誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中 作:覚絵テネ
〈残り時間 39:15〉
吹雪の向こうから、かすかに夕暮れが見える。赤い毒雪が狭まると共に、自然に降る雪の勢いも強くなっているようだった。気温はすでに-10度を下回っている。
「今夜、-二〇度を下回る。吹雪は強くなる一方、今夜はまず止まない。」 片割れは舌をちろちろとして雪を受け止め、天気を予測する。色々な人に買われて世界を転々としてきた成果だ。
「じゃあやっぱり、可能な限り早く向かうのがいいかな。吹雪が絶好の目隠しになってくれる。」
「明日は-四〇度を下回るかな?その前にあのでっかいホテル内に行かないとまず凍死する。」
日が暮れ、視界はほぼ閉ざされる。ホテルへ向かうなら、狙撃の心配は少ない。襲撃のチャンスは今夜しかない。ここを逃せば、体力差が開くばかりだ。ザフザフ。積もった雪を踏みしめ、耳の隙間に溜まる雪を落としながら三人はホテルへ向かう。
「ぎゅぴっ」ザフ、という足音に
「ぎゅぴっ」
「……」
「「ぎゅぴっ」」
「「「ぎゅぴっ」」」
ラットが合わせると、羅刹も続く。謎の合唱。みんなそう言うノリも好きだった。ゲーム開始から三十三時間経過、17時。
☆時間はちょっと巻き戻る
〈残り時間 42:22〉
ヒスイを排除した後、3人は診療所に戻った。ラットは坂で転んで少し帰るのが遅れたのだが、その間に二人が古布で窓を覆ったりして、断熱をますます整えていた。さらに僅かな時間の間に、羅刹は火を起こし、湯を沸かしていた。
収集したカップ麺にお湯を注いでいただく。両手でやっと持ち上げられるビックサイズのやつ。凍えた指先をカップ麺の容器に当てると、魂が救われた心地がする。
「おいしいです……これまでのカップ麺で一番美味しい……」
「それはよかった。……あ、これいる?」
羅刹はカップ麺に灰色のペースト状のものを混ぜながら食べていた。
「……なんですかそれ?」
「道中で摘んだ草を刻んで、カプセルとかに使うゼラチン煮込みに混ぜた。」
「おいしいてす!スパイシー!人生で一番おいしい!」
「わたしも。」
「そりゃよかった。いや、私からすればいまいちだけどナー?ほんとはもうちょっといいの作れるんだけどナー!」
ラットは気づいた。片割れの食べているヌードルだけ、なぜか多い。
「あれ、片割れさんの麺だけ多くないですか?」
「ヌードル、多くない。おがくず。要る?」
「私は少食だから遠慮するよ。」
片割れは無表情だから、冗談かどうかがいまいちわからない。
缶詰に入った粉末をスープの中にぶちまけて、一気にかきこむ。
「ギャハハ!どう、どう味は!?」品性なく笑い、肩をバンバンと叩いてくる片割れ。意外とこう言うのが彼女の素なのかもしれない。冗談好きで、気を許した相手には遠慮がなくなる。
「……いがいといけます。魚粉と同じ……いや、でも胃の中から杉の香が……」
「ギャハハハハハ!!」端正な顔を歪めて大笑いする片割れを見ていると「……っはは。」ラットの口角も上がっていた。
そういえば、自然に笑ったのはいつぶりだろう。
「ゲームごとに手に入る材料が色々あるから、組み合わせてみると面白いんだよ。」羅刹がにこにこ言う。
「また食べたいです。」
「ん。次のゲームでな。」
次、か。おじさんにつぎはないだろうな。羅刹は心の中で呟いた。
「片割れって本名なの?」ラットがふと尋ねると、一瞬空気が凍った。
「……本名は出しちゃダメだよ。視聴者も居るし。」
「あ、ごめん、ごめ……」
「いいよ。名前なんてないから。」
「無い?」
