誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中   作:覚絵テネ

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ちょっと前のラノベって絶対出血あり殴り合いコミュニケーション取る場面があったと思うんですよね
好きなんですけど鬼難しい......


殴り合いコミュニケーション

 ぶらぶらと、シーツで首をくくるラットの姿があった。

 

「何してんだテメェ!?」

 

 数年ぶりかもしれない。羅刹の繕いのない絶叫だった。早速ガラスナイフを投げつけてシーツを破り、地面に落とす。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 ラットは朦朧とした視界の中で、死神のような女の姿を見た。逝けたのかと思ったが、セリフから判断するに彼女は死神よりも恐ろしい人間、つまり羅刹のようだった。

 

「おまえマジ……何でこんなことを?」

 

「………へへ、へへへっ」どこか焦点の合わない瞳に、笑みを浮かべている。

 

 羅刹の冷めきった瞳がラットを見下す。その怒り、これはこれで心地よかった。

 

 ちゃんと糾弾して欲しい。ただ可哀想な人だと、哀れみ、蔑み、無言で去っていった人たちと同じことはしないでほしい。ラットが役に立つなんて大きな間違いだったと断じて、怒りを、裏切られた絶望をぶつけてほしい。

 それがラットの心に寄りそうということだ。

 

「こんな狂ったゲーム、に、本気になってるほうが、『何で』ですよ?へへへ。」

 

「………っ!」

 

 羅刹は歩み寄り。顎を大きく蹴り上げた。素足だったので、さらさらした感触がラットの唇に触れた。眉間には深い亀裂が浮かびんでいる。ラットは内心ほくそ笑む。このまま、怒りのままに殺されるなら本望だ。

 

 しかし、零れ出る言葉は想像と違った。

 

「テメェ……ゲームを舐めてんのか?」

 

「はい?」

 

「悲惨な人生を送ってきたんだね、なんて可哀想、せめて殺してあげる……なんて言ってもらえると思ったか!?」

 

 ラットの鳩尾に蹴りが突き刺さる。柔らかいはずの指先が、衝突した瞬間固く肌に沈み込む。

 

「イギっ!?」不意の苦痛に身悶えするラット。羅刹は容赦ない追撃を加えていく。

 

「デメェ、舐めてんだろ?!ゲームはまだ終わってねぇ!ちょっとうまくいかなかったからまた逃げんのか!」 

 

「は、知るかそんなの!羅刹、あなたも、どうせロクな人生を送ってきてないんだろうが。」

 

「あ?だから、そういう話じゃなくてさ!」

 

 羅刹はものともせずに、返しで頭頂の髪を掴んで持ち上げる。

 

「わた……おじさんは人生、逃げても良いと思ってる。仕事から逃げていいし学校から逃げていいし将来からも逃げていい。けどな……このゲームから逃げるやつは許さねぇ!おじさんはさぁ!このゲームを本気でやってるんだ!命をかけないと本気に慣れない奴らが、最後に輝き、本気で燃え尽きるための世界で一番熱い場所!それを、テメェの、くっだらねぇ無気力な諦念で冷やかすんじゃねぇよ!」

 

 羅刹は本気で言っていた。自らの言動が狂人に分類されることは知っている。

 その炎に触発されてか、ラットも唾を飛ばしてがなり始める。

 

「……っざけんな!テメェみたいな強者には分からないだろうな!人生何もうまく行ったことがない!行く希望もない!まるで毎日死刑台の順番待ちをするような日々だったんだ!実際、こんなゲームに来て、いつか賑やかしで殺されるのがオチ!それなら、いっそテメェで死ぬ!その何が悪い!」

 

 振り上げた拳はあまりにも弱々しく、当たりすらしない。代わりに振り下ろすような拳に地面を這わされる。

 

「ここはゲーム!どこまでいってもゲームだ!楽しんでるやつが一番偉くて、それ以外は蛆虫にも劣る!」

 

「………っざけるな!狂人が!どういう自己肯定だ!」

 

 ラットが飛ぶように立ち上がり、アッパーを食らわせる。それは、羅刹の頬に当たる。弱々しい一撃だった。初めてだった。人を素手で殴るのも、ラットが羅刹を殴るのも。ラットは思わず素に帰った。とっさに目を瞑って顔を守る。羅刹は怒るでもなく……笑って。

