誰かのために死にたいTSおじさんのデスゲーム満足死道中   作:覚絵テネ

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グロ注意?


オープニング(前)

 フルスイング。

 

 ドシュッ、と湿った肉が潰れる鈍い音。次の瞬間、誰かがステージの床に崩れ落ちた。ホコリが舞い上がり、凶器にこびりついた血液がポタポタと滴る。

 

 ここは十年前に打ち捨てられた地下ライブハウス。錆びたスピーカーや絡まったケーブルが散乱するステージの惨劇を、肉眼では見えない超小型カメラが見つめている。

 

 凶器は今まさに振り抜かれた金属バットで、被害者の少女は高校生くらい。華奢な手足に豊かな胸や尻、世の女性全てが羨むモデル体型。しかし左側頭部が陥没して、頭蓋から上のバランスが致命的に崩れていた。

 

コヒュウ、コヒュウ。

 

 死戦期呼吸の音だけが響く。どう見ても手遅れなのに、本人は回復体位を取って気道をどうにか確保している。『死にたくない』と言われなくても伝わってくる。

 

 猟奇的だが、不思議と不快さは欠いていた。だって、飛び散る血液は濃く明るいピンク。露出する臓器は磨き上げたガラスのようにツルツルで無機質。このゲームはあくまでエンタメ、社会的合意の産物。大衆が興奮でき、しかし不快感は与えない。頭の良い大学を出た人たちによってそのように計算し尽くされている。

 

 血塗られた舞台の中心に立つのも幼い少女...に見える。先程の少女をトレース・縮小したかのようなプロポーション。ただでさえ中学生くらいに身長しかないのに、紫色の髪が足元まで伸びているのでさらに幼く見える。皮膚が弱く何をしなくても出血するため、両手足と首に巻いた包帯。

 

 彼女の左脇からは肋骨が突き出し、鋭い骨の断面が覗いている。なのに、傷口からの出血は最小限で、腐敗の気配もない。識別名《プレイヤーネーム》:羅刹《らせつ》。悪鬼羅刹と言う言葉から頂いたその名前に違わず、生身の人間相手に全力で金属バットを振り抜いておいて一欠片の恐怖も後悔もない。

 

(まあ、互いに同意ずくなんだから。)

 

 彼女たちがしていたのは『叩いて被ってジャンケンポン』というありふれたゲームだった。ルールは簡単で、じゃんけんで勝った方が相手に一撃。敗者は足を動かさず防御。ハリセンの代わりに選べるのは八種類の凶器。ゲームはどちらかが死ねば終わり。足を動かせば即処刑。

 

 羅刹は序盤、じゃんけんで三連敗。片足は折れ、肩は抉られ、肋骨が突き出るほどの重傷を負った。それでも、彼女は逆転した。相手は殺人を忌避し、頭部への攻撃を無意識に避けた。一方、羅刹は迷わずバットを振り抜いた。目をつむり、歯を食いしばる少女の抵抗は瞼の裏に焼きついた。

 

 瀕死に追い込まれたというのに、羅刹の顔は落ち着いて、僅かな笑みさえ浮かべている。そこには憎しみも、敗者への軽蔑もない。洗濯物を絶好の日差しで干した時のように晴れ晴れした顔だった。

 

 〈ゲーム終了〉のアナウンスが響く。

 

「GG。君なら殺されても良かったんだけどね。」羅刹はヒラヒラと手を振って舞台裏へ。

 

 そこには、ゲームを終えた他の少女たちが待っていた。中身が何だろうと、美少女に囲まれるのは幸福だ。

 

「マスター羅刹だ。」 

 

「ナマの羅刹さんだ!」

 

「すごかったです!本職は傭兵さんだってホント?」

 

 適当にあしらって立ち去る。幸福なんだけど、褒められるのは苦手なのだ。あと割と瀕死だし。

 

 入れ替わりに特殊清掃員たちが舞台へ上り、僅かに痙攣している体を死体袋に入れて運びだす。勿体無い。

 

 血痕を拭き取り、ルミノール反応が残らないよう特殊な薬剤を吹き付けて、さらにそれをきれいな布で丁寧に拭いていく。手際よく処理されていくと、犯罪の証拠は何も残らない。

 

 小さなライブハウスに、不自然に掃除された痕跡が残るだけ。死んだ少女達は年十万人いる行方不明者の一人として記録される。一歩間違えれば、羅刹があの袋に詰め込まれていた。

 

 ライブハウスを出てすぐ、手術台のついたハイエースが待っていた。デスゲーム参加者の送迎は日雇い労働よろしくバスで行われるのだが、いつの間にか特別待遇を用意してもらえるようになった。

 

 スーツのスタッフさんが降りてきて、羅刹の姿を認めるとわざわざドアを開けてくれる。なんとなく今年大学を出た新人さんだろうなと思った。

 

「どうもです、毎回悪いですね。こんな()()()()に。」

 

「いえいえ、羅刹さんのためならみんな残業してでも、いえ給料払ってでも送迎したいと思いますよ!」

 

「へへっ...。」

 

 おじさん、というのは羅刹の一人称。美少女なりたての頃はワタシとかボクとか言っていたが、それだと自己崩壊しそうになった。

 