「いい。名前、ない。」片割れが淡々と答える。「ずっと、セストリチキ。愛らしい姉妹、意味。女みたいに使えて、瓜二つ、それだけの存在。」
「……それは……」
「ラットは?……名前じゃなくていい、なんでもいいから教えろよー。」
「私は……ええっと、そうだね……猫が好きなんだ。学校行ってないから、保護猫の活動をしてて。」
「え、すごい立派。」
「やりがいはあったな………まあでも駄目だったけどね。保護猫活動にもコミュニティみたいなのがあって、そこであの子は隠れて虐待してる…みたいな噂流されて。」
「………」
「羅刹は?何かはなせ。」
片割れから話を振られると、羅刹はポリポリと顎をかいた。
「うーん、おじさんは...ゲーム以外のことは何もしてないんだよね。」
「嘘つけ、何かあるだろ。お前も傭兵とかだろ。」
「ふふふ。」羅刹は誤魔化す。自分のことを話すのは昔から極度に苦手だった。
羅刹と片割れは話す傍ら、片割れと羅刹は金属粉や古くなったカプセルなどを使って、煙幕弾を作っていた。この手際の良さは見習いたいものだ。腹が膨れた後は、休憩だった。診療所内でかき集めた毛布に3人で包まって寝る。ラットは体を密着させるのに、少し躊躇した。
「なに?照れてんの?」
「そういうわけじゃないけど……。」
三人とも寝首を掻かれる可能性は考えていなかった……というか、それは捨てていた。大事の前の小事。これから超弩級の山を超えるのに、一人がトチ狂う可能性なんて考えない。しっかり三時間後に片割れに起こされるまで、三人は体温を高め、体力をしっかり回復できた。
☆
〈残り時間 39:25〉
「最終確認。セーブは済ませたか?神様にお祈りは?部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はOK?」
「羅刹、意味の通らないところでネットスラングを使う、やめたほうがいいぞ?」
「ひゃい......じゃあ装備を確認しよっか。」
片割れが鉤爪を一つ、羅刹がスナイパーライフル――バレットM82、識別名《ムーンスレイヤー》を一本。探索で集めた武器はこれだけだった。
「これは…ムーンスレイヤーだな!弾も二発。」羅刹が銃を手に取り、片割れに渡す。
「使えるやつです??」
「うん! 五〇口径の対物ライフルだよ。超長距離だけど、反動がすごくて伏射しないと当たらない。重くて移動も遅くなるし、癖つよかな?」
片割れがボルトアクションを弄りながら、手際良く破損やゴミが無いか確認していた。プロらしく、美しささえ感じられる動きで早く丁寧に仕上げていく。羅刹もセメント壁を即席のヤスリにして、鉤爪を磨く。この二つの武器は、二人が使うものだろうとラットは思っていたし、それに異論もなかった。自分なんか二人の肉壁になれれば良い方だろうし。
けれど、片割れはラットにライフルを手渡した。
「FPS、やったことないか?」
「そ、そうだけど……」
「もたせてあげる。羅刹、いいよな?」
「いんじゃない。」
ムーンスレイヤーはずっしりと重い。受け取っただけでも手が笑って、落っことしてしまいそうにない。考えるまでもなく、この中で一番強い武器はこれ。第一、ラットは一日ほど前に、ルーシーを背中から撃った前科がある。なら、それを持つべきは少なくとも絶対ラットじゃなくて……
突き返そうとした直前で、肩をポンポンと羅刹が叩いた。
「楽しんでこ?」
「……はい。」
羅刹は煙幕弾。片割れに鉤爪。ラットがスナイパーライフル。羅刹がいたずらっぽく笑う。
「……どうしても無理だってなら、別にやってあげてもいいけど?」
「や、や。」
ゴクン、一旦つばを飲み込む。
「やります!任せて!ヘッドショット、決めるます!」肝心のセリフを噛むのだった。