伸びていた爪で貫いたのだと教えてくれる。

 

「目がッ、お!、俺オレのっ!...メめ目めっッ!?!!ッ!!?」

「...うるさいなぁ」

 

引き目に見ていたもう一人が、近づいてくる。

 

「タダじゃすまさねーぞガキが、俺の商売道具駄目にしやがって」

「修復すんのに元取れるかも怪しいってーのによぉ」

 

この【都市】は残酷なんだ。

救いはない、神なんて都合の良い概念は存在しない。

実に空虚で、鮮やかに彩られていたのは錯覚で、酷く灰色だ。

 

「ゴミはゴミ箱に入れなくちゃ、パパに怒られちゃう」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

小鳥も囀る朝が訪れた。

空は不自然なほど青く、いつもと変わらない快晴が都市を照らす。

 

「この時間になったら、嫌に明るくなりやがるな」

 

裏路地の薄暗く、ネズミ共も通りはしない様な小道を突き進む。

俺はチャールズ事務所所属、1級フィクサーのローランだ。

溜息交じりに陰鬱な雰囲気で愚痴を吐き捨てて、オレは気怠げにトボトボ歩いていた。

決まった時間に決まって青く空は光を発し、時間経過と共に輝き、次第に暗くなる。

都市を象徴するかの様な、人工装飾の空にはうんざりだな。

それに今日は早起きをした俺は、絶賛用事の真っただ中だ。

頭の痛くなることは考えないで、用事に意識を向けないとな。

 

「あん時から世話になってるし行くんだが、坊主の世話役頼むって、どんだけ気に入られたんだよ」

 

過去に受けた依頼でドジを踏んだ時に世話になった恩人から、数日前に手紙が事務所に届いたんだ。

色々書いてあったが要約すると、仕事場でゴタゴタが起きたから1ヵ月間世話役を俺に頼みたいらしい。

あの夫婦の息子への可愛がりは見ていて頬が緩む、溺愛ぶり的に短期でバトラーでも雇いそうな勢いなのだが、俺に白羽の矢を向けるとは嬉しい限りだ。

そんなあの家族の事を思い出して気分を幾分持ち直し、歩く足を速めた。

都市は生きる人々に、苦痛を与えるばかりで、寄り添う事すら苦痛は許してくれない。

そう思い、[それはそれで、これはこれだ]と思い溢れる感情を押し殺していた。

 

「もしかして、俺って案外チョロいのか?」

 

そんな中、出会ってしまった。

否定し、頭から消していた、存在。

 

「いやいや、あの優しすぎる夫婦が特殊なんだ」

 

それは慈しむ心。

他者にも打算なしに優しさを分けた、都市では自殺まがいな行為だ。

自身育てた子でさえ、完璧には信じない、それが都市で長く安全に生きる常識だった。

そんな擦れた掃き溜めが大体だ。

死ぬことに一喜一憂してる暇があるなら自分の事を守らないと、明日路地で転がっているのは自分自身だった、なんて笑い話にもならない。

 

「居るもんなんだなって驚いたなぁ、確か」

 

死ぬレベルのやらかしをし、それでも依頼を片付けた。

受けた負傷は身体強化を上回るダメージで、死に体だった。

犬死なんて俺にお似合いだ、生命保険はあるが連絡手段は壊れている。

こんな何処とも知れない場所で見つかる可能性は低いし、見つかっても頭部は多分無事じゃない。

こんな事ならオリヴィエかアストルフォ辺りに言っておけば良かったな。

そんな諦めムードで死に体同然を、奇跡的にも偶然道を間違えた夫婦は慌てて助け、傷すら治してくれた。

息子に会ったのは寝起きで大層驚いたのは記憶に新しく、どうやら魘されてる俺の手を握って頑張れなんて声を掛けてくれてたらしく、時間も時間で睡魔に負け自分が寝ても離さなかったらしい。

寝てる息子をベットに移した後、夫婦は俺の為に暖かい飯も作ってくれたし、弱ったあまりこぼれ出ちまった弱みも真摯に聞いて慰めてくれた。

世話になったのは1晩だけだったが、救急キットも相当値が張るヤツだったのだろう、あの致命傷が動けてねぐらに着く位には体も、そして荒んだ心もすっかり修復していた。

本当に暖かい家族だった。

 