 

「……なーーーんちゃって☆」

 

「あ?」

 

「冗談ですよ冗談。別におじさんも良いことあんまなかったから、その絶望と学習生無気力には一定の共感を示します。ラットさんがゲームから逃げるなら止めはしません。負け濃厚なのは確かだし。」

 

 立ち尽くすラットを横目に、羅刹は何か支度を始めた。病院の地下で拾ったコンロに、魚の缶詰、摘んだ薬草を入れる。

 

「でも。だから何だ、とは思いませんか?ゲームは楽しんだもの勝ちです。システムで負けて死のうが、楽しめば勝ち。」

 

 煮立つ前、熱が芯まで通ったらすぐ缶詰を取り上げて、ラットに差し出す。

 

「さっきは殴っちゃってごめんね。人生が満たされなかったおじさんは情緒が不安定なのだ………それでさ、おじさんはラットちゃんと本気で楽しみたい。このゲーム。」

 

 すぐに食欲を煽る暴力的な匂いが立ち込め始めた。ラットは、何故か食欲を感じた。さっきを勧められた時は、胃が淡でいっぱいのような感触がして空気が起きなかったのに。何か目的が生まれればそれが生きる理由になり、生きる理由ができれば食欲も湧く。

 

 羅刹が差し出した缶詰を、ラットは一口で書き込む。空っぽの胃には少々悪い、マグロのトロだった。命の味がする。殴られて裂けた口に染みるが構わない。

 

「……もう………無い……?」

 

「あ、今温めるね!!おじさんの分も食べて食べてー。」

 

 ラットは羅刹に清々しさすら感じていた。スポーツマンシップのような……なんて行ったらスポーツマンに失礼だが。とにかく、情熱を競技に昇華した際の化学反応を感じる。

 

(そっか。今更良いんだ、うまくいかなくて。それで当然。なら、もうちょっと走ってみよう。)

 

「ええっと。」

 

 のぞいていたのは、白野、ルーシー、赤燐の死の原因を作った双子だった。

 その片割れが、雪夜を背に立っていた。

 

「きさまら、なかまだよね?」

 

 辿々しい日本語でそう言った。

 

 

 孤島はかつて避暑地としてセレブたちから密かな人気があった。だが、50年前の大量遺棄事件以来誰も寄り付かなくなり、ホテルも廃業。それから定期的にデスゲームの開催地に選ばれ、この島に棲む動物たちは人間への警戒心が異様に高く、姿を見せることさえしない。

 

「ふんふ、ふんふ、ふーん♬」

 

 しかし、中央のホテルの屋上。雲が晴れて月明かりの注ぐ場所。無数の小鳥が少女の腕に止まっていた。

 

「これは何でしょー。私がいっとう穏やかな人間だって証でしてー?」

 

「......。」

 

 四人の()()が無言で見つめる。バステトの声は森の葉擦れのように穏やか。彼女は小鳥が木の実をついばむ姿に、花のような笑みを浮かべる。そっと指を近づけ―― ゴキゴキゴキ!!!と握りつぶした。鳥が一斉に飛び立つ。小鳥の悲鳴が上がる暇もなく、()()血が華奢な腕を滴り落ち、それを少女は淫靡な舌使いで舐め取った。指の隙間から小鳥の好む木の実が溢れおちる。

 

「はぁ……やっぱり血ってのはこうじゃありませんとー。ねぇ?」

 

 確かに美しいのだけれど、似せすぎた人形の美しさだった。不気味の谷というやつだ。彼女の美しさを感じようとするほど不気味さが込み上げる。

 

 彼女は時にもう少し風が欲しい、と思い窓に歩み寄る。ただし、音の速度で。壁は一息で砕け散る。鉄骨の入った壁である。飛び散った石片を、四人の仲間、もとい従者が片付ける。ルール的には彼女らは敵プレイヤーで、交わした約定にも上下の規則はない。しかし、無言のうちに従者のように彼女は振る舞い始めた。

 

(やはり、『強い』ということは素敵でしてー。多少の代償を払うにしても。)

 