「じゃあ、頼めますか。」

 

「はいっ!一番新しいヤツ使いますね!」

 

「いやいや、一番古いのでいいですよ。いいヤツは新人さんのために使ってあげてください。」

 

「わ、わかりました。」

 

 スタッフさんが取り出したのは、薬品に付けられた『上半身』だった。

 

「おばあちゃんが言うには、昔は臓器は人から人へ移植するしかなかったらしいですよ。免許証とかに臓器移植の同意書が載っけてあったとか。」

 

「うげ、ですねえ。他人の臓器を使うなんて。なんかに感染しそう。」

 

「あ、そっちですか。確かにちょっと嫌かもですね。」スタッフさんは受け答えしながらもテキパキと麻酔や手術台の準備を整えている。要領いいなあ。

 

「おじさんの臓器をあげる分にはいいですけどねー。」

 

 こんな危険なゲームをやれるのは、臓器を大量生産できる時代だからこそだろう。医療の進歩により命の神聖さが失われる、みたいなことを言ったのは誰だっけ。

 ふと目を挙げると、人体切断用のハサミをスタッフさんが構えていた。ちなみに、彼女の服装はスーツに緑の手袋、ゴムのマスク。つまり闇医者ですらない医療の素人。

 

「それじゃあ、パーツ替えていきますねー。」

「はい、お願いします。」

 

 全く、文明が進歩するほどモラルは下がっていくものなのかもしれない。

 

☆(時間経過)

 

 プラモみたいに上半身を替えてもらった。グーパーグーパー、指を開いたり閉じたりするが、特に違和感はない。このゲームがTS美少女を歓迎する理由の一つに、手術の簡単さが挙げられるだろう。

 

(そういえば、昔、手の中に鉛筆の芯が埋まってたっけ。ホントに、昔の話だけど)

 

 天然物...つまり、一切人体改造していないヒトは欠損したりすると、全身麻酔して身体中弄ってもらわないといけないらしい。そこまでしないと生きていけないなんてゾッとする。

 

「お顔拭きますねー。」

 

「はい。」

 

 ハイエース内で犯罪の証拠は抹消される。毎回見事な手並みだ。

 まだ慣れていないのか、肋骨の傷口からじわりと滲む血を抑えきれず、彼女は申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「すみません、拒否反応が一部抑え切れませんでした。」

 

「いやいや気にしないで。毎回丁寧に直してくれて、感謝してますよ。」

 

「すみません、すみません......」

 

 良い、と言っているのに謝るのを辞めない。むしろ自己嫌悪感が湧いてくる。貧乏ゆすりする膝を叩いて止めた。

 

(いい歳こいた()()()()の癖に、我ながら苛立ちが隠せてないのかな。あー人間として未完成。死にてー。)

 

 苛立ちの原因には心当たりがある。今回が九九回目のゲームだからだ。九九、というのはレベルキャップだったり、ゲーマーにとってのエンジェルナンバー。期待していいではないか、ゲーム開始と同時に壮大なファンファーレを鳴らしてくれるとか、今回をクリアすれば、何か人生のエンディングが始まるとか。そういうのはなく、以前のゲームと特に変わりなく終わってしまった。

 

「ここで降ろしてもらえますか?後は歩くので......はい、ありがとうございましたこちらこそ。またお願いします。」

 

 風に当たりたくなったので、見覚えのある風景になったあたりでハイエースを降りる。

 見慣れた亀有の街、しかし周囲の道路には年頃の美少女しかいない。『美少女化薬』のおかげだった。四万ちょっとのカプセル一つで、誰でも美少女になれる。こんな薬が世間に普及して一〇年。アニメかドラマのような光景だ。トラックの運ちゃんも、コンビニ店員の外国人も、タバコをポイ捨てするヤンキーも、そして羅刹も。みんな元おじさんの美少女。美少女になりたいのはナードだけではないらしい。

 羅刹にとって何より重要なのは、これでデスゲームに参加できるようになったことだ。元々、美少女を対象にして開かれるデスゲームがあった。参加する物好きも鑑賞したい物好きも、それに応えてしまう経営者も居た。が、年頃の少女というだけでもうお国の宝な少子高齢時代。羅刹のように外見だけ美少女にもお呼びがついた。

 何故?死の危険を冒してまでデスゲームを?自分が異端のゲームプレイヤーであることに誇り盛ってそう(笑)と思う人に対し、立派な回答はない。

 

「『楽しいから』。って言うと熱血主人公みたいだなー。実際はギャンブル依存と同じ心理だけどねえ。」

 

 命を賭けるスリル無しでは生きていけない可哀想な人だと自認している。生命にとって本来の目標である『生存』が最低限として保証された現代社会の矛盾の現れみたいな存在だった。

 閑話休題、百回目のゲームの話をしよう。今度こそ、胸の奥に巣食う欠落感を埋められるかもしれない。羅刹は宵越しの金を持たない主義だ。アタッシュケースにギリギリ入り切るくらいの賞金を二週間で使い切った。金は溶かし方を覚えるとすぐだ。




こんなふうにお金をね、使いたいですね
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