「俺も変わったな。自分以外どうでもいいと思ってたし、それが都市で生きる事だと確信してた」

 

警戒心はあったのがろうが、ありえない善人だ。

助けないのが正解であり、恩を仇でなんて当たり前に起こる場所なんだ。

あれから精神的に安定しているのは、間違えなくあの家族のおかげなんだろう。

案外死にかけるのも悪くない、とはならないがこの年になって、良い方に心の成長を感じている。

前に会ってから久しぶりに会うし、俺を信頼して息子を預けてくれているという事実に、幸福な感情が溢れてくる。

何をして遊んでやろうか、飯は子供が好きそうな所は食べに行って調べてあるし、会うのが実に楽しみだ。

 

「よし、服はオリヴィエがクリーニングに出してる所だから問題なし」

 

アイツに相談したら、驚かれて少し恥ずかしかったが、事情を少し説明すればすぐ店の名刺を渡してくれた。

道なんかも、掃除屋が綺麗にゴミやら全て片付けてそこまで経ってないお陰か無いし、服や靴の汚れの心配もしなくていいだろう。

俺の身長を抜くんだなんて言ってたが、あれからちっとは伸びたんだろうか?。

伸びてるんだろうな、見てて感じたが子供の成長は早い。

ああ、早く会いたい、褒めてやりたい。

アイツが笑うと親も嬉しいのか微笑んで、俺も釣られて笑っちまうんだ。

そんな、都市とかけ離れたあの場所が、俺は大好きなんだ。

 

「おっとと、少し浮かれすぎたな。考えすぎてて、過ぎちまうとこだった」

 

なんか前来た時より、雰囲気が違うく感じて過ぎちまった様だ。

前来た時の感覚は、確かもっと路地にしては不思議と暖かな?。

 

「...は?。...冗談だろ」

 

嘘、だと、言ってくれよ。

場所は間違えて、嫌、いや、こ、ここだった...よな。

 

玄関は住居と掃除屋に認識される程度には壊されていて、呆然と立ち尽くしたタイミングで開き、その惨状を認めない俺に物語って正気に嫌でも戻される。

悪辣な都市の、苦痛が俺を蝕んだんだ。

 

「...認めるもんかよ、こんな現実」

 

無力な俺に、都市は非常にも現実を突きつける。

仕事場でいつも嗅ぐ、糞ったれな濃い血の臭い漂う恩人の家がそこにはあった。

暖かさに溢れていたはずの場所は、酷く冷たく息を引き取っているかの様で。

認めたくはない、が鼻に突き抜ける激臭は、目に映る荒れた惨状は、都市の苦痛は俺に認めろと訴え続けてくる。

 

こんな安っぽい悲劇は何度も、見てきたんだ。

見てきた、はずなのに。

思考を切り替えれない、都市に順応出来ない。

[それはそれで、これはこれ]なのに。

 

 

「オエ」

 

えづきが止まらない。

悪寒も酷い。

血管がはち切れそうだ。

握った手が力を籠めすぎて、血が出ている。

怒りで血が上った頭でも、浮かぶことがあった。

 

「そ、うだ...!。こども、あいつらの、大事な」

 

よろめきながらも歩いた。

床の血で転げて、這ってでも俺は行く、クリーニングした服もお構いなしに、一縷の希望に縋って。

だって、大事な子すら奪われるなんて。

 

「あんまり、過ぎるだろうがッ。...ふざ、けんなよ」

 

あんなにも良い奴らが、割を食うなんて馬鹿な事は大概にしやがれ。

壁にある取っ手に手を伸ばし、壁を支えに扉のドアノブを掴んだ。

 

「無事で、いてくれっ」

 

アイツらの死体を見る覚悟など出来ていないが、勇気を出し子供だけでも助けれればの薄すぎる確立に望みを抱き、都市の苦痛が少しでもあの家族の優しさに温情を掛けてくれるくれることを祈り、地獄の門を俺は開けた。

むせかえる血の匂い、肉・臓物・糞尿が混ざり煮えた臭い、床は抵抗の跡か爪跡や殴ったり蹴ったりのへこみがあちこちに。

そんな中心に、

 

「おじさん、だーれ?」

 

都市の苦痛は、こんな子供にさえ牙を向いていた。

 

「...冗...談、だろ」

 

俺はこんなに、都市を呪った日はないだろう。

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