 バステトは本来気軽に外出できる身分ではない。推し(羅刹)が百回目を達成すると聞いてやってきた。推しから完全に嫌われてしまっているのは悲しいが、そこは受け入れて、敵として迎え打とう。もし殺してしまっても、それはそれだ。反転なんかしない自信がある。解釈違いですらない。完璧ではない、だからこその美ってやつがある。

 もしそういう結末に終わったなら、首だけにして箱に入れて仕舞えばいい。

「何にしても、早い方がいいでしょー。目移りしないように、他の子たちは片付けてしまわなくては。」

 

 ☆

 

〈生存人数 9〉

〈残り時間 46:30〉

 

 雪に埋もれた診療所跡に片耳のない少女がやってきた。 日本語は以前にも増してたどたどしい。双子(セストリチキ)、と名乗っていたか。羅刹たちが最初にこのゲームで接敵し、そのチームを半壊させた張本人でもある。「き、きたな………!」ラットがいきりたつが、彼女は両手を軽く上げて近づいてきた。

 

「殺すなら、どうぞ。でも、お互い、できないはず。」

 

「はぁ!?」

 

「まぁ落ち着いて、ラット。」羅刹もどこか気の抜けた足取りで近づく。

 

「羅刹さんがそういうなら。」

 

「……キミ、お兄さんは?」

 

「死んだ。ものすごい速い女、殺された。」

 

「やっぱりか。……ラットさん、昨日の話覚えてます?」 

 

「………ええっと、チーターの話?」

 

 羅刹は苦虫を噛み潰す表情だった。

 

「はい。まあ………多分唯一、私より強いプレイヤーです。そいつを倒すために、おじさんたちは共闘する必要がある。」

 

 

 その頃、羅刹はデスゲの楽しさを知り始めた頃だったか。

 

 回数にして三十回目。戦闘は粗く、経験は足りない。唯一あるものとすれば、人一倍にゲームを楽しむ心。思い切って一歩踏み出してみればそれが通用したり、あるいは痛手を喰らう。そんな未熟な時節だからこそ楽しかった。蜘蛛の糸のように細い勝ち筋をたぐり寄せ続ける日々は麻薬だった。

 

 それだけに、何回か楽しくなかったゲームが印象に残っている。

 

〈クイーン&サーヴァント〉。

 

 〈クイーン〉と〈サーヴァント〉の二人組になり、〈クイーン〉は運営の用意したオリジナルチェスで競い合う。それがバトルフィールドで争うそれぞれの〈サーヴァント〉に様々な変化をもたらす。〈サーヴァント〉が死ねば、〈クイーン〉も強制的に自決させられる。

 

 どういう駆け引きがあるのか。伸ばした実力を披露する機会があるのか。はたまた死んでも文句がないというほどのスーパープレイを見られるのか。ウキウキしながらチェス版を睨む〈クイーン〉羅刹だったが、その希望はすぐに打ち砕かれた。

 

 〈サーヴァント〉...バステトは異常だった。本来決着までに発生する幾多の読みあいと、〈クイーン〉の援護が必須。それを、異常なスピードで無視した。相対する〈クイーン〉は駒を一回も動かすことなく自決させられた。

 

 試合後、何を発するでもなく近寄ってくるバステトを羅刹はきつくあしらった。

 

「......ドーピングだよね?」卑怯だと避難した。デスゲームのだからこそ守るべきモラルってものがあり、それを失えばただの下劣な殺し合いに成り果てる。

 

「さて。わたくしは運営にBANされておりません。なれば、それ以上の詮索は無意味では?」

 

 バステトは否定しなかった。一応、ドーピングは禁止だと明示されているが、グレーゾーンのことをやっているプレイヤーは多くいる。それらのプレイヤーを運営が放置している以上、羅刹の持っている感情は自治厨じみた身勝手なものなのかもしれない。

 

「大丈夫ですよー?私、羅刹さんのファンですゆえー。次のゲームであっても、殺しませんよー?」

 

「そういうことじゃない。おじさん、あなたが嫌い。」

 

 運営が許しても、羅刹は許さない。煽りは許したくないけど許す。下手くそも許す。でも、チーターは許さない。これまで羅刹がデスゲームに傾けてきた情熱を嘲笑われているような気がしたから。

 チンケなことは自覚していて、けど絶対に譲れないものがあるのだ。

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